104,話し合い、騙し合い、バカし合い 7言目
「『キュア』!!『フレッシュ』!!!
キビ!キビッ!!しっかりしろ!!!
クソッ!!何で魔法が効かないんだ!!!」
「ガッ、ハァア・・・・・・
ゲ、ホッ・・・・・・・・・」
ヤバい。
覚悟はしてたけど、思ってたより・・・
かなりキツイ・・・・・・
『状態保持S』の効果が消えると、こんなに酷いパニック起こすんだ、俺。
途中から何か思い出しかけてドロドロと冷たく気持ち悪いモノに支配されて。
自分が一体何を考えてるのか、全く分かんなくなった。
スマホが戻って消えていた音も感覚も戻って来た今、その『ナニカ』も思い出せないし、自分がパニックを起こしていたって事実しか認識できない。
「キビッ!!!」
「・・・・・・・ハァ・・・ハァ・・・
ハァ・・・・・・・・・グッ・・・・・・
ナ、ト・・・にー、さん・・・?」
「ッ!!この大馬鹿ッ!!!
何やってんだよ!!!本当、貴弥の馬鹿ッ!!!
阿保!おたんこなす!!!」
何時の間に自分は地面に倒れてたんだろう。
重い体を無理矢理起こして落ち着いた視界と頭でどうにか辺りを見回せば、俺の側に来て何か叫んでいたのがナトと紺之助兄さんだって言う事が分かった。
それと視界に入った俺の手。
そこには所々刺さった棘の様に、小さな芽が生えていた。
多分この芽は、全身の痛痒さからして服で見えない場所や顔にも生えてるんだろう。
その手から少し視線をずらせば、さっきまで俺の顔が合った場所近くに広がる血の水溜りの様な赤い花の山。
その山を作る花の量から、パニックを起こしていた間、俺がかなり花を吐いた事が分かる。
此処に来る前にも吐きまくったから、吐ける物は何もないはずなんだけどなぁ。
一体この花は俺の何が変わって吐き出されたものなんだろう?
そうどうでも良い事を、苦しさから来る生理的な涙で歪んだ視界と、相変わらず気持ち悪い口の中。
それと全身を襲う痒い様な痛みに上手く体を動かせない俺は、涙でイケメン度を下げまくった紺之助兄さんに怒られながら考えていた。
うん、分かってる。
これ、完全な現実逃避だよな・・・
「・・・ナト・・・・・・高橋・・・・・・
これで、信じてくれた?」
「馬鹿!!!
何でまず気にするのそこなの!!?
自分が死にかけた自覚持ってよ!!!
これ以上、僕達を不安にさせないでッ!!!」
ごめん、紺之助兄さん。
でも俺は、そっちの方が大切なんだ。
心配して怒ってくれるその思いを踏みにじる様で申し訳ないけど、話進めさせて?
そう目で紺之助兄さんに訴えて、ナトに向き直る。
「もう1度聞くよ。信じてくれた?」
「だから!!」
「俺は、2人を。
ナトと高橋の洗脳を解いて、俺達の世界に連れて帰れるなら、何だってやる。
命以外だったら、何だって犠牲に出来る。
そう言う覚悟で、ここに居るんだ。
お前達を連れ戻せるなら、腕や脚の1本や2本、全身の皮だってくれてやる!!!!
こんなもん、これ以上ナト達が犯罪行為を強要されずに済んで、連れ戻せるなら、安いもんだ!!!
連れ帰るまで、幾らでもくれてやる!!!
俺の頑固さ、舐めんなッ!!!」
持ってくなら持ってけ!!!
そう叫んでまた咳き込む。
事前の打ち合わせ通り、いつの間にか四郎さんが俺のスマホを戻してくれたから、今度は花は出て来なかったけど。
でも、喉の異物感と口の甘さは中々無くならない。
と言うか、高橋はどこだよ。
歪んだ視界が安定してきて、見回したら居ると思った高橋が居ない。
スマホ、飛ばす前までは確かに目の前に居たんだけどなぁ。
ナト達側のメンバーの中で、高橋だけが忽然と消えていた。
「あ、居た。
何時の間に高橋、あんな所に行ったんだ?」
「馬鹿!!高橋がキビのぶん投げたスマホ取ってきてくれたんだよ!!!」
「え?あ・・・あぁ、そうなんだ。ありがとう」
辺りを見回し、まさかと思いつつ後ろを振り返ったら。
いつの間に下がった刀のある当たりの部屋の奥の地面に高橋が転がっていった。
俺のスマホは四郎さんじゃなくて、高橋が触れて戻してくれた様だ。
と言うか高橋の周り、何かキラキラしてないか?
かなり距離のある此処からじゃ良く分からないけど・・・・・・
目元に残った涙のせいで、月光藻の光がそう見えるだけ?
「・・・まぁ、いいや。
それより、なぁ、ナト。帰ろう?
俺達と一緒に元の世界に帰ろうよ?」
「ッ!そ、れは・・・・・・」
「出来ない何って言わないで。
叔母さんも叔父さんも、ナトがこの世界に来て。
凶悪な事件に巻き込まれたって分かる形で行方不明だって言われて、ずっと泣いてるんだよ?
ナトが死んじゃってるかもしれないって、不安でご飯もまともに食べれなくて、ドンドンやつれていってるんだ」
「・・・嘘だろう?あの母が?」
「うん、あの叔母さんが。
その位、皆ナト達の事心配してるんだ。
皆探してるんだ。
紺之助兄さんも大助兄さんも、東京から戻ってきてくれて、ずっとナトを探すチラシ、配ってくれてる」
親しい人間の体から草が生えてくる姿は、思った通りナトにとってかなりの衝撃だった様だ。
高橋の方は分からないけど、ナトの目は完全に元に戻ってるし、誰かの魔法で閉じ込められてるのか。
見えない壁を叩いて何か叫んでる魔女達は、こっちに来れない様だ。
だから、邪魔するものは何もない。
今の内にナトの説得を完遂させよう。
そう思って俺はそう声を掛けた。
俺達の世界で今ナト達がどういう扱いになっているか。
そして、それに対して叔母さん達や俺達がどうしてるか言えば、躊躇い気味だったナトの顔に目に見えて動揺の色が広がっていった。
「この世界の事は、この世界の人達でどうにかするべきなんだ。
俺達異世界の人間は、この世界の問題に深く関わるべきじゃない。
だから、戻ろう?帰ろうよ。
帰る方法は俺が持ってるから」
「・・・・・・・・・」
「俺の魔法はこの世界と行き来出来る物なんだ。
時間だってある程度選べる。
どうしても納得出来ないなら。
どうしても、この世界の問題が気になるなら、俺達の世界に戻って叔母さん達とちゃんと話し合ってからもう1度くればいい。
高橋もそうだ!
ちゃんと家族を納得させてからでも遅くは無いだろう!!
ちゃんと俺達を納得させてから、満足出来るまでこの世界の事実を調べればいい!!
だけどそれは、今、絶対やるべき事じゃない!
騙されたままその手を血に染めて、背負わなくて良い。
背負う必要何って最初から無い命と責任背負ってまで、ずっとこの世界に居る必要なんって無い!!
ナト達がユマさん達と戦う必要だって。
襲う必要だってどこにも無いんだッ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。
キビは変なとこで意地張るからなぁ。
俺達が帰んなかったら、今みたいに自分の体、何度でも犠牲にするだろう?」
「するよ。
それがお前達を連れ帰るのに必要なら、する。
もう、決めてんだ。
何が何でも、絶対ナトと高橋を生きて連れ帰るって。
俺の頑固さ、ナトなら良く分かってるだろう?」
「・・・分かってるよ、嫌になる位に。
・・・・・・本当、キビはしかたないなぁ。
分かった。1度、帰るよ。
高橋もそれでいいだろう?」
たっぷり間を置いて、諦めた様な呆れ声で1度帰ると言ってくれたナト。
よっしゃー!!!
体張った甲斐があったぜ!!
スマホが戻って膜が正常に出来上がったからか、ナトが掛けてくれた魔法が今度は上手く効いて体中の芽が消えた。
でも口の中の甘さはそのままだし、重く痺れた体もまだ上手く動かない。
だからその分、内心でそう両拳を振り上げて叫んだ。
漸く、漸くナト達を連れ帰れる。
問題はまだ山済みだけど、それは今は良い。
1度2人を連れ帰ってから考えよう。
そう思ってある程度心の中で雄叫びを上げてからホッと息を吐いて。
ゆっくりとだけど顔を上げれば、見えない壁の中ナトのその決定に心底絶望した顔をしてる魔女達の姿が飛び込んできた。
「ごめん、ルチア。1度、元の世界に行ってくる」
「待って・・・・・・
待ってください、青の勇者様・・・・・・
行ってはダメです・・・」
「ごめん。必ず、戻って来るから・・・
少しの間だけ、待ててくれ」
「青の勇者様・・・・・・」
泣きそうな弱々しい声で、そうナトに訴える魔女。
あんなに嘘吐かれても、まだ仲間だと思ってる魔女のその姿に、罪悪感が湧いたんだろう。
ナトは直ぐまたこの世界に戻ると言った。
残念だけど、そんな事させない!!
ナト達が直ぐに戻ったら、また魔女達に利用されるだろうがッ!
そんな事、絶対させないからな!!
もしまたナト達がこの世界に来るとしても、それはルグ達が全部の事件を解決した後だ。
上手く時間をずらして、ルディさん達を助けて、ローズ国民全員ゾンビから戻して。
魔族と人間の国で平和で平等な条約が結ばれた後だ。
『勇者』なんって要らないって、全力で証明出来る状態が整った後の世界にしか行かせないからな!!!
そう思っていたんだけど、案の定。
またもや世の中そんなに甘くない。
きっとこの世界の神様は、俺達の事が反吐が出る程大っ嫌いで、目に入れても痛くない程魔女達が大好きなんだろう。
本当に居るなら、俺の方がアンタに向かって反吐を吐き出すよ!!
いい加減にしやがれッ!!!!てさ。




