106,関係者以外立ち入り禁止 前編
「って、何でお前等、勝手にレーヤの試練参加してんだよ!
それは俺だけでやるべき事だ!!
邪魔するな!!!」
「ハッン!だぁれがお前にやらせるかよ。
おしめも取れてない異世界人は、ガキらしくそこで大人しく指くわえて待ってやがれ」
「何、だとぉ・・・ふざけんな!!!
大人しくしてんのはお前等の方だろう!!!」
「ダ、ダメ!!やめろ、高橋!!!」
クエイさんに煽られ、勢いよく噛みつく高橋。
そんな高橋はいつの間にか消えていた剣の代わりに、隣の棚に右手を突っ込み水を固めた様な剣を作りだした。
もう、完全に嫌な予感しない!!
ドンドン形が整っていく剣を見つつ慌てて止めようと、口と頭以外未だに思い通り上手く動かせない体を引きずって声を掛けながら高橋の元に行こうとする。
でも、俺なんかの言葉がクエイさんに煽られまくった高橋に届く訳もなく、高橋は怒りに任せクエイさんに切りかかろうとした。
「『アサイラム』!」
「ヴッ!!」
でもその剣がクエイさんに届くどころか、一歩でも動く前にナトが魔法を使って高橋を閉じ込めた。
そのせいで高橋は勢いよくナトが張った結界に顔面からぶつかって剣から手を放し顔を抑える。
高橋の手を離れ、完全に水の剣が消え俺がホッと息を吐くと同時に、鼻を赤くし涙を溜めた高橋が結界越しにナトを睨んだ。
「たぁなぁかぁああ!!?」
「キビを困らせるな。
ただでさえ正気を失って無茶する様になってるんだ。
これ以上キビが変な事する様な事起こすなら、俺は全力で止めるからな」
「だから、ナト。俺、正気」
「ダウト」
正気だと言う俺の意見を一蹴りして、高橋の邪魔をするナト。
高橋を止めてくれるのは嬉しいけど、ルグも紺之助兄さんも俺に関する事でナトに同意しないで。
頷かないで!!
俺は!間違いなく!!正気ですッ!!!
「何が問題あるんだよ、佐藤!!」
「いや、クエイさん襲おうとしたでしょう!?
高橋煽ったクエイさんもクエイさんで悪いけど、頼むから物理で戦わないで!!
直ぐ元の世界に帰るんだよ!?
ここでクエイさん達と殺し合いなんかして、大怪我したり返り血だらけで元の世界に帰ったら、高橋の家族、泣いちゃうから!!
倒れちゃうから、絶対ダメ!!
戦うなら同じ様に言葉でッ!」
「戦う事は止めないのかよ」
「止めても無駄って言うか、止めるの無理」
自分を閉じ込めるナトの説得を早々に諦め、そう俺に言ってくる高橋。
ただクエイさん達を襲うなって言っても高橋は止まらないだろうから、高橋の家族の事を出して止める。
それとクエイさん!
頼みますから、息する様に高橋を煽らないでください!!
ルグが咄嗟に口抑えなかったら、更に煽ってたでしょう!?
本当、やめて!!?
「別に俺はこいつ等と戦おうとしてるんじゃない!!
あのレーヤと戦おうとしてるんだ!!
だから止めるな!!」
「いや、レーヤならピコンさん達が倒したでしょ?
高橋じゃ無いから特典貰えなかっただけで、レーヤの試練は終わったハズじゃ・・・・・・」
「何言ってんだ、佐藤?
あの程度の攻撃で、試練をクリア出来る訳ないだろう?」
「え?」
その呆れた様な高橋の言葉とほぼ同時に、大人高橋。
いや、レーヤの幻影を押しつぶした金属の塊の方から、濃い血の様な臭いを漂わせて、金属同士が火花を散らす程激しくぶつかりながら削り合う。
そんな感じの高い不愉快な音が微かに聞こえてきた。
「え、え!?な、何!?何事!!?」
「だーかーらッ!!
まだ終わってないんだって!!
お前等じゃ、絶対アイツには勝てねぇんだよ!!
分かったら、田中!早く『アサイラム』解け!!!
このままじゃ一生このままだぞ!?
それでいいのかよ!!?」
「ッ!『キャンセル』、『アサイラム』!!」
その音は直ぐに部屋全体に木霊する位大きくなって、縦横無尽に赤い直線を走らせながら金属の塊はまるでハサミでティッシュを切る様にバラバラになった。
そしてそのバラバラになった金属の間に立つのは、無傷のレーヤの幻影。
あんな重くて硬そうな金属切り裂いたのに、刀も無事みたいだし。
レーヤの幻影含めて一体どういう構造してんだよ!!
魔法だからって、流石にルグ達のあの攻撃受けて無傷なのは可笑しいだろう!?
そう思っている間にナトが高橋を開放していて、
「待て!!」
の『ま』の字も声に出せないまま、『ライズ』と呪文を唱え高橋は突風の様にレーヤの幻影に突っ込んでいった。
倒したと思ったレーヤの登場に反応が遅れたルグ達は、そんな高橋を止める事が出来ず、追いかけようにも魔法の効果でドンドン早くなる高橋との距離は広がるばかり。
レーヤの試練を乗り越え、これ以上高橋が強くなるのを止めたいルグ達も必死に高橋を追いかけるけど、あのスピードなら多分高橋がレーヤの元に着く方が早いだろう。
ルグ達に止められたけど、こうなったらもう、此処で『ゲート』を使うしか・・・・・・
「え!?え!?今度は何!?」
「その魔法陣は・・・『移転の翼』!!?
高橋!!お前、キビ達に何する気だ!!?」
「俺は何も・・・・・・まさか、レーヤ!!!」
レーヤの幻影が地面に刀を突き刺したのとほぼ同時。
俺と紺之助兄さん、ルグ、ピコンさん、クエイさん、ザラさんのそれぞれの足元に光る魔法陣が現れた。
その魔法陣はまるで影の様に何処に逃げても俺達の足元から離れなくて。
俺達の恐怖心を煽る位、不気味にその輝きを強めていく。
驚愕の叫びを上げ遠く離れた高橋を睨むナトの言葉を信じるなら、この魔法陣は高橋が使う魔法の魔法陣らしい。
でも、立ち止まって振り返った高橋がそれを否定する。
距離が合って全部上手く聞き取れなかったけど、高橋は間違いなく自分は何もしていないと言った。
そしてハッとした様に高橋は勢いよくレーヤの幻影の方を見る。
「兎に角、『キャンセ、ングッ!!?」
「ナト!?」
レーヤの幻影が無傷だったからって、魔女達から意識を完全に外すべきじゃ無かったんだ!!
いつの間にか見えない結界。
多分、ナトの『アサイラム』に閉じ込められていた魔女達が高橋が飛び出すのと同時に脱出していて、キャラさんを操って後ろから拘束する様にナトの口を塞いだ。
「今度こそ本当に、ルチア様達の為にその命、終わらして貰おうか?」
「ッ!!!」
マネキンの様な表情を浮かべたキャラさんが暴れるナトを引きずる様に俺達から少し離し、その間に勢いよく助手と兵士が現れる。
本気で俺達を殺す気だと分かる表情を浮かべ、その勢いのまま俺と紺之助兄さんに向かって拳と槍を突き出す助手と兵士。
本来は物凄く早いだろうドンドン迫ってくるソレがやけに遅く感じる。
でも体が反応出来ていない。
遅く感じても脳も体も回避する為に動く事が出来なくて、心の中が諦めに似た絶望に支配されていく。
「ムグゥウ!!!?
ムゥ!!!ゥグウウウウ!!!!」
「サトウ!!コンッ!!!」
「ッ!!!
『スモールシールド』!『フライ』!!!」
変わらずキャラさんに口を強く押えられたまま何か叫ぶナトの声を打ち消す、俺達の名前を呼ぶルグの力強い声。
その声に絶望も諦めも打ち砕かれて、いつの間にか側まで戻ってきていたルグが兵士の槍の先が助手の方に向く様に蹴り飛ばす姿を見つつ、押し出される様に俺の口から呪文が飛び出していた。




