85,きび砂糖と白砂糖
「・・・・・・こいつ等は、お前の前に『召喚』された異世界人って事か・・・」
『はい
だから、ねたまれるのも、殺されかけるのもしかたないかなって思』
「仕方ない?当然?
サトウの馬鹿!!死ぬ気か!?
死にたくないなら、そんな事、嘘でも書くなよ!!」
「ちょ、エド!落ち着いて!!
書いてる途中!書いてる途中だから!!」
クエイさんの質問の返答を書いてる途中で、痺れが取れたルグに叩かれた。
そのままポカポカ軽く叩かれて続きを書くに書けない。
思わず、声を出してルグを止めて、少し待って貰う。
「『そうだよ。当然なんって軽々しく言わないで』
・・・って、幽霊さんもですか」
幽霊さんも続きを書く前に俺の口を使って声を掛けてくる。
俺か、幽霊さんか。
分からなくて周りが混乱するかもしれないけど、もういいや。
声に出してしまおう。
「いいですか?
俺はただ、事実を書いただけです。
それ以上でもそれ以下でもないし、それ以外の意味もない。
だから当然、俺の体も命もあげれない。
幽霊さん達にあげれるものは、何1つありません。
俺もまだ生きたいんです。
ごめんなさい」
「・・・『そう・・・・・・
うん、いいよ。それで、いい。
君を殺す気はもう無いけど、くれるって言われたら欲しくなっちゃうからね。
君は俺達に同情もしちゃいけないんだ。
だからその気持ち、何があってもゆらいじゃダメだよ?』」
幽霊さんに妬まれるのは分かってるけど、だからって『俺』はあげれない。
俺だってまだやりたい事もあるし、単純に生きたいんだ。
同情心で幽霊さん達とかわる事は出来ない。
かわりたくない。
そうハッキリ伝えて、幽霊さんに頭を下げる。
だからだろうか?
それとも、もっと前から?
もう俺を仲間に引き込む気が無いのを表す様に、幽霊さんは諦めた様な声音でそう言った。
「そう言って、サトウが油断したら殺す気じゃないだろうな?」
「『まさか。
生前の自分がどんな人間だったか、全く思い出せてないけど、ある程度の理性は戻っているからね。
もう、人を殺そうって気は起きないよ。特に彼は』」
警戒心Maxで幽霊さんを睨むルグ。
そんなルグに幽霊さんは、少し困った様な。
でも、ハッキリとした声音でそう答えた。
「『1番自我が戻ってるのは俺だからね。
彼に取り憑いてる皆は、俺の言う事ならある程度聞いてくれるんだ。
彼のスマホに皆を出し入れ出来るのも、実体を持った時スマホに触れるのも俺だけだしね。
だから、俺が彼を殺したくないって思ってるなら、誰も彼に手を出さないよ』」
「・・・本当かよ?
ずっとサトウの事、妬んでいたんだろう?
理性が戻ったからって、そんなに簡単に諦められるのかよ」
「『出来るよ。自分を彼だと。
『佐藤 貴弥』だと思い込んでいたからかな?
家族の・・・彼の家族の泣く顔は、もう見たくないって思ったんだ。
彼を殺してしまったら、彼に成り代わってしまったら、彼の家族はずっと悲しんでしまうだろう?
それはもう、嫌だったんだ』」
ルグじゃなく、紺之助兄さんの方を見る様にしながら答える幽霊さん。
多分、その気持ちは、思い込みだけじゃないと思う。
幽霊さんの本心も入っているはずだ。
『ユウレイさんだけなら、元々誰だったか分かるかもしれない』
「『本当?
なら、『俺』は誰なんだ?
名前は?種族は?性別は?どんな世界から来た?』」
自分が分からないと言うのは、相当不安な事なんだろう。
すがる様な声音で矢継ぎ早に俺の口から質問を飛びだたせる幽霊さん。
そんな幽霊さんにホワイドボードを見せながら、俺は自分を指さした。
『どこかの世界の俺
どんな世界から来たか分からない
名前は、キビじゃない』
今までの情報から考えて、幽霊さんの正体はIFの世界の『俺』だ。
ただし、名前は『キビ』じゃない。
『召喚』された時に亡くなった事を考えれば、俺の様に『サトウ キビ』って名前で勘違いされて『環境適応』のスキルを貰えなかったて事だろう?
『貴弥』とか『四郎』とか。
そう言う『貴弥』って名前以外の名前の、何処かの世界の『俺』なんだと思う。
だから、『俺』との境目が分からなくなったし、『もう』父さんや母さん、兄さん達が悲しんで、苦しんでる所を見たくなかったんだ。
こうやって俺の口を使って喋るのも、『この世界に居る間、契約者以外触れない』このスマホに触れるのも、それが理由だろう。
『何』をもってしてこのスマホは、『俺』と『俺以外』を区別してるのか。
それは分からないけど、もし仮に魂とかオーラとかそう言う目に見えない。
でも、別世界でも同一人物なら同じになる様な何かで判断してるなら、異世界の同一人物って言ってもスマホやこの体からしたらある意味『俺』って事なんだ。
だから、共有出来るのは当然だろう。
「え?はぁ!?
別世界のサトウって、そんなのアリ?」
『あり』
「そんなハッキリデカデカと書かなくても・・・」
確率的に言えば低いだろうけど、ありか無しで言えばありだろう。
その思いを表す様に、ホワイドボード全体を使う位デカデカと『あり』と書くと、少しルグに呆れらえた。
で、肝心の幽霊さん本人はと言うと。
俺の口も使わずにただ静かに漂っているだけだった。
もしかしたら紺之助兄さんには、別の姿に見えたり幽霊さんの話声が聞こえてるのかもしれない。
けど、俺達には何の変化も無い様に見える。
「・・・『四郎』?『佐藤 四郎』・・・さん?」
「『・・・あぁ、そうだ。そうだった。
思い出した。
俺は。俺の名前は、『佐藤 四郎』だ』」
ジーッと幽霊さんを見ていた紺之助兄さんが、不安そうにポツリとそう呟く。
その声を聴いた幽霊、四郎さんが歓喜の声を俺の口から漏らした。
それと同時に、その言葉に共鳴する様に四郎さんの体が揺らいで、胸の中心。
多分、心臓の辺りからドクドクと広がる様に、色がついていった。
俺よりシワやシミのある手や顔が少し不健康そうな肌色に変わって、髪と服は影の時と同じ黒色のまま。
完全に色を取り戻して現れたのは、喪服の様な真黒なスーツを着た、3、40代位だろうか?
少し老け更に父さんそっくりに成長した、大人になった『俺』だった。
四郎さんを見て思う。
俺、大人になってもボーッとした表情は変わらないんだなぁ。
父さんにスッゴク似てるけど、鏡越しに見慣れたその表情だけで、『老けた自分だ』ってハッキリ分かるもん。
「『・・・・・・こうやって思い出してから見ると、君。
随分懐かしい姿してたんだね。
カラーリング違うけど』」
『自分の未来の姿が分かってフクザツなきもち』
「『そう?良い大人になっただろう?』」
「良い大人かどうかは分からないけど、変わらずポワポワした表情してるとは思うよ。
後、小さい所も変わらない」
「『失礼な。
これでも170以上はあるんだよ?
日本男児の平均位はあるって。
霊感がある所だけじゃなく、どんな世界でも紺之助兄さんは俺を小さく見る所も同じなんだな』」
「んー・・・
オカルト関係なスキルは持ってるけど、僕に霊感は無いかな?」
紺之助兄さんと四郎さんの会話を聞いて、内心四郎さんに同意する。
確かに、四郎さんと俺の身長はそこまで変わってない。
ただ、小さいって言うのは間違ってる。
紺之助兄さんが日本人の平均身長よりデカいんだ。
俺も四郎さんもけして小さくない!!
四郎さんが今俺の口使ってるから、そう思っても口に出す事は出来ないんだけど。
それにしても、どの世界の紺之助兄さんも『俺』を小さいと思ってるのか。
多分、四郎さんが大人になってまでも言ってたんだろうな。
元の世界の事思い出して四郎さんは、寂しそうにも聞こえる懐かしそうな雰囲気と表情でそう言った。
「うわぁ。
本当にサトウそっく・・・り・・・・・・
サトウ?え?サトウだよな?」
「・・・・・・」
「何でお前、若返ってんの?」
「はぁ?」
「だから、無表情なのは変わらないけど、若返ってるんだよ。サトウが」
「いや、なんで?」
四郎さんから俺の方に視線を向けて、『俺』かどうか疑うルグ。
その問いに無言で頷いて返って来た言葉に、思わず『はぁ?』って声が出た。
『若返った』ってどう言う事だ?
鏡が無いから詳しく分からないけど、見える範囲見た感じ。
何処っからどう見ても、この世界バージョンの何時もの俺だろう?
「確かに、若返ってるな」
「えー、そうかぁ?いつも通りだと思うけど?」
「僕もザラさんに同意」
「右に同じく」
俺が若返ったと言うルグとクエイさん。
幽霊3人は分からないけどそれ以外の3人。
紺之助兄さん、ピコンさん、ザラさんは変わってないと言う。
「・・・あぁ、なるほ。
今までエド達には、俺と四郎さんの姿が重なって見えてたんだな。
こう、平均顔みたいな感じで」
スマホが俺と、『自分』と言うものが曖昧な四郎さんを同一人物だと判断していたんだろう。
いや、曖昧な『異世界の同一人物』だからこそ、そこまで境目が分からなくなってしまってたんだ。
実際に四郎さんは、一時期自分を俺の人格の1つだと思い込んでいた訳だし。
『膜』の関係で『状態保持』のスキルを持ってない人には、俺と四郎さんが重なっている様な姿に見えていた。
でも、四郎さんが『佐藤 四郎』として自分を思い出したから、そこ等辺のバグが治ったんだろう。
「じゃあ、今見えてるのがサトウの本当の姿なんだ。
・・・・・・本当にオイラより年上?
年下の間違いじゃないの?」
「年上です!!俺、15!エドは今14だろう!?」
「そうだけどさー。
全然1つ上に見えないんだけど?
細いし小さいし?」
「細くもないし小さくもない!!
ピコンさん達も頷かないで下さい!!」
ルグに同意する様に何度も頷くピコンさんとザラさん。
ルグの『1つ上に見えない』って言葉と、『細いし小さい』って言葉。
どっちに頷いたのかなぁ?
後、クエイさんは爆笑しないでください!!
「まぁ、アレだろう?
何故かヒヅル国の人間が、実年齢より若く見える現象」
「あぁ、アレかー。
ヒヅル国人似の顔してるから、サトー君達も実年齢より下に見えるんだろうなぁ。
コーン君もエドと同い年位に見えるし」
まだ爆笑の余韻が残っているのか。
笑いを堪える様な震え声でそう言うクエイさんの言葉に、納得した様に頷くザラさん。
まぁ、欧米の人はアジアの人の正確な年齢を当てられないって言うし、こっちの世界でも同じ様な事が起きてるんだろう。
「因みに四郎さんはお幾つですか?」
「『俺?37。四捨五入したら40だな』」
「流石にそれは嘘だろう?
どう見ても20代後半にしか見えないって!」
「『若く見て貰えるのは嬉しいけど、残念ながら30代後半です。
それに、結婚して子供も居るしね』」
・・・は?嘘でしょ!?
四郎さん結婚してるの!?
その上子供まで!!?
いや、年齢的に居ても可笑しくないけど。
年齢云々より、そっちの方が意外だった。
異世界の同一人物の俺に今現在、そんな影一切ないから直ぐには信じられない。
こ、これが『住んでる世界』の違いって奴か・・・
「なら、尚更元の世界に帰りたいですよね・・・」
「『・・・・・・いや。まだ、良いよ』」
「まだって・・・何が目的だ?」
「『そんなんじゃないさ。
ただ・・・まだ、俺達の為に使わくて良いて言いたいだ。
確かに『返還』の魔法を使えば、直ぐに俺達は元の世界に帰れるよ?
でも、それは、君達のナトと高橋を連れ帰る為に使ってくれ。
俺達はその後でいい』」
それに、まだ『返還』のゲージ溜まってないしね。
っと異世界の俺と分かって少し緩んでいた警戒心を取り戻したルグに、少しとぼけた様な優しい口調でそう言う四郎さん。
思い出したなら、尚更四郎さんも家族の元に帰りたいはず。
それでも、俺達の為にその思いを押し殺してくれた。
いや、ナト達を連れ戻したいのは、四郎さんの願いでもあるのか。
「『君達は、俺達とは違う。
この世界に連れ去られた家族は、まだ生きてるんだ。
まだ、間に合う。
君達だけは、生きて、帰ってくれ。
君達の父さんと母さん達にまで、俺の世界の父さん達の様な思いはさせたくないんだ』」
何処となく泣きそうな顔で、そう言う四郎さん。
異世界の同一人物と言っても、俺とは違う、俺よりも長い時間を生きてるんだ。
きっと、四郎さんにもそう言わせた色々があったんだろう。
ただ、その『色々』は聞いて欲しく無さそうだった。
だから、ナト達を連れ戻すのに必要な知識じゃなければ、深く検索しない。
そっとしておくのが、1番なんだろう。




