132,オリジナルの日記 前編
「と、ゴチャゴチャ言ったけど、この勇者ダイスの日記にハッキリ書いてあるんだよね。
四郎さんや紺之助兄さんの名前が」
「そう言う事は先に言えよ!」
ルグの軽い怒り混じりのツッコミを笑ってない小さな笑顔でかわし、入口で立ち止まって貰っていたままの3人を部屋に招き入れる。
「日記って、魔導書の続き?」
「いや、オリジナル。
続きもある・・・って言って良いのかな?
これ以外の此処に散らばっている他のファイルは全部、Dr.ネイビーが書いた日記兼研究記録なんだ」
順々に部屋に入りつつそう聞いてくるマシロに、俺は手に持った日記の1日目を見せながらそう答えた。
此処に居る全員、何度も『ゲート』を通っているから漏らす事なく『言語通訳・翻訳』のスキルを身に着けている。
だから俺が通訳しなくても、この場に居ないクエイさん達含めルグ達はこの日本語で書かれた日記を理解できるはずだ。
「・・・・・・・・・確かに書いてあるな」
「内容はキビ君から聞いてた魔導書の内容と似てるね。
でも、魔導書にはDr.ネイビー達の名前は書いて無かったし、シローさんの事も書いて無かったよね?
キビ君、あの時態と言わなかったの?」
「だからこれはオリジナルの日記なんだって。
Dr.ネイビーが編集して態と残したから、魔導書の方には書いてなかったんだ。
・・・・・・それだけ秘密にしたかったんだよ、兄弟の名前と唯一無事な四郎さんの存在を」
『異世界生活 1日目
貴美を探してかなり遅くまで街に居たのがいけなかったんだろうな。
信じられない事に下校中に俺達は異世界に召喚された。
真っ暗だったのに急に紺之助の周りが光り出して、紺之助が引かれる!って思って駆け出したら、絵に描いた様な異世界。
ベタな展開だけど、魔王を倒す勇者として呼ばれたんだ。
俺達を召喚した奴にいきなりそう言われてマジで驚いた。
頭の固い親父や、親父に似すぎて小学生なのに生意気な程現実主義な四郎がここに居たら、きっと熱を出してぶっ倒れてたな。
ラノベみたいで俺は興奮したけど、一緒に召喚された紺之助はスッゲー警戒してんの。
親父や四郎程頭でっかちじゃ無いけど、ジショー現実主義の紺之助の事だからこんなラノベ展開に驚いてパニックになっていたんだろう。
叔父さんや湊みたいに簡単に不思議な事を信じるのもどうかと思うけど、信じなすぎるのも問題だな。
まぁ、そう言う所も紺之助らしくて好きなんだけど。
本当、紺之助は可愛いんだから。
流石俺の弟!世界一!
そうそう、俺達2人が同時に召喚された事に召喚した奴も驚いてたな。
本当は1人だけの筈なのにって。
あの光が召喚の魔法によるものだと考えると、最初紺之助だけ召喚しようとしてたのか。
助けようと紺之助抱きしめてたからってのもあるだろうけど、たぶん俺達が一卵性の双子だから一緒に召喚されたんだろう。
まぁ、あの時紺之助を抱きしめてなくて、一卵性の双子として最初から生まれてなくても、俺は絶対紺之助について行ってたけどな。
異世界だろうとなんだろうと大切な紺之助を1人だけにする訳ないだろう。
ただでさえ貴美が行方不明なのにこれ以上目の前で大切な兄弟達を失いたくないんだ。
正直言って怖い。
でも紺之助の方がもっと怖いはずだ。
紺之助も貴美も四郎も、皆泣き虫で怖がりだからな。
安心しろ紺之助!
俺は兄貴だからな。
何があっても弟を守るのは俺の使命だ。
紺之助も貴美も四郎も俺が絶対守ってやる!
それに貴美を探す為とは言え、遠く離れた夕霧島に1人缶詰めの四郎の側に居てやれなかったからな。
叔母さんが代わりに迎えに行ってくれたとはいえ、折角の修学旅行でそんな事になって四郎の奴絶対寂しがってるぞ。
貴美も俺達が迎えに来るの絶対待ってるはずだ。
早く見つけてやらないとな。
その為にもまず俺達が此処に連れて来られた原因の魔王を倒さないとな。
俺も紺之助も大怪我せずさっさと魔王倒して、四郎が退院して戻って来る前には絶対に元の世界に帰って貴美を見つけて、何時も通り四郎を迎えてやらないと。
その為にも必ず魔王を倒して2人で帰るんだ』
そう書かれた日記の1日目を読んでルグとマシロがそう言ってくる。
それに軽く答えつつ、もう1度日記に視線を落として何枚かページを捲り、複雑そうな3人の顔を一周以上見まわして声を掛けた。
「御覧の通り、勇者ダイス達は大助兄さん達の異世界の同一人物で間違いありません」
「魔導書の事もあるから9代目様とDr.ネイビーがダイ君とコオン君だってのは、まぁ、まだ信じられるけどさぁ。
でもサルーの聖女がゴーレムにされた妹ってのはちょっと・・・ねぇ?」
「なぁ?
名前と性別が同じで、同じ1000年前に居た奴だからってくっ付けるのは安直すぎるよな?」
「あぁ、それもこの日記に書いてあります。
えーと・・・・・・確かぁ・・・
ここ等辺のページ・・・・・・
あった!こことここと、後ここがそうですね」
事前の情報のお陰で勇者ダイス兄弟の事は信じられるけど、妹の方は信じられない。
そう言って顔を見合わせるルグとピコンさん。
そんな2人の隣でマシロもウンウン頷いてる。
そんな否定的な3人の考えを否定する、その答えも魔導書の方の日記には存在していなかった3ページの日記が教えてくれた。
それの最初は、ネイビー・ビートと再会してかなりの時間が経った、でもローズ国からまだ出ていない頃。
ある日、勇者ダイスは正体を隠した弟からある話を聞いた。
『いつも通りギルドで依頼を受けただけの代わり映えの無い日だったのに、今日はやけにネイビーが上機嫌だった。
あんなに機嫌がいいネイビーは初めて見たかも。
そん位上機嫌で、理由を聞いて同じ位俺も機嫌が良くなったんだ。
なんと、なんと!
俺達に仲間が増えるかもしれないんだ!
ネイビーが町で聞いたかなり信頼できる噂なんだけど、俺達と同じ様に旅をしながら色んな町を救ってる奴が居たんだ。
この世界の奴等は絶望し過ぎてやる気も失ってるみたいで、積極的に魔族や魔王と戦おうとしてる奴なんて今まで見た事も無かった。
自分達の町を守るので手一杯って感じ。
そんな中で初めて知った積極的に動いてる奴等なんだ。
そいつ等は女2人で動いていて、その内の1人は俺と紺之助の基礎魔法のミドリの手みたいな魔法が使えるらしい。
その魔法を使って色んな町の食糧問題を解決してるんだって。
最初紺之助がやってるんだと思ったんだけど、どうも違うみたいだ。
そのミドリの手の様な魔法が使える奴はこの国の奴等には珍しい黒髪黒目って話しだし、紺之助はお洒落に気を使ってるからか同じ顔の男と思えない位綺麗な顔してるから紺之助だと思ったんだ。
紺之助なりにこの世界を助けようとしてミドリの手を使って色んな町を救ってる姿が女と勘違いされたのかもしれないって。
でもネイビーが言っていた容姿が違うから多分別人。
背がかなり小さくて俺達よりも少し薄い焦げ茶色の目をしてて、綺麗じゃ無くて可愛い系の顔立ちで。
ネイビーから聞いた感じ、何方かと言うと貴美に似てる容姿っぽいんだよな。
綺麗系なのはもう1人の方っぽい?
何にしても同じ志を持つ奴なら是非仲間にしたい。
でも、何でか分からないけどカレン達は嫌になる位反対してたんだよな。
仲間が増えるのは良い事なのに何がそんなに嫌なんだか。
でもネイビーは今までにない位賛成してるし、何時かそいつ等に会う時までにカレン達を説得すればいいよな。』
その後にも日記は続いてるけど、一緒に旅してると未だに気づいて無い弟への熱い思いだから今は関係ない。
でも、『最近ネイビー・ビートからの返事が遅い』って書いてあるのが気になる。
ネイビー・ビートの演技力や変装術が凄過ぎるのか、それとも勇者ダイスが鈍感過ぎるのか。
いや、勇者ダイスの、
『弟は安全な場所に居てくれる』
と言う、精神的な支えでもあるその強い思い込みが、ちょっとしたした事で直ぐ分かる様な事実から目を逸らさせていたんだろう。
・・・勇者ダイス兄弟の正体から目を逸らし続けていた俺の様に。
恐らくそう言う理由で勇者ダイス本人は全く気づく素振りすら無いけど、その手紙を送ってる大切な弟は正体を隠して直ぐ隣に居るんだ。
なら、そのローズ国城に送られた返事を書いてるのは一体誰なのか。
何らかの方法で城に送られる前にネイビー・ビートが回収して返事をしていたのか、
それとも城に居る誰かが勇者ダイスを更に都合よく操る為に嘘の返事を出していたのか。
そこが問題だ。
それによって勇者ダイスの悲惨さが変わってくるからなぁ。
このオリジナルの日記を読んでもそこは分からなかったけど、全世界の大助兄さんの基本個性なのか。
勇者ダイスも極度のブラコンな訳だから、返事の相手次第では発狂するかもしれない。
いや、発狂してたな、勇者ダイス。
ホラゲーの登場人物並みに。
手紙の相手が偽物って分かったのが切っ掛けか、それともすべてが終わってローズ国城に帰ったのが切っ掛けか。
それは分からないけどかなり昔にローズ国城から弟が居なくなっていたと知って、勇者ダイスは発狂した。
「ッ・・・」
「キビ君?大丈夫?
さっきより顔色悪くなってるよ?」
「大丈夫。ちょっと、嫌な事思い出しただけだから」
「嫌な事?」
「魔導書の方の、発狂した日記のページ」
「あぁ・・・あれかぁ・・・・・・」
あの『うそだ』の文字に埋め尽くされた日記を思い出し、俺の体が恐怖でブルリと震えた気がした。
そんな俺の姿を見てマシロが心配そうに声を掛けてくれる。
それに思い出した恐怖を追い出す様に息を吐き答えれば、この場にいるメンバーの中で俺以外で唯一あの日記を直接見たルグも嫌そうな顔をして頷いた。
あの時と同じ様に恐怖で顔が引きつってるのは、きっと気のせいじゃ無いだろう。
「確かにこの日記でも、弟から返事が来なくて少し正気を失ってるみたいだな」
「ネイビー・ビートがローズ国城に居ないって分かった時の日記はこれよりもっと酷かったですよ。
あれもDr.ネイビーの演出だと思いたいんですけどねー・・・・・・」
そう不愉快そうに眉間のシワを少し濃くしたピコンさんに答え、溜息を吐きつつ、
「多分その希望は外れるな」
と確信めいた思いを抱えてページを捲る。
初めて聖女キビの話題が出てから約数か月。
次にその話題が出たのはマリブサーフ列島に向かう船の中だった。




