109,この後の作戦は?
「それで?この後どうするんだ?」
「ナト達を追いかけます!
と言いたい所ですが、何の対策も出来てないので無理なんですよね・・・・・」
今後の予定を聞いて来たピコンさんに俺はそうため息交じりに答えた。
ナト達を追いかけたいのは山々なんだけど、完全に冷静になった今、それが不可能に近い事が分かってしまう。
本当、レーヤの試練も幻影も邪魔!!
「ナトの魔法を打ち消す魔法を俺達も使えたら、どうにか出来るんですけどね。
俺も兄さんもナトや高橋みたいにポンポコ魔法作れませんし、皆さんもそんな魔法持ってないですよね?」
「持ってない、持ってない。
持ってたら、今、此処に居ないって」
「ですよねー。はぁ・・・・・・」
持ってないと代表で言ったルグの言葉に、思わずまたため息が出る。
分かっていたけど、『キャンセル』なんって反則魔法、早々覚えられる訳がない。
この魔法を作ったナトがそれだけ凄いって事だよな。
流石、ナト。
良くそんな魔法、サラリと作り出せたな。
「なら、せめて魔法道具屋にそう言う魔法に近い道具、売ってませんか?」
「うーん・・・有ったかな?
多分無かったと思うけど・・・・・・
アルさんに聞いてみる?」
「聞いても良いと思うけど、そもそも『キャンセル』みたいな効果の魔法道具なんって存在してるのか?
オイラ、そんな魔法道具、聞いた事ないぞ?」
魔法として使えなくても魔法道具ならどうだ?
そう思って聞いたら、ピコンさんに置いてなかったと言われた。
そもそも『キャンセル』の様な魔法道具自体存在しないとルグにも言われてしまうし・・・
勿論、ヒッソリ示されたサインからして『エド』としてだけじゃなく、『ルグ』としても知らないみたいだ。
魔法道具オタクなユマさんと長年一緒に居るルグでも知らないって事は、本当に存在しないか、相当珍しいって事だよな。
もし存在していても、修理用の魔法道具のアレコレを思い出すと、多分魔法道具屋には置いてないだろう。
「残念ながらそう言う魔法道具は置いてないな。
アジトの方にも無い」
「そうですか・・・・・・」
「・・・・・・おい、異世界人。
お前、スノーマジックって花、触った事あるか?」
「スノーマジック、ですか?
えーと、多分、ない、と思います・・・
ちょっと待ってください。今、調べてみます」
ナト達と再会してからの事を報告しつつ、試しに通信鏡を使ってアルさんに有るかどうか聞いたら、思った通り置いてなかった。
予想通りだけどつい肩が落ちてしまう。
そんな俺の方を見て、少し悩んだ後そう聞いてくるクエイさん。
前回からの事を隅から隅まで思い出しても、スノーマジックなんて名前の花を摘んだ覚えはない。
そう言いつつ俺が本当にスッカラカンに忘れてるだけかもしれないし、念の為に『教えて!キビ君』を起動させる。
「・・・・・・・・・やっぱり、触ってないですね。
残念ですが、この花を『ミドリの手』で出して、『キャンセル』の魔法を『コピー』するのは無理です。
と言うか、そもそも今までの事を考えると、『コピー』の魔法陣の形に咲いたスノーマジックを作り出すのは無理だと思います。
今の俺達の『ミドリの手』で作り出せるのは、魔法陣の形にならないタイプだけだと・・・・・・」
「・・・チッ!そうかよ」
『ミドリの手』ボタンが使えないからやっぱりスノーマジックって花は触った事も無いな。
でも『教えて!キビ君』に書かれてるスノーマジックって花の情報を読んで、クエイさんが何に期待していたのか分かった。
スノーマジック・・・
キール氷河の各地に生える、雪の結晶の様な形の花を咲かせる植物。
または1つだけ望んだ魔法を複製でき、1回だけ使う事ができる『コピー』の魔法の魔法陣の形に咲いたスノーマジックの花を樹脂で固めて作り上げた魔法道具の事。
気温や肥料、水分量によって花の形が変わる。
-45℃の気温の中種を濃度3.4%のグナール水に漬け発芽させ、餅雪ほどの柔らかさの土に植え、-12℃の気温のまま定期的に0.8%のニュトシオーネを与えつつ蕾が膨らむまで育て、-6℃の気温で花を咲かせると、40%の確率で『コピー』の魔法陣の形に花が開く。
と言う事らしい。
ここまで細かい情報が書かれてるんだから、ほぼ間違いなくタスクニフジ研究所が関わってるんだろうな。
だからクエイさんはスノーマジックの事を知っていた。
確かに『コピー』の魔法陣の形に咲いたスノーマジックの花を使えば、俺達でもナトの『キャンセル』が使えるだろう。
でも、仮にスノーマジックに触った事があっても、複数の肥料を使い分け、かなり細かい条件を保ったまま育てて。
たった40%の確率でしか咲かせられない『コピー』の魔法陣の形の花を『ミドリの手』で簡単に出せるとはとても思えない。
多分、『蘇生薬』と同じ様に出せる様になるには難しい条件を幾つもクリアする必要があると思う。
「何処かからスノーマジックの種と必要な肥料持って来て、氷木箱と『ミドリの手』を使って育てる・・・
のは無理みたいですね」
「種の方は兎も角、肥料の方はこっちじゃ簡単に手に入らないからな。
素材の希少性とかでグナール水もニュトシオーネも輸出に制限がされてる肥料だ。
ネイ達に頼んでも何時手に入るか・・・」
最初から『コピー』の魔法陣の花を出せなくても、前回野菜を育ててた時の様に『ミドリの手』を使いつつ種から育てたらいいんじゃないか?
必要な肥料も育て方も書いてあるんだし。
と思ってたら、アルさんにハッキリ首を横に振られた。
種なら手に入るかも知れないけど、問題は肥料の方。
既製品は簡単に手に入れられないし、『教えて!キビ君』に書かれてる素材や作り方からして自力で作り出すのはほぼ不可能。
結論、どう頑張っても俺達の『ミドリの手』じゃ『コピー』の魔法陣の形の花のスノーマジックは作り出せない!
「魔法道具屋にスノーマジックが置いてあれば良いんですけど・・・・・・」
「予想ついてると思うけど、この花の魔法道具も置いてないな。
俺の所だけじゃなく、ローズ国の有名な大商店でも扱ってる所は無いと思うぞ?」
「そんなにですか?
確かに『コピー』の花の出来る確率は低い様ですけど、そんなに手に入りにくい魔法道具何ですか?」
「あぁ。
花自体は魔法や魔法道具を使えばこっちでも育てられるからそこまで珍しくないんだけどなぁ。
実際露店でも売ってる所は売ってるしな。
露店通りに通ってたなら多分、兄ちゃんも何度か見た事あると思うぞ?
けど、魔法道具の方は再現が出来ないんだよ。
まぁ、『教えて!キビ君』の情報を信じるなら、再現出来無いのも当然か。
条件が細かい上に厳し過ぎる」
アルさんによると、魔法道具としてのスノーマジックは商人の間でもかなり有名で、色んな所が自分の所で再現して安価で売ろうとしてるそうだ。
でもキール氷河で魔法道具のスノーマジックを下ろしてる一企業。
十中八九タスクニフジ研究所以外、未だに『コピー』の魔法陣の形の花を咲かせられていないらしい。
その結果生まれた失敗作のスノーマジックが露店でも安価で売られているそうだ。
クエイさんがスノーマジックを出せるか聞いたのも、種だけは簡単に手に入るって言われたのもそれが理由。
残念ながら、前回依頼以外でこの世界の花を触った事は無いです。
それが店にしか置いてない花なら尚更無い。
「そう言う訳で、希少な『コピー』の魔法道具は地元のキール氷河以外で取引される事が殆ど無いんだ。
あるとしても、マリブサーフ列島国まで。
こっちまで来るのは稀の稀。
その上その能力と希少性に見合った莫大な値段が付けられてるからなぁ。
これもネイ達に頼んでも直ぐには手に入らないと思うぞ?」
「そう、ですか・・・・・・」
頭を捻りまくってもこれ以上の妙案は出て来ない。
今ルグ達が出来る攻撃手段は一通り試し終わってるらしいし、この世界の人達より戦闘力の無い俺と紺之助兄さんの攻撃じゃ、ルグ達の猛撃を耐え抜いたレーヤの幻影を止められないだろう。
そうなると本当に打つ手なしか・・・・・・
レーヤの幻影をどうこうするって方向では。
「こうなったら、タカハシ達が地下水道から出てきた瞬間を狙おうぜ」
「だな。あいつが強くなった後かもしれないってのは癪だけど、レーヤ様を倒すよりは確実だよな」
「それは・・・やめた方が良いと思います」
地下水道から出てきた瞬間襲おうと言うルグに、ピコンさんがそう頷き返す。
そんな2人対し、俺は恐る恐る待ったを掛けた。
「何でだよ、サトウ。
サトウだってタカハシ達の事、直ぐにでも連れ戻したいだろう?」
「うん。
でも、その作戦は成功率がかなり低いと思うんだ」
確かにレーヤを倒せなくても、ナト達を捕まえられればそれでいいんだ。
だったらルグ達の言う通り、ナト達が地下水道から出てきた瞬間を狙ってもいい。
俺も騙し打ちの様な感じでナトと高橋を『ゲート』に放り込めば、ワンチャンあると思っているんだ。
だけどまぁ、ナトの『ワープ』って移動系の魔法や高橋の『移転の翼』を使われて脱出されたり、俺達を追いかけて逆に真後ろに急に現れたりする可能性も0じゃ無いんだよなぁ。
「幾つか問題があってさ。
1つはナト達が魔法道具屋横の出入り口から出てくるとは限らない事。
ワープ出来る魔法があるなら、何処にでも出れるって事でしょ?
俺達を追いかけて、逆に隠れてる俺達の後ろに急に現れるかもしれないじゃないか」
「それは・・・」
「2つ目はナトが作った『レーダー』の様な魔法がどんな仕様なのか分からない事。
『レーダー』より細かい仕様なら、隠れてる事がバレてしまう。
で、3つ目は」
「湊達の洗脳が解けた事。
その洗脳を掛け直す為に僕達を追いかけさせず、あのお姫様達が湊達を今の本拠地に連れ去るかもしれない。
って事だよね?」
「・・・うん」
そうルグ達に説明する俺の言葉の続きを、真剣な声音で言った紺之助兄さん。
その言葉に俺は、認めたくない思いから少し躊躇いつつも頷き返した。
今、魔女達に対するナトと高橋の不信感はMaxのハズだ。
助手と兵士が俺達襲ってるし、操られたキャラさんがナトの邪魔してるし。
高橋のサポートの為って言うには不信過ぎる行動だ。
あの場で1番危険なレーヤの幻影を対処している間は良いとしても、終わった後が魔女達にとっては問題だろう。
ナト達の意識が正常な状態なら、ナトと高橋 VS 魔女達って構図が起きるかもしれない。
それは魔女達にとっても不都合なはず。
だからまず記憶を消して洗脳し直すはずだ。
だけど、何時俺達が戻って来るか分からない以上、何時までも海月茸農園に居たくないと思うし、キャラさんのゾンビ化が一瞬でも戻った事を考えると、その対処の為にも色々余裕で事を起こせる本拠地。
恐らくウルメールの街に戻るはず。
ナトと高橋の魔法が無くて一瞬で戻れるか分からないけど、騙されたヒヅル国の研究員さん達が作ったワープ系の魔法道具があるはずだし、可能性は十分にあり得るだろう。
「そう言う訳で、ローズ姫達がナト達を気絶させてあの場から魔法か魔法道具でウルメールの街に帰る可能性もある訳だ」
「へぇ。
今、アイツ等、ウルメールに集まってるんだ」
「・・・・・・場所が分かったからって襲いに行かないでくださいね?」
「そんなに心配しなくっても直ぐには行かないさ。
行くならちゃーんと準備してからに決まってるだろう?
サトー君は心配性だなぁ」
「・・・ザラさん。
俺が何に心配してるか、分かっててそう言ってます?」
「勿論、分かって言ってるつもりだよー」
とぼけた口調と表情のザラさんからは本心が読めない。
確かにこの勢いでウルメールに突っ込むのは危険って意味で言ったのもあるけど、ナト達を殺しに行かないでって意味でも言ってるんだからね?
そこ等辺、ザラさんは分かってるんだろか?
いや、分かってても無視しようとしてるのかもしれない。
海月茸農園での体張った説得が功をなしたんだろう。
アルさん達この場に居ない『レジスタンス』のメンバーやコロナさん達協力者の人達も、極力ナト達を生け捕りにする事に一応納得はしてくれた。
けど、それは今の所ってだけで、殺しに行く事を完全にやめた訳じゃ無い。
まだ、言葉が通じると分かったから、僅かな猶予が与えられたにすぎないんだ。
その猶予を終わらせる判断はかなり厳しいだろう。
だからザラさんも、完璧に襲撃準備が整ったら本気で殺しに行くつもりなのかもしれない。
「・・・・・・・・・取り敢えず、そう言う色々の理由で地下水道から出たナト達を騙し打ちするのは難しいと思います」
「だったら、どうするんだよ」
「・・・・・・今はナト達を連れ戻すのを諦めて、しっかり準備を整える」
噛み締めた唇の間から、どうするんだと言うルグへの返答を血の味と一緒に零す。
四郎さんの思いを受信してるのか、冷静な頭が今ナト達を追いかけるのは得策じゃない。
と、焦りと悔しさと不安でグラグラしてる俺の心に反してそう訴えてくる。
分かってる、分かってるよ。
分かってるんだけど、気持ちの切り替えが、やっぱり上手く出来無い。
冷静になればなる程、心がこの現実に引き裂かれそうだ。
「そっか・・・
とりあえず、魔法道具屋の前までは戻ろうぜ。
準備の為にアジトに戻るにしても、僅かな可能性に賭けてタカハシ達を襲うにしても。
そこまで戻らないと話にならないだろう?
それで良いよな、クエイ?」
「あぁ」
飛びだそうとした俺を冷静になれと止めた手前、ルグ達も成功率が低いって分かってる事は無理にする気は無いみたいだ。
それはそうとして、魔法道具屋の近くに戻る必要がある。
俺や紺之助兄さんの事を考えれば、『レジスタンス』のアジトへの出入口は限定すべきだろう。
今は閉じてるらしい魔法道具屋の所か、霊薬の製造場に行く時位に通った所か。
どっちにしろ魔法道具屋の近くに戻る必要がある。
それで、運が良ければその間にナト達に合えるかもしれない。
そしたらダメ元で『ゲート』を使って・・・・・・
「あ。
あの、露店の何処かにスノーマジックがまだ残っている様でしたら、ダメ元で触って『ミドリの手』で『コピー』の花が出せるか試してみてもいいですか?」
「良いんじゃない?
露店通りなら、地下水道に戻るまでに通るし。
時空間結晶使っていて、水晶漬けになっていない店にならまだ枯れてないスノーマジックも残ってるだろうしさ」
アジトに帰る前に少し寄り道してもいいか聞くと、ザラさんがそう言ってくれた。
他の人達も反対する様な素振りも無い。
どころか、どちらかと言えば推奨している様だ。
運が良ければ魔女達の対策が有利になる訳だから、そりゃあOKするよな。
出来れば残っていてくれよ?




