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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
340/498

110,『ゲート』を開いて 前編


「はぁ・・・・・・」

「きーびッ!

まーたため息なんて吐いて。

そんなにため息ばっか吐いてると、本当に幸せが逃げちゃうよ?」

「もう、逃げる程の幸せ何って残ってないって、兄さん」

「そう言うネガティブな事も言わないの!」


起きてから何度目かになるため息に、紺之助兄さんが呆れた様に叱ってくる。

でも残念。無理です。

いや、もう、本当。

昨日からの疲れがドッと出たせいもあって、しっかり休んだはずなのに頭も心も暗い方向にしか行かないんだよ。


あの後予定通り露店通りに寄って、枯れてないスノーマジックも見つけて。

『ミドリの手』で出せる様になったのは良い物の、その後が問題なんだ。

全部分かってた事だけど、目の前に出されると本当に気力が削がれる。

『コピー』の魔法陣の形をした花は今の状態じゃどう頑張っても出せないし、ナト達もウルメールの街に帰ってしまった。


その2つの事実を目の当たりにして、俺の心はかなり折れたんだ。

そのせいで疲れがドッと溢れてきて、『レジスタンス』のアジトに戻って、朝食を頂いて、ルグ達の部屋で休ませて貰って。

お昼過ぎて目が覚めた今も、その事を引きずってるんだ。


「もう!

そんな顔で帰ったら父さん達、もっと心配するよ?」

「分かってる・・・分かってるけど・・・・・・

はぁ・・・・・・」

「ほらまた。言った側からため息吐かない!」

「はーい・・・」


大分予定が狂ったけど、俺と紺之助兄さんは1度元の世界に帰る事にした。

魔女達にとって不都合な海月茸農園での記憶を消され、洗脳され直されただろうナト達を説得し直す素材を集める為ってのもあるし、単純に父さん達が心配ってのもある。

そう言う訳で、今俺達は帰る為の準備をしてるんだ。

使ったルグ達の部屋を整えて、忘れも無いかチェックして。

後はアルさん達が『ゲート』を使って良い部屋の準備を整え終わるのを待つだけ。


「後、兄さん。

エド達起きちゃうから、もう少し声小さく」

「ングッ!」


俺達よりも疲れてるルグも、『蘇生薬』の研究日誌の解読で徹夜したジェイクさんも同じ部屋でまだ寝てるんだ。

頑張ってくれた2人を起こすのは流石に申し訳ない。

だから、少し声の大きくなった紺之助兄さんにそう言ったら、紺之助兄さんは慌てて口を両手で押えた。

そしてチラリと2人が寝てるベッドの方を見る。

うん、大丈夫。

2人共死んだ様に眠っていて起きそうに無い。


「そんなに気にしなくて大丈夫だよ、キビ君、コンさん。

そろそろ2人を起こしても大丈だと思うから、普通に話してて問題ないと思うよ?」

「そう?」

「と言うか、そろそろエド君がお腹すいたって起き出す頃だと思うから」

「・・・・・・ぅん・・・・・・腹減ったぁ・・・」

「ほらね?」


眠ってる2人の代わりの俺達の監視役のマシロが、黙々と読んでいた本から視線を上げてそう言ってくる。

『エド』として活動してる間、何度も同じ様な事が起きていたのか。

そろそろ起き出すと言ったマシロの言葉通り、盛大にお腹を鳴らせながらルグがのっそりと起き出した。

そのルグの第一声をマシロが的中させたのが何か面白くて、思わず小さく笑いが零れる。


「フフ。おはよう、エド。

お昼、貰ってきてあるけど、食べる?」

「・・・・・・・・・食べる・・・」

「その前に、顔、洗ってきなよ。

何だか食べたまま寝ちゃいそうだよ?」

「・・・・・・分かった」


『クリエイト』で出したラップを掛けた、机の上のお昼。

今回もキユさんが作ってくれた完全に冷めてしまったスープと、許可を貰って『ミドリの手』で増やした山盛りのパンとサラダと数種類の果物。

それを指さしながらルグにそう聞けば、眠そうに目を擦りながらムニャムニャと答えた。

食べると答えてモゾモゾとベッドから抜け出すルグの頭はまだ完全に覚醒して無い様で、マシロの言う通り先に顔を洗ってきた方が良いだろう。

あの様子じゃ、寝ぼけてケット・シーの姿に戻って正体がバレそうだし。


「ふぅ、わあああ・・・・・・・・・

おはよう。今、何時?」

「おはよう、ジェイク。

今は・・・昼間の1時を半分位過ぎた所だよ」


顔を洗いに部屋を出たルグも戻ってきて、遅い昼を食べ終わって暫く経った頃。

欠伸と共に体を伸ばしながらジェイクさんも起きてきた。

そのジェイクさんにマシロが今の時間を答える。


「もう、そんな時間?

かなり寝ちゃってたね。

ボク達が寝てる間、何か合った?」

「特には・・・

エドがジェイクさんの分の昼食まで食べそうになった位?」

「安心しろ、ジェイク!

ちゃんと途中で気づいて残したから、大丈夫だ!!」

「ハハ。じゃあエド君、まだ足りないでしょ?

ボクもそんなに食べれないから、もう少しエド君が食べてくれて大丈夫だよ?」

「お。じゃあ、このパンもーらい!!」


相変わらずの寝起きの悪さと俺達と話しながら食べていた事で、ルグは特盛2人分の昼飯をペロリと食べそうになっていた。

まぁ、途中で気づいて止めたから、ちゃんとジェイクさんの分は残っている。

その残った昼飯を見て、ルグにもう少し食べていいと言いながらジェイクさんは部屋を出た。

多分、顔を洗いに行ったんだろう。


「おーい。

今、ジェイクさん出て行ったけど、大丈夫?

急いでる様だから声かけなかったけど、何かあった?」

「あ、ピコンさん」


ジェイクさんとほぼ入れ替わる様に、コンコンと軽くドアをノックしてピコンさんが部屋に入って来た。

すれ違ったジェイクさんの様子が気になったんだろう。

入って来たピコンさんは心底不思議そうに首を傾げていた。

急いでいたって事は、顔を洗いに行ったんじゃ無くて、お手洗いの方かな?


「俺達の方は大丈夫です。

ジェイクさんは多分、お手洗いだと。

ですので直ぐ戻って来ると思います」

「そっか。

サトウ君達が帰る準備出来たから知らせに来たんだけど、来るのはジェイクさんが戻ってきてからの方が良いよな?

アルさん達にサトウ君達が来るの、もう少し掛かるって言ってくる」

「はい。お願いします」

「じゃあ、ジェイクさんが帰ってきたら、23号室。

ヨーキさん達の部屋の2つ隣の空き部屋な?

そこに来てくれ」

「分かった。ありがとうな、ピコン」


『ゲート』を使って良い部屋の準備が整った事を伝え、お礼を言うルグに軽く手を振ってピコンさんは部屋から出て行った。

それから数分後、戻って来たジェイクさんにピコンさんの伝言を伝え、ジェイクさんの準備が整うのを待ってから俺達も部屋を出た。


「お待たせしま・・・・・・

うわぁ・・・何にもなーい」

「何があってもいい様に全部出したからな」


ピコンさんが言っていた部屋。

そこに入って目に飛び込んできたのは、家具の類が一切ない、ただ広いだけの部屋の風景だった。

まるで好きに模様替えが出来るゲームの初期状態の様に、床と天井、光苔が入ったランプが定期的に備え付けられた壁しかない。

そんな何にもない部屋にアルさんとキユさんが居るだけだから、逆にこの部屋が他の部屋より狭く感じる。


「えっと・・・・・・早速『ゲート』使っても?」

「あぁ、どうぞ」

「じゃあ・・・・・・『ゲート』!!」


奥の壁を見つつ意識して呪文を唱える。

次の瞬間、部屋の奥から半分位を巻き込む様な強大な黒い風の渦が生まれ、その渦が内側から破裂する様に消えさり、渦の中心から現れたのは、


「・・・・・・これ、林の祠?」

「みたい・・・だね」


神木に半分位飲み込まれたと言うか、突き抜ける様に生えたと言うか。

そう言う状態の三八野神社の林の祠の完全版の様な、石と木で出来た綺麗な祠。

街でよく見かける小さな祠とは違って座れば人1人余裕で入れそうな位大きな所とか、鳥なのか花なのか良く分からないマークが彫られた変わった三角形の様な屋根とか。

新品同然に綺麗な事を抜かせば、林の祠と全く同じ物がそこに有った。


「祠って、サトウ達の世界の?

タカハシ達が出てきたって言う?」

「うん、そう。

俺達の世界の祠はかなり古い物だし、後ろ半分が神木に壊されてるけど。

まぁ、大体こんな感じ」

「ふーん。

じゃあ、その祠がサトウ達の世界の『ゲート』の門って事か」

「多分?」


高橋達が俺達の世界に戻って来る時、祠の歪みから出てきたからこの祠が『門』になったんだろうか?

いや、その前からあの祠はこの世界と繋がる場所だったのかもしれない。

25年前の木場さん達もあの祠の所に帰って来た訳だし。


それに『神様達の力で封じられた人を攫う悪い鬼』って言うのが、昔のこの世界の人だったんじゃないのか?


2度ある事は3度あるって言うのかな?

俺や木場さん達の様にこの世界に『召喚』された人が大昔にも居て、何も知らない人が大助兄さん達みたいにその人が『召喚』される瞬間を見たか、木場さん達の時と同じ様にこの世界の人も一緒に俺達の世界に帰って来た瞬間を見た。

それでこの世界の人を『鬼』と称したのかもしれない。


鬼や天狗の正体は外国人って話もあるみたいだし、カラフルな髪色で魔法が使えるこの世界の人達を『鬼』と思い込んだって説もあながち間違いじゃないだろう。


それで、その大昔の人も『ゲート』の様な魔法で帰ってきていて、その『門』があの林の祠。

だからこの世界から俺達の世界に帰って来る時はあの祠を通るんだと思う。


「とりあえず、俺達が『召喚』された時間に出来るだけ近づけて・・・ってどうやれば良いんだ?」

「何時もみたいにスマホで操作できないの?」

「えーと・・・・・・出来ない、みたいだね。

この門、撮影したら何か分かるかな?」


そんな事を考えつつ帰る為の準備をする為に出来上がった祠を調べる。

『ゲート』の説明にはある程度の時間を調節出来るって書いてあったけど、本当どうすればいいんだ?

マシロに言われて調べてみたけど、『ミドリの手』や『プチヴァイラス』の様にスマホで操作出来無い様だし、『ゲート』の説明の所にも詳しく乗ってないし・・・・・・

魔法道具じゃ無いからアルさんやジェイクさんに聞いても多分分からないだろう。

俺の予想通り昔の俺達の世界の人が『ゲート』の様な魔法を使っていた可能性があるなら、撮影して調べたら門の説明が出ないかな?


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