96,宙吊り日本刀
「これか。見た事ないデザインの剣だな」
「確かに変な形だな。遠くからだと分からなかったけど」
「えっと、ヒヅル国の刀じゃ無いんですか?
馬車の依頼の時、こんな感じの長い日本刀っぽい刀持ったヒヅル国人のお客さんが居ましたよ?」
「いいや。少し違う」
ルグの案内の元辿り着いた件の剣。
それはこの世界で見慣れた西洋剣じゃなくて、全体的に黒と赤をベースにした、竹刀位の長さの日本刀に近い形の刀だった。
刀身も、
柄も、
鍔も、
刀の近くに吊るされた鞘も。
全部、漫画やテレビで見る日本刀にそっくりで、西洋剣しか見かけないローズ国にある事に少し驚いた。
だから、ザラさんや『エド』が見た事ないって言ったんだと思ったけど、どうも違うらしい。
「ニホン刀って、何代目かの勇者が伝えたって言う、伝説の異世界の凄い剣の事だろう?
ムラマサとかコテツとか。そう言うの」
「伝説の凄い剣?日本刀が?
えっと、そんな事ないと思いますけど・・・」
ザラさんは日本刀を伝説の凄い剣って言うけど、俺はそんな事ないと思うんだよなぁ。
確かに『村正』や『虎徹』って名前の刀工の作品は有名だし、日本刀の代名詞的に物語にも良く登場するよ?
でも普通に大きな博物館とかに展示されてたはずだし、日本刀自体だってそこまで有名な刀じゃなきゃどの県の博物館にも1本位は展示されてるだろう。
だから伝説の剣、所謂『物語の中にだけ存在する不思議な力を持った刃物』って言われるのはちょっと違う様な・・・
そう思っていたら、伝説って言われてるのは俺が思っている様な理由じゃ無かった。
「その勇者が凄いって言い続けた故郷の剣だから、沢山の鍛冶師達が再現しようとしたんだよ。
でも、結局誰もそのニホン刀を完全に再現できなくて、似た感じに仕上がった。
だから伝説の剣。
それで、その似た剣が広まってヒヅル国の伝統的な剣になった。
サトー君が見たのは、多分それだな」
「似た刀何ですか?
あのお客さんの刀、パッと見かなり似ていたと思いますよ?
本物の日本刀って見た事ないので、詳しい事は分かりませんが、テレビや物語に出てくる日本刀と違いはそこまでなかったと思います」
「ニホン刀って、片方にしか刃無くて少し曲がってるんだろう?
ヒヅル国の剣も真っすぐで、この国の剣と大差ないからな。
違うのはデザイン位で、だから剣の扱いに慣れた奴なら、ヒヅル国の剣も問題ないく使えるし、逆も然り。
後、専門外だから詳しく分かんねぇけど、ヒヅル国の剣とニホン刀じゃ大分作り方も違うって話だ」
俺は剣や刀のオタクじゃ無いから、大きく見た目が違わないと、剣や刀の違い何って全く分からない。
でも、ザラさんは少し見ただけでもその違いが分かる様だし、武器の構造にも詳しい様だ。
クエイさんの言う通り、ザラさんは武器についてかなり詳しいんだな。
そのザラさん曰く、日本刀とヒヅル国の刀はかなりの別物らしい。
で、問題はこの吊るされた刀なんだよな。
「この剣はヒヅル国の剣とも、ローズ国の剣とも違う。
俺様が聞いた伝説の通りなら、これは本物の『ニホン刀』だ」
「本物の日本刀?
俺達の世界や、俺達の世界に似た世界から持ち込まれた、『異世界の刀』って事でしょうか?」
「多分な」
何代目かの勇者が使ってた物か、何処かの時代のサンプルとして『召喚』された人が使ってた物か。
それは分かんない。
けど、純粋なこの世界産の刀じゃ無い事は確か見たいだ。
「まぁ、本当にどっかの鍛冶師が打ったら剣ならな」
「・・・・・・あぁ。
『クリエイト』で作ったかもしれないって事か」
「そー言う事。
サトウも、見た目だけならコレと同じ物作れるだろう?」
「どうだろう?
俺、本当に刀とかに詳しくないから、機械みたいに玩具しか作れないと思うけど・・・・・・」
「これ見ながら作っても?」
「それは・・・・・・分かんない」
ザラさんの話を聞く限り、この世界で1から鉄を打って日本刀を作る事はほぼ不可能だろう。
でも、サンプルとしてよばれた人達や勇者達。
そう言う異世界人の血を引く子孫の人達が『クリエイト』やそれに近い魔法を使って作ったなら。
性能は兎も角、間違いなく見た目だけは『本物の日本刀』と言って良い物を作れるだろう。
その事をルグに言われ気づいて、
「試しに作ってみろ」
と言わんばかりにルグに杖を渡される。
吊るされた刀をジックリ、ジックリ、観察して、そのまま『クリエイト』の魔法陣を書けば。
玩具の刀が出来上がるって言う予想に反して、見た目だけは完全に『日本刀』と言って良い刀が出来上がった。
まぁ、吊るされた日本刀を見ずに何時も通り想像だけで日本刀作ろうとすると、案の定。
プラスチック製の玩具の刀しか出来なかったけど。
それかお土産コーナーに売ってそうなキーホルダー。
剣道部員で刃物を作る事に特化した高橋と違って、俺は戦いに役立ちそうな趣味すら持ってないからだろう。
使い方次第では本来の用途から外れ、誰かを殺す事すら出来る『武器』にもなってしまうハサミやカッター、包丁の様な使い慣れた道具なら兎に角。
俺の『クリエイト』は『最初から武器として作られた道具』の製造ともかなり相性が悪いみたいだ。
それでもお手本があればある程度お手本と同じ物を造れる様で、その出来上がった刀をザラさんに渡し、一度道に降りて、『ミドリの手』で太めの竹を生やして、俺達が安全な場所に下がった所で一閃。
スッパリ竹が切り裂かれた。
「おぉ!!」
「へぇ。綺麗な切り口じゃん。
サトウが作った剣の性能がいい・・・
いや、ザラの技術が良いんだな」
「いや、いや。そんな事ないって!
この刀が十分使える性能だって事だよ。
普段剣の類は使ってないし変わった形だから、かなり使いにくいけどな」
思わず感嘆の息と共に拍手してしまった俺と、感心した様に頷くルグ。
ザラさんは使いにくいって言うけど、ここまで気持ちい位綺麗に切れるなら、十分ザラさんの腕がいい証拠だよな。
勿論、日本刀本来のアジは無いけど、『クリエイト』で作った刀が使い物になるって言う証拠でもあるんだけど。
確か日本刀って意外と脆いって話を聞いた事がある。
耐久性も西洋剣より劣るし刃こぼれしやすから、アニメや漫画の様に敵をバンバンなぎ倒すって事が出来ない、って。
見本にした吊るされた刀が、俺達の世界の日本刀と違って耐久性に優れていたのか、それとも作り出す時余計な事を一切考えず吊るされた刀の観察に集中していた俺の問題か。
『日本刀は脆い』って俺の認識に反して、アニメや漫画の日本刀が反映されたかの様に『クリエイト』で作った刀は刃こぼれ1つしていなかった。
「この刀、結構いいな。
あんなに硬い木、切ったのに刃こぼれしてないし。
アイツが喜びそうだ。
なぁ、サトー君。
これ、他に要る奴いなかったら仲間の土産に貰っていいか?」
「あ、はい。どうぞ。
寧ろ、俺は包丁と文房具以外の刃物の扱い全く分からないので、ザラさん達の方で管理して貰えるとありがたいです。
俺が持っていても、俺自身も周りも危険なだけですし」
「ん、そうか。エドは?いるか?」
「要らない。
俺もロングソードの類、使えないからいい。
他の奴も要らないだろうから、ザラが持って行って良いと思うぞ?」
「そう?じゃあ、ありがたく貰ってくなー」
水晶の中で眠っているだろう仲間を思い出して、嬉しそうな。
でもどことなく少し寂しそうにそう聞いてくるザラさん。
そのザラさんに俺とルグはハッキリとザラさんが持っていてくれと伝えた。
俺もルグも、あんな表情のザラさんにダメとは言えなかったんだ。
そんな俺達の考えを知ってか知らずか。
それを聞いてザラさんは嬉しそうに俺が作った刀をカバンに仕舞った。
「まぁ、これで、『クリエイト』を使っても十分使える、日本刀そっくりな見た目の刃物を作れる事が分かりましたね」
「そうだなぁ。
まぁ、そのせいであの刀が何なのか。
ますます分かんなくなったけど」
「分かるのは・・・・・・
アレがトラップじゃ無い事くらいか?」
「それと、あの鎖が魔法道具で、あの刀を封じてるって事くらいだな。
マシロやジェイクじゃ無いから、詳しくは分からないけど」
吊るされた刀の正体がますます分からなくなったと言うルグに、心配していた様なトラップじゃ無いと返すザラさん。
そんなザラさんに、それもあの刀の正体が分からなくなった原因なんだろう。
ルグは吊るされた刀が魔法道具の鎖によって封じられていると答えた。
「封じられてるって・・・・・・
まさかあの刀、呪われてるの?このリンゴみたいに」
「だから、マシロ達じゃ無いからそこまで分からないって。
魔法やスキルが付属された武器なのは間違いなけど、詳しい事はオイラじゃ分からないんだよ」
「そっか・・・
エドやザラさんから見て、あの刀。かなり強そう?」
「「間違いなく強いし、珍しい!!」」
声をそろえて力強くそう言うルグとザラさん。
良い物か、悪い物か。
それは分からないけど、この刀は相当強いレアアイテムらしい。
もしかして、ファンタジー物ではお馴染みの『伝説の剣』的な物なんだろうか?
だから扉のディアプリズムの持ち主達は物凄い覚悟で目を差し出した?
海月茸じゃなくあの剣を守る為に?
あのディアプリズムが盗まれ再利用された物じゃ無いとすれば、『伝説の剣』説はかなり有力になるよな?
まぁ、それはそうとして。
もし、本当に『選ばれし者しか手に入れられない伝説の剣』ポジだったなら、とりあえず地面に刺さってて?
何で剥き身で宙吊りになってんの?
近くに来た人が危険だから、お約束通り今直ぐ地面に刺さって!
「この刀の封印。
選ばれた人にしか解けないとか無い?
勇者専用の伝説の剣的な感じで」
「いや、だから、そう言うのは・・・・・・」
「エ、エド?大丈夫!?急にどうしたの?
ザラさんも、顔色悪いですよ!?」
ジェイクさん達じゃ無いと分からないってのは、俺も分かってるんだけどさ。
つい、そうルグに聞いてしまっていた。
「だから、自分達じゃ分からない」
と言おうとしていたんだろう。
そんな俺に対し、少し呆れ気味に口を開いたルグの言葉が不意に途中で止まった。
そして何かに物凄く驚いた様に、口と目を見開いていく。
ザラさんも青い顔色で固まってるし。
でも、辺りを注意深く見回しても特に何かが変わった様子はない、と思う・・・
四郎さん達みたいな、俺にだけ見えない何かが近くに居るんだろうか?
「四郎さん。
ルグ達が固まっちゃったんだけど、この近くに俺の目には映らない何がか居たりします?」
『居ないよ。
あの日本刀は、変な感じがするけど。
多分、何か攻撃してきたとかじゃない』
「なら、何かに気づいた?」
『だろうね』
俺に見えなくても、四郎さん達には見えてるかもしれない。
そう思ってスマホの中の四郎さんに聞いたら、メールを使ってそう答えてくれた。
2人はクロッグの鳴き声を聞いて固まってる様な感じじゃなくて、驚愕の真実に気づいて脳の処理が追いつかず固まっているらしい。
その驚愕の真実とは一体・・・・・・
今まで聞いた話の中にあっただろうか?




