118,追いかけっこ開始
「あー、もう!!分かった、分かった。
変な武器抱えた異世界人共が押し寄せるよりはましだ!
どうしてもアイツ等捕まえるのにも関わりたいって言うなら、そっち側の代表として『条件付きで』1番ましな兄ちゃんを連れて行く!!
それで良いな!?」
俺達側の代表者達の日本アルプスの様な堂々とした頑固さと、切り裂く様な真剣さを帯びた父さんの協力のお陰で、良いと言ってくれたアルさん。
アルさんの決定に思わずガッツポーズをしてしまう。
そんな俺とは正反対に、静かにアルさんの決定を待って言った周りは不満そうだ。
特に警察関係者。
「ちょっと待ってくれ!!
一般人をこれ以上巻き込む訳にはいかない!
代表なら我々警察の中から・・・・・・」
「『1番まし』って言っただろう?
俺達の世界の事を1番理解していて、1番長く一緒に居るから行動パターンも分かりやすい。
それに、戦闘能力は低いけど色々便利な力がある病人だ。
こっちにとってはいざって時『1番抑え込みやすい』安全な奴なんだよ」
この世界から代表で誰か行くのは賛成だけど、俺はダメ。
そう言う刑事さんに睨む様に目を細め、アルさんは低く言葉を返した。
対人訓練も受けていて銃の扱いも習っている。
そんな日本の中では比較的戦闘能力の高い警察と、元々戦闘能力皆無なのに異世界の病気を患って更に弱ってる高校生。
どっちの方がアルさん達からした安全かと言ったら、間違いなく後者だろう。
特に俺は弱点まで知れ渡ってる訳だし。
例え俺が暴れてもクエイさん辺りに瞬殺で気絶させられるか、ペール辺りに抱きかかえられて抑え込まれるのがオチだろう。
「アンタ等、ある程度鍛えてる奴等は論外だ!」
そう言って警察関係者は2度と自分達の世界に来るな。
と威嚇する様に言うアルさん。
何があったのか詳しく知らないけど、先程のアルさんの怒り狂った様な反論の言葉から察する通り、多分アジトに入ってきた警察との戦闘で何か酷い目に合ったんだろう。
そのせいか話し合いが始まってすぐの頃は、アルさん達『レジスタンス』の人達の警察に対する不信感と警戒心はかなり酷い物だった。
話し合いに参加してくれてる分、今はだいぶましになったんだろうけど、それでも言葉通り出来ればもう警察関係者にはあの世界に来て欲しく無いんだろう。
「勿論、5代目様。アンタ等もだ。
ブランクがあろうが、怪我してようが、腐っても勇者とその仲間のモデルになった奴等だ。
俺達としても、アンタ等としても、俺達の世界に来ても良い事何って1つもない」
自分達と敵対した時アルさん達が不利になるってだけじゃなく、あの世界には5代目勇者派の英勇教も存在するんだ。
その宗派が木場さん達の存在を知ったらどうなる?
生きた5代目勇者とその仲間がこの世界の危機にまた降臨してくれたと思うか?
そうやって歓迎してくれるならまだいい。
でも、あの世界に伝わってる『5代目勇者』と『木場さん達』は似ても似つかない存在なんだ。
その解釈違いから木場さん達を消そうとする過激派が現れても可笑しくはない。
そう言う意味では今でも木場さん達にとってはあの世界は『優しくない』世界と言えるだろう。
「1度もあの世界に行ってない奴等も論外。
どんな魔法やスキルを身に着けるか分かったもんじゃないからな。
未知の危険分子は出来るだけ外しておきたい」
「だったら、僕でも!!」
「あの世界での自分の言動振り返ってみろ、コンの兄ちゃん。
俺達がお前だけを快く受け入れられると思うか?」
「ッ・・・・・・」
能力が未知数な父さん達も除外と言ったアルさんに、
「1度あの世界に行ったんだから、自分も大丈夫だろう?」
と鋭く聞く紺之助兄さん。
本当、俺が起きるまでの3日の間に紺之助兄さん達の間に何があったんだか。
さっきの話し合いの時でも詳しく話してくれなかったし・・・・・・
ここまでズッパリとアルさんが拒否するって、一体どんだけ激しい言い合いをしていたんだ?
「以上!
そう言う訳で、1番ましなのが兄ちゃんなんだよ」
「・・・・・・・・・本当に彼だけなのか?」
「あぁ。
何度でも言うけど、本当はアンタ等側の奴等が裁判の時まで一切関わらないでいてくれるのが1番何だ。
だけど何言ってもアンタ等は納得しないんだろう?」
「あぁ」
「なら妥協に妥協して、仕方なく。
本当の本当に仕方なぁああああああく、兄ちゃんだけは来てもいい、って言ってんだ」
心底不満です。
と言う思いをこれでもかと言う位込めたかの様に、力強く仕方なくと言ったアルさん。
それに最後まで反対していた刑事さんも折れるしか無かった様だ。
100%の納得は誰もしてない様だけど、色々妥協に妥協を重ねた結果諦めるしかなかったって感じか。
『条件とは?』
「あぁ。『条件付きで』って奴な。
幾つかあるけど、まず引き続き兄ちゃんを監視させてもらう。
アジトでの延長だ」
『依頼書
不用意に離れすぎない
ドロップアイテムは全部エドに渡す
入っちゃいけない部屋に入らない』
「あぁ、そうだ」
笛を短く吹き、アルさんにそう書いたホワイドボードを見せる。
アルさんは『そっち側の代表として『条件付きで』1番ましな兄ちゃんを連れて行く』って言ったんだ。
もしかしたらかぐや姫の様に無理難題な条件を付けて諦めさせる作戦かもしれないし、シッカリ確認しておかないと。
そう思って聞いた条件の1つ目。
それは『レジスタンス』のアジトに居た時と同じ様に監視するって事だった。
多分、依頼書を使った監視と不必要にエド達から離れるなとかって事だろう。
入っちゃいけない部屋のアレコレは微妙だけど、その事も含め念の為に聞くと、アルさんはそうだと頷いた。
「もしその監視を不自然に振り切る様な事が合った場合。
その体で赤の勇者達を追いかけるのはこれ以上どう頑張っても無理だとクエイが判断した場合。
少しでも元の世界に帰りたいとか弱音を吐いた場合。
今行った事に少しでも触れたら何が何でも強制的にこの世界に帰す。
それが2つ目の条件だ」
「・・・・・・・・・」
2つ目の条件は俺を強制送還するかもしれないって事。
条件は予想していたよりも優しい物で、ルグの事を考えると少し不安だけど早々違反するモノでもないだろう。
だから大丈夫。
そう簡単に強制送還なんってされないだろうと思って俺は頷いた。
「・・・・・・本当に分かってるのかよ、サトウ?」
『大丈夫』
「本当の本当に?」
『大丈夫』
睨んでる様にも不安そうにも見える表情のルグとマシロにホワイドボードを見せつつコクコク頷く。
でも俺の言葉が信用できない様で、2人は値踏みする様に俺を上から下までジロリと無言で見てきた。
「・・・なら、いい。
ここまで来たなら反対はもうしないけど、絶対オイラ達から離れるなよ?」
「・・・・・・・・・」
「それと、少しでも具合が悪かったらちゃんと誰かに言う事!分かった?」
「・・・・・・・・・」
そうやって見られる事数秒。
諦め交じりにため息の様な言葉を吐いてそう念を押すルグと、小さな子供言い聞かせる様にそう言うマシロにもう1度頷き返した。
勿論、涙でグチャグチャの顔で不安そうに俺の手を握りグズグズと見つめてくる母さんにも大丈夫だと頷く。
大丈夫。
何度でも誓うから。
絶対、生きてナト達連れて帰るって。
その為にも、この話し合いが終わったらしっかり準備しないとな!!




