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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
378/498

147,チボリ国の料理 1皿目


「ジェイクさん、メニュー読めますか?」

「ちょっと待ってね・・・・・・」


店主さんに言われた通りテーブル席を2つ繋げて、全員席に着いて一息吐いて。

それから直ぐ隣の俺の真後ろの席に来た3人組のお客さん達と体がぶつからない様に気を付けながら、体を上手くひねって壁の一角に掛けられたメニューを見る。

全員ローブのフードを目深に被っているから判断が付きにくいけど、多分これから何か深い事情がある真剣な話し合いでもするんだろう。

どことなく暗い雰囲気でメニューを見る事もせず席に着いたまま誰一人一言もしゃべらずにいる隣のお客さん達の邪魔にならない様に、出来るだけ小声で唯一翻訳や通訳系の魔法道具を持っているジェイクさんにそう尋ねた。


今までの経験上同じ名前だからって俺達の世界の料理と完全に同じ物って率はかなり低いし、方言や諺みたいに変わった名前のメニューが変に翻訳されて、口に合わない物や辛すぎたり甘すぎる物を注文する事になるかもしれない。

それにこの料理の同名問題は異世界同士だけで起きる事じゃ無いんだ。

ルグ達この世界の住人同士でも起きるはず。

実際俺の地元にもそう言う料理があるんだ。


俺達が住む所だと『山賊焼』はざく切りキャベツを添えた大きな唐揚げみたいな郷土料理だけど、山口県だとローストチキン風の料理だと聞いた。


そう言う、同じ名前だけどルグ達がイメージする慣れ親しんだ料理が出てくるとは限らない。

って現象が起きるかもしれないから、念の為に2人で一緒にメニューを確認しよう、って話になったんだけど・・・

まだジェイクさんの準備が整っていなかった様だ。


はたから見ると変化が無い様に見えるけど、きっとジェイクさんは魔法道具を操作してるんだろう。

ジェイクさんはケースから取り出し左目に着けた片眼鏡型のその魔法道具のつるの部分をトントンと何度も軽く叩きながら『ちょっと待って』と言った。

そんな俺達にメニューの読めないメンバーの、


「まだか?」


と言う、空腹の限界が来た視線が突き刺さる。


本当は全員分質の良い物をユマさんが用意してくれるはずだったんだけどな。

ナト達にジャックター国が襲撃されその計画がパァになってしまったそうだ。

だから俺達が使える通訳系の魔法道具はジェイクさんが今使ってる、魔法道具屋に1個だけ残っていた若干性能の劣るこれだけ。

あまり性能のよくない魔法道具だからか扱いも整備も難しく、現状ジェイクさんしか使いこなせないんだ。


「うん、こっちは大丈夫みたいだね」


地方出身者あるあるなんだろうけど、きっと店主さんも標準語だと思って実は方言を話しているんだな。

ここ周辺の共通語、と言えば良いのか。

俺には相変わらず違いが分からないけど此処の店主さんは少々訛りのある人だった様で、だからさっきもマシロもジェイクさんも口を出さず俺だけが通訳していたんだ。

ジェイクさんの魔法道具は方言に対応してないし、マシロもジェイクさんも教科書通りの標準語しか分からない。

だから標準語の中に所々混じる方言らしい単語を理解するのが少し大変なんだそうだ。

それでチェックインに少し時間が掛かったらしい。

ジェイクさんの反応を見るに、今の所翻訳が難しい郷土料理とかはメニューに無い様だ。


「取り合えずまずは・・・・・・」

「何でも良いから腹に入れたーい」

「なら、飲み物と・・・

それとあるようでしたらサラダとかカプレーゼみたいな前菜、って言えば良いのかな?

そう言うちょっとしたおつまみになりそうな物を頼みませんか?

クエイさんとザラさんのお酒も届きますし、何か軽く食べたり飲みながらガッツリお腹に溜まる物を決めましょう?」

「そうだね。なら・・・・・・あそこ等辺かな」


そう言って値段と一緒にメニューを読み上げるジェイクさん。

それを聞いて取り合えず注文したのが、


4種類のチーズの盛り合わせと、


キノコと豆のグリル盛り合わせ、


トリ肉と卵のカナッペ風料理、


ゴロゴロ野菜と小魚のマリネの4品と飲み物。


お酒に力を入れているだけあって、ここのお店はノンアルコールの飲み物の種類がお酒に比べかなり少ない様だ。

ジュース系もあるけど今回俺は無難に水サボテンの水にした。


「はいよ」

「よっしゃ!待ってました!!」

「ありがとうございます、店主さん」


クエイさん達の2種類目のお酒と一緒に店主さんが持って来てくれた注文した料理4品。

それを見てルグがお腹の音と一緒に嬉しそうに声を上げる。

空腹の皆はルグと一緒で嬉しそうだけど、俺は驚きの方が勝っていた。


前菜料理と言うには全部かなり量が多い。


7人で分けると言ってもこの後メインの料理を頼むから1皿分しか注文してないんだけどな。

多分1品だけでもメインのおかず2皿分位はあるんじゃないか?


そう言えばすっかり忘れていたけど、これがこの世界のこう言うお店の標準的な量だったな。

クエイさんやザラさんと初めて会った宿場町の宿屋の酒場でもそうだったけど、冒険者向けの店は全体的に料理の量が多いんだ。

体を動かす職業だからか老若男女問わず皆、ルグ達管器官型のオーガンを持つ魔族に負けない位ガッツリ食べるらしい。

流石に普段から沢山食べないと体が持たない、コロナさん達の様な循環型のオーガンを持つ人達には負けるけど。


それはそうとして、それでもローズ国のお店より量が多い気がする。

これがチボリ国の標準なのかもしれないけど、ルグ達のお腹が盛大に鳴っていたからサービスしてくれたのかもしれないな。


「すみません。

後、追加の注文なんですが・・・

夕飯になりそうなガッツリした、お腹に溜まるおススメの料理ってありますか?」


これでも戻ってきてはいるんだけどなぁ。

胃袋が相変わらず小さくなったままの俺はこの4品をチョコチョコ貰えれば十分だけど、空腹状態の他の皆はまだまだ足りない様だ。

予定通りメインになりそうな料理を注文しようと、おススメの品を聞く。

文字だけなのにどれも美味しそうで、メニューを見てもどれが良いのか誰も決まらず、折角だからこの店の自慢の料理を食べようと言う事になったんだ。


「なら、丁度良いのがあるぞ?

今日はかなり良い砂牛の肉が手に入ってな、偶にしか出せない砂牛のラップサンドを出してるんだ」

「そのラップサンドって、他のお客さん達が皆食べてるあれですか?」

「あぁ、そうだ」


チラッと視線を移せば、未だに1品も注文してない隣のローブのお客さん達以外の他のお客さん達は皆、一様に小さめの顔の横幅位ありそうな太くて長い黒っぽい棒状の料理に嚙り付いていた。

それが1皿に3本。

アレがこの店の自慢の料理らしい。

店の自慢の料理と言うだけあって、同じく自慢のお酒と一緒にお客さん達はそのラップサンドを何度もお替りしている。

その飲み食いしている様子は本当に美味しそうで、思わず、


「俺も!!」


と衝動的に言いそうになる。

でも軽率に注文は出来ない。

他の人達なら問題ないんだ。

でも一目見ただけでも分かる。

あの量を今の俺が食べきれるはずが無いと。


決められた物を全員同じ量出されるなら兎も角、自分で選んで注文する以上ちゃんと残さず食べないと作ってくれた人に失礼だろう?

だから間違いなく食べきれる量を注文しないといけないんだけど、本当にあのラップサンドが美味しそうで・・・


どうしよう。

他の人から一口だけでも分けて貰おうか?

いや、1皿で3本なのは大盛だからかもしれない。


離れた席からでも響く注文の声を聞くに、お替りしているお客さんは大盛だとは一言も言ってない。

だけど、1本1本が本当にずっしり重そうで、大盛サービスのお店でも多いなって思うあの量なんだ。

常連さんだから態々言わないだけで、あれは大盛なのかもしれない。

だから普通盛はもっと少ないかもしれないし、一層の事1本だけでも注文できるか聞いてみるか?


「ウチは秘伝のソースを使ってるから、他の店より美味いぞ?どうする?」

「そうですね・・・

あの、確認なんですけど、他のお客さん達は大盛を注文されたんですか?

もし可能なら1本だけとかで注文したいんですが・・・」

「いいや。アレは通常の量だ。

だがある程度は量を選べるな。

1番少ない量なら1本、1番多くて7本だ」

「その1番多くては、1皿で、ですか?

それとも1度に?」

「他の客の分の事や、ある程度作り置きしてるとは言っても作るのに時間がかなり掛かる関係で、1人1回の注文で最大7本までだ。

足りなかったらもう1度注文してくれ」

「えーと。

他のお客さん達が食べてる、『偶にしか出せない砂牛のラップサンド』って言うのがおススメらしいですけど、どうですか?

普通盛が3本で、量は1皿で1本から7本まで選べるそうです。

1人1回の注文で7本まで。それでいいですか?」

「うん。それを人数分お願いできる?」

「分かりました。量は?」


やっぱり皆、お客さん達の食べてる様子が美味しそうだったんだな。

念の為他のお客さん達の方を手で指し示しながら本当に注文するかどうか聞けば、即決と言って良い程の速さで全員あのラップサンドが良いと言った。

量は俺とマシロとクエイさん以外取り合えず普通盛で、他に注文する俺達3人は合わせて2本。

1本を半分に分けるつもりだ。


クエイさんはチーズの盛り合わせが大分気に入った様で4皿追加。


ユマさんと同じく果物が好きらしいマシロは果実酒の中の果物の盛り合わせと、

水サボテンのフルーツマリネ、

チーズと柑橘類のコンポートのカナッペ風料理の3品。


そして俺はヨーグルトを注文した。


間違いなく美味しいだろう物は食べたいけど、初めてのローズ国以外の異世界の国の料理なんだ。

折角だし1品でお腹いっぱいにするより好きな物とか色々チョコチョコ食べたいじゃないか。

出来れば異世界料理のレパートリーも増やしたいし。


「取り合えず、今回は以上でお願いします」

「はいよ」


荒くれ者も含めた幾人もの冒険者達を相手にしてきた店長さんでも、あの雰囲気の所には近寄りがたいんだろう。

未だに飲み物1つ注文しない隣の3人組は無視して、俺達の注文を聞いた店長さんはついでとばかりに他のお客さんの開いたお皿を片付けつつ、更に注文を取ってカウンターの方に戻っていった。


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