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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
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158, やけ酒考古学者 後編


「なぁ、サトウ。

それってタカハシ達なんじゃないの?」

「い、いやいやいや!!まさかそんな・・・・・・」

「本当にぃ?」


不安と混乱からまともに人の話も聞けない位固まった俺の代わりに、ジェイクさんがルグ達にリカーノさんの言葉を伝えてくれたんだろう。

俺の頭に過った不安と同じ事を思ったらしいルグが、ジトーとした目でそう聞いてくる。

その目と言葉に俺は反射的にそう叫んで否定していた。

魔女達に操られているからって、流石にここまでお爺さんを落ち込ませる様な事、ナト達が言う訳ない!

・・・と信じたい。

4人組の方は分からないけど。

1人、そう言う事までも起こしていても可笑しくないって言われてる人が居る訳だし。

でも、ナト達は違う!

と信じたい俺の思いとは正反対に、ルグ達の顔にはありありと、


「その口喧嘩の相手、絶対あいつ等だろう」


って書いてあった。


「まさかと思いますが、その言い合いした相手ってこの3人の中に居ます?」

「居ます。

髪の色は違いますけど、間違いなく彼です」


まさかそんな事無いよな?

と微かな希望を胸に、ナトと高橋を探すチラシと件の矢野高校生の写真を見せる。

それを少し見て直ぐ、リカーノさんは矢野高校生の写真を指さした。

まさか彼がロホホラ村にまで来ていたとは・・・

ナト達が相手じゃ無かった事に内心胸を撫で下ろしながらも、早速の予想外の展開に動かないと分かっていながらもつい顔をしかめてしまった。

ロホホラ村は村と言うにしては元から結構人が多くて、特に『箱庭遺跡』が現れる今の時期は更に人が増える。

だから彼が犯行を行う場所の候補から外されてたんだけど、これはもう1度考え直さないといけないな。

そう思って振り返ったら、クエイさんから通信鏡を渡されたジェイクさんが俺達から少し離れようとしていた。


「まさかあの少年と貴方達が知り合いだったとは・・・」

「いいえ、この人の事は知らないんです。

こっちの2人は俺の身内ですが、この人とは面識すらありません」

「そうなんですか?

なら何であの少年の姿絵まで持っているんですか?

あ、もしかして彼は貴方の故郷の有名な人だったりします?

こんなに精巧な絵まで描かれてるなら、相当人気な有名人なんだと思いますが・・・」

「それも違いますね。

俺達、訳あってこの3人含め何人かの俺の同郷の人達を探してるんです。

それで旅を・・・」

「そうなんですか・・・すみません。

彼と父が会ったのは10日近くは前なんです。

ですから、今彼が何処に居るかは分からなくて・・・」

「いいえ。その情報だけでも十分ありがたいです。

ありがとうございます。

ジェイクさん。

件の矢野高校生がこの町に来たのは約10日前だそうです。

次の行先は知らないと」

「分かった。今の聞こえてた?この町での・・・」


有益な情報をくれたリカーノさんにお礼を言って、聞いた事を直ぐにお爺さんの側を離れられないクエイさんの代わりに通信鏡で連絡を取るジェイクさんに伝える。

10日前って事は、最後に目撃されたフィカス村よりも前に来たって事か。

この村でその手の事件が起きていないなら、件の矢野高校生も『箱庭遺跡』に挑戦しに来たって事なんだろうか?

それなら、矢野高校生も基本キャラバン村に居るかもしれない。

後はこの村の遺跡自体に用があったか。

一応この考えもジェイクさんに伝えておこう。


「・・・・・・私は君達が羨ましいよ・・・

私もヒヅル国人だったら、こんな事には・・・」

「そんな事ありません。

この柱の文字を読めるって意味では、俺達よりもお爺さん達の方が凄いですよ」

「そんな口先だけの慰めなんかやめてくれ!!

更に惨めになるじゃないか!!!」


ジェイクさんにさっきの考えを伝えていた俺の耳に、お爺さんの弱々しいけどやけに響く声が届く。

そんな羨ましいとやさぐれ気味に言うお爺さんに、俺はそんな事無いと返した。

それを聞いて泣きそうな声で叫ぶお爺さん。

お爺さんは俺が同情でそう言ったと思い込んでいる様だ。

俺はただ、思った通りの事実を言っただけなんだけどな?


「口先なんかじゃありません。事実です」

「何を根拠に、そんな・・・・・・」

「俺達はただ『読めるだけ』なんですよ?

ただ読めた所で、そこに書かれてる事を瞬時に『理解できる』訳じゃ無い。

聞こえる言葉だってそうだ。

同音異義語とか類義語とかだってあるし、その国のその時代にしかない独自の言い回しだってある。

スキルの翻訳じゃそこまでカバーしてくれないんです。

だからその手の知識がない、スキル頼りの俺達が100%本当の意味で言葉や文字を理解する事は無理なんです。

今は使われてない古い言葉や文字なんて特にそうですよ」


今までのこの世界での経験を思い出し、そう表に出ないだろう苦笑いを内心に浮かべる。

何度も訳される言葉に驚かされ、翻弄されてきたけど、1番はアレだな。

ウォルノワ・レコードでの調べ物の時。

俺や紺之助兄さんの『言語通訳・翻訳』のスキルだけじゃあの研究日誌は永遠に解読できなかったし、ルグ達に分かりやすく伝える事も出来なかった。

本当、ジェイクさんが居なかったら今頃どうなっていたか・・・・・・

多分今も『蘇生薬』のレシピの解読で右往左往してたな。


「この柱の文字も、読んでも沢山の女性の名前が書かれてるなぁ。

って事位しか分かりませんよ?

後は大奥や後宮って言われる様なハーレムがあったのかなって位?」

「サトウ君、サトウ君。

此処等辺の柱に書いてあるのは、側室達の名前じゃないよ。

ペットの名前」

「えっ!そうなんですか!?

『王を満たし癒す』とか『娘達にアリーアの名と祝福を』とか書かれてたので、そう言う意味なんだとばかり・・・・・・」

「文章の方の言い回しが独特だからね。

変に翻訳されても仕方ないよ」


柱の文字を殆ど理解して無いと言うと、ジェイクさんが通信鏡を開いたままそう楽しそうに言ってきた。

まさかペットの名前の記録だったなんて・・・

ちょっと予想外だ。


あ、でも、『満たし癒す』ってのは可愛いペット達を見たり触ったり遊んだり。

後は一緒にのんびり散歩したりして癒されるって意味で、『名と祝福』って部分は全員家族として迎え入れて大切にする。

って意味だと考えると納得できるな。


と言う事は、『花園』はペットの家。

種類と数の多さから考えて、家と言うか動物園か水族館みたいな場所だったって事かな?

個人の為の動物園かぁ。

その王様、凄い物を造ったな。

そんなに動物が好きだったのかな?

それとも動物園を作らないと癒されない位、疲れ擦り切れていたって事?


「後、サトウ君がペットの名前の苗字っぽく読んでた部分だけど、あれ苗字じゃ無くて魔物の種族名だから」

「魔物?全部魔物の種族の名前なんですか?」

「そうそう。

全部『箱庭遺跡』に居るって言われてる有名な魔物の名前だったぞ?

スフィンクスとか『箱庭遺跡』の中じゃ1番有名な魔物じゃないか?」


『アネホ・スフィンクス』だったら『スフィンクスのアネホちゃん』、『タルマ・ギルタブリル』だったら『ギルタブリルのタルマちゃん』。

そいう『猫のミケ』や『犬のポチ』みたいな感じに書かれていると言うジェイクさん。

その上ザラさんの話が本当ならこの柱に書かれたペット達は全部『箱庭遺跡』に居る魔物の祖先って事になる。


・・・・・・『箱庭遺跡』に居る魔物達って、皆凶暴な種族なんだよな?

そんな猛獣ばかり飼っていて本当に癒されていたのか、その王様は。

スズメや本来の姿のルグの様に小さくてモフモフしていたら可愛くて癒されると思うけど・・・

ライオンやクマやワニみたいな猛獣ばかりだと、ちょっと・・・・・・

いや、その人の癒されるポイントも好みも人それぞれだって事は良く分かってる。

分かってるけどさ。

間違いなくその王様とは好みが合わないと思う。


「・・・・・・その魔物って、『箱庭遺跡』にしか居ないんですか?」

「他の場所に居るって話は聞いた事が無いな」


ふと気になってそう聞けば、ペットとして集められた魔物は『箱庭遺跡』にしか残っていないとザラさんが言う。

その話から幾つかの事が分かった。


まず、他にその魔物達が居ないなら、その魔物達は『箱庭遺跡』以外絶滅しているか、そもそも『自然に生まれた種族』じゃ無い。

って事になると思う。


その集めてる王様の為に白悪魔達が『生命創造』の魔法で『特別に作った』キメラ。

いや、『不要になった』キメラを、何かチボリ国にしかない物を対価に動物好きの王様に売っていた可能性もあるのか。

その王様と同一人物か分からないけどクレマンさん達からの依頼の時に、大昔のチボリ国には『魔物をコレクションする趣味の王様が居た』ってルグ達が言ってたし。

似た様な種族すら他の場所に存在せず、『箱庭遺跡』にしか存在していないなら、白悪魔から売られた可能性の方が高いだろう。


この柱が建てられた詳しい時代は分からないけど、ローズ国の英勇宗以外でもそう言う実は白悪魔達とズブズブな関係だった所があったのかもしれない。

今もその関係が続いて無いと良いんだけど。

ローズ国以外にも生き残った白悪魔が潜んでる可能性があるとか、考えたくもない。


そんな嫌な考えは置いておいて。

他に分かった事は、『箱庭遺跡』は昔『花園』と呼ばれていたって事だ。

昔『花園』に集められていた魔物と同種の魔物が『箱庭遺跡』にしかいない、ってなるとそう言う事だろう?

そして『花園』は『流砂の間』の奥と幾つも繋がっていて、Dr.ネイビーの日記の内容を思い出すに、1000年前の時点ではまだ繋がっていた。

全部が全部当時のままとはいかなくても、1つ、2つ位は繋がったままの場所があったはず。

ただ、1000年も経っているから、今も繋がっている可能性は低いけど。

いや、1000年前の時点でも塞がれてて、取り残された魔物が『流砂の間』の奥で独自の生態系を作ってる可能性も十分ありえるよな。


でもつまり、運が良ければ許可がなくても『箱庭遺跡』に入れる可能性がある。


って事だよな?

その上、上手くいけばナト達に奇襲を仕掛けられる。

まぁ、命のやりとりに慣れたプロ達の命でも簡単に奪う魔物達が闊歩してる場所だから、そう上手く事が運ぶとは思えないけど。

そもそも『流砂の間』自体も見つけられるかどうかも分からないし・・・・・・

入口っぽい『流砂の間』自体も砂漠の奥深くに沈んでいて、正規な手順で行くよりも『箱庭遺跡』に行くのが大変。

って可能性も十分ありえる訳だしなぁ・・・

けど、自分達の運の良さを信じて、可能性として頭の片隅に置いておこう。


「まぁ、こんな感じで俺は読めても全然理解出来てないんですよ。

考古学のライバルって意味では俺達よりジェイクさん。

そこの彼の方が強敵ですよ?」

「専攻してる国も時代も違うけどねー」

「まぁ、だから、その黒髪の人の言う事は気にしないでください。

貰い物のスキルに頼らず、自力で読めて正しく理解しようと努力を重ねられるお爺さんの方が間違いなく凄いんですから」

「そうか・・・・・・」

「そうだよ、父さん。

父さん達の研究は無駄じゃない。

だから自棄にならないで、自分を大事にして」

「そう、だな。

あんな読めるだけで満足して、細部まで理解しようとしない奴なんかに負ける訳にはいかないな」


多分使い過ぎると逆に毒になってしまうから、クエイさん特製の薬でも完全に酔いをどうにかする事は出来ないんだろう。

それともあの薬は他の危ない症状を治す薬だったのかな?

ある程度心身共に元気になったお爺さんはそう言って立ち上がるけど、直ぐフラフラして座り込んでしまった。

あれから30分以上経ったとは言え、1人で歩けない位お酒が体に残ってる様だ。

そのフラフラの体を慌ててリカーノさんが支える。


「もう大丈夫だろう」


とクエイさんのお墨付きを貰い、念の為の幾つかの飲み薬を持ってお爺さんとリカーノさんは帰っていた。

いや、クエイさんが念の為に渡した薬の事、主治医の先生に見て貰えって言ってたから、多分このまま掛かり付けの病院か教会に行くのかもしれない。

倒れていたお爺さんは、素人が見てもかなり危ないって思う状態だったからなぁ。

大丈夫と言った本人も含めそれでも少し心配で、そんなゆっくり歩く2人の姿をある程度見送って。

それから漸く俺達も当初の目的通りギルドに向かった。


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