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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
362/498

131,四郎の兄弟 後編


「は?9代目達が、シローの兄弟?

ちょっと待て!え?はぁ?それってつまり・・・」

「うん。エド達の予想通りだと思うよ。

俺と四郎さんと同じ。

勇者ダイスが大助兄さん、ネイビー・ビートが紺之助兄さんの異世界の同一人物なんだ」

「そんな・・・・・・そんな事って・・・・・・

あッ・・・で、でも!!

キビ君にはお姉さんは居ないよね?」

「うん。俺の姉さんは、いない」

「だったらッ!!」


俺の姉さんは俺達の世界にいない。

その事実を聞いてきたマシロは、それなら勇者ダイス達がIF世界の大助兄さん達と言うのは違うんじゃないのかと言おうとした。

何時も通り、俺達の思い過ごし。

勘違いだと言いたかったんだろう。

でもその言葉を言い切る前に、俺のスマホから鳴ったメールの着信音が。

四郎さんが邪魔する。


『タカヤ君の世界の貴美姉さんは、死産だったんだね?』

「・・・・・・・ええ、そうです。

俺の姉さんは俺達の世界じゃなく、あの世に居る。

俺の姉さんは、生きて、産まれて来れなかった。

いえ、正確に言えば、ほんの数分しか生きられなかった」


四郎さんの世界では、2階右の紺之助兄さんの部屋の主だった。

俺と兄さん達の間に生まれるはずだった、『姉さん』。

中学生まで、1000年前のこの世界に『召喚』されるまで生きていた四郎さんのお姉さんと違い、俺の『姉さん』は母さんの腹から出てきた時、息をしていなかった。

お医者さん達の懸命な処置のお陰でほんの少しの間だけ息を吹き返したけど、結局そのまま・・・・・・


「そもそも、沢山あるだろうIFの世界において俺達の世界の方が異常なんだ」

「異常って・・・・・・」

「異常だよ。

大体の世界において『姉さん』が居るのが当たり前なんだ。

『姉さん』が居ない俺達の世界の方が可笑しいんだ」

「何でそう言い切れるんだよ?

サトウの思い込みなんじゃないのか?」

「・・・だと、俺も思いたかったんだけどね。

でも・・・でも、少なくとも2つ。

四郎さんの世界と、コラル・リーフの世界では『姉さん』は存在してる。

どう関りがあるか。

それはまだ詳しく分からないけど、スキルの事とか考えれば、コラル・リーフが来て欲しいって願ったのはどっかの世界の『姉さん』なんだ」


異常って言葉に困惑するマシロと、思い込みだと言うルグにチラリと視線を向けて、俺はそう言いっ切った。

可笑しいは言い過ぎかもしれないけど、星の数程あるだろう全パラレルワールドの中で少数なのは間違いないと思う。

四郎さんの世界には存在して、コラル・リーフもその存在を知っていた。

なら確率的に考えて、『姉さん』が存在するのが俺達系列の世界において当たり前だと思うのは普通だろう?

俺達の世界が、『(貴弥)』が居る世界の方が確率的に可笑しいんだ。


「で、でも!!

コラル・リーフが待ってたのがシローさんのお姉さんや、お姉さんの異世界の同一人物とは限らないよ!

女の子のキビ君かもしれないんだよ!?

四郎さんが例外なだけで、キビ君はどんな世界でも『キビ』って名前な訳で・・・・・・」

「・・・・・・男だろうと女だろうと、『俺』が『キビ』って名前になる確率はかなり低い。

俺は姉さんの代わりなだよ。

だから、『俺』の名前は『キビ』なんだ」


そのお陰で俺はこの世界で生きていられるんだけど。

そう必死に言葉を重ねるマシロに返した俺の声は、思っているより皮肉めいていた。

俺達の世界で『姉さん』が存在していた証明は、俺のこの名前と、爺ちゃん達と一緒に仏壇に収められた小さな位牌と、たった2枚の写真だけ。

アルバムの中の初めて1人で歩ける様になった1歳位の兄さん達の写真の隣に張られた母さんのお腹の中に居た時のエコー写真と、そのエコー写真の数か月後に撮られた葬儀前に顔を綺麗に整えて貰って母さんと一緒に撮った最後の1枚。

骨すら残らなかった『姉さん』の証明はたったそれだけなんだ。


「漢字は違うけど、俺の『キビ』って名前は本当は姉さんに付けるはずの名前だったんだよ。

姉さんが母さんのお腹の中に居る時から。

女の子だって分かった時から決まってた」


貴くて美しいと書いて貴美(きび)

大切な良い子って意味の字の名前。


その名前を男っぽく変えたのが、俺の『貴弥』って名前だ。

だから自分の正体を思い出してからの四郎さんは、自分の姉と被らない様に俺の事をあえて『タカヤ』と呼ぶようになった。

四郎さんにとって『キビ』はお姉さんの事だから。


「お守り替わり・・・・・・

願掛けなんだってさ。

本当なら後80年は生きられた命の名前を引き継ぐんだ。

何かあっても守ってくれるし、何よりほんの少ししか生きられなかった姉さんの分まで生きて欲しいからって、俺はこの名前を付けられた」


きっと『姉さん』が生きてたら『俺』の名前も『四郎』になっていたんだろうし、爺ちゃん達の代から続く両親の名付けの法則的に最初から『姉さん』が存在しない世界の『俺』の名前も『四郎』になっていただろう。

異世界なら・・・

と、地下水道で四郎さんの正体を伝えた時、少しの期待で『貴弥(たかや)』って名前も候補に入れたけど、あの時判明した四郎さんの名前がそれを完膚なきまでに否定してきた。

その位『貴弥』って名前の『俺』は少数派なんだ。


「あ。

だからってこの名前が心底嫌って訳じゃ無いぞ?

前ルグ達にも言ったけどさ。

嫌いじゃ無いんだ。

本当に嫌だったら、どうにか改名してるはずだからな」

『でも、好きでもないんだろう?』


俺達家族の話で変な雰囲気になってしまったのに気づいて、俺は慌ててそう言った。

そんな俺の言葉に、疑問文なのに確信めいたメールが返って来る。


そもそも、100%自分の名前が好きな人の方が少ないだろう。

それが自分の好みと一致するかどうかは兎も角、名前は初めて人から貰うプレゼントだ。

家族から1番最初に貰うプレゼント。

家族の好みで選ばれたものだから好みに掠らず、『好きじゃない』のは仕方ないと思うんだ。

何が何でも改名しようとしないなら、良い方なんじゃないかな?


そう思って、『姉さん』の名前を受け継いだのにそんな風に言うなと怒ってるのか、それともそんな事を気にしてるのかと呆れてるのか。

文字だけでは判断できないその四郎さんのメール文に微笑みで返す。

いや、返したつもりだ。

死のトラウマを酷く刺激される洞窟に居るからか、実際は今も表情筋さんの有給が継続中なんだよ。

鏡とか俺の顔をハッキリ映す物が近くに無いから少し自信ないけど、きっと多分、地下水道の時と同じ様に無表情のままピクリとも動いてないだろう。


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