98,話し合い、騙し合い、バカし合い 1言目
「キビッ!!!紺之助さん!!」
あぁ、意外と近くに居たんだな。
ドタドタと何人もの足音を響かせ、息を切らしたナトが俺達の名前を呼ぶ。
ナト達に背を向けているから、ナトの表情も魔女側の仲間が何人いるかも分からない。
振り返れば分かる事だけど、ナトの声聞いたら何か泣きそうで。
零れ出そうな感情を抑えるのに必死で、振り返るに振り返れない。
「湊!?」
「紺之助さん・・・良かった・・・・・・
怪我とかしてなくて・・・」
「湊・・・何で。
何で此処に、僕達が居るって分かったの?」
「魔王のせいで、キビと紺之助さんが・・・
2人がこの世界に連れ去られたって高橋から聞いて、2人を探す魔法を作って急いで追いかけてきたんだ」
泣きそうな俺とは違って驚きはするものの、ある程度落ち着いている紺之助兄さんがナトに声を掛ける。
ハハ。
ナトも俺と同じ、家族を探す為の魔法作ったのか。
他の『オーブ』を取りに行く訳でも、レーヤの試練を受けに行くでもなく、まずナトがやった事は俺達を探す事。
良くないのは分かってる。
分かってるんだけどさ。
何か嬉しくて、笑いそうになる。
あぁ、良かった。
ナトにとっても、俺達はまだ『大切な家族』なんだな。
それが分かって、ホッとする様な、嬉しい様な、泣きたくなる様な、そんな感情が胸の奥から溢れてくる。
「魔法作るのに時間掛かって、助けに来るのが遅くなった・・・本当に、ごめん」
「・・・謝らないで。ナトが悪いんじゃない。
俺と兄さんが此処に居るは、ナトのせいでも、ユマさんのせいでも、ルグ達魔族のせいでもない。
犯人は別に居るんだ」
「キ、ビ?」
「久しぶり、ナト。
ナトにとっては、1年振りになるのかな?」
深く深く、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせて、漸く振り返る。
そこに居たのは、魔術師っぽい青を基調としたカッコいい服を着て、完全に魔女に洗脳され、あの明るい茶色の目を黒く染めた。
そんなほんのちょっと大人になった、ナトだ。
その少し後ろには、あの酷い怪我が綺麗に治った高橋とルディさん、相変わらずピンピンしてる魔女と助手と兵士。
それと、多分ミルちゃんのお姉さんかな?
ルディさんと同じ、ゾンビ特有の紫色の目をした同い年位の女性が出入口付近に居た。
「お前・・・佐藤、だよな?」
「そうだよ。
高橋も、久しぶり・・・でいいのかな?
元の世界ではちゃんと挨拶出来なくてごめんな?」
「そうじゃない!!
何だよ、その姿はッ!!!
魔王やそいつ等に何された!!?」
「酷い言いがかりだなぁ。
ユマさん達も、『レジスタンス』の人達も、何も俺達にしてなよ。
寧ろ、俺達を助けてくれたんだ」
俺の姿を見て唖然としたまま固まったナトの代わりに、剣を構えた高橋がそう噛みつく様に叫ぶ。
その鋭く上がった目は、高橋と同じ様に何時でも戦えるように構えたルグ達を睨んでいた。
本当、魔女達に何を吹き込まれたんだか。
言いがかりが過ぎるってもんだ。
そう内心舌打ちし、表面には出さない様にこの姿になった原因がユマさん達じゃないと言う。
案の定、高橋は信じてくれなかったけど。
いや、確かに軟禁されたり、監視されたり、即死トラップ仕掛けられたりしたけどさ。
それはまぁ、ルグ達側の事情を考えたら仕方ない事だし、言ったら言ったで魔女達の思うつぼだから『何も無かった』って事でいいだろう。
「助けてくれた?そいつ等が?何言って・・・」
「花なり病」
「・・・はぁ?」
「俺、花なり病って言うこの世界の病気に罹って死にかけたんだ。
ルグとユマさんと、此処に居るクエイさんが助けてくれたから一命は取り留めたけど、体の殆どが草と花に変わっていたらしくて、後一歩で死ぬ所だった。
そのせいで日常生活には問題ない範囲の後遺症が残った。
この姿と、表情筋が死んでるのはその後遺症の1つだ」
信じられないと言葉を吐く高橋に、少しズレ、俺の後ろに居るクエイさんを手で指し示しながらそう言う。
いや、無表情なのまで花なり病の後遺症かどうか分からないけど。
別の原因があるかもしれないけど、そこ言い出すとややこしくなるから、この場では後遺症の1つって言っておこう。
「念の為に言っておくけど、俺が花なり病になったのは、ユマさん達が原因じゃないからな?
この世界と俺達の世界が色々違い過ぎてストレス溜めたっての・・・
『もあるけど、あえて原因を上げるとするなら。
今、高橋の後ろに隠れてる、そこのお姫様達が原因だよ。
なぁ、ローズ姫様?』」
「ッ!」
「『お久しぶりです。
『俺』が死んでなくて残念でしたね?
まぁ、元々あの『召喚』の魔法じゃ、『俺』を殺す事は無理だったんですけどね。
ただ、ナト達と入れ替えるだけ。
お陰で、生きてローズ姫様達がペラペラ喋った情報、全部皆さんに伝えられました』」
ちょッ!四郎さん!?何してるんですか!!?
俺の体使って、魔女達煽らないで!!?
いや、分かる。分かるよ。
自分達を殺した魔女達に色々言いたい気持ち。
でも、ナト達の説得に失敗するかもしれないから、今は抑えて!!
後、紺之助兄さん。
小声でも、
「良く言った、四郎さん」
って言わないでッ!!
四郎さんのマシンガンがヒートアップするから!
本当、説得の為に四郎さんの背中押さないで!!
そう心の中で騒ぐしか出来ない俺。
いや、高橋が何か言う前に畳み掛け様と思って口を開いたけどさぁ。
まさか途中で四郎さんに乗っ取られるとか、普通思わないよ!?
「なに
「『何を言ってるんだ。
何って寂しい事言わないでくださいよ?
ナト達の前に、サンプルとして。
死んでも構わない異世界人として、俺の様な人を何百、何千人も『召喚』して、利用し尽くしたのは、貴女達じゃないですか?』」
反論しようと口を開いた魔女の言葉をすかさず遮って、凍えそうな声音でそう言う四郎さん。
え?
サンプルとして呼ばれた人達、そんなに居たの?
黒てるてる坊主さん達の数的に二桁代だと思ってた。
そんなに居た何って・・・・・・
この時代のサンプル達は俺に取り憑いてる四郎さん達だけじゃ無いって事か。
他の人達は今どこに居て何をやってるんだろう・・・
「お前こそ何言ってるんだ、佐藤?
ルチアは俺と田中しか『召喚』してない!!
魔王達に何吹き込まれたか知らないけど、いい加減な事言うなよ!!!」
「『そっくりそのまま、その言葉返すよ、高橋。
そいつ等に何吹き込まれた知らないけど、そこのお姫様達は唯の嘘吐きな殺人鬼だ』」
俺がそんな事考えている間に、四郎さんの言葉に怒りを露わにした高橋が叫ぶ。
でも、四郎さんにはその怒りの叫びすら生ぬるい様で、馬鹿にする様な鼻息で飛ばす位の軽さでそう言い返した。
うわぁ。
四郎さん、容赦なくズバズバ言うなぁ。
まるで、オブラートや八つ橋の類をドブ川に全力投球する勢い。
うぅ・・・
高橋の顔、人間がしちゃいけない位真っ赤じゃん。
怖くて直視出来ないのに、今俺の体の主導権を握ってる四郎さんがそれを許してくれない。
「・・・・・・ナト、高橋。
俺達の世界で今、何が起きてるか、分かる?」
ルグ達のナト達に向ける敵意も強くなてるし、まさに一発触発の殺し合い秒読み状態。
水滴1つ落ちただけで開戦のゴングが鳴りそうな、そんな場の雰囲気に気圧され、俺は唯怯える事しか出来なかった。
正直言って気絶しなかっただけで褒めて欲しい位だ。
そんな俺の状態を良い事に、言いたい事を言い続ける四郎さん。
このまま四郎さんのターンが続くと思っていたら、いきなりパスされた。
言いたい事言って満足したって事じゃなくて、紺之助兄さんのジェスチャー的に、自分が言った事に繋がる様に四郎さんの存在がバレない様にしつつ説明しろ。
って事なんだろうな。
で、時々割り込んでくると。
四郎さん、アドリブで難しい事やらせ無いでくれません?
ただでさえ俺、この雰囲気にメンタルが萎縮しまくってるって言うのに・・・・・・
異世界の同一人物でも、流石にそれは無茶ぶりが過ぎます!!
ハッキリ言って無理です!
頑張ってやれるだけやるけど!!




