102,話し合い、騙し合い、バカし合い 5言目
「・・・怖いの?」
「ッ!!な、何が!!
俺達が何に怖がってるって言うんだよ!!!」
「事実を知るのが。
自分達が信じ込まされていた甘い嘘が壊れる事が、怖いのかって聞いたんだ」
嘘。
怖がってるのは、俺の方だ。
覚悟を決めたつもりだけど、甘かったな。
ナトに嫌われるのも、傷つけるのも、やっぱり怖い。
ごめん、ナト、高橋。
お前達を責める事言って。
本当に、ごめん・・・・・・
そう恐怖と罪悪感で潰れそうな内心で謝りまくって、隠しきれない内心を表した様に若干震える声で強く責める様に言葉を吐く。
操られてるナト達が1番悪い訳じゃ無い。
1番悪いのは元凶の魔女達だ。
だからこんな風にナトと高橋を責めるのは間違ってる。
それは、何より俺が1番分かってるんだ。
でも、説得の素材が少ない今、洗脳を完全に解く為にはもう、こうでも言うしかないんだよ。
泣くな、表情を変えるな、弱気な本心を気づかせるな。
もう、やめよう?
と弱気になる一方の自分自身を無理矢理叱責し、そう何度も自分の心に言い聞かせて、言葉を吐く。
これは四郎さんに頼っちゃダメだ。
嫌で怖くてどうしようもなくても、自分でやり遂げないと!
「意識の無い女の子、無理矢理連れまわして、無実の人達や大切な家族、無理矢理傷つけさせて!!
沢山の人や動物を不必要に殺して、その手を血に染めた!!!
食べる為でも、自分達の命を守る為でも、素材がどうしても必要だった訳でもない!
寧ろ、自分達が不必要に襲ったから、その人達や魔物達は自分達の命を守る為に反撃したんだ!!
その事実から目を背けたいから、ボタン1つで分かる事を調べようとしない!!
動こうとしないんだろう!!?」
「違うッ!!!
俺達は目を背けてない!!
逃げてなんか、怖がってなんかいないんだッ!!!
大体、俺達が倒してるのは魔族や魔物だけだ!!
この世界にとって害悪な、悪いもん倒してこの世界を救おうとしただけだ!!
俺達は人殺しなんかじゃない!!!
それに、キャラやラム達だって・・・・・・」
「人殺し、何だよ・・・
ローズ姫達に何言われたか知らないけど、ルグ達魔族は唯人間と少し違う器官をもって生まれた『人』だし、魔物だって『動物』の一種だ!
誰かに作られたロボットやゲームのキャラなんかじゃない!!
俺達と変わらない、必死に今を生きてる感情も心もある、唯の生き物だ!!!
絶対害悪なんかじゃない!!
魔族や魔物だからって、ローズ姫達にとって都合が悪い存在だからって、無暗矢鱈に殺していい存在なんかじゃないッ!!!!」
確かにユマさん達の祖先は1万年前の魔王達に作られた存在だったよ?
でも、今は違う。
この世界の環境に適応して進化していった、極々普通の『生き物』の一種でしかないんだ。
「ルグ達だって、笑って、泣いて、怒って。
好きな物も、嫌いな物もあって。
傷つく心だって、何かを考える頭だってある。
大切なものを守りたいって気持ちだって持ってる!!
そう言う、何処にでも居る、極々普通の唯の『人』なんだ!!!」
お前達もそう言うルグ達の姿、見ただろう!?
誰かが設定したプログラムなんかじゃ表現できない、ルグ達の必死な姿をッ!!!
そう叫べば、ジリリと1番前に居た高橋が口をパクパクさせ少し後ろに下がった。
そんな高橋を追い詰める様に、俺は一歩前に出る。
「見てない、知らない何って言わせないからな。
お前達は間違いなく、見てるんだよ。
知ってるんだ」
「あぁ、そうだ。
お前達は僕やミルちゃんを助けてくれたネイちゃんや先生の姿を、行動を見てるんだ!!
そいつ等に連れ去られたサトウ君を助けに1人で城に乗り込んだ、ルグ君の姿を見てるんだ!!!」
「そのスマホを使えば一発なんだろう?
否定したいって言うなら、目に見える証拠を出しやがれ!
自分達が臆病なバケモンじゃねぇって言いてぇなら、そん位とっととやりやがれってんだッ!!!」
後ろから、そう言うクエイさんとピコンさんの怒気と殺気が混じった野次が飛ぶ。
ルグは教えてくれなかったけど、コロナさんが教えてくれた。
魔女達に襲われた俺を助けようとして、ルグはあの目の傷をナト達に負わされたって。
そのせいで、ルグは何日も生死の境を彷徨って、左目を失った。
俺のせいでルグは・・・・・・
そう思ってタイミング見計らって謝ったら、逆に怒られた。
「サトウのせいじゃないから謝るな。
寧ろ、サトウのお陰で左目を失うだけで済んだんだぞ?
何度もサトウが助けてくれた。
だから、オレは今も此処に居られる。
生きていられてるんだ」
って。
元々戦いの才能があったのか、それとも魔女達に作らされたスキルのお陰か。
ローズ国城でルグを追い詰めた高橋の剣は、間違いなくルグの急所を狙っていた。
たった一撃でルグの命を奪えたその攻撃が弾かれる様に不自然にズレたのは、俺のお陰だとルグは言う。
その後高橋達とまた戦ってルグ達が生きていられたのも、俺のお陰だとも。
違う俺のお陰なんかじゃない。
ルグを命を救ってくれたのは、ウォルノワ・レコードの壁の仕掛けを追加した人だ。
ルグが自分の国に帰る前だったから、『往復路の小さなお守り』が命だけは助けてくれたんだ。
俺の力じゃない。
それでも俺のお陰だとルグは言ってくれる。
本当ルグは、苦しくなる程、優しくて、良い奴だよ。
「・・・・・・なぁ、ナト。
お前、本当は自分達が間違ってるって。
自分達がやってる事は『悪い事』だって、ずっと前から気づいてたんだろう?」
「何、言ってんだよ、キビ。
俺達が悪い事何って・・・・・・」
「じゃあ、何で左手、こんな事になってるんだよ」
「ッ!放せ、キビ!!!」
「嫌だね」
俺達の話を聞いて左手首を掻き壊していた。
右手の爪全部、自分自身の血で赤く染めたナトの右腕を掴み引き離す。
ナトの左手首はかなり酷い有様で、かさぶたが出来上がる前に掻き壊し過ぎたせいか、赤くグチャグチャの痛々しい状態だった。
「『ヒール』・・・・・・
はぁ。またお前はこんなんにして・・・
漸く前の傷跡、綺麗になってたのに、何やってんだよ?
なぁ、ナト?
お前が左手首、こんなんにするのは嫌な事があったか、認めたくない事実に気づいた時だろう?」
腕を掴んだまま、何度か『ヒール』を掛ける。
ここ数年、この悪癖は収まっていたんだけどなぁ。
叔父さんから引き継いでしまった悪癖。
ナトは強い不安やストレスを抱え込み過ぎると、言葉に出来ないSOSの代わりに左手首を掻き壊してしまうんだ。
今俺達が言った言葉でこうなったとは思えない、長い時間をかけてつけられた痕。
その痕だけで、この世界に来てからナトが何度も左手首を掻き壊していた事が分かってしまう。
全く。
引き継ぐのは味や趣味の好みと、見た目だけにしておけよ。
どうしてこんな悪癖まで引き継ぐんだか。
ナトが悪いんじゃないってのは分かってるんだけどさ。
きっとこれは俺の悪癖なんだろう。
その『ヒール』じゃ完治させられない痛々しい傷を見て、昔からつい思ってしまう悪態を、いつも通り久々に心の中で吐き出した。
「高橋達が消えたり、無理矢理戦わされたり。
あぁ、何もかも違うこの世界に無理矢理連れて来られた事もそうか。
そう言う理由でお前がストレスを溜めていた事は分かる。
でも、それだけじゃな無いだろう?」
高橋達は何度見ても慣れないだろうナトの痛々しい傷に声も出ない様だし、ナト自身は何も言わない。
でも、ナト達と一緒に行動していたコロナさんの話的に、何かに気づいた時にもナトの悪癖は起きてるんだ。
正確に言えば、魔女達に不都合な事実に気づいた時に起きる頭痛のせいで悪癖が起きてる。
「なぁ、ナト。
お前この世界に来てから頭痛が良く起きてたんだってな?
その頭痛は本当に慣れない魔法を使った代償だったのか?
その頭痛が起きた時、お前は何を考えていた?
・・・・・・お前達が倒した魔物や魔族は、その時何をやって、何を言っていた?」
「何・・・を?ッ、ィ・・・・・・・・・」
放したらまた掻き壊しそうだから腕は掴んだまま、真っ直ぐナトの目を見てそう聞く。
ザワザワと黒と琥珀が混じり合う瞳が揺れ、ナトは左手で頭を押さえながら蹲った。
酷い痛みに耐える様にきつく目を閉じ、脂汗を浮かべ、小さく呻く。
そんなナトの姿を見て、俺はナト自身の悪癖と魔女からナトを守る様に腕を掴んだまま少し移動して、魔女を睨んだ。
「いい加減、ナトを苦しめるの、やめていただけません?」
「何の事でしょう?意味が分かりません!」
「ナトの頭痛の事です。
貴女に操られてるのが原因で、ナトの頭痛は起きてる。
貴女達に不都合な事実にナトが気付きそうになる度に、貴女は洗脳の力を強め、ナトの頭痛を起こしてる」
「何を言い出すと思ったら・・・・・・
そんなの唯の言いがかりだ!!
ルチア様が勇者様方を操ったって証拠が何処にあるって言うんだ!!!」
「現れてるでしょう?
ルディさん達と同じ様に、ナトと高橋の目に」
惚ける魔女にそう言えば、すかさず助手が噛みついて来た。
冷静に言葉を返してる様だけど、2人共薄っすらと冷や汗が浮かんでる。
洗脳が解けかけてる今、下手に動いたり、高橋の指示に反して俺を襲ったりしたら。
魔女達が『悪い奴等』だって分かって、ナト達の洗脳は完全に解けてしまうだろう。
そうなったら高橋達は自分達の『使い勝手の良い兵器』から、自分達にとっての『最大の敵』に早変わり。
2人の実力を良く知ってる魔女達は、それだけは絶対避けたいはず。
だから、魔女達はもどかしい思いをしながらも動くに動けずにいるんだ。
このチャンス、俺達が見逃すはずないだろう?




