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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
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84,サンプルズ


「ちょっ!貴弥!?そんなに体貸してたの!!?

今、初めてじゃなくて!!?」

『そうらしい

さっき気づいた

おどろいた』

「全然驚いた様に見えないけど!?」


ホワイドボードと俺の口を使って行っていた、俺と俺に取り憑いた幽霊さんの会話を見て、紺之助兄さんが鼓膜を破きそうな勢いで叫んだ。

ルグ達もアングリと固まってるし、驚かせ過ぎっちゃったな。

いや、まぁ、俺も内心かなり驚いてるんだけど。

驚きよりも、今回も合点がいった感の方が強いし、幽霊さんも俺の体使ってるから表面上は冷静の様に見えるんだろう。

後、相変わらず表情筋が有給休暇中だから・・・

そんな紺之助兄さん達に、ホワイドボードに書いた文字を見せたら、鋭いツッコミを入れられてしまった。

解せぬ。


『おかげで助かりました

ありがとうございます』

「『どういたしまして。

まぁ、自分の為にやった事だから、お礼言われるのも何か違うと思うけどね』」

『そうなんですか?』

「『うん。

俺はさっき紺之助兄さんに、君に取り憑く幽霊だって言われるまで、自分の事『(佐藤 貴弥)』だと。

『君』自身の1部だと思い込んでいたんだ。

こう・・・『君』と『俺』の境目が曖昧って言えば良いのかな?』」

『俺がパニックになってると出てくる人格だと思っていた?』

「『うん、その通りだよ。

『俺』は『環境適応S』のスキルの影響で『君』が作り出した人格だと思っていたんだ。

誰かに『サトウ』って呼ばれるのにもシックリきたしね』」


どうも幽霊さんも俺と同じ様に自分自身を、『(佐藤 貴弥)』の人格の1つだと思い込んでいた様だ。

『自分』が元々誰だったか忘れてしまった影響か・・・

いや、多分違う。

まだ、可能性の段階だけど、多分この幽霊さんは・・・・・・


「・・・・・・なぁ、コン。

そろそろ、こいつ等見える様にしても良いんじゃないのか?

普通に話し出来るみたいだしさ」

「それもそうだね。その方が皆分かり易いだろうし」


ルグに促され、そう言って『エマージ』の呪文を唱える紺之助兄さん。

次の瞬間、紺之助兄さんとクエイさんの直ぐ近くに、クエイさんのお父さんとヤエさんが現れた。

ヤエさんは紺之助兄さんの隣に、クエイさんのお父さんはクエイさんを守る様に自分の解けた翼で包む様に。


「・・・・・・・・・あのサトウの影みたいな奴が、さっきまで喋っていた奴か?」

「そうだよ」


そうして俺の周りに現れた件の幽霊さん達。

まず、俺のすぐ隣に立っているのが、俺の口を使って喋っていた幽霊さんだ。

たった1人だけ、人の形を。

正確に言えば、ルグの言う通り壁に映し出された濃い俺の影の様な姿をしている。


そんな俺と影型幽霊さんの周りをフワフワ漂っているのが、顔のない真黒なてるてる坊主の様な、残りの幽霊さん達。

水道からポタポタ落ちる水滴の様に、俺のスマホの真っ暗な画面からでポコポコ出てきて、ただ漂って。

暫くしたらスマホに戻る。

ただそれだけ。

なんだか水族館で見たクラゲみたいだ。


「そうか、そうか。

よし、じゃあ、幽霊。覚悟は出来てるな?

答えろ!!何であんな事した!!?」

「え?え?えぇ!?

ちょ、まっ!えぇええええええええ!!!?」

「何やってるの!?エド君!!?

本当、何やってるの!!!?」


紺之助兄さんに『そうだ』と言われ、確認が終わったと言わんばかりに頷くルグ。

そのルグは笑顔のまま幽霊さんに近づいて、幽霊さんの胸倉を掴んで拳を構えた。

笑顔が消えたその顔は、恐ろしい程冷酷な真顔で、強過ぎる恐怖のあまり、俺か幽霊さんかも分からない悲鳴が口から溢れる。


「おい、おい。本当、落ち着けよ、エド」

「放せ、ザラ」

「嫌だね。エドこそ、そいつから手を放せ」

「ッ!」


幽霊さんから引きはがす様に、振り上げられたルグの腕を掴むザラさん。

でも、ルグの力の方が強い様で、ビクとも動かない。

ただルグを掴む手にかなり力を込めたのか、ルグが痛そうに顔を顰めた。


「・・・・・・何で・・・何で止めるんだよ!!!」

「止めるだろう、普通。

仲間が良く分からん存在に殴りかかろうとしてるんだ。

大切な作戦前なんだぞ?

何か合って戦力が減る様な事、見過ごせるかよ」

「まだ、殴らない!コイツの返答次第で決める!!」

「それがダメだって言ってんだろーが」

「だからってッ!!

たからって、納得出来るかよ・・・・・・

コイツのせいで、サトウはッ!

サトウは、花なり病になっちまたんだぞ!?

コイツのせいで死にかけたんだ!!

黙ってるなんって。

大人しく見過ごす事何って、出来る訳ねぇだろうがッ!!!」


ザラさんがルグを抑えている間に近づいたクエイさんが、戦力を減らしたくないと言って、ルグに煙草の煙を浴びせる。

それは体をマヒさせる様な病気にする物だったのか、それとも煙タイプの麻酔だったのか。

ルグはフニャフニャとザラさんに腕を掴まれたままへたり込んで、睨む様にクエイさんとザラさんを見上げ涙目でそう叫んだ。

何で見ず知らずのハズの幽霊さんに、ルグがこんなに殺気立つ程怒っているのか。

まさか、俺が理由だったとは・・・・・・


「コイツが?」

「本当かよ。お前の思い込みじゃないのか?」

「・・・・・・お前等も聞いただろう。

サトウのスマホを盗んだのは、影みたいな奴だって。

ならッ!!」

「ってコイツは言ってるけど、実際はどうなんだ?」

「・・・・・・『エドの言う通りだ。

俺があの地下洞窟で、彼のスマホを持ち出した』」

「ッ!!!何でッ!?

何であんな事した!!?

『エマージ』なくても実体化出来るなら、他にも方法はあっただろう!?」


俺の口を使ってそう言った幽霊さんに向かって、ルグが上手く動かせない体を震わして涙ながらに叫ぶ。

今更ながら、本当、俺、ルグ達に心配かけさせまくっていたんだな。

俺の為に泣いて怒るルグの姿に、罪悪感で胸が痛い。

紺之助兄さんも不安そうな青い顔でオロオロしてるし。

自分の不甲斐なさを見せつけられて、今直ぐにでも消えたい気分になる。

なんかもう、場所が場所だけに今なら自力で体からキノコ生やせそうな気がするな。

やらないし出来ないけど、気分的にそんな感じ。


「『自力で実体化した訳じゃない。

あの地下洞窟が特殊だったんだ』」

「それでも、実体化して直ぐちゃんと姿見せて、サトウ達に頼むとか!

他にもやり様はあったハズだ!!

何で盗んだよ!!?」

「『あの時は、そこまで何か考えられる様な状態じゃ無かったんだ。

理性も知性も完全に消えて、本能と未練の赴くまま動くだけの、唯の悪霊だった』」


あの地下で実体化した時。

幽霊さんは今みたいに会話出来る様な状態じゃ無かった。

あの青い玉をスマホを使って回収するまで、幽霊さん達は完全に理性が消え去った悪霊だったらしい。


生者への妬み言と恨み言。


それを永遠に垂れ流す事と、どんな願いかも忘れてしまった自分の願いを叶える為に、何故か必要だと知っていた青い玉達を集める事しか分からない。

そんな落ちる所まで落ちた悪霊になっていた。


でも、青い玉を手に入れた事を切っ掛けに、幽霊さんは段々理性が戻って来たそうだ。

幽霊を無条件で実体化さられる様な、埒外な程強い力のある場所にあったアイテムだからか。

多分、とんでもない状態の悪霊ですら正気に戻せる、超強力な浄化能力でも有ったんだろう。


その後、ルグとユマさんが何度も『サトウ』言ってるのを聞いたり、俺と一緒に俺の世界に来たり、紺之助兄さんの『エマージ』を浴びたり。

そう言うのを段階的に踏んで、幽霊さんはここまで人間性を取り戻した。


「『・・・・・・いや。こんなの唯の良い訳だね。

あの時の俺達は、俺は彼が死んでも良いと思ってたんだ。

死んでも良いから、あの青い玉が欲しかった。

いや、寧ろ、彼に取り憑いた時からずっと、彼の死を願っていたんだ』」

「ッ!何で・・・どうして・・・・・・

そんな事・・・」

「『どうしてかぁ・・・・・・

羨ましかったから、かな?

彼だけ生き残れた事が、羨ましかった。

妬ましかった。


何で彼だけ。

俺達はダメで、何で彼だけ助かったんだ!?

何が違うって言うんだッ!!!


俺達だってまだやりたい事が沢山あった!!


俺達だってまだ守りたいモノがあった!!!


俺達だっていきたい場所があった!!!


俺達だって、まだッ!!!』」

「ッ・・・」


紺之助兄さんが青い顔で『どうして』と零す。

その問いに俺の口を使って叫ぶ様に答える幽霊さん。

体を激しい炎の様に揺らめかせ、人の形を崩して何倍も大きくなって。

それに共鳴する様に周りの黒てるてる坊主達も騒めき出す。

それに気押されたんだろうか。

誰かの息を飲む音が聞こえてくる。


「『彼だけ生き残って、その上、元の世界に帰れる?

何で・・・何で、彼だけ・・・・・・

俺達だって、こんな所、来たくなかった・・・』」

『ちがいなんてない

ねたんで当然

本当だったら、俺もユウレイさん達と同じようにこの世界に来たシュンカンに死んでた』


ホワイドボードに書いた文字を読んで、幽霊さん達の大きさと姿が元に戻る。


俺に取り憑いた幽霊さん達の正体。

それは、俺の前に『召喚』された被害者(サンプル)達だ。


同じサンプルとして『召喚』されたのに、『俺』だけ運よく生き残った。

この世界の沢山の人に助けられ、自分の世界に帰る方法を見つけられたんだ。

自分達は誰も助けてくれなくて、殺されるだけじゃなく、遺体まで利用されて。

元の世界に何1つかえす事も、かえる事も出来ない。

なのに何で『俺』だけ・・・・・・


何が違うのか、何がダメだったのか、ズルい、羨ましい、妬ましい。

・・・・・・自分だけ助かる何って、許せない。

自分と同じ幽霊になって、何も分からない異世界をさ迷えばいい。


そう思ってしまうのも、当然の事だろう。

特に俺の口を使ってる幽霊さんは。


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