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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
343/498

113,異世界会議


「ーーーと、言う事なんだよ」

「・・・とりあえず、もう1度これだけ言わせてくれ。

紺之助、お前等何時の間にラノベの主人公になった?」

「何度でも言うけど、なった覚えは無いし、本当に主人公だったら今頃湊も高橋君も此処に居るよ」


前回の俺の行動を含めて、紺之助兄さんが話し終わったあの世界での諸々。

それを聞き終えて、大助兄さんが少し前から抱えてた頭を更に抑え、ため息を吐く様にそう言った。

それに苦笑いで答える紺之助兄さん。


今俺達が何処に集まっているかと言うと、三八野神社裏手の公民館の2階だ。

あの後どうにか双方落ち着いて、此処に集まって事情説明してる所。

と言っても話してるのは、代表者数名だけだけど。

俺達の家族3世帯全員に、あの場に居た警察官ほぼ全員。

それと『レジスタンス』のメンバー全員が今此処に集まってるんだ。

こんな大人数が一気に好き勝手喋ったら収拾がつかなくなる。


「サトウの親父さん、ずっと固まってるな」

『父さん、こう言う話苦手』

「そうか。大丈夫なんだよな?」

『母さんいるから大丈夫』


小声でそう聞いてくるルグに俺は頷いて、湯呑を横に置きそうホワイドボードに書いた。


代表者は大助兄さんと紺之助兄さん、アルさん、叔父さんと高橋のお父さん。

そして、『確保』と叫んだこの中で1番役職が高い刑事さんの7人だ。

各家や組織の代表1人づつに、俺の次に2つの世界の事情が分かってる紺之助兄さんって感じ。

本当は我が家の代表は父さんだったんだけど、異世界って言う非現実な話しに俺以上に頭の固い父さんは、開始数十秒で煙が出そうな位思考停止しちゃって、大助兄さんが変わったんだ。

その父さんは今も固まったままで母さんに介助されている。

いやぁ、まさか父さんがここまで頭が固かったとは思わなかったなぁ。


「はぁ・・・・・・少し休憩しましょうか?」

「そうですね」


コカトリスやスライム、ペール達この世界では絶対存在しないって分かる生き物に襲われたり見たり、物理的に可笑しい『レジスタンス』のアジトに突撃したり。

そう言うのを実際に見て体験したから、俺達の世界側の誰もが普段なら荒唐無稽な話だと一蹴りする話を信じた。


いや、信じるしかなかったんだ。


そうでもしなきゃ、この一連の不可解な事件の説明が出来ないから。

でも、信じるしかないと分かっていても、そう簡単に受け入れられるものじゃない。

だから、精神的疲労が酷いんだろう。

疲れが隠せてない声で休憩を提案した叔父さんに、刑事さんが重々しく頷く。


『お茶』

「死人モドキは大人しく薬飲んでいろ」

「そうそう。

言う事聞かない患者に対してはクエイ、スッゴク怖いんだからな?

この世界の医者に見捨てられた簡単に折れそうな枯れ木みたいな奴は、クエイの言うちゃーんと事聞いて大人しくしてる事!!」

「おい、ペール!!

やっぱりこの死人モドキが変な事しない様に抱きかかえてろ!!」

「ガウッ!!」


そんな叔父さん達の様子を見て、いつもの癖で1階のキッチンでお茶を入れて来るとホワイドボードに書こうとしたら、俺達の真後ろに居たクエイさんに横に置いた湯呑を渡されながらそう言われた。

クエイさんの隣に居るザラさんにも止められるし、元気よく返事したペールに捕まって1番後ろの列まで連れてかれて、そのまま抱きかかえられて身動きがほとんど出来なくなるし。

皆大げさじゃない?

いや、確かに現代医療でも原因不明な異常な痩せ方して地元のお医者さんに匙投げられて、予定より早く退院したよ?

このまま痩せ続ければ何時まで俺の命が持つか分からないから、最後は家で過ごさせてあげた方が良いって言われて。

でも、お医者さんの見立てに反して俺は回復していったんだ。

あんまりご飯は食べれないけど、自力で歩けるんだから大丈夫だって!!

そう伝えたら、クエイさんに物凄く怒られました。


「バーカ!!!鏡見ろ、鏡!!!

そんなまともに肉すら付いてねぇ体の奴が大丈夫な訳ないだろうがッ!!!

こっちの世界だったら、遺書書いてベッドで最後の時を待つだけの状態なんだぞ!?

寝ぼけた事書いて無いで、現実見やがれ!!!!」


と。

スキルのお陰で向こうの世界では一切気づかれなかったし自分でも気づかなかった。

けど、どうも俺は花なり病以外にも『回復異常』って症状を患っているらしい。


声が出ないのと食欲不振、吐きやすいのは花なり病が原因だけど、痩せた原因の一部は一種の拒絶反応。

クエイさんの魔法と『環境適応S』、『往復路の小さなお守り』の力であの世界の物質を使って草の塊から人の姿に戻ったから。


その『異世界の物質を使って』ってのが問題だったらしい。


『異世界の物質』、つまり魔元素とこの世界の相性が悪く、拒絶反応を起こし、魔元素を排除する為に俺は異常な速さでやつれていったそうだ。

唯あの世界の食べ物や飲み物を口にする分には問題ないし、軽い怪我を魔法で治すのも問題ない。

でも、俺の様に体の大半が変異してしまうとそうもいかないそうだ。


「取り合えず、ここに入ってる分は全部飲め」


と言われた大きな湯呑の中身は、その『回復異常』の治療薬らしい。

元々あの世界では回復魔法の使い過ぎ。

特に移転型の回復魔法の使い過ぎで拒絶反応が起きる事が稀にあったそうだ。

だからその治療用の薬も存在していて、俺が渡されたこの薬もそれをクエイさんが少し改良してくれた物。

だから、薬の効果があるこの世界に居る間は、これを処方された量飲めば今よりもましになるみたいだ。


けど、何せ量が多い。


それに不味くは無いけど変な味がして、大きな湯呑の中のクエイさん特製の薬はまだ半分も飲めてないんだ。

この世界に居る間に出来るだけ薬で治す為と言われても、これは流石にキツイって。


いや、そもそも、俺達ってあの世界に居る間、薬が効かなかったんだな。

確かに毒が効かないんだから、境目が曖昧な薬だけが効くってのも可笑しな話なんだけどな?

無意識の思い込みで今まで使えていたんだよ。

動物像の部屋でクエイさんが言いかけて、ルグに口を押えられ止められてたのがその事。

うん。

今知ったから、もうあの世界で薬使えないな。


「そうよ。貴弥は無理しちゃダメ。

先生の言う事聞いて大人しくしてなさい」

「・・・・・・」


そう言う母さんに俺は言われた通り大人しく頷く。

いや、そもそもペールに拘束されてるから、最初から俺にそれ以外の選択肢は無いんだけどな?


それにしても本当、母さんのクエイさんに対する信用度、かなり上がったなぁ・・・

最初、口の悪さから不信がっていたけど、紺之助兄さんの話を聞いて母さん達のクエイさんに対する信用は爆上がりした。

まぁ、自分の治療が原因で俺がこんな事になったって知って、クエイさんの医者としてのプライドが刺激され、俺の治療に積極的だからってのも理由の1つだろう。


自分が出来る範囲で完璧に治したはずなのに、後になって別のシャレにならない症状が出ていて、その上俺が持ってるスキルのせいとは言えそれを見逃していた。


それが自分が思っている以上に自分の医療の腕が未熟だって事を表してる様で、『蘇生薬』の事や両親の事。

そう言うここ最近の色々で思う所があるクエイさんには、それがいつも以上に許せなかったらしい。

そんな、クエイさんが珍しくメラメラ燃えてる状態だって気づいて無い。

クエイさんの事詳しく知らない母さん達からしたら、


『翻訳の関係で口が悪く聞こえるだけで、何度も貴弥を助けてくれた。

患者に真摯に向き合う、とっても善良な腕の良い医者』


に見えるんだろう。

実際は少し違うんだけど、俺の命の恩人の1人なのは間違いない訳だし、本当の事は言わない方が良いだろうな。


「お茶は・・・・・・」

「私が入れてくるわ。

桜月(さつき)ちゃんはそのまま兄さんの事見ていて?」

「ありがとう、楓ちゃん。じゃあ、お願いね?」

「なら、ボクが手伝うよ?」

「じゃあ、私も・・・・・・」

「ありがとう、ジェイク君、マシロちゃん」


母さんの代わりにと顔色が戻ってきた叔母さんがそう言って立ち上がる。

そんな叔母さんに手伝うと言ってジェイクさんとマシロがついて行った。

そんな叔母さん達の姿を見送っている俺に、ペールが湯呑をグイグイ押し付けてくる。


あ、はい。

早く飲み干せって事ですね。


「・・・・・・」

「しかめっ面しても薬の量は減らさないからな」

「・・・・・・」


うぅ、やっぱり変な味がする。

それに少しドロッとしてるから、舌に何時までも味が残るんだよ。

それが不愉快で、不愉快で。

量の多さと相まって、一気に全部飲めない。


そんな薬に対し悪戦苦闘している内心が顔に出ていたんだろう。

量は減らさないと言って、振り返ってきたクエイさんは早く残りを飲めと目で訴えてきた。

分かってますって!

頑張って全部飲みますよ!!


「・・・さて。そちらの世界の事は分かった」


叔母さん達が持って来てくれたお茶を飲んである程度休んだ所で、そう刑事さんが切り出した。

その言葉を聞いてザワザワ話していた全員が口を閉ざし、姿勢を正す。


「高橋 蓮也君と田中 湊君の処遇の事も含め、詳しい話は後日専門家も交えて話し合いたい。

それでいいかな?」

「あぁ、それで構わない。

俺達の方も協力してる王族達の意見を無視して詳しい事を決められないからな。

日を改めて貰った方が助かる」


刑事さんが改めて聞いて来た言葉に、アルさんが少し疲れの見える表情を浮かべ頷く。

ナト達が人を殺してる事も、魔女達に騙されて多くの人をゾンビに変えた事も。

それが原因で命を狙われてる事も、全部、全部、紺之助兄さん達が伝えてる。

それ関連で『レジスタンス』のアジトの食堂で俺達が話し合った時以上の一悶着も起きた。

でも、最終的に両世界の法の専門家を交えて、別の日に詳しく話し合う事が決まって、どうにか落ち着いたんだ。


確かに叔父さん達の不満や不安はかなり残ってる。

けど、それが1番平和かつ双方納得いく形だったんだ。

あの世界では世界規模の事件だし、こっちの世界はこっちで近年稀にみる凶悪事件として世間に知れ渡ってるし。

素人同士の言い合いで決める何って決して出来無いんだ。


だからこそ。

だからそれが分かってるからこそ、叔父さん達は不満を飲み込んだんだ。

それに水を差す程叔父さん達は子供じゃない。

ただそれだけの話。


「彼等からこの世界の事は聞いているだろうが、何か気になる事は?」

「いや。この世界の事で気になる事はないな。

兄ちゃん達からある程度聞いてたし、さっきの言い合いで十分過ぎる程聞いた。ただ・・・」


刑事さんに聞かれ答えたアルさんの視線が、木場さんに向けられる。

その視線を受け、一拍置いて深く息を吐く木場さん。

木場さんもアルさんが何を聞きたいか、分かっているんだろう。

高橋のお父さんの隣に座り直して口を開いた。


「・・・・・・聞きたいのはアレだろ?

25年前、俺達が君達の世界に『召喚』された時の話」

「こっちでは5000年前だ、5代目様」

「だから、俺は勇者じゃないって。

ただ、モデルの1人なだけだろう?」

「だが、メインはアンタだろう?」

「伝わってる活躍の事を考えたら、ベニタの方さ。

それか、ズオかヒノッちゃん・・・

事情があってあの世界に残った同級生達だ。

俺じゃ無い」


アルさんの言葉に苦笑いで木場さんは答える。

紺之助兄さんが説明してる時判明して、長くなるから後で詳しく聞こうと置いとかれた話。

驚く事に木場さんは、5代目勇者のモデルの1人なんだそうだ。

今伝わってる5代目勇者像は、木場さんを含め何人かの木場さん達の同級生の話が混じり合って出来てるらしい。

名前と見た目、後ギルドを作ったって逸話が木場さんから来ていて、だからアルさんの言う通り5代目勇者像の主軸は木場さんで良いと思うんだ。

けど、木場さん本人が心底嫌がってるから、アルさんもそろそろ木場さんを5代目勇者って呼ぶのやめた方が良いと思う。


「それで?何が聞きたい?」

「この際だから、全部。

と言いたいが、今後の事に関わるからなぁ。

これだけは絶対聞かせてくれ。


アンタ等が集めていた。

いや、集めさせられていた『夜空の実』ってのは何なんだ?

それに、今、赤の勇者達を使って『夜空の実』を集めようとしてる、偽物の9代目様の正体は?

アンタ等が居た時代から居たんだろう?」

「いや。その偽9代目の正体は分からないな。

5000年も経ってるなら、俺達を『召喚』したあいつ等本人じゃない。

あるとしたら、その祖孫達だろう」


木場さん達は、5000年前の人達に『夜空の実』を集める道具として『召喚』された。

ナト達も自分達と同じ様に『夜空の実』を集めさせる為にあいつ等に『召喚』されたんだ。

とあの時木場さんは言っていた。

その『あいつ等』をアルさんは偽勇者ダイスの事だと思った様で、そう聞いていたけど木場さんはハッキリ違うと首を横に振る。


「ただ、自分達で集めず、蓮也君達に『夜空の実』を集めさせようとしてるなら、そいつは『夜空の実』の真実を独占してるのは間違いない」

「『夜空の実』の、真実?」

「あぁ。えーと、そうだなぁ・・・・・・

俺達もそこまで詳しい訳じゃ無いんだが・・・」


そう呟いて暫くの間悩んでいた木場さん。

かなり悩んでいたけど、漸く考えが纏まったんだろう。

木場さんは覚悟を決めた様に息を吐くと姿勢を正した。


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