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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
380/498

149,チボリ国の料理 3皿目


 明日の活力の為に楽しみつつ、時々『教えて!キビ君』で料理を撮影しながらゆっくり料理を胃に詰め込んでいく。


「サトウー。再現できそうか?」

「どうにかは。

こう作るんじゃないかってレシピは出来たかな?

上手く出来るかどうかは1度作ってみてからだけど。

まぁ、チーズは微妙だし、このお店の味は完全に再現出来ないけど」

「何でチーズは微妙なんだよ?

チーズもパンや酒と同じ『プチヴァイラス』で作れる発酵食品って奴なんだろう?

店の味、完全再現するより簡単に作れそうじゃんか」

「『ミドリの手』と同じ。

この世界の発酵食品や微生物に対する知識が圧倒的に足りない。

ザックリした劣化品しか無理」

「あぁ、そう言う。じゃあ仕方ないか」

「うん。

こっちも年単位で学ぶ時間も余裕も無いからな。

仕方ないんだよ。

だから、すみません、クエイさん。

美味しいチーズが食べたい場合は、買う方向で」

「言われなくても分かってる」


俺の『プチヴァイラス』を使えば旅の間、安価で気に入った美味しいチーズを何時でも食べれると期待してたんだろう。

軽くだけど期待に満ちたルグの質問にそう答えれば、微かにクエイさんが落ち込んだ様な表情を浮かべた。

仕方ない事とは言えそんなささやかな期待を裏切ってしまったんだ。

少しだけ不機嫌になったクエイさんにもう1度謝り、俺はさっきまで再現レシピを書き込んでいたメモ帳に視線を落とした。

旅をしている以上必ず宿屋で休める訳でも、お店で食事が出来る訳でも無い。

今日の昼もそうだったけど、外で作って食べるって事もあるだろう。


そしてそれがこれから先多くなるはず。


だからそうなった時用にこの世界の料理のレパートリーを増やしたいと思ったし、今もこうやって『教えて!キビ君』と頭の中の料理の知識を駆使して再現できないか考えていたんだ。

俺の世界の料理だけだとルグ達も嫌だろうし。


「此処のお店がオープンキッチンで良かったよ」

「ある程度の料理の過程が分かるから?」

「うん」

「因みにあれは?」

「多分、臭み抜きと余分な油を抜いてるんだと思う」


奥さんは厨房専門で、息子さんと娘さんは客席とキッチン、どっちも担当してるんだろう。

カウンターの奥のキッチンで店主さんの奥さんらしい小母さんと、さっきまで店主さんと一緒に空いたお皿を片付けたりお客さんの注文を取っていた2人の子供らしい若い男女が料理を作っている。

カウンターの辺りが結構広々してるから、その調理する姿は少し遠いこの席からもよく見えた。


そして今奥さん達が作っているのは、俺達も注文した大人気の砂牛のラップサンド。

常連さん達だけじゃなく、俺達も大量に注文したからか作り置きしていた分が終わってしまったらしい。

今、少し慌てて新しく作り直してる所だ。

そのお陰で最初からラップサンドの調理工程が見えて、俺としては嬉しい限りなんだけどな。

ルグ達はそうじゃ無いみたいだ。

何時出来上がるのか、と何度も言っている。

残念だけど、店主さんが言ってた通り砂牛を美味しく調理するにはかなりの時間と手間がかかる様だ。


まず『教えて!キビ君』によると、砂牛はチボリ国の南西辺りの砂漠一帯に生息する巨大なウミウシの様な魔物らしい。

そしてこの砂牛は砂漠で生きる為か脂肪を沢山持っている様で、店主の奥さん達の調理の様子を見るにジックリ火を通すと肉からドンドン油が溢れ出してくる様だ。

赤身の部分でも油が多い様で、大量の灰汁取りが終わったハーブや野菜と一緒に砂牛の肉がグツグツ煮込まれた鍋には大量の油が浮かんでいた。

他の料理の調理の様子から察するに、あの大量の油は後で冷やされて他の食材を焼く時の脂として使われ、煮込んだ後のお湯はスープとかの出汁になるんだろう。

スープや脂は癖が強そうだけど、一切食材を無駄にしてない所は素直に凄いと思った。

流石プロの料理人。


「で、あのカウンターの近くで香ばしく肉を焼いて、他の食材と一緒に巻いたらラップサンドの完成かな?」


お肉を柔らかくする為か、弱火か弱めの中火辺りだろうか?

ビーフシチューなんかと同じく弱い炎でジックリコトコト数時間煮込む必要がある様で、今煮込んでる鍋の隣には同じ鍋がもう2つ。

俺達が此処に来る前から煮込まれていたらしい、水かさが減って煮込み始めた隣の鍋の中身よりも少し小さくなった同じ食材達が泳いでいる。

1つはまだ弱火で煮込まれてるけど、もう1つは味を染み込ませてるのかな?

火を消されて置いておかれている。


その置いておかれた鍋から1つ大きな肉の塊を取り出した奥さんは、その肉の塊を武器になりそうな程大きな串に刺した。

それを俺達お客側から良く見えるカウンター近くの魔法道具にセットし、魔法で火を起こす。

下ごしらえを終わらさせた砂牛の肉の塊はケバブの様に串に刺されて、ゆっくり回転しながら魔法の炎で焼かれる様だ。

店内に食欲をそそる匂いを漂わせながら表面全体に香ばしい焼き目が付けば、後は串から外しローストビーフの様に薄切りに。

これで砂牛の調理は終わり。


そしてアレが自家製のソースなんだろうか?

トルティーヤの様な丸くて薄いパンに白っぽいソースを塗り、手でちぎられたらしい紫キャベツの様な葉野菜と、スライスした玉ねぎの様に見える黄緑色の野菜をたっぷりと置く。

そしてその野菜の上に薄く切った肉をこれまたタップリ置いて、ソースをもう1度。

後はシッカリきつく巻いていけば完成だ。


「お待ちどうさま!他に注文はある?」

「このお酒もう1本!!いや、2本!!」

「そのお酒の追加って事かしら?」

「はい。2本お願いします」

「分かったわ」


動作を見るに、ザラさんと同じく訛りが変に翻訳されてるんだろう。

1本の半分だけ食べたい組の為のナイフと共に全員分のラップサンドが盛られた大皿を持ってきた女性っぽい言葉使いの息子さんに、ザラさんが開いたお酒の瓶を持ち上げながらそう言った。

それを見て持ってるお酒が欲しいか聞く息子さん。

その息子さんに、俺はザラさんが2本お酒が欲しいと言っていると言いつつ頷いた。


「他には?」

「えーと・・・・・・大丈夫です。

足りない様でしたら、また」

「えぇ、分かったわ。

他の料理はもう少し待っててね。

直ぐ追加のお酒と一緒に持ってくるから」

「はい、お願いします」


既にラップサンドを食べ始めていて喋れない人も居るからなぁ。

ちゃっかりマシロの残り半分を貰って早速頬張ったルグとか。

ちゃんと周りを見回し、追加注文がある人がいないかよくよく確認して息子さんに伝える。

今の所ザラさん以外の追加注文がない事をシッカリお互い確認して、少し前の店主さんと同じく息子さんもカウンターの方に戻っていった。


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