103,話し合い、騙し合い、バカし合い 6言目
「ねぇ、湊、高橋君。
そのカラコン、全然似合ってないよ?
特に湊のオッドアイ何って、ナンセンス。
湊のセンスが悪いのは良く知ってるけど、流石にそれは見過ごせないな?」
「はぁ?何言って・・・・・・ッ!」
「君達はそんな真黒な色より、普段の自然な明るい色の方が似合ってると思うよ?」
カラコン何かしてない、と言おうとしたんだろう。
『クリエイト』で作り出したらしい手鏡を持って俺達の近くに来た紺之助兄さんの言葉に、高橋が反論しようした。
でもその言葉が、紺之助兄さんが向けた手鏡の中の自分に意識が向いて途中で止まる。
「何で・・・・・・
何で俺の目、真黒に・・・・・・
カラコン何ってしてないのに、何で・・・」
「少し前に言っただろう?
『誰かに操られてたり、酷い病気の後遺症が残ってるとかの状態異常があると、目の色が変わるんだ』って。
自分でその色に変えたんじゃないなら、操られてるからにそんな色になってるんだろう」
「ちが、違う!!
此処に来るまで俺達の目は何時も通りで!」
「そうです!
逆なんですよ、勇者様。
今、勇者様方はこのモノ達に洗脳されそうになっ
「何、言ってるん、だ。
タカハシも、タナカも、ボクが出会った、最初から、目の、色、黒かったよ」
魔女の洗脳が緩んだから気づけたんだろう。
今まで自分達の目の色が可笑しかった事に気づいていなかったと叫ぶ高橋。
それを聞いてそれ幸いと、魔女は俺達の方がナト達の方を洗脳していると言おうとした。
でもなぜか、キャラさんが辛そうに途切れ途切れ、その魔女の言葉を遮る。
そんな彼女が俺の方を向く様に上げた酷く悪い顔には、幾つもの大粒の汗と不敵な笑みが浮かんでいた。
「ッ!貴女は・・・・・・」
そのキャラさんの表情と目に驚愕から言葉が詰まる。
その片目は、軽く混ぜられたミルクとコーヒーか絵の具の様に、紫と茶色がグルグルと混ざり合っていた。
この人、完全じゃ無いけど自力でゾンビ化を解いたって事か!!
使われたゾンビ毒の量が少なかったのか、毒や精神に作用する魔法に耐性があるのか。
いや、この人が本当にミルちゃんのお姉さんだとすると、血筋的に『状態保持S』の様なスキルを持っているのかもしれない。
ただ、完全にゾンビ毒に勝てる様な高いランクじゃ無かっただけで。
俺達の言葉なのか、魔女達の余裕が無くなってきた事なのか、それともこの場所が特殊なのか。
何が切っ掛けか分からないけど、元々持っていた耐性を底上げする何かが合って、このタイミングで少し解く事が出来たみたいだ。
「キャラ君!!
何言ってるんですか!!?
今言って良い冗談と、悪い冗談があります!
勇者様達の目は此処に来るまで、黒じゃ無かった!
今直ぐ、そのふざけた冗談は訂正しなさい!!!」
「グッ、ぅうう・・・・・・
冗談、だ、じゃない!
そいつ等が言ってる事は、全部本当の事だ!!
最初からそいつ等の目は黒かったし、ボク達は
「キャラ君ッ!!!!」
魔女が杖を強く握ってゾンビの女性を叱る様にそう言うと、ゾンビの女性の顔が酷く歪んだ。
多分魔法で操り直そうとしたんだ。
魔女の指示通り、
「冗談だよ」
とでも言わされそうになったんだろう。
でも、キャラさんはその指示の魔法を振り切った。
自分が言った事は冗談じゃない!
俺達が言った事は全部本当の事だ!!
そう紫色が増え続ける目を見開いて叫ぶキャラさん。
キャラさんの名前を魔女が鋭く叫んだのが決定打だったんだろう。
キャラさんの目は出会った当初通り、完全に濁った紫色に汚染されてしまった。
「なぁ、ナト、高橋。
俺達の言葉は信じられなくても、仲間の言葉は信じられるだろう?
あんなに必死に冗談じゃない、本当の事だって訴えた仲間の言葉も疑うのか?
仲間が信じられないのか?」
「ッ!そ、そんな事は・・・・・・」
「なら、信じてくれるよな?
お前達が俺達と此処で再会する前から、目の色が変わっていたって。
また嘘を吐いたローズ姫の言葉と、今まで『嘘』をつかなかった仲間の言葉。
お前達はどっちを信じるんだ?
どっちの方が信憑性あるって言うんだ!?」
キャラさんのその目が完全に紫色になるまでの少しの間、何かを訴える様なその目が俺を射抜いた。
きっと間違いなくまたゾンビ状態にされたキャラさんは、魔女の望み通りナト達の目の色の事も自分達がゾンビにされた事も間違いだ、と言わされるだろう。
だから、キャラさんが内心で魔女の魔法と戦っている内に、俺はキャラさんの努力を無駄にしない様にそう言った。
俺達の言葉全部を信じてくれなくてもいい。
でも、せめて自分達の目の色が俺達と出会う前から変わってしまっている事だけは。
自分達が魔女に洗脳されてる可能性だけでも信じて貰わないと!!
それがダメでも、魔女への不信感を募らせる事だけは絶対してやる!!
「・・・洗脳されて目の色が変わると言うなら、貴方はどうなんですか?」
「・・・・・・そうだ・・・そうだよ!
お前はどうなんだよ佐藤!!
お前の目の色が赤くなってるのは、魔王達に操られてるからじゃないのか!!?」
「さっきも言っただろう?
俺のこれは、病気の後遺症だって。
御覧の通り、『図鑑』にもそう書かれてる」
「信じられるか!!!
俺達を騙す為に。
混乱させるために、態とその情報のページを出してるんだろう!?
そうなんだろ!!?なぁ!!!?」
「何度も言ってるだろう。
なら、自分で調べればいい、って。
どうぞ。
俺達は何も抵抗しないから、好きなだけ撮って調べろよ」
杖を握り直し、ゾワゾワする気持ち悪い声でそう聞いてくる魔女。
その言葉を聞いて俺の方が操られてると、薄くなってきた瞳の黒色を濃くしながら言う高橋に、自分のスマホの画面を見せながらそう言うけど、やっぱり信じてくれない。
魔女の洗脳が強くなったせいか、その吐かれた言葉と剣を構え直す態度は、どことなく威嚇する動物の様だった。
洗脳が強くなり過ぎたせいで人間性や理性も薄くなっている気がする。
ヤバいな。
このままだと無抵抗な知り合いを襲わないって良心も、どこまで持つか。
このまま魔女の洗脳が強くっていったら、折角回避できた戦闘が始まってしまう。
「・・・・・・・・・・・・はぁ・・・よし!」
ナトと高橋の不信感もかなり募って来たし、キャラさんも抵抗してるし。
だから魔女も、キャラさんの目覚めた自我を抑え込んで、高橋1人を操るのだけで手一杯なんだろう。
ナトを操る事まで出来ていない。
そのお陰か、頭痛の痛みが引いて来たらしい、漸く目を開けられたナトの両目の色は、大分本来の色にかなり近くなってきていた。
右目は完全に元の綺麗な明るい茶色に戻っているし、左目も濁った焦げ茶色って位。
あと一歩でナトの洗脳は解けるハズ。
なら、今が切り札を切るベストなタイミングかもな。
恐怖からドクドク早まる心臓を、長めの深呼吸で落ち着かせ、甘かった覚悟を決め直す。
「俺達の言葉も信じられなくて、自分で調べるのも嫌だって言うなら、俺が花なり病だって証拠。
嫌でも見せてやるよ」
「キ、ビ・・・?おま、え、何するき・・・・・・」
「まさか、サトウ、お前!!
バカッ!!!やめろ、サトウ!!!!」
「『アタッチマジック』、『フライ』!」
完全に引かない痛みに耐えながら足元で不安そうに俺を見上げるナトも、俺がやろうとしてる事に気づいて叫ぶルグも無視して。
俺は『アタッチマジック』を使って『フライ』を掛けた自分のスマホを思いっ切り真上にぶん投げた。
そのまま魔法が消える前に、ルグのジャンプでも届かない位高く上げ、吊るされた刀がある奥へ飛ばす。
俺からスマホが離れて何処まで飛ぶか。
分からないけど、少しでも俺の膜に影響が出る範囲まで行ってくれたらいいな。
「なぁ、知ってるか?
俺達、この世界にとっての異世界人はスマホが無いと生きてけないんだ。
無いとスキルや魔法が使えなくて、死ぬ。
何かを調べるだけじゃない。
生命維持装置でもあるんだよ、あのスマホは。
だから・・・・・・ゴホッ!!
ゲ、ッホ!!ゲホ、ゲホ!!ゴ、エェエエ!!!」
「キビ!!!?」
あぁ、早速効果が出てきた。
喋っている途中で急に現れた、気持ち悪い位の甘さと喉に何か詰まる様な苦しい感覚。
その苦しさと気持ち悪さから解放されたくて、口を押えながら吐く様に咳き込めば。
シットリとサワサワした幾つもの花弁の感触が口内と手に伝わった。
俺が咳き込めば咳き込むほど溢れ出てくる、新鮮な血の様な赤い花。
口を押えた両手に収まらなかった、その小さなアザミの様な花が零れて地面に転がる。
「ヒッ・・・グゥ・・・・・・」
それと同時に、元の世界で感じたのと同じ、寒気と痛みと恐怖心がジンワリと俺を侵食していく。
痛い、
苦しい、
寒い、
怖い、
嫌だ。
たった5つだけの不愉快な感情が口から零れる花と共に体の奥から溢れ出てきて、上手く呼吸が出来なくなる。
音の消えた歪んだ世界。
痺れ出した体から感覚がドンドン失われて行って・・・
何かがフラッシュバックする。
嫌だ、思い出したくない、知りたくない。
思い出すな思い出すな思い出す!!
死にかけた記憶何って。
自分の体が草の塊になった記憶何って、思い出すなッ!!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!
だれか・・・たすけ・・・・・・




