124,巨大スケルトンが生えたわけ 前編
「このスケルトンを生み出したのは彼、クライン君の・・・
そうだなぁ・・・・・・
僕達で言えば幼馴染に当たるディックって子なんだ」
木箱ボートに乗り込んで飛行が安定した所でジェイクさんがそう切り出した。
代表デュラハンの名前はクライン。
代々この土地で暮らすデュラハン一族の、人間で言えばステアちゃんやミルちゃんと同い年位になる少年らしい。
そしてクライン達が暮らす土地全部を覆い尽くす位、この巨大スケルトンをたった1匹で生み出したのが、クラインの幼馴染のディック。
デュラハン達が助けて欲しい相手だ。
「此処には。
えっと、正確に言うとあの岩壁の根元の方、だね?
うん。
その岩壁の所には、大人のデュラハン達でも恐れる『帰らずの洞窟』って言う場所があるんだって」
「『帰らずの洞窟』・・・・・・
名前からして怖そうですね。
名前だけが怖いなら良いんですけど・・・」
「名前に負けず、かなり怖くて危ない場所らしいよ?
実際何人もの勇敢で強いデュラハン達がその洞窟に挑んで帰ってこなかったそうだし。
勿論、帰ってこなかったのはデュラハンだけじゃない。
たまにこの土地に来る他の生き物も誰も帰ってこなかった」
「ただし、そのディックって奴を抜かして、か」
「うん」
渋い顔で確認する様にそう聞くルグに、真剣みを帯びた声音で頷くジェイクさん。
原住民のデュラハン達含めてどんな生き物も帰ってこなかった『帰らずの洞窟』。
勿論人間、1000年程前唯一この土地に来て『帰らずの洞窟』に入った、たった1人の人間も帰ってこなかった。
その洞窟から唯一帰ってきたのが件のディック。
同年代の子に比べ大きな体に反し気弱で優しい性格のディックを、同年代の中で1番小さな体ながら喧嘩が滅法強いクラインは何時も守っていた。
多分、漫画とかアニメでよくある凸凹コンビみたいな感じなんだろうな。
こう、小さいのと大きいのの組み合わせ。
そんな何時も一緒に居て守ってくれるクラインが用事で居ない間にディックは、ちょっと年上の近所の悪ガキ達に無理矢理『帰らずの洞窟』に連れ去られてしまったらしい。
怖い話が大の苦手なクラインを肝試しに強制参加さえる為に。
大の苦手な物でもディックを助ける為ならクラインは必ず来る。
そして普段なら絶対見れない生意気なクラインの醜態を見てやろう、ってのが悪ガキ達の計画だった。
理由もやってる事も小学生位ながら悪質。
あぁ、小学生位の子供だから悪質なのか。
全員人間で言えば10歳に満たない本当に幼い子供だそうだ。
それがどれ程悪い事なのかちゃんと理解できてない。
遊びでアリの巣に水を流し込む様な、無邪気なまま残酷でヤバい事してる。
それでも『帰らずの洞窟』が本当に怖い場所だってのは悪ガキ達も理解出来てたんだろうな。
ダメだって大人達が強く言うから逆に気になる。
でも自分達も本当は怖い。
だから、入口からチラッと中を覗いて、クラインを思いっ切り馬鹿にしてスッキリして終わらそうとしていたらしい。
でも・・・・・・
「見回りに来た大人の注意する怒鳴り声に驚いて、全員パニック状態になっちゃったらしくてね。
子供の1人が誤ってディック君を洞窟の方に突き飛ばしちゃったんだ」
その時肝試しに来ていたのはディックや悪ガキ達だけじゃなく、ディックと同じ様に悪ガキ達に無理矢理連れて来られた子達が結構な人数居たらしい。
その子達の殆どが『帰らずの洞窟』の目の前に来ただけで恐怖の限界ギリギリだったらしくて、善意で注意した大人の声でその糸がプツリと切れてしまった。
その結果の大パニック。
冷静な判断なんて出来る子供なんて誰1人居なくて、
逃げ出す者、
腰が抜けてその場で泣き出す者、
恐怖のせいで幻覚を見て暴れる者。
そんな子供達の様子に大人も混乱して、まさにカオスな状況だったそうだ。
そんな中起きた悲劇。
洞窟の入り口前で動けなくなったディックが、保護しようとした大人から大泣きしながら暴れて逃げる子供にぶつかられ、『帰らずの洞窟』に転がり込んでしまったそうだ。
『帰らずの洞窟』は緩やかな坂になってるらしくて、丸いデュラハン達の中でも更に真ん丸なディックは勢いよく洞窟の奥に吸い込まれてしまった。
二次被害を避ける為に助けに行こうと暴れるクラインを抑え込み、誰もがディックは助からないと諦めて数日。
フラフラしながらもディックは帰ってきたそうだ。
「でも、帰ってきたディック君の様子は可笑しかった。
理性も知性も失って、人が変わった様に暴れて。
周りの金属を奪う様に食い尽くして、このスケルトンを生み続けた。
それが一週間前の話」
「一週間前って事は、ローズ姫達が降らしたゾンビ毒が原因って訳じゃ無いんですね?
ローズ国側から流れてきた川の水に触れたとかが原因じゃ無い?」
「ローズ国側とチボリ国側じゃ水源が違うから、こっち側の水には一切影響ないぞ。
そうじゃ無きゃ今頃チボリ国にもゾンビにされちまった奴が沢山出てきてる」
「そもそもチボリ国とローズ国は2つあった大きな水源を分ける様に国境を引いてあるんだ。
大昔ディスカバリー山脈にある水源を巡って幾度なく小規模の戦争が起きた。
そして当時の勇者がそれぞれの国に平等に水源が来るように土地を分けた、って言われてるんだ。
それでその2つの水源はかなり離れてるから、あの雨が染み込んで影響を受けるって事も無い」
「他の小さな水源も、チボリ国側のはローズ国の方とはかなり離れてるから大丈夫なんだよ」
「「へぇー」」
理性を失って『食べる』って言う生きる為に必要な行動しか繰り返さなくなったって言うなら、原因としてまず思いつくのはゾンビ毒。
洞窟を下って谷底に溜まったゾンビ毒に触れて、食べるって行動を繰り返すだけになったんじゃないか?
そう思ったけどその考えはルグとジェイクさん、マシロに否定された。
そのプチ講義に俺とピコンさんの口から同時に感嘆の声が出る。
まぁ、でも、確かにそうか。
地図で見たり、馬車に乗ってトンネル連なる整備された道を進んでたりすると少し分かりずらいけど、ディスカバリー山脈って結構広いよな。
カンパリ大陸を二分割する位長いだけじゃなく、ローズ国とチボリ国の間に太く連なっている。
だからあのゾンビ毒の雨がチボリ国の方まで影響しなかったのもある意味納得だよな?
「それなら何が原因なんでしょう?
洞窟の奥に一体何が・・・・・・
他の生き物は帰ってこれなかったのに、ディックだけが帰ってこれた事も気になりますし・・・」
「いや。
そもそも本当にディック君が帰ってきたかどうかも怪しいよ。
クライン君はその帰ってきたディック君が偽物だって思ってるみたいだしね」
「・・・・・・他の生き物に擬態する何かが洞窟に居たって事ですか」
ジャック達プリズムスライムやクリスタルスライムは眠る時水晶の花に擬態する。
それと同じ様に世間に知られていない何かに擬態する生き物が『帰らずの洞窟』に居るかもしれない。
そしてソイツに襲われたから誰も帰ってこれなかった。
そう言う可能性は十分にあり得る。
そして、ディックを襲った事で力を着けたか、長い時間で地形が変わって出て来れたか。
そこ等辺もまだ分からないけど、何らかの理由でその生き物が出てきた。
だたジェイクさん経由のクラインの話を聞く限り、その生き物はそこまで賢くなさそうだ。
その生き物がスケルトンと成分が一致する物を生み出せてるから、擬態元のデュラハンの能力がある程度使えるのは間違いない。
けど色々かなり可笑しい事を考えると、精巧に擬態出来るのは見た目だけで、性格や擬態した相手の能力とかの中身はかなり雑な印象を受ける。
と言う事は、擬態した相手を完璧に演じ切る能力がなく、その事を気にするだけの頭も無い。
って事なんじゃないか?
見た目に関してもクライン達ディックの事を知ってるデュラハン達の脳に当たる器官を利用した幻覚を見せる魔法とか毒とかを使ってると考えれば、知能が乏しくても見た目だけ精巧なのも頷けるし。




