143, 白紙の日記 4ページ目
「―――これでテンジで書かれてるページは終わりだね。
他に気になった所あった?」
「いや、特には」
「あえて言うなら光と闇の『実』が見つからなかった事位?
『風のオーブ』と『風の実』が離れた場所に在ったのも少し気になる・・・か?」
白紙のページを全部読み終えてそう聞くマシロに、ピコンさんは特にないと言い、ルグは『実』の事が気になると言った。
確かに『光の実』と『闇の実』はこの研究所に来た前後約20年の間には見つからなかった様だ。
でも『風の実』は見つけてる。
『風の実』は確かに『風のオーブ』と同じチボリ国に在った。
でも『風のオーブ』がある『箱庭遺跡』って場所じゃなく、そこからかなり離れた『流砂の間』って場所の奥に在ったらしい。
『ここにある日記からは分からないけど、『光の実』と『闇の実』はここを出た後に見つけたかもしれないね』
「そうですね。
ただ、『光の実』の方は途中で探すのを止めた可能性が高いと思います」
「やめたって・・・・・・
他の『実』の場所から『闇の実』がキール氷河の何処かにあるって分かったから?」
「うん、恐らくは。
偽勇者ダイス達が騙してまでナト達をジャックター国城に向かわせたのは、そこに『光のオーブ』があるからだと思うんだ」
「あぁ。
『オーブ』って名前じゃ無いけど、『水のオーブ』に似たデザインの宝石なら幾つかあるって、前ユマちゃんが言ってたよ」
ナト達が『水のオーブ』を取りに行く前。
ジャックター国に『光のオーブ』があるとナト達と一緒に聞いていたコロナさんは、直ぐにその事をユマさんに報告して確認して貰ったそうだ。
その時は『オーブ』って呼ばれる宝石は見つからなかったらしいけど、後々ナト達が見つけた『水のオーブ』に似たデザインのアクセサリー系の魔法道具がジャックター国城に沢山ある事が分かったらしい。
多分それは他の『オーブ』と同じく、木場さんの仲間の亀岡 秋香さんって方がこの世界に居る時に作った魔法道具なんだろう。
偽物の『実』として誰もを騙せた事からも分かる通り、亀岡さんの魔法道具作りの腕は魔法道具のアレコレに精通した歴代のジャックター国の王族並みに凄かったらしい。
だからこそコラル・リーフは各属性の『実』の偽物として亀岡さんの作品を選んだし、『オーブ』の試作品含め亀岡さんの作品の多くがジャックター国に集まった。
そしてその中でも特に質の良い物が各地から献上され続け、最終的にジャックター国城に亀岡さんの作品の殆どが集まったんだ。
そう言う話を『レジスタンス』のアジトに居た頃に聞いたのだろう。
俺と四郎さんの会話を聞いて不思議そうにするマシロの質問に答えた俺の確認の言葉に、ピコンさんはそうハッキリ頷いた。
「あぁ、なるほど。
Dr.ネイビーが欲しかったのは『闇の実』だけだもんな。
流石のDr.ネイビーも必要じゃない物の為に態々危険は冒さないか」
「そう!そう言う事!」
少しの間悩む様な表情をしていたルグのそのハッと気づいた言葉に、俺はそう力強く同意した。
そこに無いって分かってるなら、お城って言う警備が厳しい場所に態々侵入したり、無駄に時間を掛けて当時のジャックター国王と交渉なんかしない。
水や風の『実』に関しては『闇の実』がある場所を絞り込む為に見つけたってだけなんだろう。
それを手に入れたって言う記述はないから、発見してもそのまま放置してたかもしれない。
その位Dr.ネイビーは『闇の実』以外興味が無かったんだ。
だからこそ、大助兄さんの性格的にも、紺之助兄さんの性格的にも、『闇の実』がキール氷河の何処かにあるって確定した時点でジャックター国への興味は薄れていたと思う。
「それでその『風のオーブ』と『風の実』の場所が大幅にズレていた理由なんだけど。
多分、その『箱庭遺跡』って場所が打って付けだったからじゃないかな?
住んでるらしい危険な動物や魔物が『流砂の間』の奥と同じだから誤魔化しやすくて、偶にしか現れないから特別な感じがあって。
それでかなり有名な場所」
『箱庭遺跡』は近くに住んでるからこそ深く関りを持ちそうなチボリ国民や態々毎年乗り込んでいく冒険者達だけじゃなく、ピコンさんやマシロの様な外国に住んでる元々冒険者業と関りの無い極々普通の人でも名前位は聞いた事がある位かなり有名な場所らしい。
Dr.ネイビーの日記や勇者ダイスのオリジナル日記を読むに、その有名さはここ最近の話じゃなく、数千年前から続いてるそうだ。
コラル・リーフや白悪魔達が『夜空の実』を狙う相手を罠に掛ける為態と流したのか、それとも壁の仕掛けの人の様な『勇者』の邪魔をしてた人達の仕業か。
その位大昔から有名な場所で、危険な動物や魔物が沢山いて、その危険性に見合う位のスッゴイお宝も沢山あって。
それで現れるのはベッセル湖と同じく1年の内の数日だけ。
それ故に危険だと分かっていても毎年多くの人がその『箱庭遺跡』に挑戦しているそうだ。
そして、帰ってこれない人達も毎年沢山居る。
「ジャックター国城もそうだけどさ。
コラル・リーフが何もしなくてもその場所自体を利用すれば、『実』を狙う人達を騙す為に態々ベルエール山の様な凄い仕掛けを作らなくても問題ないだろう?
噂を流すだけで、勝手に相手が危険な場所に入って、自然の摂理に従ってただ食べられる」
「それは『箱庭遺跡』の場合は、って事だよね?」
「あー、うん。ごめん、マシロ。
言い方悪かった。
ジャックター国の人達が皆食人鬼なんって思ってないから。
ジャックター国城の場合は捕まって裁かれるだけ、だよな?
即死トラップとかは・・・・・・」
「ないない。絶対に無い!
確かに安全の為に罠は沢山あるけど、人の命を簡単に奪う様な危険な物は無いからね!!」
自分の故郷を馬鹿にされたと思ったんだろう。
頬をプックリ膨らませ怒るマシロに俺はもう1度謝った。
お城って言う国にとって重要な人達が住む場所だから危険な侵入者対策の罠がそこかしこにあるのは当然として、エスメラルダ研究所のゴーレムトラップの様な命に係わる危険な罠はジャックター国城には無い様だ。
怒ったマシロが勢いで言ってるだけじゃなく、ヒッソリ示されたルグのサインからもそう言う意味では安全な事は間違いない。
いや、まぁ、あったら今頃ナト達も無事じゃすまない、通り越して誰かが亡くなってるよな。
そこ等辺もう少し考えてから言うべきだった。
流石に失言が過ぎたと、俺はもう1度改めてマシロと、コッソリ本人以外気付かれない様にルグにも謝った。
「ジャックター国城の方は兎も角さ。
まぁ、確かに、どんなにスキルや魔法が凄くてもあの場所、『箱庭遺跡』では意味が無いんだ。
必要なのはただ1つ。
どれだけ戦いの経験を積んできたか。
生きる為にどれだけの努力を積んできたかって言う、単純なものだけだ。
・・・って聞いてるぞ」
「そう、だからこそなんだよ。
そう言う経験がものが言う場所で行き成り強い力を貰っただけの『異世界人』が生き残れると思う?」
「無理だな」
ルグも実際に『箱庭遺跡』の中に入った事があるんだろうか?
聞いただけと少し慌てた様に付け足したルグに、その事に気づいて無いと言う態度で俺は自分達『異世界の唯の子供』が生き残れるか聞いた。
それに対しての気持ち良い位キッパリしたルグの即答。
『箱庭遺跡』は歴戦の冒険者や軍人でも一瞬の判断ミスで命を落とす場所なんだ。
どんなに強いスキルや魔法を手に入れても、長年の戦いの経験から来る勘が無ければ生き残れない。
この世界に近い世界や命の価値が低い昔の人達なら兎も角、それを魔女達が利用しやすい『現代日本の極々普通の子供』が最初から持っている訳ないだろう?
持ってたら持ってたでその人の人生が心配になる。
「かなり戦いの経験を積んだ勇者ダイス達が1度諦めている位なんだ。
詳し事は分からないけど、相当厳しい場所って事は分かる。
だからこそ、『箱庭遺跡』って場所そのものが『罠』になるんだ。
『夜空の実』を取る為の道具として俺達異世界人を利用してるなら、尚更、ね」
ベルエール山の仕掛けに比べ殺意が高すぎる気がするけど・・・
と内心思いながら、もう1度勇者ダイスのオリジナル日記の該当ページを見る。
異世界の同一人物である大助兄さんの普段のあの態度からは想像できないけど、勇者ダイスには戦いの才能があったんだろうか?
ローズ国で白悪魔達との数多くの死闘を経験して、異世界生活2年目にしては異常な程確実に強くなっていった勇者ダイスと、その勇者ダイスに影響された様に同じく強くなっていた『仲間』達。
翌年にはどうにか攻略出来たみたいだけど、その勇者ダイス達が1度命からがら逃げだした位なんだ。
閉じ込められ続けた故に世代を隔てて弱肉強食をこれでもか!!
と体現した様な超シビアな生態系を形成した獰猛な動物や魔物達が、中に入った人達を骨すら残さず貪り喰らう。
その事が容易に想像できる位、『箱庭遺跡』は間違いなく危険だと分かる場所なんだ。
他の国には存在しないらしいそんな『便利な場所』があるなら、そりゃあ利用しない手はないだろう?
「だからこそコラル・リーフは態と『風のオーブ』の場所を『風の実』からずらした。
まぁ、多分他にも理由はあると思うけどね。
それも1つの理由だと思うんだ」
「じゃあ、『闇のオーブ』も同じ様な理由で『闇の実』から離れてたって事?」
「いや、違うと思う。
『闇の実』があるキール氷河には白悪魔達の本拠地のブランシス王国が在る訳だから、『闇のオーブ』を隠すのも容易じゃ無かったんだと思うんだ。
5000年前と変わらずブランシス王国の中に『闇の実』があるなら、国の近くに近づく事すら無理だったと思う。
特に3000年前ならまだ白悪魔達の力も衰えてない訳だし、その当時の地形だと『闇の実』やブランシス王国が何処にあるか分からないけど、」
「流石のコラル・リーフでもキール氷河本土までは行けなかった?」
「うん」
「なるほどなぁ」
自分達が知らないだけで『箱庭遺跡』の様な危険な遺跡がキール氷河にも在るのかと、怒りが収まり不安そうに首を傾げるマシロに俺は首を横に振った。
勇者ダイスの日記によると、『闇のオーブ』はキール氷河が見える範囲の海の底に沈んでいたらしい。
『キール氷河』じゃなく、『キール氷河の手前』に『闇のオーブ』は有ったんだ。
南極やグリーンランドの様に土地の殆どが氷で出来てるからか、木場さん達によるとキール氷河の地形は他の大陸や島に比べてもかなり変わっていたらしい。
だからこそ木場さん達の時代に『闇の実』が有った場所が海になっている可能性もある訳なんだけど、多分その可能性はほぼないと思う。
時間を掛けて徹底的に調べたと言うここに在るDr.ネイビーの日記の内容的、キール氷河周辺の海に『闇の実』が無いのは間違いない訳で。
つまり木場さん達から聞いた通り1000年前も変わらず『闇の実』はブランシス王国が存在していたキール氷河本土。
アルさんやジェイクさん達から事前に聞いた話から考えると、つまり『闇の実』は土や岩何かの氷以外の物で出来たキール氷河の中心の辺りの土地に在る筈。
それなのに、ここまで場所がズレているのは、コラル・リーフが白悪魔達を警戒してキール氷河本土に行けなかったからじゃ無いかと思うんだ。
その事を俺が話してる途中で気づいたんだろう。
納得した顔に変わっていった3人を代表する様にそう聞いて来たルグに俺は頷いた。




