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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
383/498

152,ラッパを知らないか?


「そこの君達!すまない、少しいいか?」

「ッ!!」

「何かな?」


来たッ!!

向こうが先に仕掛けてきた!


お会計を済ませて、俺達が泊まる部屋がある3階の廊下を少し進んだ時。

下の階に声が届かないだろうし、他のお客さんが来ても誤魔化せると思ったんだろう。

ローブのフードを脱いだあの見えない3人組が話しかけてきた。

自分達から仕掛けるつもりだったのに、まさか向こうから話しかけてくるとは・・・・・・


向こうも何か翻訳系の魔法道具を使っているんだろう。

その事に驚き過ぎて上手く声の出ない俺と違って最初からこうなる予想がついていたのか、向こうの言葉がちゃんと分るらしいジェイクさんが自然な笑みを浮かべ警戒心の無さそうな穏やかな声で返事をする。

でもジェイクさんは本当に警戒して無いって訳じゃ無い。

その証拠に廊下を照らす光苔ランプに映し出されたジェイクさんの影が、風でランプが揺れてる訳でもないのに不自然に揺らめいている。

きっと何時でも影を操る魔法が使える様に準備してるんだ。

そうやって警戒してるのはジェイクさんだけじゃない。

俺達全員が何時でも戦闘に入れる様に、ヒッソリと準備しているんだ。


「聞きたい事があってな。

黒髪の君はラッパを知らないか?」

「ラッパ?えーと・・・

ア、アルクティウムさんの事ですか?」

「あぁ、そうだ」

「それなら、1000年も前に大根と花輪を持って用心しながら島に帰りましたよ」

「そうか・・・」

「ボク達からも1つ良いかな?

カラス頭な彼女から生まれたブスな子は何をしたんだい?」

「・・・秘密の薬の事を他人に話した弟を切り裂いたんだ」


俺に答える様言ったその質問に、俺は出来るだけ急いでそう答えた。

その答えを聞いて、ホッと小さく声と共に息を吐く3人組の代表者。

その警戒心が薄れた3人組の代表者に、すかさずジェイクさんが質問する。

その質問の答えは俺達が望むもので、そこまでやり取りして漸く俺達10人の間から完全に緊張感と警戒心が消え去った。

良かった。

この人達は魔女達の仲間()じゃない。

ある一面においては俺達の仲間だ。


「まさか、こんな所で彼等の事を知ってる人に合えるなんてね。

是非とも彼等の話を詳しく聞きたいんだ。

ボク達が泊まってる部屋に来ないかい?」

「あぁ、是非とも」


情報交換がしたい。

そう遠回しに言うジェイクさんに、3人組の代表が快く頷く。

そのまま俺達は俺達が取った部屋の中で1番大きい3人部屋。

俺とルグとジェイクさんが泊まる部屋に向かった。


「少し待ってね。

荷物そのまま放り出してるから少し汚いんだ。

直ぐ片付けるよ」

「いや、お構いなく」

「・・・・・・そう?」


そう言って3人組を待たせて先に部屋に入ろうとするジェイクさんと一緒に、3人組の1人も一緒に部屋に入っていく。

俺達も続いて入れば、置きっぱなしの荷物を片付ける様にパタパタ動き回りつつも忙しなく辺りを見回すジェイクさんと、部屋に入って直ぐ新しく取り出した煙草を思いっ切り吸い込み1本分の煙を部屋の中に向かって吐き出すクエイさんの姿が見えた。

そんな2人と一緒に入った3人組の1人も物珍しそうに部屋の中をキョロキョロ見回している。


「・・・・・・こっちは大丈夫だよ。

クエイ君の方は?」

「問題ない」

「なら、鍵を掛けさせて貰うよ。おいで」


部屋の中に盗聴器や隠しカメラの様な魔法道具が無い事も、見えない誰かが隠れてるって事も無い。

そうスキルと薬草の煙草を駆使して念入りに確認したジェイクさんとクエイさんの言葉と、仲間が手で示したサインで此処が安全だと彼等も確信を持てた様だ。

3人組の代表さんがローブの中からピンクに近い赤いロックバードを出し、部屋に鍵を掛けさせた。

これで俺達の会話が聞かれる事は絶対に無いだろう。


「改めて、私達はマリブサーフの探索者だ。

私はパンチョ。こっちがハイとヒレだ。

君達は『レジスタンス』・・・

の者達で合ってる、か?」

「あぁ」

「そうか。なら君が噂の異世界の協力者だな?」

「はい、一応」


あの質問をしてジェイクさんがした質問にも問題なく答えられたんだ。

予想通り探索者、『蘇生薬』の素材を探す者だと名乗った3人組の代表のパンチョさんに、俺とクエイさんは頷き返した。

そして俺達もパンチョさん達に合わせて軽く自己紹介する。


廊下でしたあの会話は、事前に各国の『蘇生薬』の素材探索チームと決めていた合言葉の1つだ。

魔女や黒幕達に聞かれて利用される事も考えて、合言葉の組み合わせは1つの国に対し幾つも存在する。


今回パンチョさんが使ったのはゴボウの学名の合言葉。

正確に言えばゴボウの学名を利用した、マリブサーフ列島国の王族の祖先。

ネイビー・ビートと、勇者ダイスの『仲間』の1人だったレイの間に生まれた、バルダーナに関する合言葉だ。

まずゴボウの学名が『アルクティウム・ラッパ』で、『ラッパを知らないか?』と聞かれても楽器のラッパの事を知らないか?

とは聞いて無いんだ。

その合言葉の返しの『大根と花輪』はバルダーナの両親の事を表していて、『帰った島』はマリブサーフ列島国の事。

ついでに言えば『用心』はゴボウの花言葉の1つだ。

つまりはあの合言葉は、


「バルダーナを知ってるか?」

「はい、知ってます。

1000年前のマリブサーフ列島国の王族で、異世界人とのハーフの1人です」


と言う様なやり取りを遠回しにした感じなんだ。

だからこそ合言葉になる訳で、ついでに言えばナト達も行方不明の高橋達と入れ替わった4人も簡単には正解を導き出せないはず。

流石のナトと高橋でも植物の学名まで覚えてるはず無いと思うし、ラッパと聞いたらまず楽器の方が浮かぶだろう。

だから現状この質問に正解出来るこの世界に居る異世界人は俺と四郎さんしかいない。

と言う事になる、はず。


この合言葉の事が魔女や黒幕達に漏れてたら別だけど。


さっきの食事中俺達の世界の事とか、誰か口にしていただろうか?

してなかった様な気がするけど、俺達の言動から俺が異世界人だと3人組は分かって、だから俺に合言葉を答える様に言ったんだよな。

多分。


後、ジェイクさんからした合言葉もネイビー・ビートの子供達から取った合言葉で、魔女の祖先のカレンの子供であるオトギリとアコニから取ってある。

まず『カラス頭な彼女から生まれたブスな子』って言うのが娘のアコニの事を指していて、毒や漢方薬として使われる時のトリカブトの名前。

烏頭(うず)って言う漢方薬の名前と、毒として使う時の附子(ぶす)って言うのから来ている。

この合言葉を考えた兄さん達から聞いた話によると、毒や漢方薬として使われるトリカブトの塊根の部分は、烏頭と呼ばれる中心の『親』の部分と附子と呼ばれる『子供』の部分があるらしい。

返しの『秘密の薬の事を他人に話した弟を切り裂いた』は息子のオトギリの事で、オトギリソウの名前の由来になった話から来ている。


ジェイクさんがした合言葉の方は俺達の世界で調べれば簡単に出てくる情報だ。

それに歴代勇者達とその『仲間』達程じゃないけどネイビー・ビートの子供達の事も有名みたいだし、どっちの事もナト達も知ってるかもしれない。

だから数ある合言葉の中でも比較的分かりやすい物の1つだと思う。

でも、最初の合言葉でパンチョさん達が敵じゃ無い事がほぼ確定していたし、他の難しい合言葉を魔女や黒幕達に知られるのは困るし、念の為に返した合言葉ならこれで十分だったのかもしれない。


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