139,Dr.ネイビー 後編
「それで手書きであるって事が前提って話は、『クリエイト』で魔法道具を作れたなら、パソコンやスマホ、後USBとか?
・・・あー、えーと・・・・・・
道具を使って文章が書けて、その書いた文章や撮った映像や画像を保存できる道具、って言えば良いのかな?」
「えーと、ギルドの依頼書を印刷する魔法道具みたいな感じ?
『教えて!キビ君』や『図鑑』みたいに来た依頼の情報を魔法道具の中で管理してて、必要だったら紙に印刷したり、情報を書き換えたり・・・
そんな感じの道具って事?」
「多分?
えっと、そう言う資料を製作出来て道具の中に持ち運びできる道具もDr.ネイビーなら作れたと思うんだ。
もっと昔にこの世界に『召喚』されたコラル・リーフもスマホモドキ作ってた訳だし・・・・・・」
紺之助兄さんがメモをそこ等辺に置いておくのは手書きでレポートとかを書いてるからだ。
でもパソコンとかを使えば大量のメモ用紙を用意する必要はないだろう?
紙の資料も取り込めばいいし、文章だってポチポチ書いて保存すれば良い。
その上ノートパソコンやスマホ、タブレットならコンパクトに何処にでも持っていける。
実際に大学入学祝いにタブレットを買って貰ってからメモの量産頻度が落ちたって大助兄さんが言っていた。
だからDr.ネイビーがパソコンやタブレットに近い魔法道具を自作したか、相当魔法道具作りの才能のあるとっても信用できる人に秘密裏に作って貰っていたなら話が変わってくる。
全部の違和感が解消された訳じゃ無いけど、それならネイビー・ビートがDr.ネイビーでも大量のメモが残されてないこの状況の説明が付く。
それに紺之助兄さんだって1回成功させてるんだから、死ぬ気で物凄く頑張ればネイビー・ビートも好きに魔法道具が作れるようになるかもしれないし・・・
兄弟を救う為にここまで出来るならそっちもどうにかした可能性は十分あり得るはず・・・・・・
後、日記に書かれてるDr.ネイビーが作った魔法道具の名前は全部アルファベットと数字の組み合わせで出来てるんだ。
『TF - 97』とか
『Re - 06』とか
『CC - 53』とか
『KS 08 - 32』とか。
設計図が書かれてるなら兎も角、この中で1番魔法道具に詳しいマシロでも名前が謎の記号にしか見えないから、名前だけの魔法道具は推理のしようがない。
だからハッキリ日記に書かれてないからって、Dr.ネイビーがパソコンとかを作っていた可能性を完全に否定する事も出来ないんだ。
「えっと、それは・・・
頑張って何時でも設計図の魔法道具を実体化させれる様になったって事?
それとも私達みたいに1から組み立てた感じ?」
「その両方とも可能性があるな。
けど、ナト達みたいに新しく魔法やスキルをある程度自由に作り出せたなら。
あ、いや。
よくよく考えたら、ピコンさんタイプの『クリエイト』を新しく作りだした可能性もあるのか」
「え!?
種類の違う『クリエイト』、両方使える様になったって事!!?
そんな事、可能なの!?」
努力に努力を重ね100%難しい構造の道具も『クリエイト』で出せるようになったのか、それともこの世界にある普通の魔法道具の様に1つ1つ部品を集め組み立てていったのか。
そう考え考え聞いてくるマシロに俺はそう答えた。
同じスキルや魔法を持っているハズの紺之助兄さんの様子からも分かる通り、勇者ダイスのオリジナル日記を読むにネイビー・ビートもナト達の様に好きな時に新しく魔法やスキルを作る事は無理だったみたいだ。
恐らく本人含め四郎さんの兄弟の中でそれ系のスキルを持っていたのは勇者ダイスだけ。
でも、作ろうと思えば俺達でも新しく魔法やスキルを作れた訳だし、何か裏技を使えばネイビー・ビートでも好きな時に魔法やスキルを作り出す事が出来たはず。
そうじゃなくてもこの世界には『追加魔法』って言う勉強や修行をすれば覚えられる種類の魔法がある訳だし、滅茶苦茶頑張って別の『クリエイト』を覚えた可能性も十分ありえる、よな?
俺は出来そうにないけど、体の構造も微妙に違うらしい異世界の兄さん達なら・・・
そう思うけど、実際はどうなんだろう?
四郎さんも確信も確証も得てない様だし、本当にふと思いついた可能性でしか無いんだ。
だから俺は驚くマシロの質問に首を横に振って答えた。
「分かんない。
けど、Dr.ネイビーは『返還』の魔法を作り出せた訳だし、他の魔法やスキルも作ってた可能性は十分にあると思うんだ。
魔導書の情報がイマイチ信用できなくなっている以上、そう言う可能性もあるかなぁ、って」
「けど、日記にはそんな事書いて無いぞ?
本当にDr.ネイビーが『返還』の魔法を作ったのか?」
「多分?
確かに、あのスマホモドキが壊される前ならウォルノワ・レコードから見つけて来れるだろうし、魔導書に書かれてたってだけだから信用も出来ないよな」
「だろう?
それでもサトウはDr.ネイビーが作ったって言うのかよ?」
「可能性が0じゃ無いからな。
マシロも言ってたけど、このアルファベットと数字の組み合わせの名前じゃ作られてた物がどんなものか分からないだろう?
もしかしたらこれが魔法道具じゃ無くて魔法やスキルだった可能性も十分あるはずだ」
「あー、確かにそうか」
仕掛けの壁を追加した人が1000年前の何時頃行動に移したのか、全く情報が無いんだ。
これから『召喚』される勇者対策に色々動物像の部屋の所でやっていたと思うけど、それが間に合ったかどうか・・・・・・
勘だけで色々やっていたならかなり時間が掛かってたはずだし、他の人にバレずにやるなら普通より更に時間が掛かったはず。
だから実際に全部が完了したのは何時だったのか。
聖女キビが『召喚』された頃?
それともそれより前?
逆にもっと後なのかもしれない。
約1000年前なのは確かだけど細かい年月が分からない以上、Dr.ネイビーが行動を起こした後にスマホモドキや『キビ君』像、ウォルノワ・レコードに手を加えた可能性も十分あり得る。
だからあの魔導書の手紙の内容が信用できない以上ルグの言う事はもっともだと思うけど、『Dr.ネイビーが作らなかった』って言う証拠にするには弱過ぎる気がするんだ。
俺達には判断出来ないけど、此処の日記にはDr.ネイビーが魔法道具以外も作ってたって書いてあるかもしれないし。
まぁ、何にしろ魔導書の方の日記に書かれてたなら、『返還』の魔法はオノルの森の研究所にあのノートと日記を置いて行く前には存在してたのは間違いないよな?
「ただ、追われてるって言うか探されてる?
そう言う身を隠さないといけない立場だったなら、どうにか全部自作した方が安全だったとは思うんだよなぁ」
「確かに何処かに依頼したらそこから自分の居場所が割れるかもしれないもんな。
Dr.ネイビーとしては出来るだけ人に見られる事は避けたかったはず。
と言う事は、難しくって時間の掛かる物ほど自作してたのか?」
「Dr.ネイビーはそれを実現できる位の実力は確かにあったみたいだしな。
だと、やっぱり『返還』の魔法もDr.ネイビーが作った物なのか・・・」
「まぁ、可能性が高い方で言えば?」
剣士カレン達から逃げ隠れしていたDr.ネイビーの当時の様子から考えてそう言えば、納得した様にルグとピコンさんが頷いた。
自分達も魔女達の捜索を搔い潜って隠れ隠れ行動してた訳だから納得するその気持ちも一押しだろう。
特にDr.ネイビーはピコンさんの言う通り、それをたった1人で成功させるだけの才能と実力があった。
よくよく考えてみてくれ。
Dr.ネイビーは妹の遺体を取り戻す為に単身何処かの研究所に乗り込んで、
恐らく世界中に幾つも研究所を建てて、
幾つもの魔法道具やゴーレムを作り出して、
オノルの森で見つかって以降長年誰にも見つからず隠れて研究を続けれた人だぞ?
もう、コラル・リーフ並みに何でも出来たんじゃないかって気がしてくる。
流石に死人を生き返らせる事は無理だったみたいだけど。
いや、日記に書かれてないだけで此処を出た後成功した可能性はまだあるか。
何にしても成功するまで何度でも挑戦し続けるって言う狂気じみた気合は間違いなくあったと思う。
「Dr.ネイビーが正気だって事を前提に話していたけど、実際Dr.ネイビーが正気だった可能性ってかなり低いと思うんだよ。
勇者ダイスが正体でも、ネイビー・ビートが正体でも」
そして正気かどうかって話。
訳分かんない異世界に誘拐され、
その誘拐してきた異世界人達に蔑まれ、
正体を隠しながら慣れない戦い続きの旅をしていたら兄と間違われ嫌っている女性達に無理矢理関係を迫られ。
トドメとばかりに異世界で自分達と同じかそれ以上の残酷な目に合い続けた妹が、助ける暇もなくロボットにされ何も知らされず騙された兄に殺され、
その事実を後々知ってしまった兄が自殺した。
兄の自殺はどうにか未遂で済んだけど、日記の通りなら兄はその後何年も意識不明になる様な重体になってしまうんだ。
「これだけの事を約3年間経験し続けたんだよ?
あの『紺之助兄さん』が正気を保てると思う?」
「・・・・・・無理だろうな。
コオン君のあのパニック具合を見たら、大丈夫なんて言えないよ。
多分、半年も持たずに心が折れると思う」
「確かになぁ。
サトウに次いで精神的に弱いコンの異世界の同一人物だぜ?
そんな事経験しちまったら絶対耐えられないって」
「ちょっと待って。
俺が1番精神的に弱いって認識やめて貰える?
確かに鋼のメンタルなんか持ち合わせてないけど、ナトや紺之助兄さんよりはましだからね?」
「キビ君、キビ君。どっちもどっちだと思うよ?」
紺之助兄さんの異世界の同一人物であるなら、ネイビー・ビートもこの世界でずっと正気を保てる程心が強くないだろう。
と言う事をすんなり皆に信じて貰えた事は、それはそれで良い。
でも俺が1番精神的に弱いって言うのは納得できない!
何度だって言おう。
確かに俺は花なり病に罹ってるよ!?
罹ってるけど!!
それでも俺の方が強いと主張したい!!
そう言ったらマシロに憐れむ様な目で肩を叩かれ、小さく首を横に振られた。
はい、そですね!!
結局ドングリの背比べでしかないんだから、争うだけ無駄って事ですね!!
頭では理解してるから、そうハッキリと態度で示すのはやめて、マシロ。
身長の事と同じで、俺のなけなしのプライドが傷つくから、本当、やめて。
『この世界での経験で正気を失って大助兄さんになろうとした紺之助兄さんか、貴美姉さんだけじゃなく自分の自殺を止めようとした紺之助兄さんまでも誤って手にかけてしまって、心の最後の砦まで失ってしまった大助兄さん。
その何方かがDr.ネイビーの正体なんだ』
俺が地味に落ち込んでる間に届いた四郎さんのそのメール。
それを見てルグ達があからさまに顔をしかめる。
日記の内容からして、勇者ダイスの自殺を止めようとしてどちらかが意識不明の重体になったのは間違いない。
その重体になったのが、どっちなのか。
そして、狂気に囚われマッドサイエンティスト、『Dr.ネイビー』になってしまったのは、一体どっちだったのか。
俺も四郎さんもDr.ネイビーの日記からは判断出来なかった。
心の安定の為、そして必ず兄弟を助けるって言う目標を叶える為。
それを成し遂げやすい、几帳面で勤勉でどちらかと言えば理数系が得意な兄を真似しだしたネイビー・ビート。
誰よりもお互いを理解してるからこそ、俺達でも判断できない程の、ここまで完成度が高い『真似』も出来るんだと思う。
それが1つ目の可能性。
2つ目は、必死に自分の自殺を止めようとした依存と思える程溺愛していた最愛の弟を誤って手にかけ、完全に心が壊れてしまった勇者ダイス。
生まれた時からずっと一緒だった大切な『半分』を自らの手で消し去り、壊れ切った心は、耐えられない事実の記憶を封じ込めた俺やマシロの様に勇者ダイスの記憶を歪めた。
自分は『紺之助』で、今目の前に居る意識不明の重傷を負った人物は自殺した『大助』だって。
そう、『自分』を殺したんだ。
でも、歪み壊れた勇者ダイスは完璧な『紺之助』になれなかった。
そのどうしようもない『歪み』が、この日記やこの研究所に現れているんだ。




