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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
353/498

122,巨大スケルトン 後編


「ザラさんッ!!!!」


振動に耐えどうにかザラさんが落ちて行った場所を覗き込めば、切られたスケルトンの分厚い傘の一部や押されて抜けたスケルトンと一緒にザラさんが底の無い地面に吸い込まれて行く小さな姿が見えた。

重なり合う巨大スケルトンに隠され全く気づけなかったけど、どうも俺達が今乗っているこのスケルトンは奈落の様な深い谷の上に伸びていたようだ。

このまま落ちていけば間違いなくザラさんは助からない。

これは冷静な四郎さんの考えなんだろうか?

その光景が視界に入った瞬間、全身が氷になってしまったかの様に冷たくなって、それすら判断出来ない位酷く混乱して。

ただただザラさんの名前を叫ぶ事しか出来ない俺の頭に、その最悪の情報が流れ込んでくる。


「ッ!!このバカがッ!!!」

「クエイ!!」


その俺の横を疾風の様に駆け抜け、瞬く間に鳥の姿に戻ったクエイさんが心底焦った様な声音で悪態を吐きながらザラさんを助けに行く。

でもこの場所もクエイさんが飛ぶには環境がかなり悪い様で、クエイさん達は中々上がってこれない様だ。

上から強風が叩きつけてくるのか、それとも毒ガスの様な物が溜まっているのか。

クエイさんはどうにか浮かべていると言わんばかりに危うい程フラフラしていた。


そして、ゆっくりだが確実に落ちて行っている。


クエイさん1人なら戻ってこれるのかもしれないけど、それでもクエイさんは必死にザラさんを助けようと翼を動かし、


「絶対に離さないぞ」


と言わんばかりにザラさんを掴む足に力を込めていた。


「『フライ』!!!2人共乗ってッ!!!」


このままじゃ2人は助からない!

急げ急げ!!


その頭に響く声に導かれ、俺も谷に飛び込みながら『クリエイト』でレジャーシートを作り出し、『フライ』を掛け、クエイさんとザラさんの元に向かった。


「よ・・・う、お、わぁああ!!?」

「バカッ!!集中しろ!一緒に死にてえのか!?」

「ヒィッ!!す、すみません・・・・・・」


焦っているせいと、予想以上に強い風のせいで、上手くレジャーシートのコントロールが出来ない。

そのせいで思う様に2人の元に近づけなかったけど、クエイさんがどうにか全身の力を振り絞りこっちまで来てくれた。

そのお陰でクエイさんもザラさんも無事レジャーシートに乗れて、必要以上にホッとしたのがいけなかったんだろう。

レジャーシートのコントロールを少しの間忘れた隙に、岩壁からも生えた巨大スケルトン達にぶつかって縦横無尽。

予測不可能な程滅茶苦茶に吹く風に囚われてしまった。

まぁ、クエイさんの鋭い叱咤の声で直ぐに持ち直したけど。

いけない、いけない。

まだ安全な場所に来てないんだから、シッカリ最後まで集中しないと。


「此処から上に戻るのは・・・難しいぃ、か・・・」

「サトー君、あっち、あっち!!

あそこ、どうにか降りられそうだぜ?」

「えーと・・・・・・あッ」


方向だけじゃなく強さまでも気まぐれな谷間風に邪魔され、ルグ達が居るスケルトンの上に戻れない。

それでもどうにか戻れるルートが無いか辺りを見回していると、ザラさんがある一点を指さした。

そっちの方を見ると、微かに降り注ぐ日の光に照らされた赤黒い本来の地面。

ザラさんと一緒にスケルトン達が谷に落ちた事で出来た広場だ。


「アレですね。分かりました。

念の為に何処かに掴まっていてください」

「りょーかい」


何時予想外の突風が来るか・・・

今は比較的穏やかだけど、何時俺達を吹き飛ばし壁に叩きつける危険風が来るから分からない以上、念の為そう声を掛けてその広場に向かう。

崖に近いし少し狭い気もするけど、3人で降り立つなら十分。

このままずっと飛んでいるよりは安全だろう。


「・・・・・・キノコ生えてる割には硬くてシッカリしてるな。

もっとグチャグチャしてるかと思った!」

「そうですね。

スケルトン達が根を張ってるから丈夫なのか、元からかなり丈夫な岩・・・

いや、これ、金属?サビた金属の塊なのか?」


降り立った地面は、ジメジメグチャグチャして軟らかい。

と言う予想に反して、アスファルトの様に硬かった。

それと靴の上からでも分かる位ザラザラしてる。


でも見た感じ砂とは何か違うんだよなぁ。

もしかして巨大スケルトンの胞子が降り積もってこうなったとか?


そう思ってザラさんに頷き返しながらもう少しシッカリ地面を観察しすると、この地面が唯の土や岩、砂で出来ている訳じゃ無い事が分かった。

薄暗くて分かりにくいけど、この地面、錆びた金属で出来てるんだ。


「撮影しても『銀』としか出ないので、多分デュラハンの死骸とかじゃないと思います」

「だと・・・恐らくデュラハンの基礎魔法だろうね。

こういう所で暮らすデュラハンは稀に、自分達が住み易い様に岩の中に在った金属を引き寄せ岩の表面を覆うんだ」


何らかの理由で死んだデュラハンの死骸が積み重なって、この地面になったのか?


そう思って『教えて!キビ君』で地面を撮影して調べたら、それなりに良い金属としか出なかった。

デュラハンのデの字どころかスケルトンのスの字すら出ないって事は、この地面は唯の金属で、スケルトンの胞子すら降り積もって無いと言う事。


ここ等辺のスケルトン、こんなにデカいのにまだ成長途中なんだろうか?

それともさっきの衝撃で胞子が全部谷に落ちて行った?


その疑問を頭の片隅に置きつつ調べた事を簡潔に伝えると、クエイさんの手の中の通信鏡からそうジェイクさんが答えてくれる。

お互い誰1人怪我して無い事は確認出来たし、後はこの広場を広げる為にルグ達が安全な場所まで移動するのを待つだけ。

チラッと見た通信鏡に映し出された光景はかなり揺れていたし、微かに足音も聞こえる。

だからまだ移動中なんだろうな。


「あれ?基礎魔法?

本当に基礎魔法なのか、ジェイク?

街で見るデュラハンはそんな事した事無いぞ?」

「バーカ。種類が違うんだよ、種類が」

「種類?」

「恐らく元。

祖先は同じで、でも住む環境の違いから別々の進化をしていったんです。

町なら人が加工した金属の塊が沢山あるけど、自然の中だと砂とかの他の物に混じって少しあるだけですからね。

自力で引き寄せないと必要な量が集まらないんでしょう」

「あー、なるほど」


暇そうに持ったままのピコンさん製ショベルをクルクル回しながらそう聞くザラさん。

そんなザラさんの疑問に呆れた様に答えるクエイさんの言葉を俺はそう補足した。


「ただ、種族毎に多少違うけど、山に居るスケルトンはこんなに大きくならないはずなんだよ。

人の手が加わった街に居るデュラハンから生えたなら兎も角、自然にここまで大きくなる種族は居なかったはずだよ」

「近くにエスペラント研究所みたいなスライムを研究してそうな施設もありませんしね」

「うん。

だから人の手が加わってる可能性は低いと思うんだ。

捨てられたり逃げ出して野生化した巨大化実験を受けていたデュラハンの仕業だとしても、此処まで来る可能性は低いと思うよ。

ヴクブカキシュやディーナシー達の様に山道の近くで暮らすと思うし、他の生き物に追い出されたとしても此処まで来れるとは思えない」


だからこのスケルトンは人が関わらない理由で巨大化したんだ。

と言うジェイクさん。


スケルトンの下にも人が住んでいた様な跡は見当たらないし、崖下にヒッソリと言う可能性も低いと思う。


風の音とかなりの距離がある事で上手く聞き取れないけど、微かにジャポンッとスケルトンが液体に落ちる音が聞こえてきた。

だから多分、谷の下には川が流れてるんだと思う。

目視できないからもしかしたら沼とかかもしれないけど。

でもスケルトンの落ちた場所的に谷底全部川か沼になってるんだと思う。

何か建物が建てる余裕はないはず・・・


それにジェイクさんの言う通り、此処は山道からスッゴク遠いんだ。

その山道はザラさんが落ちた崖の先だし、俺達が通ってきた崖の先の周りには危険な歩キノコ達が沢山いる。

ほぼ確実に人が通らない場所だからか、この巨大スケルトン以外橋になりそうなものは一切見当たらない。

スケルトンに覆われているから詳しくは分からないけど、この場所とスケルトンの上から見た感じ、


此処は崖に囲まれた陸の孤島と言って良い場所の様だ。


俺達が通ってきた方はさっき言った通りザラさんの落ちた崖が長く続いているし、反対側は土砂崩れでも起きたんだろうか?

小さめの山がストンと切られた様な、ほぼ垂直の岩壁が聳え立っている。

小さいと言っても周りの山々に比べって事で、階段とか坂道とか安全に通れる道らしき物も無い。

だから、ロッククライミングしてこの岩壁を移動しないといけないんだけど、多分それも9割以上の人は出来ないだろう。

上まで行く前に間違いなく体力が尽きる。


そして崖の対岸側からスケルトンが1つも生えてない事を考えると、空を飛べないデュラハンが。

正確に言えばザラさんが落ちた崖の橋替わりなってるこの巨大スケルトンを生やしたデュラハンが、この場所まで自力で来るのはほぼ不可能だろう。


もし仮に数少ない飛行能力のある何処かの研究員が最初から飛んできたとしても、態々此処まで来る理由がない。

誰にも見られずにデュラハンを捨てたいって言うなら、此処まで来る間にも適した場所は幾つもあった。

だから、誰かが捨てたにしても、逃げ出したにしても、町の方からデュラハンが来たなら他の金属に寄生する歩キノコ達と同じ山道近くの場所で暮らすはずなんだ。

なのに此処にこの巨大スケルトンが生えてるって事は、『先祖代々此処で暮らしていた野生のデュラハン』から生えたと考えた方が自然だろう。


「それにスケルトンが動かないのも異常だ。

・・・・・・違う違う。

ギュウギュウで動けないんじゃなくて、最初から動かないんだ」

「此処のスケルトン、全部普通のキノコの様に生えてるんです。

歩キノコらしい足がなくて、地面に根を張っている」

「でも、新種じゃない。

何が原因か分からないけど、このスケルトンを生やしたデュラハンに異常が起きてこんな事になったんだ。

だから『助けて』って言ってるんだよ」


通信鏡が拾わなかったけど上で誰かが、


「巨大なスケルトンが満員電車みたいに詰まってるから、お互いに動けなくなってるんじゃないの?」


とでも質問したんだろう。

スケルトンが動かないのが異常だと呟いた後暫く間を置いて、ジェイクさんがその質問に答える声が聞こえてきた。

その声に補足しつつもう1度辺りを見回す。


そう、スケルトンは歩キノコの一種のはずなのに、此処のスケルトンは普通のキノコの様に生えているんだ。


しっかり地面に根を張って、何処かに移動しようとする気が一切ない。

勿論、そう言うスケルトンを生やす種類のデュラハンって訳でもない。

『教えて!キビ君』には詳しく載っていなかったけど、薬の素材として使えるかどうかクエイさんが詳しく調べたから間違いない、はず。


つまり此処で暮らす既知のデュラハンに何か・・・

そう、例えば正常にキノコを生やせなくなる病気になってこんな異常なスケルトンを生み出したかもしれないんだ。

それでその病気が苦しくて助けを求めてる。


「ッと。安全そうな場所まで来れたよ」

「ザラ」

「分かってる、分かってる。

クエイとサトー君ももう少し離れてろよー」


無事ルグ達の避難が完了した様だ。

その報告が聞こえてきた時にはザラさんはショベルを振り回すのを止め、クエイさんが声を掛けた時には既にスケルトンの1本に向き直る様にショベルを構えていた。

リラックスした様に笑顔でいるけど、その体から滲み出る気迫は海月茸農園で竹を切り裂いた時と同等のもの。

一呼吸の深呼吸の後力強く振られたショベルは、たった一撃で俺の横幅の倍ありそうなあの太い巨大スケルトンの柄を幾つも同時に切り離してしまった。

そして俺は、その切り離されたスケルトンを『フライ』を使って、薬湯を作ってるクエイさんの元に運ぶ。


良い物は薬の素材に、悪いモノは薬湯を使って溶かして地面に撒く、らしい。


貧血の薬や造血剤の元になる位スケルトンは鉄分か、鉄分に近い栄養素が豊富だからだろう。

通常、役目を終え腐り落ち溶け地面に染み込んだスケルトンはこの地の金属の元になるそうだ。

巨大すぎて自然には分解、吸収されないからだろう。

クエイさんがスケルトンを溶かすのに使った薬湯は溶かすだけじゃなく、その働きを助けるらしい。


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