141,白紙の日記 2ページ目
「それで、日記に点字が使われてるんだよな?
俺、読もうか?」
「いい。必要ない。お前等は大人しくしてろ!」
「チェッ」
はいはーい、と片手を大きく上げ満面の笑顔を浮かべる。
そんな姿が鮮明に思い浮かぶほど、明るく元気な声でそう聞いてくる大助兄さん。
そんな大助兄さんに目を吊り上げる様に細めたアルさんがすかさず釘を刺した。
それが相当不満だったんだろう。
大助兄さんは舌打ちする様に拗ねた声を出した。
「あー、もう!休憩、終わり!!
お前等、さっさと戻るぞ!」
「えー・・・・・・仕方ないかぁ。
貴弥、またな!絶対無茶するなよ!」
「分かってる、分かってる。
兄さん達も無理しないでね」
よっぽど大助兄さん達に関わってほしく無かったんだろう。
そう早急に通信鏡を切ろうとするアルさん。
大助兄さんはそんなアルさんの態度に最初不満そうだったけど、俺達の見えない、聞こえない範囲で何かあったんだろう。
直ぐにため息交じりに仕方ないと納得した様な声を出して、チラリと通信鏡を覗き込んで直ぐ消えていった。
「そう言う訳だから、エド。
また後でこっちから連絡する。
報告の続きはその時に」
「それならジェイクかクエイの方に連絡した方が良いんじゃないか?
この後も何か見つけるかもしれないし、合流したら大体全部2人に言っておくと思うからさ」
「そう言う事なら、分かった。
こっちが一段落した時お前等がまだ合流してなかったら、もう1度そっちに連絡するから」
「了解。
・・・・・・・・・さて。
サトウ、どうする?読むか?それとも、もう充分?」
「軽くで良いから読んでくれる?
情報取り逃がすの嫌だし、後々なんかあって読み返せなくなって後悔するのも嫌でしょ?
だから、可能性は低いけど、念の為に・・・ね?」
「そうい事なら・・・」
今までアルさんの顔を映していた蓋部分の内側にある鏡が唯の普通の鏡に戻って、ルグは鏡越しに俺をチラッと見ながら白紙のページを読むかどうか聞いて来た。
その言葉に俺は改めて白紙のページが挟まれた日記を見る。
件の日記を持っているマシロは相変わらずこれ以上調べる事に不満そうだけど、俺はそう言って読んでくれるよう頼んだ。
四郎さん達の為ってのもあるけど、ナト達を追いかけるのに有利な情報がこれにも隠されてるかもしれない。
実際勇者ダイスの日記にはコロナさんが調べたよりももっと詳しい『オーブ』の場所や、『蘇生薬』に関わる情報も載ってたんだ。
それと同じ様に偽勇者ダイスの正体とか、そう言うのが書かれてるかもしれない。
「態々点字で書かれてるならきっと間違いなく重要な情報が隠されてるんだ!」
なんって思ってる訳じゃ無く、本当にただ単に念の為にってだけ。
ここに点字が使われてるのは、剣士カリン達から逃げ出した自分達が見つかりそうで、勘違いされた日記も狙われてるから。
ってだけで、今まで真剣に読んでいった日記の様に兄弟の治療の研究以外の重要そうな情報は無いだろう。
だからこそマシロ達も態々白紙のページを読む事に対し良い顔をしてないんだよな。
今までの日記と同じなら、まだ読んでない他の日記やパラパラとしか読んでない日記にも重要な情報はない、と思うんだけど・・・・・・
でもそう思い込んで何か後々重要になる情報を取り逃す訳にはいかないだろう?
だから俺は読んでくれる様頼んだし、マシロも納得してくれ手を白紙のページに置いてくれた。
そのままマシロは白紙のページの内容を声に出して読んでくれるけど、予想通り俺達にとって必要な情報は殆ど無かった。
「『これは嬉しい誤算だ!
まさか今まで大助が集めていたオーブが偽物だったなんて!
あの噂が本物なら、本物の闇のオーブさえ見つけられれば貴美を助けられる。
このまま大助を起こす為の研究を続けながら本物のオーブも探し直さないと。
あぁ、そうだ。
最近ますますあいつ等の気配が強くなってきたからな。
本物のオーブまであいつ等に奪われない様にその対策も考えないと』」
「へぇ、Dr.ネイビーもあの『オーブ』が偽物だって気づいたんだ」
「みたいだな。
なら、Dr.ネイビーは途中で亡くなったんじゃ無ければ、キール氷河には必ず行ったはず」
マシロが読んでくれた内容に俺とルグは頷き合い、そう口にした。
当時から流れていた噂が関係あるんだろうか。
木場さん達の話から考えるに、各属性の『実』がある場所と同じ国に今分かってる同じ属性の『オーブ』もコラル・リーフは置いた様だ。
正確な場所は大分違うけど、同じベルエール山の地下に『水のオーブ』も『水の実』も在った訳だし、
チボリ国には風の『オーブ』と『実』が、
マリブサーフ列島には火の『オーブ』と『実』が、
ヒヅル国には土の『オーブ』と『実』があるのはほぼ間違いないだろう。
そしてコロナさんの情報によると、『闇のオーブ』があるって言われてるのはキール氷河。
この法則から考えると『闇の実』があるのもキール氷河で間違いない訳で、それでDr.ネイビーは『夜空の実』じゃなく『闇の実』だけを狙っていた。
日記から読み解けるDr.ネイビーの性格的に、ほぼ確実にキール氷河に向かったと思う。
パラッと見た限り、ここに残ってる日記には向かった先の事が書かれてる物が1つも無いから、正解は分からないけど。
「・・・と言う事はやっぱり、タスクニフジ研究所はDr.ネイビーが作った?」
「流石にそれは・・・・・・って、やっぱり!?
やっぱりってどう言う事だよ、サトウ!!?」
「え?・・・あっ。あー、いやぁ・・・
初めてタスクニフジ研究所の事聞いた時からさ、実はDr.ネイビーが関わってるんじゃないかなぁ、って思っててさ・・・・・・」
「初めてって・・・・・・あっ。
ねぇ、キビ君。
もしかして、あの時何か言いかけたのってソレ?」
「うん」
認めたくなかっただけで、ウォルノワ・レコードの中で初めてタスクニフジ研究所の事を聞いた時には既に勇者ダイス達が異世界の大助兄さん達って予想は出来てたんだ。
研究所の名前の事に、『鑑定記録』のスキルの事、そして植物の研究所だって事。
正直言ってタスクニフジ研究所は『俺達』を連想させるモノだらけだったんだ。
あの時持っていた情報から考えても、無関係だって言うのは結構無理があった。
それでも目を逸らしたくて。
認める事がどうしても出来なくて、あの場ではああ言ったんだ。
「・・・言わなかったのは、勇者ダイス達が異世界のダイさん達だって認めたくなかったからか?」
「・・・・・・うん。
あの時は、悪い妄想だって思いたかったんだ。
だから・・・いや、ごめん。
これ以上言い訳はしないよ。
俺が黙ってた事で気分を害したら、謝る。
黙ってて、ごめん・・・」
「別にその位なら良い。
口が軽くて敵にこっちの重要な情報が渡るよりましだからな。
驚いたけど気にしてないから。
な、マシロ、ピコン?」
「まぁ、確かに?」
「そうだね。情報は大切だもん。
その情報を使うタイミングは良く見極めないと。
気になったら今度から上手く情報引き出せる様に頑張るから、気にしないで」
「うっ・・・・・・
何かちょっと怖いけど、そう言って貰えると助かるよ。
ありがとう」
自分の正体を言わない様にもう1度釘を刺す意味でもそう言って、流れる様にピコンさんとマシロに同意を求めるルグ。
2人も情報の大切さは分かってるからあんまり怒ってはいないみたいだ。
でも、その大切さが分かっているからこそ、俺が自分で言う気が無くても自然な話術で聞き出してみせるとニッコリ笑うマシロが何か怖い。
『取り合えず、タスクニフジ研究所なら兄さん達のお墓とか知ってるかもしれないんだね?』
「もしかしたら、ですけどね。
あの時言った通り、木場さんの同級生の『佐藤さん』が関わってるかもしれませんし」
俺としてはDr.ネイビーかDr.ネイビーが起こし、生き返らせた兄弟達の子孫が創った研究所の可能性の方が高いと思ってる。
とそう四郎さんのメールに言葉を返した。
現状可能性が1番高いって言うだけで、絶対そうだと確定した訳じゃ無い。
だから淡い期待を抱く四郎さんに絶対そうだと思い込まないで欲しいと伝えたんだ。
心配しなくても四郎さんはその事を分かっている様で、直ぐに、
『分かってるよ』
と言う短いメールが届いた。
それでも可能性があるなら行きたいと更にメールを寄越す四郎さん。
その文にルグ達は眉を寄せる。
「全部終わって、落ち着いて、アル達が良いって言ったらな。
それか・・・・・・」
「チボリ国でナト達捕まえるつもりだから、キール氷河まで追いかけるって言う可能性は考えさせないで」
「分かってるって!
オイラ達もこれ以上アイツ等がどっか行くのは阻止したいし。
何が何でもチボリ国でアイツ等を止めるぞ」
「勿論!」
絶対チボリ国でナト達を捕まえる!!
そう決意を新たにする俺達。
よくよく思い出すと、完全に失敗するフラグにしか聞こえないよなぁ。
実際この後俺達は、あんな些細な事でナト達と直接会う事すら叶わなかった訳だし。
勿論チボリ国で捕まえる事も叶わなかったし、それどころか結局四郎さんの望み通りキール氷河まで行く事になってしまった。
だけど、この時の俺達はそれがフラグだとは露程にも考えていなかったんだ。




