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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第2章 チボリ国編
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119,寄り道  前編


 首の傷跡と掛けたホイッスルを隠す様に巻いた、アルさんから貰った魔法道具の羽衣の様にフワッと薄いマフラーに、新調したTシャツとジャージの上下とスニーカー。

着慣れている様で何時もとほんの少し違う格好に着替え、腰に雑貨屋工房の小母さん達に新しく作って貰った、ポケットが沢山ついたダーネアの布製のウエストポーチを巻き付ける。


時空結晶が使われた1番大きなポケットの中には、

着替えなんかの日常品や、

絆創膏等のクエイさんのチェックをクリアしたちょっとした医療道具、

予備の筆記用具に、

ここ最近の相棒と言ってもいいホワイドボード。


スマホとボールペンを刺した愛用のメモ帳と、

同じく作り直して貰った『クリエイト』袋、

念の為の武器として買って貰った結構しっかり目の俺達の世界産のスリングショットはそれぞれ使いやすい別のポケットへ。


あの異世界会議から数日。

俺の体調も、チボリ国に向かったナト達を追いかける旅の準備も、整った。

心底不安で心配そうな家族に見送られ、ホームシック対策の餞別にと持たされた我が家自家製の味噌片手に『ゲート』の門を潜ったのが数時間前。

俺と、俺の監視役のルグとマシロは『蘇生薬』の素材探索選抜メンバーのピコンさん、クエイさん、ジェイクさん、ザラさんと一緒にディスカバリー山脈に来ていた。


「あああああああああああッ!!!!」

「来ないで来ないで来ないで!!!

こぉおおおなぁあああいぃいいいでぇえええ!!!」


そんでもって現在進行形で陸上選手よりも間違いなく速い、オレンジ歩キノコよりも数十倍グロイ歩キノコ数種類に追いかけられてる。

本来の歩キノコってこんなに速いし、密集してるんだな。

確かにこれが平均的な歩キノコの姿だって言うなら、歩キノコの紐状の柄を子実体に触れずに切り離すのは素人の俺達じゃ絶対無理だ。

間違いなく足手まといになる。


・・・とりあえず、最初に歩キノコを『歩キノコ』って命名した人。

何処をどう見てそう言う名前つけたのかな?

全然歩いてないじゃん!!

走ってるよ!?

明らかに尋常じゃない速さで走ってるってッ!!!

『歩く』なんって名前つけるのは間違いなく詐欺だ!!!

こんなに早く移動するなら絶対『爆速キノコ』に改名するべきだって!!!


「エドエドエドッ!!

後ろ後ろ!!直ぐ後ろ来てるぅううううう!!!」

「分かってるからサトウは喋るな!!!

舌噛むぞッ!!!」

「ぎゃあああああああ!!!

メッチャ目の前来てるぅうううううう!!!!!」


比較的足の遅い俺とマシロ、クエイさんはそれぞれルグとジェイクさん、ザラさんに荷物の様に肩に担がれて運ばれている。

マシロは横抱きにされてるけど。

それで俺はルグに後ろ向きに担がれてる訳なんだけど、メッチャ近くまで歩キノコが来てるんだよ!!

もしあの歩キノコに手が有ったら間違いなく俺達は掴まっていたって分かる距離まで来ていて、そのグロテスクな模様まで嫌になる位良く見えた。


「ああああああああああああああ!!!!

胞子がぁああああああ!!!!」


1番手前で爆速で追いかけてくる歩キノコの傘が少しずつ開いてきて、その間から白い粉の様な胞子が溢れ出そうとしてるのが見えた。

その光景に俺は反射的に叫ぶ。


ヤバイヤバイヤバイ!!!


何か分からないけど頭の中で痛い位の警告音が鳴り響く。

あの胞子を吸う、どころか少しでも触れたらヤバイ、って。

多分、俺達を追いかけてきてるこの歩キノコ達は人面歩キノコの様な人に寄生するタイプなんだと思う。

だからあの胞子に触れたら俺達は・・・・・・


「いぎゃぁあああああ!!!!」

「サトウ君!!!!!飛ばしてッ!!!」

「イッ!?ンッ、フ、『フライ』!!!!」


想像した恐怖にまた叫ぶ俺の耳に、ピコンさんの声が突き刺さる。

それと同時にルグに体を回されて視界に入ったのは大きな木箱。

その木箱が何なのか、何時の間に現れたのか、あれは安全な物なのか。

そう言う一切の考えが過る前に、俺はその木箱に『フライ』を掛けて一気に上空に飛ばしていた。


「たす、助かったぁ・・・・・・?」

「取り合えずは、な」


俺の口から『フライ』のラの音が出た時にはルグ達がジャンプしていて、呪文を紡ぎ終わる瞬間には転がり重なる様に全員が木箱の中に居た。

そのままかなり高い空に浮かんだ木箱。

転がり込んだ時にぶつかった痛みに耐えながら辺りを見回し、下を覗き込む。

遥か遠くの地面は、戦隊モノの爆破シーンみたいなカラフルな歩キノコ達の胞子に覆われ、少しも見えなかった。


「・・・・・・此処だと・・・

胞子が飛んできそうですね。

安全な場所は・・・・・・」

「風向き的にあっちだな」

「その前にお前等どけ!!!」


距離的には大丈夫そうだけど、微かに感じる風に乗って胞子が此処まで届くかもしれない。

だからもっと安全な場所に移動しようと辺りを見回していると、俺と同じ様に下を見ていたルグがある一方を指さしながらそう教えてくれる。

そのルグが指し示す方に木箱を動かそうとしたら、クエイさんの怒号が響いた。

大きな木箱って言っても流石に7人も乗るには狭すぎた様で、上手く動けない俺達はゴチャゴチャ積み重なったままだ。

その下等辺に居るクエイさんはかなり重いはずだし、1番下のピコンさんなんて呻くだけでまともな言葉すら出せずにいる。

というか、俺の足も未だに誰かの体の下なんだよなぁ。


「うーん・・・・・・

こんなに狭いと少し動くのも難しいね。

クエイ君が抜け出すより、安全な場所に降りる方が早いと思うよ?」

「てかさぁ。クエイは自力で飛べば良かったじゃん」

「こんな風が悪いとこで飛べるか!!

無駄に疲れるだけの事、やる訳ねぇだろう」

「だったら前みたいに爆風使えば?」

「バーカ!お前は此処等一帯更地にする気か?

放火願望がねぇならよくよく考えてから物を言え!」

「な、何でも良いからもう少しズレて・・・・・・

重いぃいい・・・」


難しいと苦笑いを浮かべつつマシロと一緒にゴソゴソ動くジェイクさん。

その様子を眺めていたザラさんがふとクエイさんにどうして俺達とは別に飛んで逃げないのか聞く。


クエイさんによれば、どうもこの辺りは気流とかのあの巨体が飛ぶのに適した条件が揃っていない様で、歩キノコから逃げ切るまで飛ぶにはかなり体内の魔元素(エネルギー)を消費しないといけないらしい。


ただでさえ普通の道より疲れる山道を歩かないといけないのに、更に無駄に疲れる事はしたくない。

多少楽に飛ぶならナト達と戦った時の様に爆風を利用すればいい訳だけど、こんな草木だらけの場所でクエイさんが飛ぶのに必要な爆破を起こすとなると、間違いなく大規模な山火事が起きる。

だから爆風を利用する作戦も使えない。


と言う事をクエイさんが心底呆れた顔でザラさんに説明している。

その呆れた様なクエイさんの言葉の直ぐ後、ジェイクさん達が少し動いた事で多少楽になったんだろう。

そんなクエイさん達の会話を他所に、ピコンさんがそう必死に言ってきた。


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