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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
381/498

150,チボリ国の料理 4皿目


「・・・・・・思ったよりサッパリしてる」


一緒に煮込まれた食材達や、巻かれた大量の野菜のお陰だろう。

ラップサンドを一口齧って思ったのはそれだった。


長時間茹でて灰汁と一緒に脂も大量に抜いたのに、それでも串に刺して焼いている時にも肉から脂が出てきていた。

だからかなり脂っぽい重い料理を想像していたけど、思っていたよりも嫌な脂っぽさが無い。


『教えて!キビ君』には書かれてなかったけど、繊維が多いんだろうか?

厚過ぎると嚙み切れないだろう、しっかりしてるけどちゃんと柔らかくて少しプルンとした肉は、この厚さがベストなんだと1口で俺を理解させた。

そして何もつけない肉だけでも十分美味しいと思わせるこの美味しさ。

やっぱり肉の下ごしらえが重要だな。

その食感だけじゃなく、煮込む時に使われた野菜やスパイス、お酒の風味がシッカリ出た出汁が、臭みを消し去った溢れる肉汁を後押し引き上げ更に美味しくしている。


ただ1つ、問題があるとすればやはりこの脂っぽさ。

肉だけで食べると少し脂っぽさが目立ち過ぎる気がする。

それをカバーしてくれているのが、一緒に巻かれたこの大量の野菜達。

そのままだとまだまだ多く感じる肉の脂を野菜が旨味と一緒に吸ってくれて、脂っぽさをカバーするだけじゃなく野菜に2つの味と食感の違いを与えていた。


『教えて!キビ君』で調べたし、ルグ達にも確認したから間違いない。

使われている野菜はこの世界の玉ねぎとレタスで、特に玉ねぎの方が良い仕事をしている。

シャキシャキした生の方はその辛みがサッパリ感を与える良いアクセントになってるし、肉の熱で火が通った方はトロッと甘くて肉だけじゃなくオーロラソースの様なソースの味も引き立てている。


どれがどれかはまだ分からないけど恐らくこのソースは、1種類のペースト状にしたキノコに、それぞれ粗さの異なるみじん切りにしたキノコを2つ。

この3種類のキノコをジックリ炒め煮て作られたんだと思う。

キノコ自体の味が分からないから自信ないけど、多分炒め煮る時は水じゃなく何か出汁。

恐らく砂牛の下処理の時に取れたスープを使っていて、キノコ以外にも野菜も細かくして一緒に入れている気がする。

それで出来上がったのが、酸味の強いコクのあるオーロラソース。

いや、色んな刻んだ食材が入ってるし、サウザンドレッシングの方が近いかな?

マヨネーズ系ドレッシングの若干甘いまろやかさは確かにあるけど、ケチャップやウスターソースの酸味と塩味の方が強い気がする。

あぁ、いや。

みじん切りにしたキノコが多い場所を食べたからそう感じるのか?

食べる場所によってソースの味が微妙に変わっている。


それで、レタスの方には少し苦みがある様で、全部一緒に食べるとオーロラソースをタップリ付けたピーマンの肉詰めの様な味になるんだ。

カナッペと同じく米粉の薄焼きパンがお米の風味をかなり主張してるからか、タップリオーロラソースをつけてご飯にワンバンしてからピーマンの肉詰めを頬張った様な気分になる。


「・・・・・・やっぱり・・・」

「何か、問題あったかしら?」

「え?」

「何か悩んでる様だったから、料理に問題あったのかと思ったのよ」

「え、あぁ。大丈夫です。問題なく美味しいですよ。

不愉快な思いをさせてしまっていたなら、すみません。

俺、料理の研究が趣味なんです。

此処の様なとても美味しいお店の料理を試行錯誤して再現するのが好きなんで、このソースを再現するのは難しいなぁ、って。

お肉の下処理も難しそうですしね」

「そりゃあそうよ。

お客さんと同じ事言って20年以上此処に通い詰めてる人でも、未だに再現出来てないのよ?

簡単に盗まれちゃ、僕達も商売上がったりよ」


漏れ出た俺の言葉は聞き取れなかったんだろう。

髪や虫が紛れ込んでいたのかと、料理を持ったまま不安そうに聞いてくる息子さん。

ちゃんと出来てるか分からないけど、その息子さんにそう言って俺は笑って誤魔化した。

商売目的じゃなく、ただ単に趣味なだけだと言ったのが功をなしたんだろう。

それを聞いて息子さんは不敵な笑みを浮かべて、簡単には再現させないと言った。

他にも料理の再現を目指してる人が居る事も相まって、息子さんは気を悪くしてる様子も無いし、疑問を抱いてる様子もない。

どうやら上手く誤魔化せた様だ。


「確かにそうですね。

でも、だからこそ挑戦のしがいがあるんです」

「うん、うん!!

難しい程挑戦のしがいがあるよなぁ。

アンタ良く分かってるよ!!

って事で、ラップサンドと酒、お替りッ!!!」

「はーい!直ぐ行くわねー!!

じゃあ、また注文があったら言ってね?」

「はい。お願いします」


彼が料理研究家の常連さんなんだろう。

その常連さんはかなり酔っている様で、俺の言葉に大声で頷くと同時に楽しそうな真っ赤な顔でお替りを注文していた。

その注文に声だけで答える息子さんから持って来て貰ったままになっていた料理を受け取る。

来たのは俺とクエイさんとマシロがした追加の品だ。


「・・・・・・・・・あー、マジかー・・・

そう来るかー・・・」

「もしかして、苦手な味だった?」

「うん。

頑張れば食べれない事無いけど・・・・・・

それより良いの、マシロ?また食べられてるよ?」

「え?あ・・・あぁ!!!エド君ッ!!

また勝手に人の料理食べてッ!!」

「人が食べてる物って美味しそうだよなー」

「そう言う問題じゃ無いよ!!!

私まだ1口も食べてないのに!!酷いよ!」

「ハ、ハ、ハ。ごめんごめん」

「今日と言う今日は笑っても誤魔化されないからね!!」


きっと凄いしかめっ面をしたんだろう。

一口ちょうだいと、自分が食べる前に早速ルグに注文した料理を食べられ軽く落ち込んだマシロが、心配そうな声音でそう聞いてくる。

心配してくれるのは嬉しいけど、俺の方に気が向いた隙に他の料理も全種類ルグに少しづつ食べられちゃってるよ。

そうマシロに言うと、マシロとルグは周りを気にする事なく騒ぎ出した。

そんな2人を微笑ましく思いながら、もう1度同じ物を注文するか聞いてヨーグルトを一口。

うん、不味くは無いんだけどやっぱり苦手な味だ。


ヨーグルトゼリーを作って味見して貰った時、ルグとユマさんはこの世界の砂糖の原材料の植物、カロンフレークの熟した実の味がするって言ったんだ。

その前回のルグやユマさんの様子的にこの世界のヨーグルトが俺の想像するヨーグルトとは全く違う味だってのは分かっていた。


でもコーヒーゼリー味だったのは予想外だ。

それもコンビニで売ってる様な甘みの強いタイプじゃ無くて、コーヒー専門店で出されてる様な苦みと酸味が強いタイプ。


砂糖もミルクも控えめで、コーヒーを別の形で味わってもらう様に作ったコーヒーゼリーの様な味がするんだ。

俺、コーヒー自体苦手だし、コーヒーの風味が強いタイプのコーヒーゼリーやカフェオレも苦手なんだよ。

砂糖とミルクの方が強いタイプなら何とか飲んだり食べたり出来るけど。

だからこのヨーグルトも正直言って無理だ。

ヨーグルトがどうしても食べたかった訳じゃ無いけど、でも注文したのは俺なんだし、注文した以上頑張って食べきらないとな。

そう覚悟し押し流す様にヨーグルトを食べ進める。


うぅ・・・

出来るだけ味を感じ無い様に食べてるけど、やっぱりキツイ。

取り合えず、もう1つ口直し用に何か飲み物を注文しておこうかな?


「さて、これはどう言う食材で出来てるかなー」


今まで『趣味の料理研究の為』って名目でスマホを弄りまくってたんだ。

きっと彼等も違和感を持つ事は無いだろう。

そう思いつつもバレない様に周りを警戒しながら、念の為に態とらしく声に出して『教えて!キビ君』を確認する。


うん、大丈夫。

ちゃんと作り出せる様になってる。

『蘇生薬』の素材の1つである、ダグブランの未熟な実が。


他のお客さんの様子を見てて気づいたんだ。

口直し用なのか、ヨーグルトに干したダグブランの実が添えられてるって。

北西辺りでも日常的に食べられているって聞いたけど、此処等辺の地域じゃ食べないのか。

それか日常的に食べてるから態々お店で出す必要が無いんだろう。


メニューを何度見返してもこのお店はダグブランのみの品が無かった。


別の場所で『ミドリの手』で出せる様にしようと思ってたけど、他のお客さんがヨーグルトと一緒にダグブランの干した実を食べてるのを見て注文したんだ。

普通に育てられた方も勿論この後探すけど、それはそうとして『蘇生薬』を量産する為にも『ミドリの手』で出せる様にしておかないと。

そう言う訳でこの後何があるか分からないし、出来るなら出来る内に出せる様にしたかったんだ。


「・・・・・・・・・」


だけど、少し早計だったかもしれない。

そう真っ暗にしたスマホの画面越しに映る俺でも四郎さんでもない、俺達をジッと見つめる続ける目を見ながら、そう静かに考えた。


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