120,寄り道 後編
「えっと、急いで1番近い安全な場所に・・・・・・
あー・・・
このまま近くの町まで行っちゃいます?」
「バーカ。まだ必要な素材集まってねぇだろうが」
「・・・・・・そう、でしたね。すみません」
アルさん達と一緒に馬車の乗り換え所まで送ってくれたミルちゃんの魔法で、チボリ国との国境に張られた結界は潜り抜けた。
後はこのまま下山して近くの町に向かえばいい。
と言う所で、
「薬の材料を取って行きたい」
って言うクエイの頼みで俺達は綺麗に整えられた山道から外れていって、歩キノコ達に襲われた訳だ。
クエイさんが必要だって言った薬の素材の幾つかは採れたし、『ミドリの手』で出せる様になった。
けど、1番肝心の素材が採れてない。
歩キノコの襲撃でスッポリ抜けていたその事を、呆れたクエイさんの声で思い出す。
「此処等辺で降りて大丈夫ですか?」
「岩場が近くにあるならそこまで行け。
金属が含まれた岩が多い場所にデュラハンとスケルトンが居るはずだ」
「岩場ですか?近くには見えませんが・・・・・・」
「んー・・・・・・
だと・・・もう少しぃ・・・向こうだな。
もう少し行くと木より岩が多くなってくるから、多分そう言う岩場も近いと思う」
追いかけてきた歩キノコ達が見えなくなって大分経ってから見えた広場。
そこに降りるかどうか誰となく聞くと、クエイさんがそう言ってきた。
俺には見えないけどルグの目には見えた様で、辺りを何度か見回した後そう言ってある一点を指さす。
未だ取れてない肝心の素材。
それがデュラハンとスケルトンと翻訳された歩キノコの一種だ。
献血の代わりや造血剤の材料になるからこれからの旅に必要ってだけじゃない。
『蘇生薬』の素材の1つとして『図鑑』に書き込んだから取らない訳にはいかないんだ。
あの時、魔女達も居る場で『蘇生薬』の事を言っちゃったからなぁ。
自分達の邪魔になる『蘇生薬』の素材をナト達の『図鑑』から知った魔女達や、世界中に散らばっているだろう魔女達の仲間が俺達が見つける前にその素材を消し去るかもしれない。
その対策として俺が露店通りでスノーマジックを調べてる間に、クエイさんに協力して貰った紺之助兄さんがあえて嘘の素材を『図鑑』に書き込んでくれていた。
それに、これから先魔女達の仲間が何時何処で聞いてるか分からない。
って状況だからこそ、協力してくれてる各国の王様達にも、あえてそれぞれ違った『蘇生薬』の素材とレシピを伝えてある。
各国でも『蘇生薬』の素材探索チームを結成してその嘘素材を探してくれてるから、魔女達の目を誤魔化せられるはずだ。
何より、本命の俺達もあえて関係ない素材を集める事で相手を混乱させる!!
と言う作戦なんだ。
だから何が何でもデュラハンとスケルトンを見つけないといけない。
じゃ無いと魔女達に怪しまれてしまうかもしれないだろう?
ナトが向こう側に居る以上、そう言う所から本物の『蘇生薬』の素材がバレるかもしれないじゃないか!!
「エド君、その岩って黒っぽい?
それか赤い色してる?」
「うーん・・・・・・白、っぽい?
ダーネアの糸より薄い灰色って感じ」
「だとその辺りの岩にはディスカバリー山脈で良くとれる鉄も銅も入ってないよ。
そこが昔の戦場とか盗賊の隠れ家とかじゃ無ければデュラハンはいないと思うよ?」
「だと・・・もう少し東の方か。
此処からだとハッキリ見えないけど、赤っぽい岩が見える」
デュラハンは金、銀、銅、鉄の一種。
と言うか『鑑定記録』保持者が詳しく調べてない金属はミスリル、プラチナ、金、銀、銅、鉄のどれかに全部まとめて翻訳されてしまう様だ。
俺達の世界のレアメタルのマンガンやコバルトがどっちも『ミスリル』って翻訳されたり、スチールだけじゃなく日常的によく見るアルミやステンレスまで『鉄』って翻訳されたり。
多分スキルとかのランクの様な感じなんだろう。
見つけ易さや加工のし易さなんかで分けられた、金属専用のランク。
この旅の準備中に大助兄さんやアルさん達が話し合っていて気づいて教えてくれた事だから俺達もまだまだ分かってない事だらけだけど、まぁ、つまり。
デュラハンは比較的見つけやすい金属に寄生する、珍しいキノコの本体。
と言うかかなり珍しいタイプのスライムの一種、らしい。
金属に寄生すると言うか取り込むと言うのか・・・
何か金属と合体できるらしくて、その魔法かスキルの影響である程度大きくなると他のスライムの様に分裂できず、キノコを生やす事で増えるそうだ。
で、そのキノコがスケルトン。
まさかキノコ狩りの時ユマさんが言った、スライムが本体のキノコが本当に存在してたなんてなぁ。
ちょっと驚いた。
「盗賊のアジトがある可能性は低いな。
此処等辺の盗賊は1年前に一掃されてるだろう?
他の国オーサマ達がウチに来るからって一斉に。
確か戻ってこれない様にアジトも殆ど潰されたはずだぜ?」
「でも俺、その王様達が来る日、盗賊団に襲われましたよ?」
「それ、ローズ国側の話だよな?
一斉討伐されたのはチボリ国側の話だ。
寧ろあのオーサマは盗賊にで襲われて他の国のオーサマ達が死んでくれた方が良かったんじゃない?」
「あぁ・・・」
この世界の1年前、ローズ国で行われるはずだった国際会議。
コロナさん達と初めて会ったその会議の前日である、カシスさん達女盗賊団に襲われたあの日。
その日までチボリ国では自分の国の王様達を守る為、チボリ国の兵士や冒険者達の多くを動かしてディスカバリー山脈に居る盗賊をほぼ全て捕まえていたそうだ。
アジトも潰されデュラハンが寄生できそうな武器も根こそぎ回収された。
その活躍は遠く離れた宿場町まで届いていたんだろう。
そうザラさんが教えてくれた。
そして、だからチボリ国側のディスカバリー山脈でどうしてもデュラハンやスケルトンを探すなら、金属が含まれた岩石が多くある場所を探すべきだとも言う。
けど、そもそもザラさんは此処でデュラハンを探すのは反対みたいだけど。
「なぁ、クエイ?やっぱ町で探さね?」
「バーカ。
町だとデュラハンになる前に潰されてるだろうが。
こういう山の方がデュラハンやスケルトンが居る確率が高いんだよ」
まぁ、確かに街の方が金属製品多いもんな。
ザラさんの言う事にも一理ある。
でも、町だとスケルトンが胞子をばらまく前に倒されてしまうから、デュラハンまで育つ事が殆どない。
だからデュラハンを探すなら鉱山の周りを探した方が良いそうだ。
そう言う発見の難しさから偽『蘇生薬』の素材に選ばれた訳だけど。
「それにこっちの方が素材としての質も薬にした時の効能も良いんだ。
無駄に苦労してちんけなモン集められっかよ」
「クエイ、本当そう言う所は拘るよなぁ。
さっきだって道の近くにもアマクサ生えてたのに、あれじゃダメだってドンドン奥まで行っちゃうし」
「それで歩キノコに襲われたんだよなぁ」
「そうそう。なぁ、クエイ。
クエイの腕なら多少妥協した素材で薬作っても問題ないだろう?
次から無理して危険な場所に行かない様にしようぜ?」
「バーカ。そう言う問題じゃねぇんだよ。
俺は別にいいんだぜ?使うのはお前達だ。
ちんけな薬使って中途半端にしか治んなくて、塞がり切らなかった傷口が腐って行って、そこに虫が湧きだして。
そうなっても良いなら俺は妥協するぞ?
あぁ、毒の場合もっと酷いな。例えば・・・」
「ごめん!!俺様が悪かった!!!
だからその聞いてるだけで痛くなりそうな話はやめてくれ!!!
今耳塞げないんだ!!
俺様がそう言う話、本当に苦手なの分かってるだろう!?
本当にやめてくれッ!!!」
危険な目に合って欲しくないと言うクエイさんの事を心配して掛けたザラさんの言葉に、思わぬ反撃が来てしまった。
クエイさんとしても医者としてどうしても譲れない点だったんだろう。
ジットリと目を細め軽快に放たれたそのクエイさんの言葉に、耳を塞いでても聞こえる位の大声でザラさんはそう泣きそうな声で叫んだ。
ザラさんがそう言いたくなるのも良く分かる。
俺も途中で耳を塞いだけど、絶対夢に出そうだもん。
傷口が~、って話だけでも間違いなく夢に出そうなのに、もっと酷い話なんて絶対聞けない!!
絶対間違いなく俺のメンタルが持たないって!!!
だから『例えば』とクエイさんが言った後何を話したのか、俺と、ジェイクさんに早い段階で耳を塞がれたマシロ、俺より少し早くどうにか自力で耳を塞いだピコンさんは全く分からないんだよな。
「さっき追いかけてきたキノコの中にヴクブカキシュとディーナシーが居た。
スライムじゃねぇがアレも金属に寄生する奴等だ。
デュラハンより生える率が低いアレが居るなら同然この近くに居るだろう」
「金属に生えるキノコなのに俺様達追いかけられたのか?
俺様達に寄生しようとしたからじゃ無くて?」
「あぁ。お前の武器と防具を狙ってな。
そう言う歩キノコも居たには居たが大半はお前狙いだ。
良かったじゃねぇか。人気モンで」
「キノコにモテても嬉しくねぇえええ!!」
自分の上に居るザラさんをもう1度睨んでクエイさんは話を戻した。
その話にまだ少し湿っぽい声でザラさんが疑問の声を上げる。
それに鼻で笑う様に答えるクエイさん。
もう少し体を動かせたらきっとザラさんは頭を抱えてただろう。
それはそうとして、あの場所から肉眼で見えない場所は近くと言うんだろうか?
俺的にはかなり遠くだと思うけど、歩キノコ的には違うって事?
あの距離も子実体をポコポコ生やせる近所感覚なんだろうか?
『教えて!キビ君』で調べても良く分からない。
「取り合えず、サトウ。
さっき言った白い岩場を通りつつ、東の方に行ってくれるか?」
「分かった。えーと、東は・・・・・・」
「あっち」




