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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
357/498

126,太っちょデュラハンとゴーレム


 無事ザラさんと合流できた俺達は、クライン達の案内の元巨大スケルトンを処分しながら偽ディックの所に向かっていた。

そしてやって来たのは『帰らずの洞窟』の入口手前。

そこには2mはありそうな大きな機械・・・

と言うか、ロボット、かな?

そのロボット、多分ゴーレムの一種だろうそれがウロウロと『帰らずの洞窟』の入り口近くを休みなく動き回っていた。


俺が知っている物の中で1番近いそのゴーレムの形は、戦車。

一対のキャタピラーが付いた大きな円柱状のゴミ箱の上4分の1辺りから等間隔に3本の筒が飛び出していて、その筒から青白い霧が絶え間なく出ている。

動きに規則性が無く、ただ1つのルールは何か障害にぶつかったら別の方向に行くって事だけ。

性能としては質があんまり良くないロボット掃除機位かな?


「ピコンよりも大きいな。

アレがその探してるデュラハンの偽物なのか?」

「うん。

アレが帰って来たディック君で間違いないよ」

「一応念の為に聞きますが、まさかアレってアレですか?

あそこで動き回ってる?」


あのゴーレムが居るせいで偽ディックを探せない。

そう思ってたら、そのゴーレムが偽ディックかどうかザラさんがジェイクさんに聞いていた。


「流石にそんな訳ないって。

どっからどう見てもクライン達と同種族に見えないよ」


と思って聞いていたその質問に、ジェイクさんはまさかのまさか。

『そうだ』とハッキリ答えた。

そしてそれに対して俺以外誰も可笑しいとすら思っていない。

もしかして、皆にはあのゴーレムがデュラハンに見えてるのか?

それとも、俺が見つけられなかっただけで皆は既に偽ディックを見つけてるとか?

でも、あのゴーレム以外ピコンさんより大きなものは何処にも見当たらないし・・・・・・

そう思って俺は動き回るゴーレムを指さしながらそう聞いてみた。


「そうだよ。

スケルトンと一緒で大きさが異常だけど、間違いなくアレはクライン君達と同じ種類のデュラハンだ」

「そもそもそれ以外に何が・・・・・・

って、もしかしてサトウにはあのデッカイデュラハンが別の物に見えてる?」

「うん。えーと・・・・・・

こんな感じの多分ゴーレム?

ロボットっぽい物に見えてるよ。

全然生き物っぽく無くて、それで筒から青白っぽい霧をずっと噴き出してる」


もう1度あのゴーレムが偽ディックだと頷くジェイクさんを援護する様に、少し呆れ顔のルグが、


「それ以外何に見える?」


と言おうとして途中でハッと言葉を止めた。

俺だけがあのゴーレムがデュラハンに見えていないと気づいたルグに頷き返し、ウエストポーチから取り出したホワイドボードにゴーレムの絵を書いて見せる。


「・・・あぁ、確かにアレは生き物じゃねぇな」


首から下げていた医療用カメラっぽい魔法道具のゴーグルを着けて、フレームを暫くの間弄って。

そしてもう1度ゴーレムを見るクエイさん。

レントゲンやサーモグラフィーの画像で見える様な機能を使っているのか、肉眼で見える輪郭と大分違うとぼやく。


「て事は、その霧のせいで俺様達は幻覚を見てるって事か」

「多分?」

「あ、えっと。

あの霧を吸い込んだせいでそう言う幻覚を見てるんですか?

それとも霧がスクリーンの役割をしているんですか?」

「後者。

人体に影響が出てる様子も無いし、此処等一帯に毒が蔓延してる訳でもない」

「だから後者?」

「あぁ」


ザラさんの言う通り、俺以外の皆が幻覚を見ている原因はあの霧で間違いないだろう。

でも毒霧の影響で幻覚を見てると言う訳ではなさそうだ。

ザッとでも診察してくれたクエイさんの意見だから間違いない。


と言う事はあの霧は、プロジェクションマッピングみたいな事が出来る魔法の効果って事でいいんだよな?


プロジェクターとかでディックの映像を霧のスクリーンに映している訳じゃ無くて、幻覚系の魔法を応用したプロジェクションマッピングだから俺にはそのゴーレムが纏った映像が見えなかった。


「1つ確認しますが、クライン達はあのゴーレムが完全に大きさだけが可笑しいディックに見えてるんですか?

それとも『帰らずの洞窟』から出てきたデュラハンだったからディックだと思ったんですか?」

「うーん・・・・・・前者、だね。

サイズが可笑しい事を抜かしたら声も姿も完全にディックのものらしいから」

「声も聞こえてるんですか・・・

なら、ゴーレムの中にディックが囚われていてその姿を映してるか、別の場所に居るのを中継しているのか、それとも此処に来る前。

洞窟の奥とかで撮影した物を使っているのか・・・」

「アイツが発してる熱の感じからして中にデュラハンが囚われてるって事は無いな。

まぁ、死体が詰まってるなら別・・・・・・

イテッ!!何しやがるお前等!?

寄るな寄るな!!!」

「えーと。

ディックは死んで無いって抗議してます?」

「うん。してるねー」


皆の見えてる状況からディックの今の状況を推測して伝えると、サーモグラフィーで調べてくれたクエイさんがそう教えてくれた。

ゴーレムの熱分布的に姿は中に入ってる死体、声は生前に録音したもの。

そう言う状況じゃ無ければディックはゴーレムの中に居ないと言う事になる。

ただその事実は付いて来たデュラハン達には受け入れられないものだった様で、代わる代わるコロコロとクエイさんの足に突撃していた。

多分、


「ディックは死んで無い!!

そんな不謹慎な事言うな!!!」


と全身で訴えてるんだろう。

そう思ってジェイクさんに確認したら、困った様な笑顔を浮かべそうだと頷いた。


「ほらほら。お前等クエイに当たるなよー」

「そうだぞ。

先生に八つ当たりしてもディックって奴は助けられないんだから、先生に体当たりするのはやめろよ?」

「ったく・・・何で俺がこんな目に・・・・・・」


幼い子供を諭す様にデュラハン達に声を掛けながら、クエイさんを救出するザラさんとピコンさん。

助けられたクエイさんは拗ねた様に悪態を吐いた。


「えっと、マシロかジェイクさん。

あのゴーレムにどんな機能があるか、此処から分かります?」

「ううん。ごめんね?霧のせいで分からないかな」

「右に同じく」

「熱量的にかなり単純な作りのゴーレムだと思うんだけど・・・・・・

Dr.ネイビーが作ったとすると、油断は出来ないかな?」

「そっか・・・・・・

それだと迂闊にゴーレムを壊せませんね。

ディックにどんな影響があるか分かりませんし」


ゴーレムとディックにどんな繋がりがあるか分からない以上、下手に壊したら俺達がディックを殺してしまう可能性もあるんだ。

もう少し近づいて調べれば良いって話なんだろうけど、あのゴーレムにどんな防衛機能が付いてるか・・・

それも分からない以上迂闊に近づく事も出来ない。


だから魔法道具に詳しい2人にそう聞いたけど、良い答えは返ってこなかった。

クエイさんのゴーグルの様な、サーモグラフィー機能がある一対の魔法道具の手鏡。

その手鏡を使ったマシロの見立て通り単純な作りなら、幻影の霧を出す事と巨大スケルトンを生やすだけでいっぱいいっぱいで、こちらを攻撃してくる様な過激な防衛機能を付ける余裕は無いはず。

だからディックのフリをしてるんだろうけど・・・

でも、このゴーレムを作ったのはDr.ネイビーかもしれないんだ。


素の頭の良さと、異世界の知識。

そして俺達よりも強力な『クリエイト』。


その全てがあのゴーレムのスペックを未知数のものにしている。

だから俺達はここまで慎重に動いてるんだ。

狂気に囚われた天才の発明品、マジで怖い!!


「鏡越しに見た感じとキビ君が書いてくれた絵の感じからして、重要なのはこの太い筒の部分だと思うんだよね。

この本体っぽい所。

だからこの足の部分は壊しても問題ないはずだよ」

「霧を出す部分は?」

「ゴーレムの形と熱量、それと常に霧を発生させてる事を考えると、私の予想通りなら霧を作り出して噴出させるかどうか切り替えられないと思うんだよね。

起動したら常に霧を生み出し続ける。

だから霧が出せなくなると内側に霧の元が溜まって爆発する可能性があるんだ」

「なら、絶対壊しちゃダメだな。

どうにか足だけ狙ってみるわ」

「お願いします、ザラさん」

「おう!任せておけ!!」


マシロの予想によると、何かあり得ない位物凄い技術であのゴーレムは半永久的に動けるらしい。

ディックの事もあるし、電池切れを待つ事が出来ない以上、こっちの安全を考えてまずあるかもしれない電源を押してあのゴーレムを止める事にした。


その為にどうにかしてゴーレムの足止めをするか、

それとも多少の危険を冒してでもゴーレムに飛び乗って、手さぐりで電源を探すか。


話し合いの結果、キャタピラーを壊すだけなら問題ないと言うマシロの意見を信じて、ザラさんにモーニングスターで遠くから壊して貰う事になった。

この方法なら比較的安全にゴーレムが反撃してくるかどうか確認できるし、他の機能の確認も出来るかもしれない。


「よしッ!全員、覚悟と準備は?」

「大丈夫です」

「なら、行くぞ!!おりゃあああ!!!」


クエイさんのゴーグルをシッカリ着け、モーニングスターを投げ飛ばす準備を整えて。

チラリと後ろの俺達に視線を流し、そう確認するザラさん。

そのザラさんにこっちも大丈夫だと頷き返す。

そんな俺達の態度に口の端を少しだけ上げながら真正面に向き直ったザラさんは、タイミングを見計らって低くモーニングスターの鉄球を投げた。


「シャッ!!無事足だけ壊せたぞ!!」

「・・・8・・・9・・・10・・・」

「破壊から10秒。

反撃してくる様子も、別の足を出す様子もありません。

倒れたまま霧を出し続けています」

「・・・29・・・30・・・」

「ゴーレムに変化なし」

「変に熱くなってたりとかも無いぞー」

「・・・55・・・56・・・57・・・

58・・・59・・・60!1分たったぞ?」

「よし。行くぞ」


ザラさんがゴーレムのキャタピラーを2つとも壊して1分。

ザラさんがタイミングを計って壊してくれたお陰で、地面に倒れた拍子に霧を出す筒が壊れたって事も無いし、本体のボディにも倒れた時の衝撃以外ダメージが入っていない。

その為か、ルグの正確なカウントダウンを聞きながら作戦通り念の為に様子を見てたけど、ゴーレムが変な動きをする様子は無かった。

壊れた足を変えるとか、反撃してきたとか、変形するとかも無し。

結果近づいても問題ないと分かってクエイさんから指示が出る。


「・・・・・・・・・ふぅ。無事止められたよ」

「うわぁあ・・・・・・

本当にサトウ君が書いた絵そっくり・・・」

「コレがデュラハンに見えていたとはなぁ。

かなり凄い幻術だったんだな」


暫く集中してゴーレムを弄っていたマシロが、深く息を吐きながらそう笑顔で振り返る。

鈍い機械音と共に休みなく出ていた霧が完全に止まって、ゴーレムを覆っていた霧も晴れ切って。

本体自体は何にも変わって無い様に見えるけど、皆にもゴーレム本来の姿が見えだしたんだろう。

ピコンさんは俺が描いた絵そっくりだと何度もホワイドボードとゴーレムを見比べ、ザラさんは使われていた魔法の凄さに改めて感嘆の息を吐いた。

それ以外の4人も声には出さないけど軽く驚いた表情を浮かべたり、感激した様に目を輝かせたりしている。

デュラハン達も驚いてるのか、それともディックの行方に関する情報を探そうとしてるのか。

正体を現したゴーレムの周りでピョンピョン、コロコロ動き回ってる。


「ありがとう、マシロ。それで、ディックは・・・」

「・・・・・・・・・」

「マシロ?」

「・・・落ち着いて聞いて。

このゴーレム、殆どの素材がデュラハンの体で出来てるんだ」

「ッ!!じゃあ、ディックもこのゴーレムに!?」

「それは無いよ。

このゴーレム、時間結晶の影響受けてるけど作られてから900年以上は経ってるから。

このゴーレムにディックは取り込まれてないよ」

「それなら良かった・・・」

「でも、これ以外の。

これ以上に高性能なゴーレムも洞窟の奥に残ってたら、自身の修復の為にディックが使われてる可能性が高い」

「あっ!待って!!!クライン君ッ!!!」


マシロの調べによると、録画、録音された映像と音声を使ってゴーレムはディックのフリをしていたそうだ。

ゴーレムの中に居た訳でも、中継されてた訳でもない。


つまり、ディックが今も生きてるかどうか現状分からないと言う事だ。


そしてディックの前に入ったのが100年近く前だとしても今も『帰らずの洞窟』に入ったデュラハン達が帰ってこないなら、自己修復機能のあるゴーレムか、Dr.ネイビーの後を継いだ何者かがこの洞窟の奥に居る可能性が高い。


そうマシロは硬い表情で言う。

それを聞いたクラインが、『落ち着いて聞いて』と言うマシロの言葉も、慌てたジェイクさんの静止の言葉も無視して弾丸の様な勢いで『帰らずの洞窟』に飛び込んでいった。

そのクラインの後を、念の為にデュラハン達にゴーレムの監視を一応頼んでから俺達も慌てて追う。


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