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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
376/498

145,白紙に日記 6ページ目


「それなら、偽9代目の正体に関する事、日記にもっと書いて無いの?」

「それは・・・・・・まだ何とも・・・

『闇の実』の情報同様、軽く見た感じだと此処以外なさそうですけど・・・」


軽く読んだ時に見つけた『自称先代勇者』の事が書かれたページには、その正体に関する様な事は書いてなかった。

書いてあったのは『自称先代勇者』に対するこれでもかって位の罵詈雑言だけ。

ゴーレムとしても亡くなった妹を連れ戻す情報を集める為、教会にヒッソリ乗り込んだ時。

Dr.ネイビーは偶然『自称先代勇者』と英勇宗信者の1人が話してる所を目撃したらしい。

それが勇者ダイスやネイビー・ビートを馬鹿にする様な内容で、Dr.ネイビーは相当怒ってしまった様だ。

今までの読んだ日記の中でも1、2を争う位の酷い内容だったんだから、当時のDr.ネイビーのその怒りと憎しみがどれ程の物だったのか。

簡単に想像出来るだろう?


ただ大助兄さんでも紺之助兄さんでも、こんな姿想像できない。

文字からでも分かる位憎悪を募らせて悪態を書きなぐる姿なんて・・・・・・

想像できな過ぎて想像した2人の顔にモザイクが掛かるレベルなんだけど。

もし現実でこの日記の様に2人が形振り構わず悪態付きならが怒りをまき散らしていたら、俺は5度見位はする。

間違いなくする。


「何せ量が量ですからね。

見逃さない様に全部隅から隅まで読むには時間が足りなくて・・・・・・」

「そっか・・・」


ピコンさんに聞かれた通り、この約20年分のDr.ネイビーの日記の中に偽勇者ダイスの正体に関わる何かがもっと書いてあるかもしれない。

パラパラと斜め読みしても結構いい情報が手に入ったし、ジックリゆっくり読み込んだらもっと・・・

そう言う思いは確かにある。

あるんだけど、でもそれだけの年月毎日書かれた日記をジックリ読むには時間が幾らあっても足りないんだ。

ナト達だって早く追いかけないといけないし・・・


「うーん・・・」


と、考えれば考える程自分の口からうめき声が溢れる。

情報を取り逃がすのはやだけど、現実問題時間が足りないし・・・・・・

そう何度も同じ考えが頭を巡る。

暫く考えて出た答えは、考えてた時間に比べ幼稚な程いたく単純。


「やっぱり全部持って行って少しずつ読んでいくか?」

「それか、一層の事此処で『ゲート』を開くか」

「ッ!!?」

「あ。3人共、おかえり」

「ただいま、マシロ」


集中していて全然気づかなかったけど、いつの間にかクエイさん達が戻ってきていた。

居ないと思っていたザラさんに行き成り声を掛けられたから驚いて言葉すら出なかったよ。

そんな心臓が早鐘を打つ俺とは正反対の様な穏やかな声でマシロが『お帰り』と言う。

それに返すジェイクさんの声も焦って支度して駆け込んで来た様なクチャクチャな見た目に反して、大分穏やかな物だった。


「漸くディラハン達から解放されたんだね」

「あぁ。

お陰で髪や服がこんなにクシャクシャになっちゃったよ」

「確かに!3人共、まるで寝起きみた!」

「ちょっとー、マシロちゃん!

俺様ここまで酷い寝ぐせついた事無いぞー。

クエイとジェイクは知らないけど」

「煩い。俺を巻き込むな」


クスクス笑うマシロにそう冗談交じりに返すジェイクさんとザラさん。

見た目に反し何処か満足そうなそんな2人に対し、相変わらずクエイさんは不機嫌そうだ。

クラインとディックを無事連れ戻せた事がよっぽど嬉しかったんだろう。

デュラハン達が人間サイズだったら間違いなく3人一緒に胴上げされていたと思う位、クエイさん達はデュラハン達に囲まれ動けなくなっていたんだ。

そう少し前にクエイさん達と通信鏡で連絡を取り合っていたルグが、笑いだすのを我慢してる様な震え声で言っていた。

それだけデュラハン達はクライン達を無事送り届けてくれたクエイさん達に感謝してたって事だろう。

良い事じゃ無いか。

と言ったら通信鏡越しにクエイさんに怒られてルグの腹筋を壊したのは記憶に新しい。

そこからクエイさんの機嫌は戻って無い様だ。


「それで、えーと。

『ゲート』、此処で使って良いんですか?」

「あぁ」

「え?本当に?本当の本当に良いんですか?」


今回は『ゲート』を通って帰って来たから、元の世界に居る間も『ゲート』のゲージが溜まる様になっていたんだ。

だから今直ぐ使う事が出来る。

出来るんだけど・・・・・・


「何が言いたい?」

「勝手に使われるって事は・・・・・・」

「無いだろう。

大体、誰が好き好んでこんな所来るんだ?」

「まぁ、普通居ないでしょうね」


クエイさんの言う通り、捨てデュラハンや後ろめたい研究員じゃなくてもこの陸の孤島に態々来ようとする人や動物や魔物は普通いないだろう。

だからこそDr.ネイビーも何十年と此処に居られたんだよな。

俺達も大量の歩キノコから逃げ惑って、偶然此処に来た訳だし。

アレが無かったらもう少し山道近くでスケルトンを探してる。


「デュラハン達はあの体型だしな。

また誰か此処に落ちてきても扉を開けれないし、賽銭も入れられないだろう?

だから『ゲート』を開くのは無理だって」

「そもそもデュラハン達はボク達が使う様なお金、持っていないよ。

必要な物は物々交換」

「あ、そうなんだ。じゃあ、尚更問題ないな!」


コロコロした体じゃ外開きの祠の扉は開けれないし、自分達の体よりも高い位置にあるお賽銭箱の投入口には届かない。

と言うルグにジェイクさんはデュラハン達は元々お金を持っていないと言った。

だからそもそも鍵を開ける事は無理だと。


「ここで『ゲート』を使ってくれって言ったのは、他に使う人が居ないからだけじゃ無いんだ。

この研究所やDr.ネイビーの日記だけじゃなく、外のゴーレムの事も気になるからね。

手の空いてる『レジスタンス』のメンバーに調べて貰おうと思うんだ」

「俺様達は超重要な任務があるからなー。

のんびり調べてる余裕ないだろう?」

「そう、ですね・・・・・・」

「何か不満?」

「あの、えーと。

遺品として持っていくのは・・・・・・」

「9代目の日記含め、5冊までだ」

「と言う事ですけど、良いでしょうか、四郎さん?」


想像以上に有益な情報があったからだろう。

『ゲート』を使って目立たずに『レジスタンス』の人達を此処に呼び込むつもりみたいだとジェイクさんは言った。

そしてその事は既にアルさん達とも相談し合っていて、ほぼ決定事項だと言う。

最初は特に価値は無いと思われていたからいいって言われていたけど、そうなると勇者ダイス達の遺品として日記を持っていくのも難しいかもしれない。

その不安が態度に出てたんだろう。

少し不機嫌な不思議そうな顔で聞いて来たザラさんにオズオズと日記を持って行って良いか聞くと、クエイさんが5冊までなら良いと言ってくれた。

でもそれに四郎さんは完全に納得してない様だ。

悩む様に間を置いて交渉したいと言うささやかな願いのメールが届いた。


『大助兄さんの日記だけでも3冊あるんだよ?

もう少し持って行っちゃダメかな?』

「幾つ持って行く気だったんだ?」

「勇者ダイスの日記に加えこの8冊ですね。

聖女キビの事が詳しく書かれてるこの2冊と、Dr.ネイビーの兄弟の状態がより多く詳しく書かれてるこの2冊。

こっちは聖女キビを連れ戻す前で、こっちは連れ戻した後。

後はDr.ネイビーが日記を書き始めた最初の年の日記と、此処に最後に居た年の日記です」

「多い。減らせ。」

『どうしても?』

「これから更に物が増えるんだぞ?

時空間結晶を使ってあるからって言っても限度がる」

「そうそう。

それに危険な旅をしている以上、荷物は最低限にしないとな。

スリだって居るんだし、何処でその日記が盗まれるか分からないんだぞ?

どうにかカバンの奥に隠せる数に押さえておかないとな」


確かにクエイさんとザラさんの言う事にも一理ある。

Dr.ネイビーの日記には『実』の事も書かれてるし、勇者ダイスのオリジナル日記には『オーブ』の仕掛けの攻略ヒントと言うか答えも書かれてるんだ。

この日記が魔女達の手に渡るのは絶対に避けたい。

特に俺は1度魔女達に掴まってカバンを奪われているんだ。

警戒するに越した事はないだろう。


それに時空間結晶を使ってる分、逆に物が多過ぎると中に入ってる荷物の管理も難しくなる。

中の荷物を探してカバンを引っくり返してその隙に盗まれたり、その場に忘れていく可能性もあるんだ。

少しの油断が俺達の命やこの重要な作戦に関わる以上、ザラさんの言う通り荷物は最低限に抑えないと。


『それなら該当するページだけでも持って行けないかな?』

「確かにそれならそこまで荷物にならないけど・・・」

『研究に必要なら1度タカヤ君に戻って貰って、足りないページを印刷すればいい。

『ゲート』を繋げるならそれでも問題ないだろう?』

「それなら全部終わった後に印刷すればいいだろう。

今ここで持って行く必要が何処にある?」

『内容が同じでも兄さん達が直接書いた物じゃないから遺品の意味がない。

それに何時俺達が帰れるか分からないんだよ?

念の為に持って行きたい』


四郎さんの目的はあくまで自分の兄弟がこの世界に居たと言う証明になる遺品を持ち帰る事だ。

書いてある事の研究や情報収集が目的じゃない。

だからこそこの日記達じゃ無いと意味が無いんだ。


「オルノワ・レコードの所に戻る時間が勿体無いって言うなら、俺、そのページ写しますよ?

あ、魔導書の様にコピー禁止じゃ無ければですけど」

「そこは今更だろう?

実際は魔導書じゃ無かったんだし、『レジスタンス』の皆存在知っちゃったし、何よりこんな非常事態なんだ。

黒幕やタカハシ達の手に渡らない様に気を付ければコピーしても問題ないだろう」

「そう?」

「心配ならアル君かネイ君に頼んで聞いて貰う?

各国の王族達にここの日記をコピーして良いかって」

「一応、念の為にお願いできますか?

勝手にやって後で問題になるのも、それを切っ掛けに『レジスタンス』の人達とパトロンの人達の仲が悪くなるのも嫌ですし・・・」


初めて魔導書の事を聞いた時、『悪意を持った者に知られる訳にはいかないから、写本を作る事も禁止されている』ってユマさんが言っていたのを思い出し、俺はそう付け足した。

そんな俺に対しルグが問題ないと言う。

確かにルグの言う通り今更だし、世界を揺るがすかもしれない非常事態が起きてるんだ。

禁止だ何だって言ってる場合じゃないよな。

そもそも元から魔導書と言われてた方のノートや日記は全く危険な物じゃ無かった訳だし。


でも此処にあるDr.ネイビーの日記や勇者ダイスのオリジナル日記は色んな意味でギリギリアウトな気がする。

だから魔導書の今の持ち主(グリーンス国の王族)の関係者のルグが良いと言ってもイマイチ不安を拭う事が出来ないんだ。

特に今は正体を隠してる訳だし、何も知らない人が見たら俺達が一言も言わず勝手にコピーしたと思うかもしれない。

今後も良好な関係を維持していく為にもそれだけは避けたいと言う思いがあからさまに態度に出ていたんだろう。

ジェイクさんがコロナさん達経由で確認を取ってくれると言ってくれた。


「・・・・・・うん・・・うん。

ありがとう、アル君。じゃあ、また何か合ったら」

「どうでした?」

「うん、大丈夫。問題なく許可下りたよ」

「そうですか!

ありがとうございます、ジェイクさん。

えっと、それじゃあ・・・・・・」

「こんな時間だからね。戻る時間はあると思うよ」


微かに通信鏡で連絡取るジェイクさん達の会話が聞こえていたから何となく察してたけど、比較的軽くコピーの許可が下りた様だ。

ただ扱いには十分気を付けろと言われた。

だったらコピーするのは1枚ずつ。

いや、念の為に2枚ずつだけにした方が良いよな?

そう思いつつ口を開いたら、俺が何を言いたいのか察したんだろう。

ウォルノワ・レコードまで戻る時間がるとジェイクさんが言った。


「そもそも今日はこのまま此処に泊まる予定だったんだ。

それかアジトに戻って休むか。

ほら、暗い中で山を歩き回るのは危険でしょ?」

「確かにそうですが・・・

えっと、今そんな遅い時間なんですか?」

「此処に居ると分かりずらいと思うけど、もうこんなに経ってるんだ」


元々薄暗かったから分かりずらいし、この部屋の窓は洞窟の壁に描かれた偽物の風景を写すだけ。

だから今の正確な時間は分からない。

体感時間的に3時過ぎ位かと思っていたけど、『こんなに経っている』と言いながらジェイクさんがポケットから取り出したガラスケース入りの小さな時計の花。

この世界の懐中時計を見ると、夕方の5時を半分以上回ってほぼ6時に近い時間になっていた。

まさかそんなに時間が経っていたなんて・・・

思っていた以上に此処に居たんだな。


早く日が落ちる事を考えると確かに今日はこれ以上進むのは危険だろう。

特に俺達はプロの登山家じゃ無いんだし、無理は禁物!

ナト達を見つけてすらいないのに、命の危機が迫っていない状況で自ら無茶する道を選ぶ必要はないだろう。

ジェイクさんの言う通り此処に泊まるか、『レジスタンス』のアジトに帰るか、それとも『ゲート』を開くんだし俺達の実家に帰るか。

どっちにしろDr.ネイビーの日記を印刷する時間はあるだろう。


『と言う事で、ダメかな?』

「・・・・・・はぁ。1冊に纏まる量にしとけよ?」

『ありがとうございます』

『タカヤ君、手伝って』

「分かりました」


四郎さんの熱意に折れたクエイさんに対する丁寧な感謝のメールの後、少し間を置いて届いたそのメールに頷き、俺は持って行こうと選んだ日記の1冊を開いた。


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