125,巨大スケルトンが生えたわけ 後編
「取り合えず、クライン君達の依頼はこの偽物のスケルトンを全部消す事」
「偽物?
『教えて!キビ君』にはスケルトンって出ましたし、成分も一致してるってクエイさんも言ってましたよね?」
「あぁ。
デカくて動かないだけで、成分的には完全に一致してる。
あえて可笑しな点を挙げるなら、薬の素材としては既知のスケルトンよりも質がかなり良い事位だな」
じゃなきゃ薬の素材分としてより分けないし、スケルトンを溶かす薬も使わない。
環境とか気にせず全部谷底に落とす。
と煙草の煙と一緒にそう言うクエイさん。
クエイさんがそこまで言うなら巨大スケルトンがスケルトンの一種であるのは間違いない。
それでも偽物?
スケルトンの一種じゃない?
もしかして、スケルトンを生み出す張本人であるデュラハン達にしか分からない違いがあるって事?
「それでも完璧にスケルトンとは別物なんですか?
大きさや歩く機能が無いだけの少し違う物じゃ無くて?
山に住むデュラハンと街に住むデュラハン位の違いとかでもなく?」
「そう言う事じゃ無くて・・・うーん・・・・・・
デュラハン達からしたら偽物って意味だね。
この巨大スケルトンから胞子は生まれない。
つまり子孫を残せないんだ。
そのスケルトンを生む1番の理由の能力が無いから、彼等にとっては邪魔なだけの質の悪い偽物でしかないんだよ」
卵で例えるなら、本来なら有精卵しか生まれないはずなのに、何故か巨大な無精卵が生まれてる。
確かにそう言う事なら、デュラハン達からしたらこの巨大スケルトンは偽物、って言いたくなる物だよな。
でも、今のジェイクさんの話、何か引っかかるんだよなぁ。
そう思って頭を悩ましてたら、その答えをルグが言ってくれた。
「胞子が出ないって事は、薬の素材としては最適って事だよな?」
「え?」
「ほら、山に入る前にクエイが言ってただろう?
スケルトンから出る胞子は薬を作る時邪魔になるし、胞子を出し切ったスケルトンは薬の素材にならないって。
だから傘が開いたスケルトンじゃ無くて、生えてすぐの丸い形のスケルトンを取れってさ」
「そう言えば先生、そんな事言ってたな」
「お前等・・・・・・
そんな基本的な事も覚えられないのか?
少し前に言ったばかりだろう?」
「覚えてないんじゃなくて、ド忘れしただけだって。
歩キノコに追いかけられたり先生達が落っこちたり。
ほんの数時間の間に色々あり過ぎたんだから、仕方なくない?」
ルグの言葉にピコンさんが、
「そう言えばそうだ」
とウンウン頷く。
ピコンさんの言う通りここまでの衝撃な色々で抜け落ちていたけど、確かにそう最初に注意されたな。
そう、俺達は数時間の間に濃縮して色々あったせいでド忘れしただけなので、そんな呆れた顔しないでください、クエイさん。
「つまり、デュラハン達じゃなく、俺達『人』にとって都合が良いスケルトンって事ですよね?
この巨大スケルトン。
・・・本当に人の手が入ってないんですよね?」
「あー、えーと・・・
ちょっと自信なくなってきたかも・・・・・・」
デカくて、邪魔な胞子が一切出なくて、でもスケルトン本来の成分はシッカリ入ってる。
そして従来の物より高品質と。
そんな、まさに薬の素材として理想的な形で巨大スケルトンは生えてるんだ。
薬の素材としてスケルトンが必要なのは『人』だけ。
態と美味しくなって食べられる事で種を遠くに運ばせるとか、食べた生き物に寄生する為とか。
そう言う戦略の為に人に有利に進化したキノコは存在するだろう。
でもキノコでも植物でも一方的に『人』にとって有利なだけの進化は、自然にしないはず。
そんな進化をするのは『人』の手が加わった時だけだ。
つまり、この巨大スケルトンも『誰か人の手』がほぼ間違いなく加わってるはず。
その事を伝えると、自信なさげにジェイクさんが眉を寄せた。
「でも、それなら誰がこのスケルトンを作ったの?
その作った人は今どこに居るの?
今もこの近くに住んでるの?」
「それは・・・・・・」
マシロの質問に改めて頭の中を巡らせる。
このスケルトンを作ったのは人。
この地に唯一人が来たのは1000年前。
1000年前の人・・・
スケルトン・・・・・・
血を作るキノコ・・・・・・・・・
大量の血・・・・・・
・・・手術?
大怪我して死にかけた人を助ける為には、輸血する為に沢山の血が必要だよな?
手術が必要な程の大怪我・・・・・・
1000年前・・・
そう言えば、勇者ダイスも高橋と同じ様に剣を使っていたな。
妹の真実を知って衝動的に自殺したなら、その剣を使うはず・・・
と言う事は・・・・・・
『Dr.ネイビー?』
俺のスマホにメールが届く音と同時に、俺とピコンさん、クエイさんの声が同じ人物の名前を上げる。
四郎さんの呟きである開いたメールにも、Dr.ネイビーの名前。
俺達4人共、Dr.ネイビーがこの巨大スケルトンを生み出した犯人だと思った様だ。
「・・・お2人も同じ考えですか」
「あぁ。
解毒剤の情報を探してる時、オノルの森を調べた事があるんだ。
それで森の奥で隠されたDr.ネイビーの研究所を見つけてさ」
「えぇ!!?
Dr.ネイビーの研究所ってあそこに有ったんですか!?
俺達もオノルの森に行った事ありますけど、研究所っぽい建物見ませんでしたよ?」
「普通冒険者でも行かない様な、相当奥に有ったから、入口辺りまでしか行ってないサトウ君達が知らないのも無理ないよ」
「そうなんですか・・・・・・」
ピコンさんの話に呆然とため息が漏れる。
オノルの森の通称は夢の墓地。
木の葉を隠すなら森の中って事か。
よくよく考えれば確かに未完成の魔法道具が沢山捨てられてるあの森に研究所を隠すのが最適だ。
いや、Dr.ネイビーの研究所を隠す為にオノルの森は『魔法道具のゴミ捨て場』になったんだろうな。
「それで、その研究所で何を見たんですか?
血液関係なのは分かるんですが・・・・・・」
「俺等も詳しくは分かってねぇよ。
ただ、治療に関する研究をしていた事だけは間違いないな。
あの研究所で研究されていたのは造血の方法と、人間の体に関する事だ。
資料は全く読めなかったが、残ってた道具や素材からしてDr.ネイビーが沢山の血を必要としていたのは間違いない」
残された素材や道具の感じからして、オノルの森の研究所での血液関係の研究はかなり失敗していた。
とクエイさんは言う。
兄である勇者ダイスに関しては双子の弟である自分の血を輸血するればどうにかなっただろう。
でもゴーレムにされた妹の方は・・・・・・
そもそも妹の方はゴーレムにされた時点で死んでる様な物で、本当の意味で妹を元に戻して助ける為には生き返らせないといけない訳だよな?
そんなの無理に決まって・・・
いや、そう思えなかったからDr.ネイビーはずっと研究してたんだよな。
・・・・・・・・・何と言うか・・・
この話はやっぱりどうしようもなくモヤモヤするな。
「そう言えば、オノルの森で見たDr.ネイビーの研究所はサトウ君の家そっくりだったな」
「あぁ。
それに読めなかった資料の文字も死人モドキの世界で使われてる文字だった」
「文字の方は分かりますが、家?俺の?
・・・それって元の世界の実家の方の事です?」
「そうそう。実家の方」
「つまり、日本家屋っぽい感じだったて事ですか」
本当にふと思い出した様にそう言うピコンさんとクエイさん。
魔導書って言われていた日記や授業用のルーズリーフから考えて、勇者ダイス兄弟が日本人だったのは間違いない。
だから長い年月この世界で生きていても、Dr.ネイビーが自分を狙うこの世界の人達対策も兼ねて日本語を使っていたのも分かる。
でも態々日本家屋を建てるってのはどうなんだ?
いや、ホームシックから研究所を日本家屋っぽい見た目にした可能性はあるな。
研究所として最適かどうかは別として。
「兎に角、Dr.ネイビーがこの件に関わってる可能性が高いんだな?」
「多分?
今1番可能性が高いのはそこかな?って思ってる」
「じゃあ、その『帰らずの洞窟』の奥にDr.ネイビーの最後の研究所があるって事なんだね!」
「えっと」
「この辺りに研究所やキビ君のお家みたいな建物が無いなら、そう言う事でしょ?」
「いや、確かに『帰らずの洞窟』の奥に有るとは俺も思ってるけど、最後かどうかは分からないよ?
俺の『フライ』やナト達のワープ系の魔法の様な魔法が使えたら、デュラハン達が知ってる『帰らずの洞窟』の出入口使わなくても何処にでも行けると思うし。
それに、ローズ国から始まって全国でDr.ネイビーのやらかし伝説が伝わってるなら、兄弟を助ける為の研究をしながら世界中を旅をしてたって事でしょ?
キャンピングカーみたいな移動できる研究所は持ってたと思うけど、此処に研究所を態々建てるって事はしなかったと思うよ」
「あ、そっか」
纏める様に言ったルグに頷き、最後の研究所があるのかと言ったマシロの言葉に首を横に振るう。
今まで聞いたDr.ネイビーの話的に、Dr.ネイビーが此処で終わったとは思えない。
暫く此処で研究して、大量の兄弟の血を手に入れる術を身に着けて、また別の2人を救うを為の素材がある場所へ。
そうやって旅をしてたなら、態々研究所を建てるって事はしなかったと思う。
「取り合えず、このスケルトンをどうにかして、本物のディックを見つければ良いんですよね?」
「そうだね。
それと帰ってきたディック君の暴走を止める事も」
「分かりました。その為にもまずは合流ですね」
取り合えずジェイクさんとクラインの話も一段落したし、急いでザラさんと合流する為にも少し飛ぶスピードを上げようか。




