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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
308/498

78,紅白幽霊と霊薬の秘密 後編

  * 注意 *


前回から引き続き、『カニバリズム』や『人体実験』等、人を選ぶ描写がガッツリ目にあります。

苦手な方、不愉快に感じる方はご注意して下さるよう、よろしくお願いします。


 20年位前。

クエイさんが5、6歳の頃、クエイさんの両親は宿場町の宿屋の一室を借りて、診療所を開いていた。

当時のクエイさんの両親の医療の腕は、隠し通したカラドリウスとしての力が無くても確かで、クエイさんのお婆さん程じゃないけど、宿場町ではその診療所はそれなりに有名だったそうだ。


ある日の事。

その噂を聞きつけて何処かの貴族だか王族だかが治療を受けに来た。

その人は荒れた生活習慣が原因の重い病気で、クエイさんの両親は薬を出すと同時に生活を見直すよう言ったらしい。

まぁ、確かに、薬を飲んだ所で、病気の原因の根本をどうにかしない事には治るものも治らないよな。

クエイさんの両親の判断は正しい。

でも、その貴族だか王族はそう思わなかった。

規則正しい生活を送れ、って言われたのに直さず、


「薬を飲んでも治らない!!

あいつ等はヤブ医者だ!!詐欺師だ!!」


と逆恨みして騒ぎまくり、診療所に居たクエイさんの両親を誘拐同然に連れて行ってしまったらしい。

幼いクエイさんにとってはある日突然。

何時も通りお婆さんに預けられて、何時も通り仕事に行く両親を見送ったら、その日から帰ってこなくなって、一切の連絡もない。

幼いクエイさんにはまさに世界が崩れる様な絶望と不安を感じる、トラウマ不回避な出来事だったろう。


仕事先で何か事故や事件に巻き込まれたのか、それとも両親は自分が嫌いになって、要らなくて捨てたのか。

そもそも生きてるのか死んでるのかも分からない。


そんな深い深い不安と恐怖と絶望。

そして頑張って家業を継ごうとお婆さんの手伝いをして感じた、ドンドン開いていくウィンさん(姉弟子)との医者としての才能の差。

そう言うものを強く感じて幼少期を過ごしたクエイさんは、盛大にグレた。

それはもう、クエイさんのお婆さんや、今では頭が上がらないウィンさんが手を焼く位、グレにグレまっくったそうだ。

その名残があの口の悪さである。

いや、クエイさんの半生も何気に悲惨過ぎない?


「その貴族に連れてかれたルシアンさん達は無い罪まで被せられて、休みない酷い拷問を受けさせられた。

その最中に、変化石って言う魔法道具が壊れて、カラドリウスだってバレてしまったんだって」

「それで、クエイの父ちゃんと母ちゃんは・・・

死んじまったのか?」

「いいえ。

『隷従の首輪』を使って、魔法やスキルを使って一生この国の王族や貴族の病気を治す奴隷にされかけたそうです。

でも、使われた『隷従の首輪』が不完全な物で、どう言う状態か良く分からないんですけど・・・

2人は化石化って言うのになってしまったそうで・・・」

「・・・・・・化石化はこの世界の植物状態の事だよ、兄さん」


気丈夫に振舞っても、流石に精神的ダメージの限界が来たんだろう。

声を押し殺し震え、俺以上に歩く事が困難になったクエイさんをしっかり支え、代わりに質問したザラさん。

その躊躇いがちに、でもハッキリとした質問に、紺之助兄さんが静かに首を横に振りながら答える。

そんな紺之助兄さんに化石化の説明をするけど、あれ以上の事は言えなかった。

流石にこの状態のクエイさんが居る所で、


「延命方法も回復方法も分からない」


とは声に出せなかったんだ。

医者である以上、クエイさんもその事は分かっているはず。

でも、誰かに言われて、順々にゆっくり受け入れている事の順番を狂わせられるのは辛いだろう、と思ったんだ。

1番の関係者が分かっている辛い現実を、態々苦しんでる時に突きつける必要はない。


「植物・・・そう、だから・・・・・・

生きる為だけに体を動かす事は出来ても、病気を治す魔法やスキルは使えない。

だから、その貴族はルシアンさん達を役立たずとして、霊薬の素材にしたんだ」


クエイさんの両親が必死に隠したから、クエイさんやあの村の事は誰にも知られなかった。


カラドリウスとして残っているのは自分達2人だけ。

他の仲間は知らない。

他は絶滅してしまった!!


と拷問され、終わりのない痛みを受け続けても言い続けたそうだ。

その上、男女のカラドリウスが居るからと、無理矢理子供を作らされ、生まれたその子までも利用されない様に、クエイさんの両親は毒で自分達の生殖機能を完全に壊してしまったらしい。


何も無ければ、クエイさんの兄弟が生まれていたかも知れないのに、それを自ら・・・・・・


そこまでされ、ゾンビ化も失敗して。

その貴族達からしたらもう、クエイさんの両親の『利用価値』は無いに等しくなってしまった。

植物状態で魔法もスキルも使えないから病気を治させられないし、自分達の都合の良い様に出来るカラドリウスの数を増やす事も出来ない。

残った『使い道』は2000年前のカラドリウス達と同じ様に、霊薬の素材にする事のみ。


そう、貴族達は考えたそうだ。

本気でそんなふざけた事考えて実行したって言うんだから、恐ろしい。

人を何だと思ってるんだって話以前に、そいつ等が本当に心や良心を持った『人』って生き物かどうか怪しく思えてくる。


いや、世界は違えど同じ『人』とは思いたくないんだ。


本当は変化石か幻術の魔法で人間のフリをした、生まれつき『良い心』が備わってない地獄から這い出てきた『化け物』か、ゲームや物語に出てくる方の『魔物』や『魔族』なんじゃないのか?

あまりにやってる事が酷過ぎて、そう思いたいんだ。


「役立たず?利用価値がない?

どこまで・・・どこまで・・・・・・」


ポタポタと、天井から滴り落ちる水とは別の音が、小刻みに震えるクエイさんの方から聞こえてくる。

それと同時に微かに鼻を刺激した鉄の匂い。

泣きそうなのを我慢してるのか、それとも怒りや殺意の限界値に到達してしまったのか。

表情が見えないから分からないけど、漸く口を開いたクエイさんの声は酷く震えていた。


「・・・・・・元々、2000年前に連れ去られたカラドリウス達の・・・

限界が来ていたみたいです。

汲める霊薬の量が減って、効果も薄くなってきて・・・

だから・・・・・・」

「だから、親父とお袋を追加で入れたって!?

ふざけんじゃねぇ!!!

あいつ等ぁ・・・あいつ等ぁああ!!!」

「クエイ!

気持ちは分からなくないけど、コーン君に当たるのはやめろ。

そんな事しても意味がないし、お前の父ちゃんの言葉も分からなくなるんだぞ?

それでいいのか?本当にいいのよ!?」

「・・・・・・・・・チッ!

その位、分かってる・・・けどなぁ・・・・・・」


切り裂く様な真っ赤な声で紺之助兄さんに向かって叫ぶクエイさん。

身の内を燻ぶる様に渦巻く感情の吐き出し方が分からなくなる位、クエイさんは追い詰められている様だった。

相棒と言って良いほど1番信頼してるだろうザラさんに、


「これから両親を助けるんだろう?

そんな調子で本当に家族を助けられると思ってるのか?

シャッキとしろ!」


と言いたげに背中を平手で思いっ切り叩かれて、きつめの言葉を掛けられて。

多少は落ち着いたみたいだけど、それでも何時もの調子には戻れそうにない。

弱々しく『けどな』と言うその声は、泣いてる様だった。

そんなクエイさんの頭を慰める様にポンポンと軽くなでるザラさん。

何時もなら1つ2つ文句付きで盛大に払いのけるその手を、払いのけないで無言で受け入れてる時点で、クエイさんが相当参っているのが否応なく分かってしまうだろう。


「えーと。ルシアンさんがザラさんに、


『クエイシードの事、これからもよろしくお願いします』


って伝えてくれって言ってます」

「おう!任せろ、クエイの父ちゃん!

クエイの事は俺様がちゃんと守ってやっから、そんなに心配すんなって!!」

「・・・・・・お前に守られ続ける気はないし、気安く任されるな。

後、変な事言うな、馬鹿親父・・・」

「アイテッ!叩く事ないだろー、クエイー」


多分、ペコペコ頭を下げて頼み込んでいるだろうクエイさんのお父さんと、紺之助兄さんの通訳を聞いてケラケラ笑って軽く受け答えるザラさん。

その2人のやり取りで少し調子が戻ったんだろう。

クエイさんは気恥ずかしそうな声音でそう言いながら、離れる様にザラさんの体を小突いた。

痛いと言いつつ何処か嬉しそうなザラさんの様子と柔らかくなった雰囲気からして、クエイさんが完全復活したと思っていいのかもな。


「あの、クエイさんのお父さん達に幾つか質問良いですか?」

「何かな、貴弥?」

「えーと、まず1つ目。

何でさっき兄さんだけを連れ去ろうとしたのか。


その2。

クエイさんのお母さんを助ける具体的な方法。


その3。

その2と被るかもしれないけど、被害者の幽霊さん達全員を平和的に成仏させる方法。


その4。霊薬製造場のぶっ壊し方」


1つ目は、まぁ、大体予想出来る。

あの場に居た人達の中で唯一幽霊が見えたのが、紺之助兄さんだけだったからだ。

それに、『エマージ』の魔法も持ってるから、その融合した怨霊を実体化させ、自分達の手で霊薬製造場をぶっ壊して貰う事も出来るだろう。

話を聞いたら、案の定。

1番自分達の事情が分かる、『裏眼』のスキルを持つ紺之助兄さんだけ連れて行こうとしていた事が分かった。


そして、アルさん達を罠に嵌めたのは、クエイさんを守る為。

クエイさんが霊薬製造場にまでついて来て、万が一霊薬の素材になってしまったら・・・・・・

そう危惧したクエイさんのお父さんが罠を発動させたらしい。

本当は戦力的に紺之助兄さんと一緒に来て貰った方が良かったアルさんやジェイクさん、ザラさんは罠にかけないつもりだったらしいけど、焦って失敗して紺之助兄さん以外全員罠にかけてしまったそうだ。


「と言う事で、先生。


『やっぱり、来るのやめないか?』


とルシアンさんが言ってます」

「何度も言ってるだろうが。

絶対俺の手で霊薬ぶっ壊す」

「『今1番危険なのは、生きたカラドリウスのお前なんだよ?

霊薬を守り、見つけたカラドリウスを霊薬の素材にしようと襲ってくる。

とても、とても、危険な幽霊が居るんだ。

あそこに行けば、お前が真っ先に襲われてしまう!』


と言ってますが?」

「絶対ぶっ壊す」

「と、先生が譲らないので、そろそろ諦めてください、ルシアンさん」


事情を説明された事で、更にクエイさんの意思が固くなったんだろう。

クエイさんの身を案じて、紺之助兄さんを通して諦めず説得しようとした父親の思いを蹴散らす勢いで、『絶対ぶっ壊す』と言ったその声は、冷え切ってる事しか分からない感情の読めないモノだった。

これは梃でも絶対動かない奴だなぁ。

現場で何が待ち受けているのか全く分からないんだ。

転んだりパニック起こしたりしてクエイさんが誤って霊薬の素材にならない様に、今からしっかり気を引き締めて辺りを警戒しよう。

その前に、まだまだ終わらない説明で、吐かない様に気をシッカリ保つのが先か。


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