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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
313/498

83,黒い人


「『プチレイン』!!

・・・・・・これでもダメか・・・」

「なぁ、サトー君。

もっと激しい雨降らすとか、強制的に起こす薬とか出せないの?

そんな軽く濡らすだけじゃ起きないと思うぞ?」

「えーと、薬は・・・・・無理ですね。作れません。

あ、でも、これなら・・・・・・」

「なんだそれ?緑色の土?」

「いいえ。

ワサビって言う俺の世界のハーブです。

コレを口に捻じ込みます」


大量の摩り下ろしたワサビと、緑茶用の茶葉を『ミドリの手』で出して、ルグから勝手に借りた杖を使い『クリエイト』で人数分のスプーンと湯呑と急須とヤカン、小袋入りのマヨネーズを出す。

魔法を使ってパパッとお湯を沸かして、熱いお茶を入れて。

試しにとかなりの量のワサビを食べて悶えてるザラさんにマヨネーズと一緒に渡す。


ワサビとか玉ねぎとかに含まれるツンとくる成分は揮発性が高いから、熱いお茶で洗い流すと良いらしい。

後、緑茶にも含まれるカテキンには皮膚や粘膜を守る力があるとか。

それと、マヨネーズを舐めるのも効果的。

『クリエイト』で作ったマヨネーズに含まれてるか分からないけど、市販のマヨネーズにはワサビとかの辛み成分を中和させる油が含まれてるらしくて、少量でも口の中に広げる様に舐めると高確率で辛くなくなるそうだ。

後は、鼻から息を吸って口から出すとか?

でもアレ、俺は全然効果なかったんだよなぁ。


「どうぞ。

これ、舐めると辛みが抑えられますよ。

後、お茶は熱いので気を付けてください」

「・・・・・・プハァ!

あー・・・辛すぎて死ぬかと思ったぁ。

確かにこれは一発で起きそうだな」

「でしょ?」


マヨネーズを舐めて、お茶で流し込んで。

目に涙を為てヒィヒィ言いながらゴーサインを出すザラさん。

実際に罰ゲームでもないと口にしない量を食べたザラさんが、これなら絶対起きるって言ったんだ。

遠慮する事なく一気に準最終兵器を口に突っ込もう。


「・・・ん・・・・・・んん?

い、がぁあああああああ!!!!?」

「あ、漸く起きた。よし、次」


火炎苺を使わないだけの良心は残しつつも心を鬼にして、1人ずつ大量のワサビを口に突っ込んでいく。

流石に『眠り』の魔法に支配された体もこの辛さには勝てなかったんだろう。

ワサビを突っ込んで少しの間を置いてから、飛び上がる勢いで眠っていた4人が次々起きた。


「きィイイびィイイイ!!!!!ッ!!?」

「おま、おま、サトッ!!!?おま!!!?」

「殺す。返答次第でお前等2人、絶対殺す」


眼鏡がずれたまま顔を熟したトマト以上に真っ赤にして怒鳴って、直ぐに何故か俺の方を見て目を見開いて固まった紺之助兄さんに、ワサビを吐きながら涙目で睨むピコンさん。

それと元の魔族の姿のまま長い針を構え殺気立つクエイさんは、マヨネーズと緑茶のお陰でどうにか復活できたみたいだ。

でも、辛い物が苦手なルグはそうはいかない。

一回目を覚ましたけど、あまりの辛さに今度は気絶しそうになっている。

どうにか耐えてるけど。

声を出すどころか、自力でマヨネーズを舐める事も緑茶を飲む事も出来そうにない様だ。


「ごめんなさい。

緊急事態だったから、最終手段取らせて貰いました」

「緊急事態だぁ?」

「怪しい婆さんが来てたんだよ。

多分お前等、その婆さんに眠らされてた」


ルグにマヨネーズを舐めさせつつ謝る俺を補足する様に、ザラさんがもう1度辺りを警戒する様に見回してそう言う。

その言葉にクエイさんとピコンさんの目が、別の意味で鋭くなった。

人の姿になり長い針を持ち直したクエイさんと、一瞬で描かれた魔法陣と入れ替わる様に現れたピッチフォークを構えるピコンさん。

紺之助兄さんは相変わらず目を見開いて固まってるし、ルグは何か反応出来る程回復していない。


「ッ!そいつは今、何処に居る?

親父達が見当たらないのも関係あるか?」

「婆さんは向こうの方に行っちまったよ。

クエイの父ちゃん達は・・・・・・」

「大丈夫です。見えないだけで近くに居ます」

「なら、直ぐに見える様にしてくれ。

その方がクエイも安心出来るだろう?」

「それは・・・・・・」


何か問題があるんだろうか?

眼鏡を外し辺りを見回して、クエイさんの方を見てクエイさんのお父さん達が居ると言った紺之助兄さんは、何故か『エマージ』を使うのを躊躇っていた。

その理由は俺にある様で、何か言いたそうな紺之助兄さんの目が俺を射抜く。

いや、正確には俺じゃ無く、俺のすぐ近くの右隣辺り。

周りを見回しても誰も居ないし、自分の体を触っても異常はない。


「俺、あのお婆さんに何かされてる?」

「そのお婆さんが原因かどうかは、分からない。

けど・・・・・・」

「何か・・・

兄さんの目にしか映らない異常が起きてるんだね。

俺に」

「・・・・・・・・・うん」


小さく頷く紺之助兄さんの言葉に、目の前がクラクラしだした。

紺之助兄さんにしか見えない異常って事は、つまり。

俺、今、クエイさんのお父さんとヤエさん以外の幽霊に取り憑かれてるって事だよな?

いつの間に俺、取り憑かれたんだ!?

紺之助兄さんが寝る前は居なかったよな!!?

本当に何時だよ!!?


「え!まさか、クエイの父ちゃん達以外の幽霊が居るのか!?」

「はい。貴弥、その幽霊達に今、取り憑かれてます」


まさかの複数人!!

1人だけじゃなく、何人も取り憑いてるのかよ!!

何で!?

本当、何で俺に取り憑いてるの!!?

お願いだから、今!直ぐ!!成仏してッ!!!?


「件の、この中に居るって言う怨霊か?」

「えっと・・・いいえ。集合体怨霊とは別です」

「別でもコンが『エマージ』使うの渋るって事は、危険な幽霊達なんだよな?

実体持った瞬間にサトウを襲うとか」


複数人の幽霊と聞いて、俺に取り憑いているのが自分のお母さんを取り込んだ怨霊か聞くクエイさん。

その不安そうな質問に対し、紺之助兄さんはクエイさんのお父さん達に確認を取っているのか。

少しの間を置いてハッキリと違うと言う。

それを聞いてルグが、その幽霊達が俺に危害を加えようと取り憑いているのか聞いてくれる。


「それは・・・・・・分からない」

「何でだ?」

「多分、貴弥に取り憑いている幽霊達は、ヤエさんやルシアンさんの様に自我を保ててないんだ。

僕の『眼』にも真黒な人影と沢山のてるてる坊主にしか見えないから・・・・・・

それに、言葉も殆ど分からない。

もう、性別も、年齢も、自分の名前も、生前の姿も。

人だったかどうかすら、覚えてないんだと思う・・・」


自分が『誰だったか』すら忘れて、ただの真黒な影になって。

『魂』の姿が見える紺之助兄さんでも、『綺麗な生前の姿』に見えない幽霊達。

そんな幽霊達が、俺に、取り憑いている。

その言葉を聞いて、フラッシュバックするマーヤちゃんの姿。

ローズ国城の中庭でマーヤちゃんが言った、


『サトウおじ様と一緒に居る黒い人達も・・・』


と言う、忘れようとしていたあの言葉。

あの言葉が何度も頭の中でリピートされる。

つまり、この自分を忘れた幽霊達は、前回この世界に来た時から俺に取り憑いていたって事か・・・・・・


「・・・ハハ・・・ハハハ・・・・・・

マジかー・・・・・・マジかー・・・・・・

そんな前から取り憑かれたんだー・・・・・・

マジかー・・・・・・・・・」

「き、貴弥!?大丈夫!!?

幽霊とか苦手だもんね!?

貴弥が今、スッゴク怖い思いしてるのは分かるよ!?

分かるけど、気だけはしっかり保って!!」

「だい、大丈夫・・・怖い、のは大丈夫・・・・・・

大丈夫だけど、前回の時から取り憑かれていた事には気づきたくなかった・・・・・・」


衝撃の真実に全身から力が抜けて、思わず膝から崩れ落ちる。

元々ない語彙力が更に消失して、口から自然と同じ言葉が溢れてきて。

あ、ヤバい。

膝どころか全身が大爆笑していて全然立てない。

立てない通り越して、全く動けそうにないな。

両手と両脚を地面につける様に蹲ってブツブツ言う以外、何も出来そうにない。


そんな俺に紺之助兄さんが直ぐに駆け寄って、慰める様に背中を擦ってくれる。

紺之助兄さんに言った様に、ショックは大きいけど、何故か全然自分に取り憑く幽霊達を怖いと思えなかったんだ。

これも『環境適応S』のスキルの効果なのかな?

何かヤバそうな幽霊に取り憑かれてるって知ったら、普段ならパニック起こして大絶叫し続けてるはずなのに、全然そんな事起きる気がしない。

寧ろ、漸く合点がいったって気持ちの方が強いな。


「前回からって・・・・・・

サトウ、本当に何時からその幽霊達と一緒に居たんだよ!!?」

「それに、そんなに前から取り憑かれてたのに、何でコォン君は気づかなかったんだ?

眼鏡かけてたから?」

「わ、分からない・・・・・・

マーヤちゃんとローズ国城で会う前から取り憑かれてたのは間違いないと思うけど・・・

でも・・・・・・本当、何時から・・・・・・」


前回から取り憑かれていた事に驚くルグに、紺之助兄さんが今まで気付かなかった事が疑問だと言うするピコンさん。

その質問に答えてる途中。

『冷静な俺』が喋り出す時の様に、俺の口が勝手に動き出した。


「・・・『初めて『俺』が『召喚』された時から一緒に居るんだ。

紺之助兄さんに見えないのは普段、スマホの中に居るからだと思うよ?』

・・・・・・え?」

「そうなのか?良くそんな事分かったな、サトウ」

「違う。今喋ったのは貴弥じゃない。

貴弥に取り憑いてる人影の幽霊が、貴弥の口を使って喋ったんだ」

「えぇ!?それ、本当に、大丈夫なのかよ!!?」

「サトウ!大丈夫か!?何処か変な所は無いか!?」


俺の体を使って取り憑いた幽霊が喋っていると言う紺之助兄さんの言葉に驚くザラさんと、俺の体を心配そうに調べ出すルグ。

死者が生者の体借りて喋るって、本当にあるんだなー。

あれ、心霊番組のヤラセだと思ったから、驚いたよ。

ハハ、まさか自分の身で体験するとは・・・・・・

一生こんな体験したくなかった!!

そう内心で泣きつつ、


『大丈夫』


とホワイドボードに書いて見せながら、ルグに向かって頷く。

今『俺』が喋っても、『俺に取り憑く幽霊の言葉』と勘違いされるかもしれない。

だから、声に出さずそう伝えたんだ。

それを見て紺之助兄さんとルグがホッとした所で文字を消して、別の文字を書く。


『俺にとりついているユウレイさんにいくつか質問です』

「『どうぞ』」

『俺の体を使ってしゃべるの、これで4回目ですよね?』

「『そうだね。

カシスさんに襲われた時と、魔女達に襲われた時。

それと、ザラさんが起きる前にあのリンゴ売りのお婆さんと話したよ』」


予想通り『冷静な俺』は俺自身じゃなくて、今俺の口を使って喋ってる幽霊さんだった。


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