121,巨大スケルトン 前編
「・・・・・サトウ君、ちょっとストップ。
此処で一旦降りて」
「え?あ、はい。分かりました」
ルグの指示通り進んでちょうどあの白っぽい岩場に差し掛かった所で、唐突にジェイクさんにそう声を掛けられた。
理由は良く分からないけどジェイクさんの声はどことなく真剣さを帯びてる様に聞こえるし、取り合えず言われた通り木箱を下ろす。
「どうしたんだよ、ジェイク?
まだ岩場に着いてないぞ?」
「・・・・・・・・・」
「もしかして気分が悪いの?大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
「ジェイク・・・?」
今のジェイクさんからは外の様子は見えないはずだし、穏やかに髪を弄ぶ風に騒めく木々と、山らしい土と瑞々しい青い匂いが漂ってくるだけで特に変な音や匂いもしない。
それなのに急にそう俺に指示を出した事が不思議だったんだろう。
ルグが怪訝そうな顔で目的の岩場に着いてないと言う。
でもジェイクさんはそのルグの言葉も、自分の事を心配するマシロの言葉も聞こえていないのか、きつく眉を寄せて黙り込んでいた。
その後何度もルグ達が名前を呼んでも一切ジェイクさんは反応せず、ただただ真剣な表情を浮かべるだけ。
その顔色は悪い様には見えないしし、異常な程汗が出てるとかも無い。
深く考え込んでるだけで、返事も出来ない位具合が悪いって訳じゃなさそうだ。
どちらかと言うと1番下に居るピコンさんの方が顔色が悪い。
「エド、何か聞こえたり匂ったりしてる?」
「ん~・・・・・・いや・・・特には、何にも」
「皆さんは?」
「右に同じく」
俺が感じ取れないだけで他の人達には何か異常を感じ取っているかも知れない。
そう思って1番五感の鋭いルグに何か感じないか聞くけど、特に変化は無い様だ。
ジェイクさん以外の他の皆も異変を感じないみたいだし、悪魔だけが感じる何かがこの場にあるんだろうか?
「着きましたよ。
・・・・・・って!ジェイクさん!?
何処に行くんですか!!?待ってください!!!」
木箱が地面に着いて、上から順々に外に出て、自分の番が来て外に出た瞬間。
ジェイクさんは何も言わず、コロコロと目の色を変えながら辺りを見回し、1人で何処かに突き進んでいった。
「おい!!待てよ、ジェイク!!」
「ッ!!!え・・・あ・・・エド、君?」
一足先にジェイクさんに追いついたルグがジェイクさんの肩を強く掴んで、揺さぶる様に振り向かせ木霊する位の大声でそう叫ぶ。
その声に漸くジェイクさんの思考も戻ってきたんだろう。
目を白黒させてルグの名を不安そうに呼んだ。
「たくッ!1人で何処行く気だよ」
「何処って・・・・・・何処?」
「はぁあ?目的も無く突っ走ろうとしてたのかよ」
「いや・・・目的がない訳じゃ無いんだけどね?
何処が目的の場所か分からないんだ」
比較的早く出れた俺やマシロより少し遅れて追いついて来たクエイさんの悪態に、そう困った様に答えるジェイクさん。
そのままジェイクさんはまた辺りをキョロキョロ見回しだした。
「この近くに居るのは確かなんだけど・・・・・・」
「居るって・・・誰が?
この近くには僕達以外誰も居ないぞ?」
「勿論、動物や魔物の姿もな」
「うん・・・そう、なんだけど・・・・・・
声が聞こえるんだ。
助けて、って声がずっと・・・
さっきから・・・沢山・・・・・・」
「沢山?
・・・・・・ジェイクさんって紺之助兄さんみたいに幽霊が見える訳じゃありませんよね?
え、じゃあ一体誰が・・・・・・」
「多分、スライム?
ボク、ある程度のスライムを呼び寄せたり、一部のスライムと会話できるスキルを持ってるんだ。
だから多分・・・・・・」
悪魔としてじゃなく、ジェイクさん個人のスキルなんだろう。
そのスキルの反応的にこの近くに沢山のスライムが居ると言うジェイクさん。
でもピコンさんとザラさんの言う通り、この場所にはスライムどころか俺達以外の生き物の姿が一切ない。
あるのは視界の先まで広がった、マーブリングの様に所々黒い模様が浮かんだ灰色掛かった白い凸凹の地面のみ。
「・・・もしかして、地面の下に?」
「地下って・・・
此処、穴何って1つも開いて無いぞ?
この下に洞窟があったとしても、穴も洞窟の入口もないのにどうやって此処まで声が届くんだよ?」
「えっと・・・意外と地面が薄いとか?」
「俺様達がこんなに跳ねてもビクともしないのに?」
「うッ・・・そ、それは・・・・・・」
地上で姿が見えないならこの辺りの地面の下に居るのかもしれない。
そう思って言った俺の意見は、モーニングスターと一緒にピョンピョン跳ねるザラさんに一蹴りされてしまった。
俺達以外の影も見当たらないから空を飛んでる訳でもないし、
体に何かが触れるって訳でもないから透明って訳でもないし、
腹ばいになって探しても見つからないからスッゴク小さいと言う訳でもない。
それで地下に居るって案も違うって言われたら本当に何処に居るんだか・・・・・・
クエイさんが調べてくれたから、ジェイクさんが幻聴を聞いてる可能性も無くなったし・・・・・・
「ジェイクさん的にはどうですか?
何処から聞こえてくるとか、もう少し絞り込めませんか?」
「うーん・・・どう、だろう・・・・・・
木霊して聞こえるから、何処から聞こえてくるか、本当に良く分からなくて・・・・・・
でも下から聞こえてくるってのはアリだと思うよ?
本当に何処からも聞こえてくるから、下からってのもアリだと思う」
「じゃあ、いっちょ掘ってみるか!
サトウ、スコップ!!」
「はい。これで大丈夫?」
「バッチリ!」
唯一件のスライムの声が聞こえるジェイクさんにそう確認すると、アリだと言ってくれた。
それを聞いて気合を入れて立ち上がり、スコップを要求してくるルグ。
そのルグに土木作業に使いそうな大きなシャベルを『クリエイト』で作り出し渡す。
うん。
やっぱり杖より『クリエイト』袋の方が使い易いなぁ。
作り直して貰えて本当に良かったよ。
「お?思ってたより柔らかいぞ?
・・・あっ。でも何か上手く掘り起こせない」
「えーっと。コレ、本当に土や岩なの?
何かスカスカしてて土や岩っぽくないよ?」
「確かに。
石綿とも違うぽいし、スポンジ、の方が近いかな?
石や土よりも」
かなり硬いと思っていた地面は想像以上に柔らかい様で、サクサク音を立てそうな軽さでシャベルの先を飲み込んでいく。
でも中の方がかなり硬いのか、それとも大きな石が埋もれているのか。
ルグの力をもってしても中々掘り起こせない様で、最初に切れ込みを入れた場所から伸びる様に四角く更に切り込みを入れて、何度かその切れ込みからブロックをグラグラ動かして。
漸く掘り起こせたそのブロックは全く土や石に見えない、真っ白で繊維質なスポンジの様だった。
この繊維質はかなり頑丈な様で、ルグが中々掘り起こせなかったのも納得な位横からの力に強い。
でも気持ちい位縦には簡単に裂けて、まるで避けるチーズやエリンギ・・・・・・
エリンギ?キノコ?まさか・・・・・・・・・
「あ、やっぱり。この地面、スケルトンだ」
ルグが掘り起こしたブロックがキノコみたいだと思って撮影して調べたら案の定。
俺達が唯の土か岩で出来た地面だと思っていた物は、スケルトンだった。
人が乗れる位の巨大キノコ。
そんな凄い物が実在する何って、流石ファンタジー世界!!
いや、俺達の世界にも山位大きくなるキノコが実在するらしいけど。
それにルグとコロナさんがローズ国城壊すのに巨大キノコ使ったってのは聞いてたから、人が乗れる位大きなキノコがこの世界存在するのも知ってたけどッ!
けど、でも、実際にそのキノコに自分が乗っているんだと思うと、昔絵本で見た世界に入り込んだみたいって言うか、小人になった気分って言うか。
幼い頃のワクワク感がジワジワ込み上げてきて、何か興奮するんだよ!!
普通の地面みたいで全然キノコっぽくないけど、でも、でも、うわー、うわー!!!
「・・・・・・は?スケルトン?コレが?」
「はい!!御覧の通り、スケルトンです!!」
久々の今の所安全で面白い異世界感に、スゲー、スゲー、と舞い上がる内心に押し出され思わず俺の口から零れたその事実。
それを聞き取ったクエイさんが何故か目を白黒させ聞き返してくる。
それに俺は勢いよくスマホを見せる事で答えた。
「スケルトンってこんなに大きなキノコだったんですね。
後、全然骸骨ぽくない!」
「んな訳あるかッ!!!
普通は人間のガキ位にしかならねぇよ!
人間サイズだ人間サイズ!!
こんなにデッカイスケルトンなんざあり得ねぇよ!!!
山に居る奴なら尚更だッ!!!!」
「そ、そうなんですか?」
「あと、スケルトンやデュラハンが幽霊の仲間って言われるのは、初めて発見されたのが墓場だからだね。
ほら、薄暗い墓場に白っぽい物が浮かんでたり、死体と一緒に埋葬されたはずの武器や防具が墓の外に一人でに出て勝手に動いていたりしたら幽霊の仕業か生き返った死体の仕業だって思うだろう?」
「なるほど」
興奮したまま出た言葉にクエイさんの怒号が飛んでくる。
その頭を片手で抱えて叫ばれた大声に思わずビクッとして、俺の興奮した心が覚めていくのが分かった。
そ、そんなに怒らなくても・・・・・・
そう思う俺の内心に気づいたんだろう。
その後の疑問は比較的落ち着いて来たジェイクさんが優しい声音で教えてくれた。
今こうやって地面と化したスケルトンを見回しても全然骸骨っぽくない。
けど、確かに夕暮れの中にこのモノクロのキノコの白い部分が浮かんでいたら、墓からはい出した骸骨だと勘違いしそうだ。
歪だけどシミュラクラ現象が起きそうな模様も所々あるし、最初に発見した人が勘違いしたのも仕方ないだろう。
それプラス一緒に埋葬した鎧の一部。
例えば胴辺りの鎧にデュラハンが寄生して動いていたら『首無し騎士』と勘違いして更に怖かっただろう。
うん。
きっととんでもない恐怖で勘違いだと気づく前どころか、冷静にデュラハンとスケルトンを観察する前に気絶するか全力で逃げ出すだろうな。
正体がキノコだって気づかなくても仕方ない、仕方ない。
「で?デュラハンは?
こんなにデッカイスケルトンがミッチリ生えてるって事は、この近くに絶対デッカイデュラハンも居るって事だろう?
そのデュラハンは何処に居るんだよ」
「やっぱりこの下じゃない?
デュラハンからスケルトンが生えるならスケルトンの根元に居るはずだよね?
このままスケルトン掘ってけば見つかるんじゃないかな?」
「そーゆう事なら、サトー君かピコン君。
大至急スコップか包丁量産してー」
「はい、試しに作った奴。
こんな感じで良いなら直ぐに増やせるけど?」
そんな事を考えていたら、ルグが肝心のデュラハンは何処に居るのか誰となく聞いてきた。
確かにこんな誰もキノコだと気づかない位広範囲かつ、本来ならデュラハンと一緒に動きまくってるはずのスケルトンがピクリとも動けない位に巨大スケルトンがミッチリ生えてる。
って事は、それだけの数の巨大デュラハンもこの近くに居るって事だよな。
でも、さっき言った通り、パッと見デュラハンっぽいスライムの姿はやっぱり見当たらない。
ならマシロの言う通り、このスケルトンの下に居るって事だよな。
それを聞いたザラさんが俺とピコンさんにこのまま掘り進める為のショベルか、キノコを切るのに適した包丁を作る様言ってきた。
まぁ、俺達が騒いでるその間にピコンさんが『クリエイト』の様な魔法で、ショベルと刃物が混ざった様な道具を作っていたんだけど。
基本の形は俺がルグに渡した土木作業用の大きなショベルで、足掛け以外の先の部分が全部刃に変わっている。
そんな武器にもなりそうな変わったショベルを、寡黙な職人張りの察しの良さと技術力で作り出したピコンさんから受け取ったザラさん。
軽く振った感じ、思いの外使い易い様だ。
「おっ!
こっちの方が掘りやすいなぁああああああ!!?
「うわぁ、うわぁあああ!!」
「きゃああああああああ!!!!」
かなり鋭いらしい先の刃でスケルトンの太く丈夫な繊維はスッパリ切れた。
そのお陰で簡単にブロックが作れるどころか、ザラさんの体重を乗せた鋭すぎるショベルの刃がスケルトンを縦に裂いて行く。
そのまま何処までも落ちていくザラさん。
でも俺達は、その裂けたスケルトンが隣のスケルトンを倒して倒れていく衝撃で立つ事すら儘ならなくて、ザラさんを助けに行けない。




