33,迷子のお姫様 後編
想像以上に分からない事だらけの俺のスキル。
今直ぐに実験出来る訳じゃ無いし、館の本を調べるにも時間が掛かる。
取り合えず当分の間は周りの様子が違ったら、随時ルグとユマさんに聞いてみるのが1番良いかもしれない。
あぁ、いや。
そもそもユマさんの幻術魔法は見破れたと言え、全ての幻術を見破れるとは限らないんだよな。
俺も魔法に掛ってる可能性だってあるんだし。
どんな事だって油断しちゃいけないな。
そう考えると、今受けてる依頼も・・・・・・
「あぁあああああああッ!!!」
「ッ!!何だよ、サトウ!!急に叫んでぇ!?」
「すっかり忘れたけど、この依頼書って依頼を受けた冒険者の行動を記録するんだよ!
つまり、ルグとユマさんの話も・・・」
「あぁ、その事なら大丈夫だよ。
サトウ君、その依頼書貸してくれる?」
この依頼書からユマさんの正体がバレルかも知れないのに、ルグもユマさんもなぜか落ち着いている。
その上、ユマさんは俺から依頼書を受け取るとジーッと見つめだした。
「うん、これなら道具が無くても何とかなるね」
そう言うと依頼書に指で魔法陣を書き出したユマさん。
魔法陣が完成すると同時に魔方陣の上に画面が浮かび上がり、ユマさんは画面を弄りだした。
「なぁ、ルグ。ユマさん、何やってるんだ?
それに、魔族も魔方陣を使うのか?」
「いんや。普通は使えないぞ。
でも、悪魔だけは人間が使う魔法陣を使えるんだ」
オーガンのお陰で強力な魔法が使える悪魔達は、威力を抑えたり制御する為に人間が使う追加魔法の魔方陣を使っているらしい。
そのまま技を放つと、その技の威力によって自分が1番被害に遭ってしまう。
例えば、火属性の魔法を使ったら自分ごと辺り一面灰にするとか。
だから、それを回避する為に、魔法陣を使うそうだ。
そして、悪魔が魔族の中で唯一人間と同じ様に魔方陣が使えるのは、悪魔が人間に非常に近い種族だと言う事。
それと、固有スキルが『オールタイプ』と言う、得意不得意は有るもののどんな属性の魔法も使えるスキルだから。
他の魔族は技が有る為に人間が使う魔法陣と相性が悪く。
理論上はどの魔族も魔方陣を使えると言われているのにも関わらず、今までに悪魔達以外使えた種族が居ない。
この魔方陣が使えると言う事と、『ミスリーディング』の様な魔法、変化石のお陰で悪魔は最も人間の振りをするのが上手い種族なんだ。
そのお陰で、悪魔だと気づかれず目を抉られずに済んだ悪魔も多く居るらしい。
因みにユマさんは闇属性の魔法が1番得意で、簡単な治癒と雷の魔法位しかまともに扱えない位、光属性の魔法が苦手なんだそうだ。
まぁ、種族故か悪魔は大体闇属性の魔法が得意らしいけど。
「それとユマは今、魔法道具の情報を魔法で引き出して書き直してるんだ」
どうも今ユマさんがやっているのは魔法道具のハッキングらしい。
いや、こう言う場合クラッキングって言うのか?
そもそも、ハッキングもクラッキングもコンピューター用語だよな。
こう言う時にコンピューターじゃない魔法道具に対して使っても良いのか?
まぁ、とりあえず、不正に魔法道具の情報を改竄しているのは確かだ。
今回は人の命が関わってるから仕方ないとして、何度もやって良い行為では無いよな?
それに、改竄がバレたら意味が無いと思うし。
「情報を引き出した事も改竄した事も絶対バレないって。
誰にも気づかれずにそれが出来るのがジャックターから代々ジャックター国国王が受け継いだスキルなんだからな!!!」
「えぇ!!
あの絵本のジャックターって凄腕のハッカーだったの!?」
「ルグ君!!サトウ君に間違った事教えないで!!」
頬を膨らませたユマさんが作業する手を止めずにそう言う。
ジャックターの代から受け継ぐスキル、『アイテムマスター』は魔法道具に関したスキル全部が詰め込まれたスキルらしい。
魔法道具を作れば必ず品質が上昇するし、
どういう効果があるか、
どんな素材で出来てるか鑑定でき、
今みたいに改造や修復も出来てしまう。
『道具の主』の名は伊達じゃなさそうだ。
「よし、これで大丈夫。
これで、この依頼書がある所で私達の正体を言っても自動で書き直してくれるよ」
「おぉ!!何か本当にドラマのハッカーみたい!
凄いな、ユマさん」
「全然、すごく無いよ。
私のお母さんなら、もっと早く、もっと細かく出来たもの」
「ユマのお袋さんは世界1、いや歴代1『アイテムマスター』のスキルの扱いに長けてたんだ。
特に、魔法道具の解析や改造が得だった。
どんな厳重な魔法道具でも解析できたし、その依頼書みたいな魔法道具から幾らでも情報が取り出せたんだ」
ちょッ!!
ユマさんのお母さん!!?
何やってるの!?
これは、本当には暗殺されたんじゃないだろうな?
「ユマさん、言っちゃ悪いけど・・・
お母さんの真似はあまりしない方が良いと思うよ?」
「うん、分かってるよ。
小さい頃、私もお母さんみたいに成りたいって言ったらお父さんとハルさんに全力で止められたの。
今だから止められた理由が分かるけど、あの時は全く理解出来なかったぁ」
前ジャクッター国国王と『ハルさん』、グッジョブ!
「だから、私も魔法道具の改竄はあまりしないようにしてるんだ。今回は特別ね?」
「ユマがまた改竄しなくて済むように、サトウも出来るだけ言わないでかれよな?」
「勿論、分かってるって」
これで俺達3人がボロを出さなければ、ユマさんの正体やルグの正体がバレる事は無くなった。
とりあえず、一安心かな?
「あ、そう言えば俺、昼飯作ってる途中だったじゃん!!
あぁ、もうッ!もう直ぐ12時だし!!
2人とも直ぐ残りを作るから待っててくれ!!」
「あ、手伝おうか?」
「いいッ!!ユマは座って待ってて!!
な、サトウ?」
「大丈夫だって。この位パパッと作っちゃうからさ。
気持ちだけ受け取っておくよ」
多分、俺とルグは同じ事考えただろう。
ユマさんが手伝ったら昼飯が新生物になっちまう!!
と。
俺等が食べるんじゃなくて、俺等が食べられてしまう。
手伝おうと思ってくれただけで十分だ。
ルグなんて、
「手伝おうか?」
のての字すら出てこないんだから。
あぁ、そうそう!
重要な事を聞き忘れていた!!
「ユマさん、アレルギーで食べれない物ある?」
「アレルギー?」
「サトウの世界の病気みたいなモノなんだって。
毒とか全然無いのに、ある特定の食べ物や花粉から体を守ろうとして過剰に反応する症状なんだ」
一昨日の内にルグにもアレルギーの説明して、食べれ無い物が無いか確認済み。
好き嫌いは兎も角、ルグはアレルギーで食べれ無いものは無いと言っていた。
それどころか、猫に食べさせるなって聞いた事がある玉ねぎとかも魔族だからなのか、ルグは普通に食べれるみたいだ。
「食べ物だと鶏の卵、乳製品、小麦、大豆、ソバ、海老、蟹、ピーナッツ、林檎とかか。
俺が知ってるのは今言った9種類だけど、他にも色々アレルギーの原因になる物が有るんだ。
それでアレルギーの原因になる物を食べると、蕁麻疹が出て痒くなったり、顔や口、目が腫れたり、咳が出たり、息がゼイゼイしたり、呼吸困難になったり。
後は、お腹が痛くなったり、ムカムカして吐いたり、下痢になったり、声が出なくなったりするんだ」
「症状も原因も人それぞれで、酷い場合は死人まで出るらしいぜ。
ユマ、心当たり無いか?」
「まさか・・・・・・・・・
・・・ううん。私はそう言った食べ物はないよ」
この世界にアレルギーと言う言葉、と言うか概念?が無いらしい。
ルグやユマさんからしたら、人によっては無毒なのにある人にとっては毒の様になるってのが信じられないんだろう。
一昨日のルグも今のユマさんの様に、有り得ないと言う表情で驚いていた。
「子供の内にだけなる場合も有るし、今まで大丈夫だったのに大人になったら症状が出る場合もある。
だからなのかな?
医者の判断の元、少しずつ原因の物を食べて克服する方法もあるらしいんだけど、俺は医者じゃない。
そこ等辺の判断も出来ないし、重い症状が出た時助けられるかどうかも分からない。
だから、アレルギーで食べれない物は除外するから。
それと特定の条件、例えばアレルギーの原因になる物を食べた後、激しく動いたりすると症状が出る場合もあるらしい。
食べてから時間が経った後でも、症状が出たら言ってくれ」
俺の『ヒール』でどうにか出来るか分からないんだ。
応急処置として症状を和らげる事は出切るかも知れないけど、アナフィラキシーショックなんてもんが起きたら助けられる自信がない。
それに、アレルギーって言葉自体無かったこの世界の医者が治療出来るか分からないだろ?
今の所俺達3人の中でまともに料理が出来るのは俺だけなんだから、これから暫くの間毎日の食事を俺が作らなきゃいけないんだ。
作るなら作るで、出来るだけ安全で美味い飯を食べて貰いたい。
俺が作った物で誰かが死んだなんて、俺自身が死んでもごめんだ!!
「あ。但し、アレルギーの症状が出たって嘘をついて嫌いな物を残すのは禁止だ。OK?」
「誰もそこまでして嫌いな物は残さないって。
なぁ、ユマ」
「そもそも、ルグ君は何でも食べるもんね。
でも、うん。
ご飯の後、気分が悪くなったりしたらサトウ君に言うね」
2人に確認と注意をし、昼飯作りに戻る。
大根と白菜とジャガイモの味噌汁と、キュウリと人参の漬物は出来ている。
後は焼けば完成する大根おろしを添えた出し巻き卵と、握っている途中のお握り3種類を握り終われば完成だ。
おにぎりのは具が和風出汁をとった後の昆布の佃煮を入れたものと、
『ミドリの手』で出した梅干を入れたもの、
昆布と同じく出汁取り後の鰹節モドキのふりかけを混ぜ込んだものを作っている。
ルグが結構な大食いだから多めに作らないと足りないんだよな~。
出来れば今日中に依頼を達成したいし、さっさと作って午後から依頼に向かおうか。




