111,『ゲート』を開いて 中編
「あ、出た」
ダメ元で門である祠を撮影したら、門の説明が出た。
『教えて!キビ君』に説明が載ってるって事は、間違いなく俺が作る前から『ゲート』の魔法が存在していたって事だ。
ウォルノワ・レコードの壁の仕掛けを作った人の影響か、それとも最初からそう言う仕様だったのか。
それは全く分からないけど、つまり俺の『新しく魔法を作れる』って言う『クリエイト』のもう1つの能力。
これは俺が考えていた様な『1から魔法を作る』って意味じゃ無かったんだろう。
多分、パンや具材が用意されたサンドイッチや夏休みの工作キットの様、って言えば良いのかな?
『教えて!キビ君』内に存在する魔法やスキルを、作りたい魔法になる様に組み合わせて作り出すものなんだと思う。
『ゲート』の場合は、『召喚』や『返還』の魔法を主軸に、異世界同士を行き来する人の安全面を考慮した『環境適応S』、『状態保持S』、『言語通訳・翻訳』を付け足して作られた。
サンドイッチで例えるなら、誰かが用意した『返還』の魔法って言うパンに、これまた誰かが用意してくれた好きな具材や調味料って言うスキルを挟む感じ。
そしてこの選んだセットの組み合わせに近い魔法が『教えて!キビ君』の中にある場合、少しアレンジしたその魔法を貰える。
中に挟まれた具で若干の個性は出るけど、結局それは『サンドイッチ』って料理でしかない訳だから、買ったサンドイッチでも問題はない。
って事かな?
それで俺の『ゲート』のアレンジ部分は、多分付与されるスキルのランク辺り。
ジャムサンドのジャムが甘目か酸味がかなり効いてるかって位の、拘りがそこまでない人からしたら些細な違いしかないんだ。
「えっと、まず。
祠の中の鬼の像が持ってる鏡を動かして、時間と場所を調節する」
「動かす・・・こう、かな?」
俺の説明を聞き終え、辺りを見回してから祠に入った紺之助兄さん。
鬼の像が胸の前で掲げる様に持った鏡を紺之助兄さんがツマミを回す様に最大限左に動かすと、鏡に文字や数字が映し出された。
それは三ハ野神社の名前と、俺と紺之助兄さんがこの世界に『召喚』された日の、『召喚』されてから10分後の時間。
つまり、この日のこの時間のこの場所に帰れるって事だ。
逆に右に最大限回すと、『召喚』された日から一週間後の午後3時が映し出された。
「時間と場所の調節が終わったら、鏡を押し込んで決定する。
それで次は、扉を閉めてお賽銭入れる」
「ちょっと待って!
『ゲート』使う度に金取るのかよ!!」
「みたいですね」
紺之助兄さんが時間を調節し終わったのを確認して、俺はそう続きを読み上げた。
それに対してアルさんがツッコミを入れる。
今の『ゲート』の門は鍵が掛かってる様な状態で、鍵を開いて異世界に行くにはお参りする必要があるみたいだ。
お参りの動作が『鍵』で、お賽銭は安全に異世界に行く為の通行料って事だろう。
「まぁ、金額の指定がされてないので、1リラでも大丈夫だと思いますよ?」
「そんなに安い通行料で、本当に大丈夫なのかよ?」
「多分?
通行料と言ってもお賽銭の形なんだし、お賽銭は額が多いければ良いって訳じゃ無いから・・・
寄付の意味もあるけど、大体は神様や仏様への感謝の気持ちや、穢れを祓うって意味で入れる物だし、気持ちが籠ってれば大丈夫じゃないかな?」
「そうか?」
「心配なら、験担ぎに語呂の良い金額を入れれば良いよ。
俺達の世界で言えばご縁って意味で5円玉入れるし。
後は、11円で良い縁、45円で始終ご縁とかかな?」
通行料が安くて本当に大丈夫か聞いてくるルグにそう答えて、ポケットを漁る。
「あれ?ない・・・・・・」
「貴弥、何探してるの?」
「財布」
「財布?
貴弥の財布はまだ、湊が持ってるはずだよ?」
「え?・・・・・・あっ」
そうだ。
ナトにまだ財布返して貰ってなかった・・・
すっかりその事を忘れて全部のポケットを探しちゃったよ・・・
紺之助兄さんの言う通り、まだ俺の財布はナトが持ってるんだ。
何か返して貰った気になってたな・・・・・・
「お金は僕が出すから大丈夫だよ」
「ごめん、兄さん・・・・・・」
「気にしないで。
それで、この後は二礼二拍手一礼?」
「うん。
あ、一礼の前に小声でも良いから1から10までの数字を数えて。
それで『ゲート』が開くはずだから」
クスクス笑ってトートバッグから財布を出す紺之助兄さん。
その紺之助兄さんに促され、俺はそう伝えた。
「数字・・・・・・・・・
ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」
見本の様に礼儀正しく二礼二拍手して、紺之助兄さんがそう10まで数えだした。
普通に、いち、に、さん、って数えず何故古い数え方をしたのか。
気になって後で聞いたら、
「その方が正しいと思ったから」
と言われた。
どうも俺達の世界には『ひふみ祝詞』って言う数字を数える祝詞があるらしい。
それで俺か木場さん達がアレンジしちゃったけど、元々はその祝詞を唱えてたんじゃないか。
ってのが紺之助兄さんの考察。
だから念の為に、その祝詞に合わせて古い数え方をしたそうだ。
まぁ、それは紺之助兄さんの杞憂だったんだけどな。
そんな祝詞が存在するって知らなかった俺が作った門だからか、別の日に普通に数を数える方でお参りしても問題なく開いた。
そもそも祝詞って、神主さんが祓い給え清め給えって唱えるだけじゃ無かったんだな。
色んな種類があるって初めて知ったよ。
「良かったぁ・・・ひら・・・・・・ッ!!!」
両開きの格子戸が勝手に開き、鬼の像を巻き込んで祠の中が歪む。
その歪みが収まって広がったのは元の祠の中じゃない。
まるで普通に扉を開いだだけの様に、同じ様に格子戸が開いた祠から見た俺達の世界の風景が広がっていた。
2匹のビックダーネアと3匹のエヴィンヴラウデンスライム。
それと俺が見た事ある中で1番大きなコカトリスに襲われた、父さん達の姿が。
何時の間に集まったんだろう。
俺達が『召喚』される前に集まっていた大助兄さん達だけじゃなく、俺達の家族も高橋の家族も、全員集まっていた。
勿論、集まっているのは俺達の家族だけじゃない。
平和で静かな住宅街に似つかわしくない銃声を響かせ、中村刑事達含めた警察官達も何人も集まっていた。




