144, 白紙の日記 5ページ目
「取り合えずこれで、偽勇者ダイスの正体がDr.ネイビーの幽霊って線も、この時代最初の『召喚』された人って線も無くなりましたね。
まぁ、元々可能性は低かったですけど」
「あぁ、確かに」
俺達はナトと高橋を連れ戻せればいいけど、ルグ達この世界の人達はそれだけで終わらない。
恐らくこの事件の真の元凶である偽勇者ダイスをどうにかしないと同じ事が繰り返される。
そうじゃなくてもこの旅の邪魔を。
1番の協力者であるアルさん達『レジスタンス』の人達の記憶をまた消されるかもしれないんだ。
良い対策案だって簡単に出て来ないし、決まった対策の準備だって一瞬で出来る訳じゃ無い。
そう言う危険性もあるんだから、出来れば偽勇者ダイスの正体は早めに突き止めたいんだけど・・・・・・
「シローはずっとサトウに取り憑いてたし、Dr.ネイビーも『実』の事を知ってたんだもんな。
サトウが元の世界に帰ってた1年間の間にもこの世界に居て、『実』の事を知らず『オーブ』を集めさせてるなら、勇者像に取り憑いた偽9代目はそれ以外の誰かって事になるのか?」
「それだと・・・
今上がってる候補はー・・・・・・」
「キビ君がアジトで言った、『先代ローズ国王を騙したこの世界の人間』か、『この世界で生まれ育った人達が集まって作った詐欺組織』か。
その場合、『英勇宗の上層部』か『ローズ国の王族か貴族』にその犯人か組織の一員、もしくはその協力者がほぼ確実に紛れ込んでいる」
「それプラス、木場さん達の話やヤエさんの事を考えると、『生き残った白悪魔』って線もあるな。
それか白悪魔達は完全に勇者ダイスに滅ぼされていて、『ローズ国の権力者や英勇宗の上層部が協力していた頃の、残された白悪魔達の技術や知識を使って事を起こしてる』って説」
「なら、偽9代目候補は『この世界の誰か』で間違いないのか?」
「・・・いや。
それはまだ分かりませんよ、ピコンさん」
2つ候補が消えても今まで出てきた偽勇者ダイス候補はまだまだ沢山ある。
その上勇者ダイスのオリジナル日記を読んで更なる候補が出てきたんだ。
「まだって、どう言う・・・・・・あっ!
そう言えば9代目様も『自称先代勇者』に会っていたんだったね」
「はい。
その『自称先代勇者』も声だけで、アーサーベルの教会の勇者像に取り憑いていました。
最初この事を言った時軽くエドが言ってたと思いますが、日記に書かれてる『自称先代勇者』の手口は偽勇者ダイスのやり方と非常に似てるんです」
「後、目的もな。
どっちも執拗に『夜空の実』や『オーブ』を狙ってる」
この情報を伝えたのがルディさんにも関わるショックな情報を伝えた辺りだったからか、ピコンさんの記憶からその事が抜けていた様だ。
ルグが補足してくれた通り、『自称先代勇者』も『夜空の実』を狙っていたらしい。
そして勇者ダイス達はナト達と同じくその『自称先代勇者』の指示で冒険者業をしながら世界中の『オーブ』を探していた。
この世界に来てから約1年間のナト達の行動は又聞きだし、勇者ダイスの情報も日記の内容だけ。
だから俺はあまりピンッと来ないけど、その当時のナト達と一緒に行動していたコロナさんが『同じだ』と通信鏡越しに言ってたんだ。
『緑の狩人』の話もそこで聞いた様だし、細部の違いはあるだろうけど、ほぼ一緒。
「直接会ったコロナさんのお墨付きもありますし、偽勇者ダイスと『自称先代勇者』は同一の存在の可能性があるんです。
そうすると偽勇者ダイスは少なくとも1000年。
いえ、もしかしたら2000年以上生きてる可能性がある」
「この世界の純粋な生き物で何千年も生きられる奴は存在しないらしいんだよな。
若返ったら記憶が消えるからスライムでも無理らしいし」
スライムと会話できるジェイクさん曰く、スピリッツさん達から聞いた『スライムの若返り』は『老人が赤ん坊の肉体に戻る』って感じじゃないらしい。
どちらかと言えば『自分の意思でもう1度同種のスライムに生まれ変わる』って言う方が正しいそうだ。
『肉体が若返る』訳じゃ無く『生まれ変わる』訳だから、若返りを起こしたスライムは基本若返り前の記憶や追加スキルを全部失ってしまうらしい。
魔法道具やスキルを使うか運しだいでは極々稀に若返りの前の記憶やスキルを持ったままでいられたり、途中で思い出したりするらしいんだけど、それだって殆どがデジャブ程度。
物語の主人公の様に丸々前世の記憶を持っていったり蘇るって事は無いらしい。
あるとしたらそれは宝くじで連続1等を当てる位の奇跡が起きるか、何者かによって記憶がよみがえる様最初から運命付けられているかだろう。
そう言う意味でルグの言う通り、現状『何千年も生き続ける純粋なこの世界の生き物は居ない』んだ。
「ですから勇者ダイスや8代目勇者が『召喚』される前。
恐らくコラル・リーフの時代に『召喚』された、物凄く長寿な異世界人が正体の可能性があるんです。
それか先祖返りして、かなり濃くその長寿な種族の特徴が現れたこの世界の人」
「なるほど。
でもスッゴク寿命が長い異世界人って言うのも、9代目様の前に『召喚』されたってのも分かるけど、何でコラル・リーフの時代?
9代目様の時代じゃ無いの?」
「やり方が非常に似てますからね。
細かい条件を少しづつ変えての実験、って言えば良いのでしょうか?
恐らくなんですが、『夜空の実』を手に入れる為に『勇者が活躍する物語』の舞台を用意して、俺達の世界に似た異世界から『日本人の10代の子供』を選んで『召喚』する。
コレを始めたのが偽勇者ダイスなんだと思います」
1学年全員が一気に『召喚』された事からも分かる通り、木場さんの時代はサンプルが『召喚』される事は無かったそうだ。
数うちゃ当たるで何人もの人が一気に『召喚』された。
大半の人が死んでも残った数人を利用する。
そんな人の命を使い捨ての道具の様に扱っていた時代だったんだ。
だから当然、『召喚』した人を『勇者』と呼び持て囃す文化も当然当時は無かった。
木場さん達含めレーヤ以外の『召喚』された人達が『勇者』と呼ばれる様になったのはその後。
ジェイクさんでも分からないからハッキリしないけど、聞いた感じで、
「ここ等辺で『勇者』を利用する方法の実験が始まったんだろうなぁ」
って思ったのが3、4000年前。
ブレの少ない人物像って言えばいいのか。
『5代目勇者』の様に沢山の異世界人が混ざり合って生まれた存在じゃなくて、『狙いを定めた誰か1人』を勇者と言ってる感じ。
そう言うナト達に近い感じからして恐らくコラル・リーフの時代からか、ソレが既に始まっていただろうコラル・リーフの時代の前である6代目勇者の時代からの文化なんだと思う。
それ故に木場さん達が『召喚』された時代には『自称先代勇者』を名乗る存在も居なかった。
「似た世界の出身ってだけじゃなく、聞いた感じ8代目の時点では既に『召喚』した異世界人を『勇者』として持て囃してる印象を受けました。
そうやって煽てる事で気分を良くして『勇者』の行動を操作している。
だから偽勇者ダイスが手を出したのはその前」
「その前?」
「ゾンビにされた人達の行動を振り返ればわかるでしょう?
そうやって『勇者』の行動を操作するなら、多くの国民の『協力』が必要なんですよ」
ゾンビにされたローズ国民達は、ナト達が近くに居る時はナト達。
特に高橋が凄いって言う様に動かされているらしい。
それはナト達を煽てて積極的に魔族や魔物と戦う様に操作する為だろう。
実際は特に凄くない事をとっても凄いと言わされて、自分達でも出来る事を出来な事にされて。
そんなサマースノー村の人達の事を思い出したんだろう。
ピコンさんの表情が目に見えて険しい物に変わった。
「ゾンビに出来ないなら、無理矢理にもそう言う演技をさせる必要があります。
でも、当時のこの世界の人達全員が『勇者』をその気にさせる演技する事は不可能だ。
どこかの国1つなら、まぁ、何とかって感じですけど、世界中の国全部が違和感なくって言うと無理だと」
「確かにな。
それが新しい法律だって言われても2つ返事で出来る訳がない。
そんなオイラ達を馬鹿にするだけの法律、誰が従うか!!
破ったら重い刑罰を受ける事になるって言われても、間違いなく多くの奴が『レジスタンス』側に着くし、他にも沢山の似た様な組織が出来るだろうよ」
「うん。
だから、自然とそう言う行動をする様に英勇教。
宗教を利用した。
そう行動する事が良い事だと、『正しい常識的な事』だと、長い時間を掛けて『教育』したんだ。
そっちの方が『演じなければ家族や友達、恋人含めお前と関わる皆死刑だ!!』って脅して従わせるより楽で、違和感ない自然な動きをさせられる。
宗派が沢山あっても大本の宗教が1つしかないのもそこ等辺が理由かなって思うんだ」
「ハハ・・・それが本当だったら、かなり怖いな。
あぁ、いや。本当に怖い。
こんなに『勇者』の真実を知ってもまだ僕は『勇者』を、レーヤ様を信じてるんだからな。
純粋なこの世界の人間なら違うって。
『召喚』された異世界人じゃ無いなら違うって。
・・・・・・そんな事、有るはず無いのにな。
レーヤ様も人である以上、伝わって無い悪い所や弱い所が有ったってもう分かってるはずなのに・・・
それでも絶対的で超人的な『正義の味方』だって信じる事を、止められないんだから」
本当に『宗教』って言うのは『便利』な物だ。
この世界にある様な魔法やスキルを使わなくても、人の心の弱さや闇を突っつけばその言動だけで『信仰』って言う名の洗脳を施せるし、それが先祖代々続けば信仰してない人でもその宗教関係の言動が習慣に。
『常識』に、なる。
実際ピコンさん達この世界の人達だけじゃなく、俺達だってそうじゃ無いか。
お正月になれば家族皆で初詣に行くし、お盆やお彼岸も毎年ちゃんとやってるし、お仏壇や神棚のお水とか毎日の様に取り換えてるし、炊き立てのご飯は1番最初にお供えしてるし、お葬式だって・・・
神様を本気で信じてない俺でも習慣的にそう言う宗教関連の行動を、特に何の疑問も持たず当たり前の様にやってるんだぞ?
気づいて疑問に思っても幼い頃から繰り返されたソレは染み込んで、信じられなくなって恐怖心を抱いてもその言動を止めれなくなる。
何より『信仰』じゃなく『宗教』が怖いのは、周りを積極的に染めようとする所だろう。
『信仰』はその人が信じたいから信じるって言う、その人の心や意識のみで完結するけど、『宗教』は違う。
アレは時に悪質な組織になる存在だ。
自分や自分の大切な人達の為じゃなく、組織を長く存続させる為に積極的に組織に周りを引き込もうとして、自分や指導者の考えと反する『不都合』な存在やその存在を『信仰』する人達を排除しようとする。
それ故に結束だけじゃなく、争いも簡単に起きてしまうんだ。
だから『宗教』は怖いんだよ。
そう改めて身近にあるソレについて考えるとその恐ろしさに顔が引きつりそうになるし、他の3人も似た様な心情なんだろう。
乾いた笑い声をあげたピコンさんだけじゃなく、ついっ先まで怒りを浮かべていたルグも、静かに俺達の話を聞いていたマシロも顔色が酷く悪い。
「ゴホンッ!
・・・・・・えーと、そう言う8代目時代の人々の行動がある事に加え、コラル・リーフの行動からそうなんじゃ無いかと思ったんです」
自分達も元の世界で先祖代々洗脳され続けていたのかもしれない。
と言う直ぐ側に這い寄っていた恐怖心をどうにか振り払い、気持ちと頭を切り替える様に何度も深呼吸する。
そしてこの空気を入れ替える為にわざとらしい大きな音の咳ばらいを1つ。
俺は話を続けた。
「ナト達含めここ3代の勇者達は『召喚』した人達に利用されていて、木場さん達は『召喚』された事に翻弄されている。
そんな印象を受けました。
でもコラル・リーフは違う。
自分の意思で行動を起こせてる様に思えます」
『勇者』とは名ばかりに、情報を制限され、操られ、いい様に魔女達に利用されるナト達。
この日記を読む限りそれは勇者ダイスも同じだし、この世界と自分の世界の違いを考えず望まれるまま色んな『異世界の知識』を広めまくった8代目勇者もまた同じなんだろう。
そんな誰かのマリオネットになっているナト達と、いきなり何もかも違う異世界に『召喚』され生き残る為に我武者羅になっていた木場さん達。
それ以外の『召喚』された勇者達の詳しい情報は持ち合わせてないから分からないけど、そんな4代の勇者達とは違ってコラル・リーフは余裕があるって言うか・・・
逆に周りを利用して相手を翻弄してるって印象を受ける。
『オーブ』や仕掛け、『キビ君』の像を含めた動物像、オルノワ・レコード。
そう言う物をサラッと幾つも用意してるし、『実』の事も全部知ってる様だし。
あらゆる面で後手、後手に回ってる俺達と違いコラル・リーフは偽勇者ダイスにすら先手を打てているんだ。
何となくの印象だけど、多分コラル・リーフは偽勇者ダイスの正体も知っていた様な気がする。
「もしコラル・リーフに予知能力が無くて、偽勇者ダイス対策にあれ等を用意していて、最後の策として『佐藤 貴美』を呼ぼうとしていたなら。
コラル・リーフが『召喚』される前から偽勇者ダイスはこの世界に居たと思うんです」
「でも、コラル・リーフが未来を見る能力を持っていたって線が濃厚なんだろう?
じゃないと何で羊の像がラムと同じバイオリンを持ってたんだって話になるじゃないか」
「そうなんですよねー。
コラル・リーフの世界に全く同じ物があるとか、そう言う伝説や物語があるって言うなら別ですけど」
「そもそも正体が異世界人って決まった訳じゃないよね?
この世界で生まれ育った人が正体って可能性も十分あるんでしょ?
どの国の人で、どんな種族で、どんな職業なのか。
それも分からないけど・・・・・・」
「それ以前に、個人か組織かも分かってないしなー・・・
はぁ・・・・・・」
1番最初はこの世界の人、次は白悪魔。
それで今回手に入れた情報で1番の有力候補が『分からない』になてしまった。
偽勇者ダイスの正体を考える度に絞り込むどころか候補が増えていってドンドンどつぼにハマっていってる気がする。
せめて、せめて偽勇者ダイスと『自称先代勇者』が本当に同一人物かどうかだけでも絞り込めれば・・・
『自称先代勇者』のやり方を真似してるだけのこの時代の人か、それとも他の時代も関わって来るのか。
それだけでもグッと候補を絞り込めるのに・・・
ルグと一緒にまたため息が出てきそうだ。




