107,関係者以外立ち入り禁止 後編
「ィ、ッツ!!!」
慣れた様に『フライ』で自分と紺之助兄さんを少し浮かせ、威力を殺す為に『スモールシールド』を何重にも掛ける。
そして俺達を助手と兵士から引き離す様に放たれたルグの蹴りを受け、俺達は水きりの石の様に棚田の奥まで飛ばされた。
ルグも本気で蹴ってないし『フライ』で操作したから大分勢いを抑えられたはず。
それでも結構遠くまで飛ばされだし、俺の操作が悪くて紺之助兄さんと一緒に水の中に落ちてしまった。
ナトの魔法で全身の芽が取れても、見えない場所の芽に変わった皮膚がまだちゃんと再生しきれていなかったのか。
その上まるで赤切れをそのままにして洗い物をした時の様に、ジクジクと水に直接触れた場所から広がる様に全身が傷みだした。
1つ1つの痛みはそれほどじゃ無いけど、こう全身で一気に起きるとかなり痛い。
「ゲホッ!ゲホッ!!」
「に、兄さん!!ごめん!!
大丈夫!!?怪我は!!?」
「だ、大丈夫・・・
鼻から水が入っただけ・・・・・・」
紺之助兄さんに怪我は無い様だけど、変な所に水が入ってしまったんだろう。
どうにか痛みに耐え音が聞こえた方を見れば、激しく咳き込む紺之助兄さんの姿。
大丈夫だって言う割には紺之助兄さんは、喉が甘くなりそうな痛々しい音を出しながら何度も咳き込んでいた。
「兄さん、立てる?」
「ありがとう、貴弥。僕は問題ないよ」
何時も紺之助兄さんがやってくれる様に何度も背中を擦っていれば、段々と紺之助兄さんの咳が収まって来た。
水に両手と両膝を浸けたままハー、ハー、と激しい呼吸を繰り返し、間を置く様に唾を飲み込んでもう1度咳き込む紺之助兄さん。
全然大丈夫そうに見えなくて、その背中を擦ったまま声を掛けたら、俺を安心させる様に笑って問題ないと言われた。
「それより、湊達は?」
「そうだ!!ナト!!エドッ!!!」
自分よりナト達の事を気にしろと言われ、慌てて通路の方に目を向ける。
さっきまで俺達が居た場所ではルグとクエイさんが助手と兵士と戦っていて、部屋の奥側では高橋の邪魔をしようとピコンさんとザラさんが戦っていた。
ド素人目から見てもその戦況は最悪で、明らかにルグ達が押されている。
特にピコンさんとザラさんの方が不味い状況で、どんな魔法を使ってるのか。
空中すら自分の有利なフィールドにした高橋1人に翻弄され、2人がかりのピコンさん達の方がガードするのがやっとって感じだ。
そしてピコンさん達よりまだ余裕がありそうなルグとクエイさん。
その2人の方もギリギリの戦いをしているみたいで、ピコンさん達の手助けに行きたくても行けないみたいだ。
魔女に操られたルディさんが本来の実力からは考えられない下手糞なバイオリンの音でサポートしてるせいか、助手達はルグとクエイさんとほぼ互角に戦える様になっている。
その助手達の休みなく交互に繰り出される連携の整った攻撃が厄介すぎて、ルグとクエイさんが抜け出す隙きが全く無い。
これは本当にヤバい奴!!
せめて一瞬でもルグ達が自由に動ける様になれば、ピコンさんとザラさんは助けられるはず!!!
まだルグ達より自由に動ける俺と紺之助兄さんで、どうにかルディさんとキャラさんを操る魔女だけでも止めないと!!
「まッ、うわあ!!?」
「キビ!?大丈夫!!?」
「大丈夫!!
兄さん、気を付けて。
ここだけ、何か急に深い・・・違う!!
体が魔法陣に飲み込まれてる!!!」
急いで戻ろうと一歩踏み出した瞬間。
急に深くなった地面に足を取られて顔面から水にダイブしてしまった。
何で穴何かあるんだ?
俺達が落ちたせいで生えていた海月茸に何か起きたのか?
そう思って急いで顔を上げ足をバタバタさせる。
かなりサラサラした砂状の地面と違って深くなった地面は粘度の高い泥で出来てる様で、どうにか抜け出そうと足を動かせば動かす程逆にドンドン沈んで行ってしまう。
足の力だけでは抜け出せないと分かって躓いた足元を見ると、俺の足は『移転の翼』の魔法陣に吸い込まれていた。
「この!!このッ!!放れろ!!!」
「エド!!危ないッ!!!!」
「ッ!!」
魔法陣に吸い込まれてるのは俺だけじゃなくて、吸い込まれた量は違うけど『移転の翼』の魔法陣が現れた全員が少しずつ魔法陣に飲み込まれていた。
その魔法陣から飲まれた片足を引っ張り出そうと暴れるルグ。
ルグの意識が魔法陣に完全に向いたのを良い事に、操られたキャラさんが腕の盾を投げようとしていた。
俺の叫びが届いたのと、掴まったままのナトが体全体を使ってキャラさんを自分事後ろに押し倒した事。
その2つのお陰か、倒れつつ投げられたキャラさんの盾はルグやクエイさんから少しズレ、ルグとクエイさんが弾かれ転がる様に回避した事で盾は一切2人を傷つける事は無かった。
「エド!クエイさん!!」
「グッ!!」
「わぁああああ!!!」
「ピコンさん!!ザラさん!!!!」
でも、そのせいで2人は完全に魔法陣に吸い込まれてしまった。
その光景に意識が奪われたんだろう。
ピコンさんとザラさんの視線と意識が完全に自分から離れた隙に高橋が2人を転がして、体勢を立て直す暇もなくピコンさんとザラさんも魔法陣に完全に吸い込まれてしまった。
そして、俺の後ろに居た紺之助兄さんも。
「貴、弥・・・・・・にげ・・・」
「兄さんッ!!!!ダメ!!
待って!!!待ってよ!!
兄さん!!兄さぁああああああん!!!!」
慌てて紺之助兄さんを掴もうと伸ばした手が、指先が、後ちょっとで届きそうになった瞬間。
紺之助兄さんは完全に魔法陣の中に吸い込まれてしまった。
何も掴めなかった手が宙を切り、そのままその手に引っ張られる様にまた水にダイブする。
そんな俺を『移転の翼』の魔法陣は容赦なく足から飲み込んでいった。
「ゲホッ、ゲホッ・・・ウ、ッペ!!」
変な所に入り込んだ意外と美味しい水を吐き出そうと咳き込んで、魔法陣に完全に吸い込まれない様に残る上半身をどうにかうごかして岩肌にしがみ付く。
こんな抵抗、気休めにもなりはしないけど、何もしないよりはましだ。
もう、残ってるのは俺だけ。
クソ!!
一体皆は魔法陣に吸い込まれ、何処に行ってしまったんだ!?
いや、どうなってしまったんだよ!!?
コロナさんから聞いた『移転の翼』は1度行った事のある街に行けるワープ系の魔法だったけど、この足元の魔法もそうだとは限らないだ。
変で危険な場所に飛ばされてるかもしれないし、態とSF物の移転事故を起こして紺之助兄さん達を殺してるかもしれない。
「ッ!!キビ!!!」
「ナト!!!
絶対ッ!!!絶対、迎えに来るから!!!
いつも通り、何処に居ても!
どんなに迷子になっていても、絶対、俺がナトを家に連れて帰るからッ!!!
だから、だからッ!!!」
倒れた勢いでキャラさんから解放されたナトが、俺の名前を呼ぶ。
側に行きたいけど、俺ももう駄目みたいだ。
もう、顔位しか残ってない。
それでも、これだけは言わせて?
俺の忘れ物取りに、俺をナトが連れ出して始まった事なんだ。
なら、何時も通り、俺が連れ帰ってやるよ!
俺が行ける場所に居るって分かったんだ。
必ず迎えに行く。
絶対迎えに行くから。
だから、
「待て!!キビッ!!!」
「だから、待ってて?」
距離があっても分かる、魔法陣に完全に吸い込まれる前に見た泣きそうな顔のナトと、その後ろの勝ち誇った魔女の顔。
これはナトとの約束で、覚悟を決めた頑固な俺の誓いなんだ。
今は幾らでも勝った気でいればいい。
でも、絶対俺は諦めないし、絶対お前達からナトと高橋を奪い返す!!!
首を洗って待ってろよ、ルチアナ・ジャク・ローズ!!!!




