86,毒林檎をポケットに
この世界で自我を保ち続け、色々終わった後に『返還』の魔法で自分達の世界に戻る為、これから先も俺と俺のスマホに取り憑き続ける事にした『異世界の俺の幽霊』こと四郎さん。
ある程度話し終えた後、長くスマホの外に出ているのが辛いらしく、四郎さん達俺の前のサンプルの幽霊さん達は俺のスマホに帰っていった。
まぁ、呼びかければ出てきてくれるし、中に居てもスマホのメール機能を使って会話も出来る事が分かったから問題ないんだけど。
問題なのは、四郎さん達の登場で何処かにすっ飛んでいったリンゴ売りのお婆さんの事なんだ。
はぁ、漸く本題に入れる。
「うん・・・うん・・・・・・え!?
貴弥、本当に大丈夫だったの?
ヤエさんが、貴弥がスッゴク危ない目に合ったて言ってるんだけど?」
「え!?俺!?
眠らされてた兄さん達じゃなくて、俺が!!?」
「うん。
貴弥、そのお婆さんに狙われてたらしくてね?
邪魔されない様に僕達は眠らされてたんだって」
何があったのか説明し終わった後の開口1番に聞かれた、紺之助兄さんのその言葉に俺の心臓が早鐘を打つ。
何処で目を付けられていたんだろうか。
ヤエさんによると、あのお婆さんの狙いは最初から俺だったらしい。
ある目的で俺に近づいて、邪魔されない様に紺之助兄さん達を眠らせた。
『エマージ』を解除させ1番邪魔しそうなヤエさん達を無力化させる為、紺之助兄さんは特に深く深く眠らされてたらしい。
逆にザラさんはそのお婆さんの魔法と相性が悪くて、1番眠りが浅かった。
だから、俺は起きれていて、ザラさんは途中で起きれたんだ。
「目的って・・・リンゴ、買ってくれって事?
俺が1番買いそうだったから、起こされてたって事?」
「違う。
貴弥達にはそのお婆さんがリンゴを買ってくれ、って言ってる様に聞こえたかもしれないけど、ヤエさん達には別の事を言っていた様に聞こえてたんだ」
「別の事?」
「・・・ポケット」
「ポケット?
・・・何、コレ?小さなリンゴ?いつの間に?」
チラッと隣のヤエさんを見た後、紺之助兄さんは俺のズボンの左ポケットを指さした。
いつの間にか不自然に膨らんでいたそのポッケト。
そこには手のひらにチョコンと乗りそうな程の大きさのリンゴが2つ入っていた。
お婆さんが売っていたリンゴと同じ毒々しいまでの赤い色をした、絵に描いた様な枝と葉っぱが付いたままのリンゴ。
微かに香るフレッシュな甘い香りからこのリンゴが本物だと分かるけど、パッと見は精巧に作られたガラス細工の様に思える。
このリンゴがお婆さんが俺に近づいた目的って事?
「まさかコレ、GPS付のリンゴ?」
「そう言うのじゃないみたい。
でも、呪いの人形みたいに、貴弥がお婆さんの願いを叶えるまで捨てても絶対戻って来るんだって」
「なんで!?」
「貴弥が願いを叶える事を承諾したから・・・」
「そんな事言った覚え無いんだけど!?」
「えーと。
そのお婆さんに何か言われた時、『是非』って答えだでしょ?
貴弥にはどう聞こえてたか分からないけど、それが願いを叶えるって承諾になったみたい・・・・・・」
「言ったの俺じゃなく、四郎さん!!」
さ、詐欺だぁああ!!!
俺の口を使った四郎さんは、次会った時にリンゴを買うかもしれないって言っただけで、お婆さんの願いを叶えるな何って一言も言ってない!!
『貴弥君だと思い込んでいたからかな?
俺も、リンゴ買ってくれとしか聞こえなかったんだけど?
願いを叶える何って言ってないんだけど?』
「ほら!
四郎さんもそう言う意味で『是非』って言ってないって言ってるじゃん!!
こんなの詐欺だ!
クーリングオフを要求します!!!」
「うーん・・・・・・無理みたいだね」
「そ、そんなぁああああ・・・・・・」
ピコンッとメールで自分の無実を主張する四郎さん。
やっぱり俺達に非はないじゃないか!!
そう思って訴えたら、ヤエさん達に何か言われたらしい紺之助兄さんに無理だとハッキリ言われた。
だから、俺達は別の言葉に聞こえる様にしたって事!?
そんなの、やっぱり、詐欺じゃないか!?
大体、なんで『その時、懐に余裕が合ったら、是非』って言葉の『是非』の部分だけ切り取るかな!?
四郎さんが何って言ったか、ちゃんと理解して!!?
そう叫んでも後の祭り。
呪いのリンゴは、俺から離れてくれない。
四郎さんと悲劇の仲間達だけじゃなく、呪いのリンゴにまで取り憑かれて・・・
俺、この世界に来てから取り憑かれ過ぎじゃないか?
その前に異世界に『召喚』されて死にかけてるし・・・
厄年じゃないはずなのに、どうしてこんな・・・
元の世界に帰ったらお祓い行くべき?
「うぅ・・・・・・
それで、あのお婆さんの願いって?」
「『レーダー』使って、そのリンゴをそのお婆さんの家族にそれぞれ届けて欲しかったらしいよ」
「それだけ?本当にそれだけ?」
「うん。それだけ」
ヤラセやカウンセリングモドキしか無い俺の世界のお祓いをしても、多分ダメだろうな。
ワンチャン、四郎さん達は成仏してくれるかもしれないけど、リンゴの呪いからは解放されない気がする。
だったらお婆さんの願いを叶えて、この呪いのリンゴの方から離れて貰う事にしよう。
と早々に気持ちを切り替えてそう聞いたら、紺之助兄さんがそう答えてくれた。
家族って、さっき言ってた旦那さんと娘さんの事?
その2人に渡せばいいって事か?
予想以上に難易度高くない?
「リンゴが捨てられないだけで、悪夢を見るとか生気や寿命を吸い取るとか。
そう言う危険は貴弥にも近くに居る僕達にも、特にないみたいだから、比較的安全かな?」
「いやいや!
生きてるかどうかも分からない、何処に居るどんな人か全く不明な人に届けろって言われたんだよ!?
ほぼ不可能だって!!
これから先、この呪いのリンゴに一生付きまとわれるんだよ!?
害、ありまくりだって!!?」
「えっと。ヤエさんが、『娘の方は、もう見つけてる』って・・・」
「え?それってどう言う・・・・・・」
本人が自覚してないだけで、『レジスタンス』の誰かがあのお婆さんと親子だったって事?
でも一体誰が・・・
状況的にザラさんは違うとしても、『レジスタンス』のメンバーの半分近くは女性なんだよな。
候補が多すぎる。
それに、前会った人達も入れたらどの位増えるか・・・・・・
やっぱり、届ける何って無理だろう?
「今回は運良く比較的安全に帰って貰えたけど、そのお婆さんはとっても危険な。
多分、此処に居る全員どころか『レジスタンス』の人達全員で挑んでも絶対勝てない位、スッゴク強い力を持ってる人だったんだ」
「そ、そんなに・・・・・・」
「だから、気を付けて。特に貴弥と四郎さん。
貴弥達はお婆さんとまた会う約束までしちゃってるみたいだしね。
油断したり機嫌を損ねる事をしたら、今度こそ何されるか分からない。
そのお婆さんに今度会っても、絶対気を抜かないで」
「わ、分かった」
唯の少しボケ気味の可愛らしいお婆さんに見てたけど、世紀末の住人だったのか。
20人以上の人が束になっても勝てない位強いなら、異世界人の俺に頼らずに自力で旦那さんと娘さん探しなよ。
まさか、ボケたせいでそこ等辺の判断も曖昧になってるのか?
ゲームの裏ボスになれそうな位強いお婆さんでも、老いには勝てなかったて事?
次会う時、ボケが加速して魔法とか打ちまくりながら徘徊してたらどうしよう・・・・・・
俺、生きてられるかな?




