31,迷子のお姫様 前編
「え~、改めて紹介します!」
この屋敷がスズメのお陰でどんなに室内で叫ぼうと、外には絶対一言も漏れない。
ハイスペック防音になっている事をルグが思い出し、落ち着いて暫く。
ほんの少し前までムンクの叫びの様だったルグが改まって言う。
「このちょっと変わった奴が、この前通信鏡で話したこの国の姫にサンプルとして異世界から呼ばれたサトウ」
ちょっと変わったは余計だ、ルグ。
「で、こっちがジャックター国の現女王で、砂漠鳥に昼飯取られたり、家庭科の授業で新生物作り出したりした方の幼馴染のユマ!」
「ルグ君ッ!!?」
顔を真っ赤にして女の子は慌ててルグの口を押さえる。
ルグの口を押さえたまま、女の子は一つ咳払いをし、まだ赤い顔で自己紹介をした。
「ヒュマイア・ティアレです。
あ・・・・・・
いえ、ヒュマイア・ティアレ・アンジュ・ティフィンミル・プリンストンです。
種族は悪魔。
ユマと周りから呼ばれているので、そう呼んでくれると嬉しいな」
女の子改めユマさんの名前の中の『アンジュ・ティフィンミル』は代々ジャックター国国王が受け継ぐ名前だそうだ。
御伽噺のジャックターと結ばれたプリンストンから貰って、女性が国王になった場合『プリンストン』を名乗るらしい。
礼儀として長ったらしい名前を名乗らないと相手に失礼らしいけど、ユマさんは王位を継いだばかりでこの長ったらしい名乗りに慣れていないようだ。
そのせいでちょくちょく王位を受け継ぐ前の名前を名乗ってしまうらしい。
だけど、この国に居る間はその方が安全だろう。
自分を殺そうとしている奴が治める国に居るのに、
「魔王です」
と名乗るのは危険極まりない。
「暫く、お世話になります。
よろしくお願いします。えーと、サトウ君?」
ヒヅル国の王様の所へ、ジャックター国の女王として各眷属国の王様達と一緒に会合した帰り。
ユマさんは事故でこの国に飛ばされたらしい。
帰りに立ち寄ったのが、今ヒヅル国が開発中のワープ系の魔法道具の研究所で、その魔法道具の実験中に起きた暴走事故に巻き込まれたそうだ。
ユマさん以外にも巻き込まれた人達が居るらしいんだけど、その人達が今何処に居るかは不明。
このローズ国の国教がユマさんを殺そうとしている以上、本当に事故だったのか怪しいけどな。
兎に角、ユマさんの仲間と言う名のジャックター国の眷属国の各王様達がヒヅル国からローズ国に来るまで、早くて2ヶ月掛かるらしい。
ヒヅル国から船でマリブサーフ列島国に行き、其処からまた船でチボリ国の港へ。
チボリ国の港から歩いてローズ国に行くか、グルーム川を船で登って首都リリーチェによって馬車で行くかの2択。
条約だかなんだか知らないけど、簡単には来れない事がよく分かる。
こんな面倒な方法で行くのにすれ違っては困るだろ?
だからユマさんも、ユマさんと一緒に会合に出席したルグの親父さんを抜いた3人が迎えに来るまでこの屋敷で一緒に暮らす事になった。
ルグの親父さんはその研究所の事故に巻き込まれ、元々悪かった腰を更に痛め、現在ヒヅル国で治療中だそうだ。
命に別状は無く、安静にしていれば直ぐ治るらしい。
「うん。此方こそ、よろしくな。ユマさん」
「うん!」
ルグに、
「サトウもユマも余所余所しすぎ!!
一緒に暮らすんだから、敬語禁止!!」
と文句を言われ、ユマさんに対し敬語を使わない様にしている。
クラスの女の子とも必要な会話しかしないからなぁ。
ユマさんが年下と言え、こんなに親しく話す様言われた女の子は始めてだからが何か照れくさい。
「それで、サトウ・・・・・・」
「そんな顔しなくても、ユマさんがジャックター国の女王だって事は誰にも言わないって」
不安そうな顔をするルグとユマさんに俺は笑いかけながら言った。
「うん。それも有るけど・・・・・・・・・
サトウは怒ってない?
オレ、ユマと知り合いじゃ無いって嘘ついたり、オレの親父がグリーンス国の現国王で、オレがそのサポートと言うか雑用係で勇者の噂を調べる為にこの国に来た事を黙ってたりしてたんだぞ」
「あぁ、その事か。別に気にして無いよ。
誰だって人には言えない秘密が大なり小なりあるもんだろ?
俺だってルグ達に言ってない事が沢山あるんだ。
本人が言う気になるか、その情報が必要になるまで詮索する気もないよ。
だから、黙っていた事や嘘をついた事を怒る気もその事で軽蔑する事も無いって」
現に俺は、未だに苗字しか名乗ってない。
嘘をついたり、黙ってたのはお互い様だ。
もし、俺がその事で怒ったりしたら自分はどうなんだって話だよな。
「そっか!なら良かった」
そこまで言ってルグはやっとほっとした様に笑った。
「と、言う事で。ユマさんの部屋はどうする?
俺らの部屋から離れていた方が安心か?」
一緒に住むのは良いんだけど、年頃の男女が1つ屋根の下に居るんだ。
『コロナちゃん』と言う子がユマさんを心配したのもよく分かる。
スズメにユマさんの部屋を特に厳重に鍵を掛けて貰う事でなんとか話が纏まった。
俺もルグもそんなやらしい感情を断じてユマさんに持っていないけど、やっぱ部屋の隣が野郎だと落ち着かないだろ?
「あ、大丈夫。私は何処でも良いよ」
「じゃぁ、ユマは中二階の部屋な」
「うん」
階段から近い順に俺、ルグ、一部屋抜かしてユマさんの部屋になった。
ユマさんは事故でこの国に来てしまったせいで、自分の荷物をヒヅル国に置いて来てしまったらしい。
俺は依頼を受けたから無理だけど、ルグとユマさんには日用品の買出しに行って貰った方がいいだろう。
そう思いユマさんの方を向けると、不思議そうな顔をしたユマさんが俺を見ていた。
「ユマさん、どうかした?」
「あ、ううん。
ただ、サトウ君は私の事、怖がったり驚いたりしないのかって思ってただけだよ」
あー、そう言えばルグにも同じ事言われたな。
この世界の人間はそんなに魔族を怖がったり驚いたりするモンなのか?
「だから言ったろ?ちょっと変わった奴だって。
サトウは異世界から来たからこの国の国民が小さい頃から聞かされる、魔族の悪い噂や怖い昔話を知らないんだよ。
だから、こんなに反応薄いの」
「あぁ!」
「そんなに俺の反応は薄かったか?
ルグは愛玩動物にしか見えないし、ユマさんだって目の色がコロコロ変わる以外は普通の女の子にしか見えないんだけど」
それだって、異世界だと思えばさして驚く事じゃないだろ?
ルグやユマさんを見ていると、驚けや怖がれって言われても無理だよな。
「あの、サトウ君?
もしかして私の瞳の色、黒い以外の色に見えたりする?」
「え、うん。今は赤・・・いや、青っぽいな」
「サトウ!!その事も秘密にして!?」
俺がユマさんの目の事を言うと、ルグとユマさんが慌ててそう頼み込んできた。
なんでも悪魔、特に力の強い悪魔やジャックター国国王の血縁者は『ディアプリズム』と呼ばれる特殊な瞳を持って産まれてくるらしい。
または、この悪魔の目をオーガンの様に特殊加工した宝石の事も『ディアプリズム』と呼ぶそうだ。
普段は幻術系の魔法や魔法道具で普通の瞳の色と同じに見せているけど、どうも俺は『状態保持S』のスキルのお陰でその魔法が効かないらしい。
もし俺がうっかりユマさんの目の事を言ったら、ジャックター国女王だとバレてしまう。
そうじゃなくても血縁者だって思われるか、一部のコレクターや商人、貴族に雇われた冒険者にユマさんは目を抉られてしまうかもしれない!
力が強ければ強いほど鮮やかに美しく輝く、『ディアプリズム』。
現ジャックター国女王のユマさんの目は正に世界1の宝石になるそうだ。
他の珍しい宝石がゴミに見える程魔性の魅力を持った宝石。
ユマさんがその宝石の原石だとバレたら、欲深い奴がほっとく訳無いだろ?
特にこのローズ国と言うか、英勇教は悪魔から目を抉る事を推し進めているらしいし。
「やばい!!
ユマさんを魔女達に合わせたら、ユマさんがR-18的な事になる!!
安心してユマさん。
あいつ等、いや、誰にも言わないから!!」
「あ、ありがとう、サトウ君」
「えーと、言わないで居てくれるなら助かるけど、魔女って誰?」
こんな幼いユマさんを絶対、グロ注意な目に会わせるもんか!!




