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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
358/498

127,ゴーレムの墓場を抜けて


 スベスベした坂を転がり落ちるクラインを追いかけ、俺達も『帰らずの洞窟』を進んでいく。

緩やかな坂道だと言うのは聞いてたけど想像以上に緩やかで、バリアフリーのスロープよりも緩やかなんじゃないか?

と思う位だ。

でも坂道はかなり長く、綺麗な真ん丸球体のデュラハン達が自力でこの坂道を上るのは、体力的に無理な気がする。

頑張って途中まで登っても、蝋燭でも塗り込んでるのかと思う位スベスベしたこの坂道の途中で真ん丸なデュラハンが休む事はできない。

ゴツゴツした休める出っ張りみたいのも少ないし、少しでも休んだら地下に逆戻り。

マシロの言う通りデュラハン達を襲うゴーレムとかが残ってる可能性もあるけど、単純にこの坂道のせいで帰ってこれなかった可能性もあるだろう。


「だから一旦落ち着こう、クライン?」

「『本当にディック、大丈夫?生きてる?』

って聞いてるよ」

「100%大丈夫とはまだ言えないけど、マシロの言ったのは最悪の可能性だからな。

帰ってこれなかったデュラハン達の子孫がこの奥で暮らしてて、そのデュラハン達に保護されてる可能性も十分あり得るんだよ。

だから大丈夫だと信じよう?

大丈夫だと信じて俺達と一緒にディック、迎えに行こう?」

「おい。このままソイツも連れて行くのかよ」

「行きますよ。

ただ待っているだけなのは辛いですからね。

叶うなら少し無茶してでも大切な人は自分の力で見つけて連れて帰りたいんですよ」

「サトウの場合は少しじゃんないだろう」


そう『フライ』を使って捕まえたクラインに言えば、浮いたままバタバタしていたクラインが大人しくなった。

通訳してくれたジェイクさんの言葉が無くても、クラインから漂ってくるその悲しくて不安そうな雰囲気から分かる。


今のクラインが、魔女達に誘拐されたナトを何も分からず探していた、あの時の俺達と同じなんだと。


だから軽々しく待っていて、なんて俺の口からは裂けても言う事が出来ないんだ。

でも1人で出来る事ってのは本当に少なくて、だから俺達は妥協に妥協した末、それぞれの目的の為にお互いを利用してる訳で。

そう言う訳でクラインにも一緒に行こうと声を掛けたんだ。

俺達ならクラインとディックを連れてでもこの坂道を登れるから。

それを聞いて怪訝そうに聞いて来たクエイさんにそう答えたら、未だ心底納得してないらしいルグに諦めて自分の世界に帰って大人しくしてろって視線で訴えられた。

けど、気にしない!

何と言われようと俺はナト達と一緒じゃ無いと帰らないからな!!


「と言う事で、急いで奥まで行きましょう!!」

「おーい、サトウ。無視すんなー」

「キビ君?そんな事じゃ誤魔化せないからね?

また無茶したら私達容赦しないからね?

分かってる?」

「うッ・・・・・・・・・はい。

極力大人しくしてます」

「極力じゃなくて、絶対って言って欲しいんだけどなー、オイラ達は」

「ごめん。それは無理」

「「はぁあああ・・・・・・」」


耐えられない程のジトッとしたルグ達の視線から逃げる様にそう言って『フライ』から解放し両手の上にクラインを乗せ一歩足を進めたら、後ろから片方ずつ両肩をルグとマシロに掴まれてしまった。


あの、2人共掴む力強い気がするんだけど、気のせいかなー?

単純に俺を引き留めるだけにしては痛い位強く掴まれてる気がするんだけど、俺の気のせいだよね?


そう思ってチラッと振り返って見た2人の顔は笑顔なのに笑ってなかった。

その圧に負けてもう1度出来るだけ大人しくしてると言えば、呆れた様な深いため息を重ねて漸く俺を開放してくれた2人。

俺達の世界でも言ったけど、俺にも譲れないモノがあるんだから、そこ等辺は本当諦めて?


「次、オイラ達から離れすぎたら容赦なく元の世界に叩き返すからな?」

「何度も言われなくても分かってるって。

誰かの目の届く範囲から絶対離れないよ」

「ザラとクエイを助ける為だとしても、一人で崖に飛び込んだ奴が何を言ってんだー。

何時もはもう少し考えて行動してるのに何やってるんだー」

「咄嗟に体が動いちゃったんだし、誰かの目の届く範囲からは離れてないから問題ない!

だからも少し大目に見てよ?」

「これ以上は無理だな」


もう本気で怒って無い事はその口調と態度、雰囲気で分かる。

だから拗ねた感じでふざけ合う様にそうルグと確認し合い、俺達は漸く奥に進んだ。


「お?漸く終わり・・・・・・

ってなんだこりゃ!!?」

「これって・・・全部ゴーレム?

壊れたゴーレムの山?」


滑って転げ落ちない様に慎重に進む事更に数分。

しっかり観察するかコンパスを使わないと分からない位のかなり緩やかな螺旋を進み、その後続いた真っ直ぐな道を少しだけ進んで俺達は漸く終点らしい広い場所に出た。

皆で協力して計算した感じ、恐らく此処は『帰らずの洞窟』の入口から真っすぐ続いたザラさんが落ちた崖のすぐ近く。

そして、川か沼があるだろう底付近だ。

その予想通り、耳が良いルグには穏やかに流れる水の音が奥から聞こえているらしい。


そんな情報を言いながら入った広場は、先頭を歩いていたザラさんが驚くのも無理がない程かなり異様な光景をしていた。

パッと目に飛び込んでまず思ったのが、ゴミの埋め立て地。

埋め立て地と聞いて殆どの人が想像する様な、ゴミが折り重なって出来た山が俺達が居る出入口の両脇に出来ていた。

そのゴミの様に重なり合っているのは、ピクリとも動かない鉄の塊。

似た様な物もあるけど姿形は基本バラバラで、全て誰か人の手が加えられている形と言う事以外共通点が無い。

マシロの言う通り、この山を作り上げているのは全部壊れたか失敗したゴーレムなんだろう。


「ん~・・・・・・・・・

外に出てきたゴーレムよりぃ・・・・・・

劣ってる物だけじゃなく、性能が大分良い物まで捨てられてるね」

「と言う事は、1000年近くずっとあのゴーレムが動いていた訳じゃなく、偶然何か。

例えばディックがぶつかったとで、偶々あのゴーレムが起動したって事ですか?」

「多分そうだろうね。

少し直せば問題なく使える物も捨てられてるし」


ゴーレム山を軽く調べたジェイクさんとマシロがそう言う。

此処にある大半のゴーレムは、まだまだ問題なく使えるけど製作者に失敗作だと判断され捨てられた物らしい。


だからこの広場まで転がり落ちたディックが偶然あの偽ディックゴーレムにぶつかって、運が良いのか悪いのか分からないけど、偶々ゴーレムが起動して。

ディックの姿と声を記録して、周りの山にぶつかるうちにこれまた偶然外に出た。


と言う可能性も出てきた。

いや、マシロの見立てではその可能性が正解と言って良い状況らしい。


「それで肝心のディックは・・・・・・」

「さっきからクライン君が呼んでるけど返事がないね。

多分・・・この近くには居ないんだと思う・・・」

「この近くで亡くなってる可能性は?」

「無いな」

「なら奥に・・・・・・

動いてるゴーレムは見当たりませんし、自力で奥まで行った可能性が高いですね」

「それか、此処で暮らすデュラハンに連れてかれた?」

「はい」


クラインが大声で何度もディックを呼んでも返事がない。

とジェイクさんが言ってるという事は、このゴーレム山に潰されて亡くなってしまったんじゃないなら、ディックはこの近くに居ないんだろう。

そして辺りを注意深く見回しても動いてるゴーレムは1体も居ない。

勿論、ルグの耳にも川の音以外聞こえてこないから、俺達の視界の届かない範囲で動いてるゴーレムが居る可能性も低いだろう。

此処までの1本道でも見つからなかったし、ゴーグルを着けたクエイさんがゴーレムに使われた以外のデュラハンの死体の反応は無いとも言った。

と言う事は残る可能性は1つ。


ディックは奥に居る。


自力で奥まで行ったか、此処で暮らすデュラハンに連れてかれたかは分からないけど。


「・・・え?何で・・・どう言う・・・・・・」


ディックを探し辺りをキョロキョロ注意深く見回しながら更に奥に進む。

きっとアレがこの広場の最奥なんだろうな。

俺達が進む先に見てきたのは、洞窟と一体化した様に建つ1件の白い平屋。

洞窟の天井を屋根代わりにしてるのに、その平屋は何処となく実家に似ていると思った。


黒っぽい木や白い壁を使っているからだろうか?


それとも、幾つもガラス窓が並んだ縁側のその奥に、障子が閉じられた部屋が見えるからだろうか?


いや、きっと、玄関らしいガラスと金属で出来た引き戸が、長年見慣れた我が家の玄関扉にそっくりだからだろう。


この距離からじゃハッキリ分からない。

けど、もしあの玄関扉の上に俺達家族全員の名前がそれぞれ掘られた表札と、その左に側に順々に張られたボロボロのお札が何枚も合ったら、きっと俺はあの玄関を見て実家に帰って来たと錯覚していた。

その位そっくりなんだ。


「ッ!!クライン!?どうしたの?」

「うん?・・・うん・・・・本当かい!?

皆、もう少し奥の方からディックの声が聞こえるって!!」

「本当ですか!?クライン、案内できる!?」

「こっちだってッ!!あの建物の中!!」


そんな実家を思い起こさせる建物に頭の中が混乱して思わず足を止めた俺の両手の中で、急にクラインが暴れ出した。

クラインも大分慌てていたんだろう。

聞き取れない位捲し立ててたその言葉を漸く理解したジェイクさんが、嬉しそうな驚きの声を上げそう教えてくれた。

その言葉を聞いて俺達は足を速める。


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