153,4分の1 前編
「まず確認したいんだが、君達の方には今この世界で暴れてる異世界人の情報は来ているのか?」
「えっと、それは・・・
ナト達、今代の勇者達の事言ってます?」
「違う。勇者とは別の黒髪黒目の異世界人の事だ」
「クエイ!」
「ッ!分かってるッ!!」
俺ともナト達とも違う異世界人がこの世界で暴れてる。
その話が本当ならつまり、今まで一切情報が入ってこなかった高橋達と入れ替わった4人の誰かが暴れてるって事だ。
そんな話、アルさん達から聞いてない。
まぁ、俺は色々情報が制限されてるからなぁ。
俺が知らないだけで、クエイさん達は聞いてるかもしれない。
そう思っていたらザラさんに鋭く名前を呼ばれたクエイさんが、弾かれた様に通信鏡を取り出し何処かに連絡を取り出した。
その顔色の悪い慌ててた様子から、俺以外の人達も知らなかった事が分かる。
それは俺達7人だけじゃなく、クエイさんの手の中の通信鏡の先に居るアルさんも知らなかった様だ。
極力音を下げたのが意味をなさない位、驚愕したアルさんの叫びが聞こえてくるんだから。
「その様子だと、君達の方にはまだ情報が行ってない様だな」
「あぁ。
その暴れてる異世界人ってのは具体的に何をしでかしたんだ?」
「・・・・・・・・・殺人と誘拐。
それと・・・・・・女性を、襲っていた」
「ッ!!それって・・・・・・」
「恐らく、君達の予想する『襲う』だ」
通信鏡を開いたままそう尋ねるクエイさんに、パンチョさんは躊躇いがちにそう言った。
最初は同じ世界の俺を気にして、次は被害者と同じ女性のマシロとザラさんを気に掛けて。
その配慮され選んで口にしたその言葉が逆に、その『異世界人』がどんな罪を犯したのか、ハッキリ分からせてしまった。
当たって欲しくない予想通り、その『異世界人』は自分好みの見た目麗しい女性を性的に襲い、特別気に入った人は誘拐。
その蛮行を止め襲われた女性を助けよとした人や、その襲われた女性と親しい男性にはスキルや魔法を使い動けなくして一方的に暴力を振るい、最悪の場合殺す。
そう言う事を何回も繰り返してるそうだ。
「私達も1度その男に会っているんだ。
その異世界人の男は私達が見つけた時、1人で居た。
・・・・・・人が殆ど来ない様な場所で、その村に住む若い夫婦を襲っていたんだ。
夫の方に酷い暴行を加え動けない様にし、彼の目の前で泣き叫ぶ妻を襲っていたッ!」
「・・・・・・・・・」
「その男の非道な行いはその1回だけじゃないッ!!
私達が調べた限り、ここ1ヶ月の間に既に世界中で10回以上同じ行為を繰り返しているんだ!
調べきれなかった、今も行われてる犯行を入れればそれ以上だッ!!!
それも犯行は必ず情報が伝わり広まりにくい小さな村で行う、凶悪ぶり。
あの男は『全て』分かった上で、計画的に犯行に及んでいるんだッ!!」
そう憎悪と嫌悪感を隠そうとせず叫ぶパンチョさん。
その『異世界人』の行った非道な行いと、実際にその場を目撃してしまったパンチョさん達から溢れ出すクエイさんやザラさん達が抱えてる物と同じ位の抑えきれない憎悪に俺達は言葉すら出なくて、微かに口から出たのは呼吸音と間違えられそうな意味をなさない音だけだった。
その溢れ続ける感情はドンドン増えていって、座っているのがベットじゃ無ければ最後の叫びと同時に叩かれたその硬い拳は痛々しい爆音を奏でていただろう。
それはハイさんとヒレさんも同じで、2人共声を出さず俯いて拳や唇から血を流しそうな勢いの怒りで震えていた。
「キヒ・・・オレの妹も、アイツに襲われた!!
襲われて、今も行方が分からないんだッ!!
隊長の
「ヒレッ!!!!」
ッ!!」
自分の妹もその『異世界人』の被害者だと、涙が混じった怒りの声を絞り出すヒレさん。
その時の事を思い出したんだろう。
感情の赴くままその『異世界人』の蛮行を吐き出すヒレさんは、パンチョさんが知られたくないと思ってる事まで勢いで言おうとしていた。
それを察したんだろうパンチョさんが建物が震えるんじゃないかと思う程の大声でヒレさんの名前を怒鳴る様に呼ぶ。
「・・・・・・ヒレ。
それ以上は、彼等に言う必要は、無い」
「はい・・・すみません、隊長・・・」
一呼吸、二呼吸、血が出そうな程自分の胸元辺りを服ごと握りしめ深呼吸を繰り返すパンチョさん。
そしてどうにかギリギリの冷静さを取り戻したパンチョさんは、泣きそうに歪み潤む目でヒレさんにそう静かに語りかけた。
その前の大声に心底驚いたんだろう。
目を見開いて石の様に固まっていたヒレさんは深く深く息を吐くのと同時に固まった体を少しずつ戻していって、酷く沈んだ小さな声でそうパンチョさんに謝った。
パンチョさんとヒレさんの大切な人に何があったのか、詳しくは分からないし、聞く事も出来ない。
でもそんな2人の姿が自分と重なったんだろう。
今にも人を殺しそうな暗く恐ろしい表情でピコンさんは、イライラをぶつけ紛らわせる様に片手で自分の髪をグシャグシャに掻き混ぜ、小さく舌打ちをした。
「・・・・・・・・・・・・私達が見つけたその夫婦は命だけはどうにか無事だった。
今も2人とも無事に生きていると、聞いている。
だが、それは奇跡的な事なんだ」
耐えられず涙を一筋零しながらパンチョさんは、そう零す様に言葉を吐いた。
『奇跡的』って事は、暴行の末殺されただけじゃなく、襲われたショックで自ら命を絶った人も居たんだろう。
それに『無事』って事は、後遺症が残った人や、ヤエさんの様に望まず子供を・・・・・・
確かにそれはパンチョさん達の言う通り、悪質な犯行だ。
そして計画的な犯行でもある。
自分の犯行が世間に知られない様に、必ず通信鏡が普及していない村や集落に暮らす人をターゲットにするんだ。
性欲って言う本能に従う獣の様だけど、けして頭が悪い訳じゃ無い。
それに何となくこう言う犯行に『手慣れてる』気がする。
それこそ本当に俺と同じ高校生の犯行かと疑ってしまう程に。
いや、本当に俺達の世界の人間が犯人なんだろうか?
行方不明の4人を俺達は全員矢野高校の誰かだと考えていたし、警察の方でも最有力候補は矢野高校生だって言っていた。
でももし、その手の犯罪の常習犯と、その常習犯にあの林に連れ込まれて襲われてる人が、運悪くこの世界に来てしまったとしたら?
それならこの手の犯罪に『手慣れてる』理由も分かる。
いや、でも俺達の地元でその手の事件が起きたって言うニュースは聞いた事も無いし、新聞にも載っていなかったはず。
あぁ、いや。
起きた犯罪が犯罪だけに被害者が訴えずらくて明るみになっていないだけで、実際は何件もそう言う事件が近所で起きていたのかもしれない。
だからって、俺達の世界で培ってきたその犯行の手口が、この俺達の世界の常識から大きく外れた魔法もスキルもある世界で通用する物なんだろうか?
その『異世界人』の蛮行をアルさん達が知らなかったと考えると・・・・・・
「すまない。
ギルドで見かけた君が異世界人だと分かって、あの男と一緒にこの世界に来た仲間だと思ってしまったんだ・・・
それで・・・・・・」
「え、あ・・・い、いえ!!
そう言う事情があったなら、警戒して当然です!!
気にしないでください」
そうパンチョさんに言われ、何時もの癖で考え込んでいたらしい俺は慌ててそう言った。
それにしても、まさかギルドからパンチョさん達につけられてたとは・・・
全然気づかなかったよ。
ギルドでの様子から俺が異世界人だと分かって、パンチョさん達は隠れて俺達を追いかけていたらしい。
確かに俺やナト達の事はちゃんとパンチョさん達の方にも伝わっている。
でも、それが『レジスタンス』の協力者だって確信を持てなかったらしい。
パンチョさん達が自分の大切な人が巻き込まれた事件の影響で『異世界人』に敏感になっていたってのもあるだろうけど、俺の方にも問題があった。
表情筋さんが相変わらず基本ストライキしてるから仕方ないとはいえ、相手に好印象を与える『フェイスマスク』のスキルがあっても流石にずっと作り笑いを浮かべてる奴は胡散臭かったって事だろう。
見た目は事前に上司から聞いていた協力者に似ているけど、胡散臭い位ニコニコしていてどことなく怪しさが合って・・・
本当に協力者なのかどうか・・・・・・
あの犯行現場に居なかった見た目が似ているだけの、『異世界人』の男の仲間なんじゃないのか?
そう疑心に囚われ、不自然な程隠れて俺達を監視していた。
その観察の結果、ルグ達と楽しく食事をする俺がその男の仲間とは思えず、あの合言葉で確認する事にしたらしい。
そう言う酷く、重々しい事情があって、ある程度言い辛い事情も話してくれて、ちゃんと謝ってくれたんだから別に気にしない。
ただ何故か、クエイさんは納得してない様な、呆れた様な表情を浮かべて俺達を見てるけど。
何だろう?
やっぱりアレかな?
パンチョさん達の正体が分かってホッとしたせいで、未だ腰が抜けたままの俺に呆れてる?
そんな腑抜けた格好で言っても説得力ない、って。
それかもしかして、楽しくザラさんと飲んでるのを邪魔されたから、簡単に許せないって事なのか?
そう聞きたいけど、聞いたら聞いたで確実に照れ隠し半分でクエイさんの機嫌が悪くなるのが分かるから、賢く大人しく気づかなかったフリをしよう。




