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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
379/498

148,チボリ国の料理 2皿目


 足りなかったらまた後で注文するとして。

取り合えず1度店長さんに注文を頼み、取り分けておいた最初に来た3品に手を伸ばす。


専門店で売ってそうな独特の風味が、お徳用のスライスチーズやベビーチーズに慣れた舌には全く合わなかったんだろう。

チーズの盛り合わせは1番食べやすいって言われた物の小指の爪にも満たない小さな欠片でも直ぐに無理だと思ったのと、クエイさんがかなり気に入っていたのでそれ以外。

グリル盛り合わせと、カナッペ、マリネを食べた。


まずキノコと豆のグリル盛り合わせ。

豆は茄子の皮の様な色のソラマメ位の大きさで、見た目だけなら焼きナスのミニチュアに見える。

程良く塩味が効いていて、豆自体の味は俺の知っている物の中では食感と相まって枝豆が1番近い。

時間の経った枝豆の様に甘味はそれほど感じない分、微かに酸味と辛みを感じる。

ルグでも食べれそうな手が止まらないピリ辛さで、これは確かにお酒に合いそうだ。

オオジロタケと言う一緒に焼かれた、オノルの森で食べたオオベニダケの色違いの様なキノコがニンニク醤油風味で、一緒に食べると柿の種を使った豆のガーリック炒めっぽい味になる。

これがまた美味しいんだ。


次に食べたのがトリ肉と卵のカナッペ風料理。

見た目はカナッペだけど、料理としては親子丼が近いだろう。

米粉で作った小豆色の硬いパンを少し厚めにスライスして、部位は分からないけど砂漠鳥の肉を恐らくハーブ類やスパイスと一緒に塩ゆでした物と、同じく砂漠鳥の卵のスクランブルエッグを乗せた料理。

素材は親子丼っぽいけど味は出汁の効いた普通の親子丼とは違い、砂漠鳥の肉と一緒に煮込まれたスパイスの影響かカレーっぽい。

そこまでガッツリカレーって感じじゃ無いけど、俺が知ってる食べ物の中ではそれが1番近いと思う。

塩コショウがかなり効いていて、後からフンワリカレーの風味が来る感じ?


下の米粉パンはパンと言うより、表面をシッカリパリッと焼いたお餅。

いや、食感的な意味でもかなり硬いおせんべいの方が近いか?

切ってからもう1度焼いたからか、ザクっとしてる様なパリっと感が強い。

上手く言えないけど、間違いなく味も食感もパンっぽくはないし、俺の世界の米粉パンよりも米としての主張が強い気がする。

後気になったのは米粉パンの色。

普通の米粉パンの様に白と茶色のコントラストじゃ無くて、中も外も濃淡の違う小豆色をしている。

魔法を使って焼いたからこの色って訳じゃ無く、最初からこの色だったらしい。


「白い米は高級品なんだよ。

元々この世界で『米』と呼ばれていた植物はこう言う色をしていてね。

白い米は勇者達が持ってきた異世界の植物なんだ」


前回ルグからこの世界のお米も白いって聞いていた。

ルグが言っていたヒヅル国のお米とこのパンに使われてるお米は品種が違うのか?

と聞くと、そうジェイクさんにそう言われた。


確かに品種は違うけど、この世界のお米は基本お赤飯の様な色をしているらしい。

8代目勇者や勇者ダイス達が自分で食べたいからってこの世界に広めたのが白いお米で、マヨネーズと同じく膨大な費用と人手が無いと育てられない高級品なんだそうだ。

だから俺達が入れる様な懐に優しいお店では出す事が出来ない。

ルグも何だかんだで王族の一員だからなぁ。

本人も今まで白いお米が高級品だとは知らなかった様だ。

そもそもお米はこの世界でも白い物だと思っていたみたいだし。


下手にお米の事、今まで言わなくて良かったなルグ。

そんな些細な事で正体がバレたら、溜まったんじゃないだろう?


と思いつつルグの方を見たら、完全に演技も忘れて目を見開いていた。

よっぽど衝撃的だったんだな、お米の話が。


「こっちの米にも白い米の要素は混じっているからね。

勇者が残した植物だからって変わらない様に無駄に手間暇かけてるせいで高級なだけで、味はどっちも殆ど変わらないはずだよ。

いや、品種によっては寧ろこっちの方が美味しい位だよ」

「あぁ、こっちの在来種の方が遺伝的に異世界から来た外来種よりも強いですもんね。

放って置くとスキル位しか要素が残らない・・・」

「どうしたの?急に元気がなくなって。

ピコン君も元気がなくなってるみたいだし・・・」

「いや。ちょっと嫌な事思い出して・・・・・・

多分サトウ君も同じ・・・・・・」


話している内にあの地下にある廃研究所で読んだDr.ネイビーの日記の内容を思い出し、俺の気持ちはドンドン沈んでいった。

その気持ちを表す様に、自然と俺の声も小さくなっていく。

ダメだって思った時にはもう遅くて、頭の中を占めてグルグル回るあの情報に顔と一緒に押し沈められ、明るい気持ちと言葉まで消えていた。

そうなっているのは俺だけじゃなくピコンさんもの様で、アワアワした姿が簡単に思い浮かぶような困惑を色濃く表した声で聞くそのジェイクさんの言葉に答えたピコンさんの声も、奈落の底の様に暗く元気がないものだった。


Dr.ネイビーが見つけた、この世界の生き物と異世界の生き物を混ぜた時の法則。

この世界の生き物と俺達異世界の生き物の間に子供が出来た場合、両親がどんな性別だろうとその子供は必ずこの世界の生き物として生まれるそうだ。


異世界出身の親から受け継ぐのはスキルや魔法のみ。


その結果、ナト達や勇者ダイス、そしてルディさんとキャラさんは、魔女や黒幕達が望んだ子供を作る為の『素材』に選ばれてしまったんだ。


『素材』。


それが魔女達がルディさん達をナト達に連れ回させる理由。

見た目が良くて珍しい魔法やスキルを持っている者同士を掛け合わせる事で、『自分達にとって利用価値のある存在』を作らせる事が目的なんだ。


強力な魔法やスキルを持っていれば『いい兵士』になるし、珍しい魔法やスキルを持っている従者が居れば主人である自分の『ステータス』になる。

それに見た目が良ければ、気分良く下種な世話の為に利用できるんだ。

それで生まれて直ぐ親から引き離し、『自分達に都合が良いだけの教育』を受けさせていけば反発される事も無い。


本人達の意思はどうであれ、魔女達にとっては良い事尽くめなんだよ。

勇者として『召喚』した異世界人と、この世界の人間を掛け合わせる事は。

『勇者』だなんだなんって言って祭り上げてるくせに、やっぱりアイツ等は俺達を人間だとは思っていない。


結局家畜位にしか思ってないんだ。


だから、ナト達にルディさん達を連れ回させているんだろう。

1番の目的の為にゾンビに出来ず自分の意思が残るナト達が、吊り橋効果的にルディさん達に惚れ込んで関係を持つ様に、って。

命の危機が渦巻く中で優しくしてくれる、自分に対して好意的な異性の『仲間』が側に居るんだぞ?

コロッと靡かない奴がどれ程居るって言うんだ。

魔女達にとっては簡単な仕事だろうよ。

ナトや高橋が惚れて告白でもしたら、後は本人の心も意思もガン無視してゾンビの2人を操って頷かせればいいだけなんだからな。

そうじゃなくてもルディさん達を操って、ルディさん達の方からナト達と恋人になりそう言う関係を持ちたいと言わせればいい。

もっと最低最悪な想定として既成事実でも無理矢理作らせれば、後一歩が踏む出せなくても根が優しいナトも高橋も後戻りできなくなるだろう。


そして、だから、この1年ナト達の周りには基本女性しか居なかった。


魔女や黒幕達の基準を満たした『利用価値』のある異世界人はナトと高橋、2人しかいないけど、ゾンビにしている以上女性の方は幾らでも用意できる。

周りに居る『利用価値』のある女性が多ければ多い程2人が惚れる率が上がるだろうし、タイプが違う人達を取りそろえれば更にもっと確率は上がるだろう。

それに、『子供を作る』ってなると各所で負担を強いられるのは女性の方だ。

ハーレムを作る様に仕向ければ・・・・・・

それが1000年前にも起きていて、その事が事細かに底知れない憎悪と軽蔑と共に日記に綴られていた。


「すみません、ピコンさん・・・・・・」

「いや、サトウ君達が悪い訳じゃ無いから、謝らないで。

依頼を出さなければ・・・・・・

あぁ、違うな。違う。そうじゃ無くて・・・・・・

うん、大丈夫。

サトウ君達のせいじゃないのは確かだから、気にしないで・・・・・・」

「それでも・・・すみなせん・・・・・・」


Dr.ネイビーの日記を読んで1000年前のこの真実と、この時代でも同じ事が行われようとしている事。

その事を察してしまったピコンさんは、目に見えて落ち込んでしまった。

そしてその時の事を思い出してしまった今も・・・


思い通り行動できない現状に対する現実逃避ってのもあったのかもしれない。

Dr.ネイビーの正体って言う衝撃的な話しで一時的に気が紛れた様だったけど、まだまだピコンさんの気持ちは切り替えれていなかった様だ。

そうなってしまうのも仕方ない。

もしかしたら今この瞬間も、ルディさんの本当の恋心が無視されナトか高橋と関係を持たされてしまってるかもしれないんだ。

それは微かに自分の意思が起きてるキャラさんにも言える事で、ゾンビから戻ってもそのせいで深くつけられた心身の傷は多分一生消えないだろう。

それを理由にピコンさんがルディさんを嫌いになる事は絶対に無い。

少ししか関わりの無い俺でもそう固く信じられる位、ピコンさんはルディさんの事を思ってるんだ。

でも、そのせいで負う心の傷は人によっては自ら命を絶つほどの物で、それ程傷ついたルディさんを見たピコンさんは更に傷つくし、きっと間に合わなかった自分を責めてしまうだろう。

そうなったら・・・・・・


こんなの唯の犯罪じゃないか!!

魔女や黒幕達は何処までナト達に犯罪を犯させる気なんだッ!!

いい加減にしやがれッ!!!!


ピコン達の事を思うと、そうどうしようもない怒りが沸き上がると同時に、心がドンドン沈んでいく。

ルディさんがこういう理由で狙われたのは、俺のせいだ。

俺達が依頼でサマースノー村に行って、依頼書を魔女達に奪われたから、ルディさんの珍しい『音色』のスキルとそのスキルを最大限生かせるヴァイオリンの才能がある事を知られてしまった。


もし俺達があの依頼を受けなかったら。

もし依頼書を奪われなかったら。

もし、もし、もし・・・・・・


そう後悔と罪悪感が俺の心臓をチクチクと突き刺していく。

その後ろ暗い針は、俺達の事を気にしてくれてる優しいピコンさんの暗く沈み切った微かな声で太くなって、俺を何度も串刺しにしていった。


「ほら!!

暗いだけだったら助けれる物も助けられないだろう?

2人共これでも食って元気出せって!!」

「ングッ!?・・・・・・・・・ん・・・

ありがとうございます、ザラさん」

「どういたしまして。

ほら、ほら!!

ジャンジャン食って明日に備えるぞ!!

ピコンもドンドン食え!」

「・・・・・・そうだな。食べよう!!」


落ち込んでる暇なんて1分1秒も無いんだぞ?

と言いたいんだろう。

俯いた俺とピコンさんの顔を無理矢理上げ、俺達の口にマリネを突っ込むザラさん。

しんなりした大ぶりの野菜から溢れ出す、柑橘類の強烈な酸味が舌の上で踊る。

反射的に噛んで更に溢れ出した酸味と、噛めば噛む程止めどなく溢れてくる野菜と小魚の甘い様な旨味。

急に入って来たその強い味と美味しさに、ザラさんの思惑通り俺の沈んだ気持ちは何処かに飛んで行ってしまった。

ピコンさんもこの衝撃的な出来事とザラさんの。

自分と同じ後悔ややるせなさを抱えつつも歯を食いしばって、止まりそうになる足を必死に動かして、大切な人を救う為に歩みを進め続ける。

そんな先輩(ザラさん)の言葉で、漸くどうにか気持ちが切り替えられたんだろう。

1度長く閉じて次に開かれた時には、気持ちを表す様に暗く濁った瞳からキラキラ輝く覚悟の炎が宿った強い瞳に変わっていた。

そのままルグに負けない勢いで取り皿の上の料理を掻き込むピコンさん。

美味しい物ってそれだけで凄い力があるよな。

そう思いつつ俺も自分の取り皿の上のマリネを口の中に放り込んだ。


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