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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
38/498

37,コカトリス 2羽目


「どうする、サトウ?

あのコカトリス1羽なら倒せるけど?」

「う~ん・・・・・・・・・・ん?」


倒すか、逃げるか。

悩んでいるとコカトリスの後ろからジリジリと迫る冒険者らしい2人組みが見えた。

そう言えば、ボスに依頼を選んで貰う時に『コカトリスの討伐及び卵の採取』って依頼があったな。

あの2人組みがあの依頼でも受けたんだろう。

横取りしちゃまずいし、此処であの冒険者がコカトリスを倒すのを待つか。


「あの冒険者が倒そうとしてるみたいだし、もう少し待ってようぜ」

「そうだな。

下手に動いて向こうの依頼が失敗したえら怨まれるだろうし」

「それに、私達が手伝ったら依頼料が減っちゃうもんね。

それだとあの人達も嬉しくないと思う」


という事で、暫くあの冒険者2人組みの依頼が終わるのを待つ事にした。

流石に失敗して食われそうになったら助けるけど。

待っている間、今後の依頼の参考になるかもしれないし、冒険者達の様子を見ている事にした。


服装からして1人は剣士、もう1人は魔法使いか?

2人はゆっくりドヤ顔し続けるコカトリスに近づいている。

コカトリスが気づいていないって事は、もしかしたら魔法使いが気配を消す魔法や音を消す魔法を使ってるのかもしれないな。

だけど、尻尾の蛇に見つかった。

尻尾の蛇に見つかった事に気づいた冒険者達は固まっている。


「うわぁあああああああああああああああッ!!」


蛇に見つかったからか、冷静さを失い叫びながら慌ててコカトリスに襲い掛かる剣士の冒険者。

真っ直ぐ前を向いていたコカトリスは、尻尾の蛇で既に冒険者の姿を見付けている筈なのに、冒険者が叫んでから少しして驚いた様に誰も居ない方を向いた。


なんだろう、今の動き。

何か違和感があるな。

それはルグとユマさんも感じた事らしく、


「あれ?」


と首をかしげている。

この違和感の正体は後で考えるとして、今は冒険者達の方だ。

冒険者達に向き直ったコカトリスは冒険者達に向かって口から濃い黄色の霧を吐き出した。

たぶん、あの黄色い霧が『触れると石の様になってしまう毒の息』なんだろう。

案の定、霧に包まれた冒険者達は危険なコカトリスを前に固まって動かない。

剣士は魔法使いを守る様に剣を構えてピクリとも動かず、魔法使いは剣士のお陰で利き手らしい左腕と顔だけは動かせる様だ。


しかし、コカトリスの攻撃で杖を落としてしまい、体が固まって拾えない。


剣士の名前なんだろうか、魔法使いは『ノンス』と呼びながら泣き叫んでいる。

あの冒険者に待っているのは仲良くコカトリスの腹に入る未来だけ。


「これは、依頼失敗で良いんだよな?

ルグ、あの2人助けられる?」

「コカトリスの毒の解毒剤はまだ見つかってないんだ。

コカトリスの毒の解毒は魔法でしか出来ないけど、オレもユマも使えない。

此処に連れて来るしか出来ないけど、良いか?」

「勿論」


俺が頷くと同時にルグの姿がパッと消え、瞬きする間に固まった2人の冒険者を連れたルグが戻ってきた。

剣士は険しい表情のまま固まっているけど、魔法使いの方は涙でグチャグチャになった顔のままポカンとしている。

遠くて気づかなかったけど、剣士が男性で魔法使いが女性みたいだ。

コカトリスは目の前に居た冒険者が消え、辺りをキョロキョロ見回している。

けど少し遠くに居る俺達には気づいていない様だ。

まだ暫くは安全かな?


「大丈夫ですか?」

「あ・・・・・・・・・の・・・・・・此処は?

あなた達が助けてくれましたのですか?」

「えぇ、彼の魔法で」

「あ、ありがとうございますです!!」


首だけを動かしながら何度もルグにお礼を言う魔法使い。


今、関係ない事だってのは分かってるんだけど、それにしても変な話し方だよな。

2人共、顔は漫画やアニメの日本人顔って感じだ。

髪と目の色もアニメに出てきそうな色をしている。


魔法使いはオレンジと赤の中間の色。


剣士は黄色の様なオレンジ色の様な色が薄っすら混じったクリーム色。


もしかして、この人達がヒヅル国の人なんだろうか?


「どういたしまして。

それと、無理にローズ国語で話さなくて良いぜ。

オレ達3人共、ヒヅル国語わかるから」

「は、はい。

それなら、改めてありがとうございます。

私はヒヅル国のカメリア出身の冒険者、イスラ・デビノスと申します。

彼はノンスノー・ブルドック」


魔法使いのデビノスさんの語尾が可笑しかったのは頑張ってローズ国の言葉で話していたからなのか。

俺には同じ様に翻訳されていたから分からなかったよ。


ユマさんがこっそり教えてくれた話によると、2人共純真な人間では無いらしい。

何分の1かは魔族の血が流れているそうだ。


ヒヅル国の港町カメリアは国が鎖国している時も唯一、スクリュード国と貿易していた。

その為、カメリアには何世代も前から移り住んだ魔族や魔族の血が流れる人間が多く住んでいるそうだ。

だからなのか、名前や苗字もアンジュ大陸国風のものが多いらしい。

この2人もそんな人達の内の1人なんだろう。


苗字から予想するに、デビノスさんはユマさんと同じ悪魔。

ブルドックさんはコボルトと言う二足歩行の犬の魔族か、人間と同じ姿だけどオーガンを使うと二足歩行の狼の姿になるワーウルフのどちらかの血が流れているそうだ。

『デビノス』は悪魔の中で1番多い苗字で、『ブルドック』はコボルトで2番目に、ワーウルフでもそれなりに多い苗字らしい。


「オレはルグ。

で、こっちの女の子がユマでこっちがサトウ。

オレ達も冒険者なんだ」

「ルグさんとユマさん、サトウさんですね。

あの、サトウさんもヒヅル国の出ですよね?」


一応登録上はそうなってるけど、実際は異世界人だもんな。

ルグにヒヅル国の説明を聞いたとは言え、2人に故郷の話をされても行った事の無い場所の話は出来ない。

どうすっかなぁ。

そう悩んでいると、ユマさんが助け舟を出してくれた。


「サトウくんは確かにヒヅル国出身です。

けど、ある悲しい事情からヒヅル国の事を詳しく知らないんです」

「そうなんですか。

すみません、辛い事を聞いてしまいましたね」

「いいえ、お気になさらず」


多分、色々勘違いしたであろうデビノスさんに内心ヒヤヒヤしながら俺は笑って答えた。

こうやって話してる間も、デビノスさん達の体はピクリとも動かない。

ずっと同じ恰好は辛いだろうに。


「ルグ、ユマさん。

コカトリスの毒の解毒って何処で出来る?」

「ローズ国の病院か教会なら何処でも出来たはずだよ。

あ、でも2人はヒズル国の人達だから、教会に行くならマナ教の教会の方が良いかもしれない。

でも・・・・・・」

「その為にはコカトリスをどうにかしないといけないんだよな」


固まった2人を抱えて行くのは危険だし、コカトリスを倒すにも動けない2人を放置して戦うのも危険だ。

2人が少しでも動ければいいんだけど。


「何とか、今あるものや『ミドリの手』で解毒薬が作れないか?」


そう思い、ブルドックさんに一言断りを入れ俺は彼を調べ始めた。


「服や鎧、それに皮膚と毛は固まっていないのか。

という事はクロッグの様に時間を止めている訳じゃないんだな」


体は石の様にカッチカチに固まっているけど、服や鎧は動かせた。

皮膚を摘め、髪を動かせたって事は目に見えない部分が固まっているって事だよな。

だけど、脈と息をしている事は確認出来た。

という事は心臓や肺は動いてるって事だ。


「そうすると、考えられるのは神経や筋肉、脳に作用する毒。

・・・・・・・・・待てよ」


そこまで考え、俺は少し前に手に入れたあるアイテムを確認の為にスマホで調べた。

書いてある内容は前聞いた説明と殆ど変わらず、新たな情報は載っていない。

だけど、俺が覚えていた内容と同じなら、今はそれで良い。

後はどう使うのがベストなのか。

量も少ないし、無駄には出来ない。


「・・・・・・・・・なぁ、ルグか、ユマさん?

どっちか霧を作る魔法って覚えてる?」

「私が覚えてるよ。

必要な霧の量の水が有れば出来るけど?」

「じゃあ、その水にこのアイテムを入れたら、このアイテムと同じ効果を持つ霧になる?」

「う、うん。なるけど・・・・・・」


俺が出したアイテムを見てユマさんは困惑した様な表情をした。

まぁ、このアイテムは余り良い印象が無いみたいだし、当然か。

だけど霧を作り出せるなら、試さない手はないよな?

俺は『クリエイト』でバケツを出すとそこに『アイスボール』の球を幾つか入れ、『ファイヤーボール』で温めて溶かした。

水温はぬるま湯位。

そこにアイテムの中身を1滴入れ、近くに落ちていた木の棒で混ぜる。


「後は、ユマさん。

この水を霧にして2人の固まった所に掛けて貰える?」

「え!で、でも・・・・・・」

「大丈夫。

俺の予想が正しければ、これで2人の解毒が出来るはずだから」


俺の言葉にユマさん達が驚く。

何せ俺がやろうとしている事は、多分今までこの世界の誰もやった事の無い方法と思い付きだ。

驚いたり、不安になるのは当たり前か。

だけど、ユマさんは少し悩んだ後頷いて、木の棒を広い地面に魔法陣を書いてくれた。


「出来たよ、サトウ君。

後はそのバケツをこの魔方陣の上に乗せれば、霧が作り出せる」

「OK。

デビノスさん、ブルドックさん、ちょっと失礼しますよ。

ルグ、手伝ってくれ」

「わ、分かった」


ルグに手伝って貰い、2人をユマさんが書いた魔法陣越しにユマさんと向かい合う様に移動させる。

魔方陣の上にバケツを置き、俺とルグは霧が掛らないだろう所に避難した。

それを確認したユマさんが魔法陣を発動させ、薄っすら紫色に染まった霧を作り出す。

霧はユマさんのコントロールが良いからか、2人の固まった部分にだけ纏わり付いた。

そして、


「大丈夫ですか?」

「あぁ。まだ動かしにくいが、体が動く様になった」


デビノスさんとは違う低い声が返ってくる。

どうやらブルドックさんが答えてくれた様だ。

ブルドックさんが喋ったと言う事は大体成功したと思って良いだろう。

デビノスさんも確認する様に体を動かし、驚きながらも頷いてくれた。


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