100,話し合い、騙し合い、バカし合い 3言目
「知ってるか、ナト?
ナトが使ってるそのカバン、俺が作って、1度お前達を『召喚』する生贄として、元の世界に返されるまで、ずっと使ってたカバンなんだ」
「コレをキビが?
そんな信じられるかよ。
それも、魔王達に言わされてるんだろう?
これはルチアが用意したものだ。
魔王達と一緒に居たお前が使ってた物の訳あるか!」
「本当だよ。
この世界に来た最初の日に、自分で素材集めて、雑貨屋工房さんで布や時空間結晶の板、作って貰って。
俺が作ってずっと使ってた。
俺、ルグ達のお陰で、自力で元の世界に帰れる魔法教えて貰えてさ。
そのカバン、ルグに渡して帰ろうとしてたんだ。
でもその日にヴェールダンス達、ローズ国兵に襲われて、カバンも奪われたんだ」
それでリンチされて元の世界へ。
そう俺が言えば、ナトは全く信じてない感じで、
「それで?」
と言う。
チラリと魔女達の方を見れば、余裕そうな顔。
やっぱり、メモ帳は依頼書と一緒に処分されてるか。
あぁ、それにアレは俺のポケットからカバンと一緒に盗んだ物だからなぁ。
あの表情的に、カバンの中に残ってるだろうと思った内の1つも処分されてるかもしれない。
でも、もう1つの方なら、多分残ってる・・・
と思う。
「だから、その証拠が残ってる。
ナトはカバンの中、ちゃんと調べた?
その中には、その時奪われた俺の財布と、ルグへのお礼として用意したお弁当が入ってるんだ」
これは賭けだ。
コロナさん達の話からして、魔女達は俺を襲って直ぐナト達を『召喚』してカバンを渡したんだと思うんだ。
だから、中身の1部はそのままの残ってるハズ。
でも、もしかしたら、その短時間の内にメモ帳と一緒に残ってた物全部、処分されてるかも知れない。
でも、もしかしたら・・・・・・
そう言う思いで、不安を隠す様に言うと、ナトが慌ててカバンを漁り出した。
「だ、ダメです!!調べては、ダメ!!
青の勇者様!
敵の言葉に惑わされないで下さい!!!」
「何で?
唯調べさえすれば、俺が嘘吐きかどうか分かるのに、何で止めるんですか?
良く言うでしょ?
やましい事が無いなら、堂々としてれば良いって。
そのカバンはローズ姫、貴女が用意した物何でしょ?
それが本当に嘘じゃないなら、ナトを止めずに堂々としてればいい。
それを止めるって言うなら、自分がナト達に嘘を吐いたって自白してる様な物じゃないですか?」
「このッ!!
黙って聞いてれば、好き勝手言って言いやがって!!!」
「流石にそこまで言われたら、ボク達も我慢の限界だね。
大人しく黙ってて貰おうか?」
カバンの中を調べるナトを必死に止める魔女。
あんなに必死に止めるって事は、財布やお弁当がカバンの中に残っているって事だよな。
だから、魔女は嘘吐きの怪しい奴だってナトと高橋に伝える為に、そう言ったら。
怒りの声を上げた助手の影に隠れて、ヒッソリと魔女が杖を振るうのが見えた。
それはゾンビの女性を操る為のものだった様で、ゾンビの女性が『我慢の限界だ』と言わされながら腕に着けた小さな盾を投げてくる。
「グッ!!アッ!!」
「サトウ!!?この放せ、クエイ!」
「ザラさんも放してッ!!!
貴弥!!貴弥ぃいいい!!!!」
約束通り、クエイさんとザラさんがルグと紺之助兄さんを抑えていてくれたんだろう。
体中に襲い掛かる絶え間ない痛みに、目をきつく瞑って耐える俺の耳に2人の悲鳴の様な声が届く。
心配してくれるのは、嬉しいよ?
だけど、お願い。
今だけは、俺を助けないで。
咄嗟に対応出来なかったてのもあるけど、この攻撃を受け続けるのは半分位は態となんだ。
「ッ!『アサイラム』!!!」
ゾンビの女性が操る盾を、ガードする事も、避ける事も、『スモールシールド』を張る事もせず。
唯々無防備に受け続けていると、ナトが結界の魔法を張って助けてくれた。
カンッ!と硬い音を立て、ナトが張った結界に当たり、地面に落ちる盾。
その音を聞いて、痛みの限界が来た俺は、地面に倒れた。
「貴弥ッ!!!貴弥、大丈夫!!?」
「ぅ、イッ・・・・・・だ、大丈夫。
俺は、大丈夫だから、攻撃しないで・・・・・・」
「何言ってんだ、サトウ!!!
こんなッ。やられっぱなしでいいのかよ!?
何で、何もしないんだ!!!」
「いいからッ!!!
まだ、攻撃も反撃もしないで!!!
お願いだから、待って・・・・・・」
『ヒール』を掛けてないせいで収まる事なく変わらず襲い来る痛みと熱に耐え、生理的な涙に歪む視界でクエイさんとザラさんから解放され近くに来てくれたルグと紺之助兄さんの姿を捉えて。
どうにか、今にもナト達を襲おうとするルグの足を掴んで止める。
ダメだ。
俺が開戦のゴング鳴らしちゃ。
ナト達とルグ達が殺し合わない様に、体張ったんだろう?
絶対止めないと。
そう思ってルグ達にナト達を攻撃しない事を頼み込んで、フラフラしながらもどうにかこうにか立ち上がって。
魔女を真っ直ぐ見て、一言。
「これで、満足しましたか?」
「ッ!」
出来るだけ静かに言ったその言葉に、誰かが息を飲んだのが分かった。
さぁ、此処からは渾身の芝居をする時間だ。
自分達がナト達と対等とまではいかなくても、それなりに戦えるフィールドに誘い込む為の。
戦う方法を先に決めて制限する為の、演技。
勝率は低いだろうけど、自分含めて皆の命と、ナト達を守る為なんだ。
何が何でも演じ切ってやろうじゃないか!
「満足出来てないなら、幾らでも続けてください。
ナトも魔法、解いて」
「何、言ってるんだよ、キビ・・・・・・」
「そうだぜ、佐藤!
魔王に操られて、本当に可笑しくなっちまったのか?
正気だって言うなら、そんな変な事言うなよ!!!」
「俺は正気だし、冷静だよ。
痛いのだって、大っ嫌いだ。
でも、こう言うのがローズ姫達は好きなんだろう?
こういう事するのが、お前達の正義何だろう?」
「何、言って・・・・・・」
「俺達には言葉があるんだ。
それなのに、都合が悪くなったら、暴力に訴えて。
相手の言葉も聞かず、少し調べたら分かる事実から目を背けて。
戦意の無い無抵抗で無防備な奴、いたぶって!!
抵抗する人の意思を、無理矢理暴力で従わせて!!!
それがお前達の言う、正義なんだろう!?
お前達の理想とする、勇者像なんだろう!!?」
今お前達がやってる事は、物語の正義の味方のソレじゃない。
正義の味方と敵対する残虐な『悪者』のソレだ。
それが『勇者』のする事なのか?
それが本当に『勇者』として、『正しい』姿なのか!?
と、自分達を絶対の『正義』と思い込まされてるナトと高橋に訴える。
物語の『勇者』とは根本的に違う、この世界の『勇者』の在り方として、魔女達にとって不都合な存在を圧倒的な力で蹴散らす方が『正しい』のかもしれない。
そう望まれて、ナトと高橋は連れて来られてるんだ。
でも、まだ2人に『人』としての心が。
勇者のプライドが残っているなら、ナトと高橋、ゾンビにされた2人がこれ以上誰かを手にかけない様にする為に。
そして、エド達の命を守る為にも、俺は体張ってそう演じた。
このままナト達と戦ったら、間違いなくルグ達は負けてしまう。
殺されて、しまう。
それだけは絶対に止めないといけない。
だから俺は、絶対暴力に訴えず、言葉と証拠だけで殴り合えって言ったんだ。
口喧嘩なら、まだ俺達にも勝機がある。
それに、心に傷を負ったとしても。
ナト達に一生恨まれて憎まれても、皆が生きていてくれたらそれで俺は良かったんだ。
生きてくれさえすれば、それで良い。
だから偽善的だろうと何だろうと、体張って訴えてるんだ!!!
「へぇ。
あんなに痛めつけられたのに、まだそんな減らず口言えるんだ。
なら、望み通り、続けてあげるよ!」
「ッ!!やめろ、キャラ!!
お前等も、攻撃するな!!!」
「だけど、勇者君!!!」
「いいから!もう少し待て!!!
田中はそのままカバンの中、調べててくれ!」
「・・・分かった」
「勇者様!!!?本気ですか!?
本気で、彼等の言う事聞く気ですか!!?」
「あぁ。佐藤の言う通りだ。
戦う気の無い人間を襲う何って勇者のする事じゃ無いし、少し調べれば分かる事だろう。
俺達は間違ってないんだ。
堂々と結果待ってようぜ」
「ッ!・・・・・・・・・はい」
自分で言うのもなんだけど、意外とド素人の演技も馬鹿に出来ないな。
元々熱血系主人公みたいな性格だったって事もあるだろうけど、どうにか高橋の『勇者』としてのプライドを刺激出来た様だ。
魔女に操られ攻撃を再開しようとしたゾンビの女性と、それぞれの武器を構えて今にも俺達に襲い掛かろうとした助手と兵士。
その3人を鋭い声で静止し、高橋はナトにカバンの中を調べる様に言う。
一応勇者に従う形をとる様にしている魔女達には、この静止の言葉は厄介だろう。
魔女達は唇を噛んで呻く様に高橋に頷き返し、視線で俺を呪い殺そうとするかの様に俺を睨んできた。
大丈夫。
『環境適応S』のスキルのお陰で魔女達に睨まれても、元の世界の様に骨の髄まで染み込んだ恐怖に支配されパニックを起こす様な事はない。
まだ、大丈夫。
まだ、俺は戦える!!
「・・・・・・在った」
「だから、言っただろう?」
驚いた様にも絶望した様にも見える表情で、俺の財布とルグへのお弁当を引っ張り出したナト。
財布の中には俺の保険証も入ってるし、俺の名前が書いてあるカードも幾つか入っている。
それに、中学の時の修学旅行でナトと一緒に作った和紙を使ったストラップが付いてるんだ。
ナトが青い小鳥で、俺が緑の葉っぱと狸。
届いてからずっと財布に付けてる、名札代わりのこの世界に1つだけのオリジナルストラップを見慣れたナトが見間違えるはずがない!
それとお弁当を包んだ布にはルグへの手紙も添えてあるから、これが俺の持ち物だって証拠に十分なるはずだ。
「なぁ、ナト、高橋。
これで、自分が言った事と。
ローズ姫から聞かされた事と、事実が矛盾するって分かっただろう。
彼女達は嘘を吐いてるんだ。
騙されてるのは俺じゃ無い。
前達だ、ナト、高橋!!」
「ち、違う!!これは・・・・・・」
「何が違うって言うんですか?
貴女達が嘘吐きじゃないと言うなら、どういう状況で貴女達と関り合いの無い。
貴女達と敵対するユマさん達としか関わりのないと言われた俺の物が、貴女経由でナトの手に渡るんですか?
あぁ、これも自分が用意したって言うつもりですか?
それこそ、馬鹿馬鹿しい。
そんな事、出来る訳ないでしょう?」
魔女が反論する前に、その可能性を否定する。
魔女がナト達に嘘を吐いているって事実は変わらないんだ。
ここまで来たなら、否定して更なる嘘で取り繕っても、更にボロが出るだけ。
ナトと高橋の表情にまで浮かんだ疑心は、簡単には拭いされないだろう。
「ナト。お前なら分かるだろう?
使い続けて少しボロッちくなった、その狸のストラップが着いた財布が俺ので、その弁当に添えた手紙の文字が俺の字だって。
それでも信じられないなら、弁当の中身食べてくれ。
俺の料理の味、食べ慣れたナトなら良く覚えてるだろう?
あ。
そのカバンにも時空結晶が使われてるから、1年位前の料理でも腐ってないと思うから、食中毒とかは心配しないで」
「・・・・・・・・・ハハ。
確かに、これはキビの味だ。
少し甘めだけど、この優しい味の拘りが強い料理は、間違いなくキビが作った料理だよ。
後、前々から何度も言ってるけど、財布はソロソロ買い替えろ」
「甘めなのは、ルグが甘党だからだな。
ナトには物足りないと思うけど、中々良い出来だろう?
後、財布は見た目がボロイだけでまだ使えるから、当分変えるつもりはない!」
「・・・はぁ。
本当、お前は相変わらず・・・・・・
あぁ、お前の料理は変わらず美味いよ。
量が1人分にしては多いけど」
「それも、ルグ用だから・・・・・・
体の構造の関係と育ち盛りって理由でルグ、結構食べるんだよ。
1度に3人分位はペロリっていけるんだ」
沢山食べるルグの為に、重箱に詰めたお弁当。
その蓋を開けて、1段目に入っていた卵焼きを一口。
甘党のルグの好みに合わせたから、叔父さんと一緒でだし巻き卵とか塩気の強い卵焼きが好きなナトには物足りないと思う。
それでも、何処か泣きそうな声で美味しいと言ってくれた。
ルグじゃ無く、ナトに食べられちゃったけど、お礼用に頑張って作った甲斐があったぜ。
ルグには改めてお礼として、落ち着いてからご馳走料理作ろう。
俺が出来るのってその位だし、ルグも弁当食べてるナトを羨ましそうに見てるし。
後、財布の事は放って置いてくれ。
気に入ってるんだから、壊れて閉まらなくなるまでは使うからな!
紺之助兄さんも、
「そうだー。買い替えろー。見た目に気を遣えー」
とか言わない!!
誰が何か言おうと、まだ使います!!
資源は大切にッ!
「・・・他は兎も角。
1度もキビの料理を食べた事の無い他人が、この味を完全に再現出来るはずがない。
なぁ、ルチア。どうして、嘘吐いた?
他にも、俺達に嘘吐いてる事があるのか?」
「あ、青の勇者様・・・・・・私は・・・」
パタリと弁当の蓋を閉じ、遠く離れた薄暗い場所からでも分かる明るい茶色に片目が戻り始めたナトが、そう魔女に不信そうな視線を向ける。
その視線に怯えてるのか、それとも良い言い訳が思いつかないのか。
かなりタジタジになる魔女。
似合わない黒目のままの高橋はまだだろうけど、その片目の色からしてナトの洗脳は解け始めてる。
でも、魔女が、
「そのカバンは献上されたものです。
私達は職人が作った物だと聞いていました。
本当は彼が作った物だったとは知らなかったのです!」
とでも洗脳の力を込めて言ったら、ナトと高橋は簡単に信じてしまうだろう。
だからその前に、更なる魔女達への不信感を募らせて、強い精神的ショックを与え、完全にナトと高橋の洗脳を解く!!




