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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
306/498

76,紅白幽霊の正体

   *注意*


今回の話には、多少ですが『カニバリズム』や『人体実験』等の、人を選ぶ様な内容が含まれています。


そう言う描写が苦手な方や、不愉快に感じる方はご注意下さい。


よろしく、お願いします。



「兄さん!念の為に目つぶってて!!」

「え?何する・・・」

「これでも食らえ!!」


マシロのお陰で罠が解除され、アルさん達が解放されたのを視界の隅で捉えつつ、『フライ』を掛けて体を軽くし、滑る様に全力で駆け抜ける。

何時もよりスピードが出た事と、紺之助兄さんが抵抗し続けていてくれた事で、仕掛けを解くって言うロスタイムが合っても直ぐ追いつけた。

そのままルグとの事前の打ち合わせ通り、『ミドリの手』と『プチヴァイラス』で出した塩をぶん投げる。

万が一にも紺之助兄さんの目に入ったら困るから、紺之助兄さんが目を瞑ったタイミングでだけど。

この世界でも通用するかどうか分からないけど、ナトから聞いた話だと大体の幽霊は塩でどうにかなったはず!!

後、主人公と愉快な仲間達の霊能パワー。

そうじゃなくても塩が目に入れば大体の生き物は痛いだろう。

海の生き物は知らないけど!!


「こいつは返して貰うからな!」


まぁ、塩が効かなくてもルグがどうにかしてくれるんだけど。

いつも通り俺は、敵の注意を引く囮役。

ワンチャンの攻撃第1陣でもあるけど、異世界の幽霊に俺達の世界の除霊方法が効くとは思えないし、そもそも俺のコントロール技術じゃ確実に目に塩をヒットさせるなんって絶対無理だ。

数打ちゃ1つ位偶然当たるかもしれないけど、そんな偶然運良く起きるはずがない。

だから、俺が塩を投げて幽霊の注意を一瞬でも引けて隙が出来てる間に、少し遅れて俺の陰に隠れていた本命のルグが幽霊達を攻撃して紺之助兄さんを救出する。

最初からそう言う作戦だったんだ。


「ッ!!?」

「キャッ!」


幽霊ではあるけど、紺之助兄さんの『エマージ』の魔法の効果か。

紺之助兄さんの腕を引っ張れる所から考えて、今は実体があるはず。

だから、物理攻撃も効くはずだと思ってたけど、上手くいった。

ルグの蹴りがかなり上手い事入ったんだろう。

幽霊達はかなり遠くまで吹き飛ばされた。

普通なら、あそこまで飛ばされたら起き上がれないと思うけど、相手は幽霊。

油断は一切できない。


「エド、ありがとう!はい、兄さん。眼鏡」

「あ、ありがとう。エド君もありがとう」

「どういたしまして。それより、早く逃げるぞ!!」

「分かった」

「ッ!!待って!」

「兄さん?」


このままじゃちゃんと走れないだろうと、拾ったどこも壊れてない眼鏡を紺之助兄さんに返す。

そのまま紺之助兄さんの手を引いて元来た道を戻ろうとした。

でも、紺之助兄さんが幽霊達の方を見たまま動こうとしない。


「何してるの、兄さん!?早く逃げないと!!」

「でも、あの人達『助けて』って・・・・・・」

「いやいやいや!!

その『助けて』は、どう考えても一緒に地獄に行こう的なアレでしょう!?

行っちゃダメ行っちゃダメ!!

絶対行っちゃダメッ!!!」

「そう?

僕は全然そんな事する様な人達に見えないけど?

確かに無理矢理問答無用で連れてかれそうになったのには驚いたけどさ」


本能からも警告が出る様な、どう見ても生者に危害をくわえそうな悪霊にしか見えないのに、紺之助兄さんはそんな風に見えないと言う。

それに女幽霊の笑い声しか聞こえないはずなのに、『助けてって言ってる』なんって言うんだ。

本当、紺之助兄さんには幽霊達がどう見えて、何が聞こえているんだよ!

幽霊達に取り憑かれた影響で変な物見えたり、聞こえてるって事なのか?


「それに、『蘇生薬』の研究日誌の石板持って来てくれた恩があるでしょ?

助けて貰ったんだから、ちゃんとお返ししないと」

「いや、確かにそれはそうなんだけどね?

でも、それとこれは別問題って言うか、完全に命かける話な訳で・・・・・・

そもそも、話が通じる段階はとっくの途に通り過ぎているって言うか・・・・・・

いや、それ以前に、ローズ姫達が寄越した敵かもしれないんだよ!?

それが理由で俺達、此処まで追いかけてきたんでしょ!!?」

「『私達があいつ等の味方ぁ?

そんな事、死んでも起きる訳ないだろう!!!

気持ち悪い事言わないでくれ!不愉快だ!!』

って言ってるよ?」

「信じられません!!!」

「そんな力強く言わなくても・・・・・・

そもそも、貴弥にはあの人達がどう見えてるの?」

「手足と首が千切れた女の人と真っ赤に溶けたカラドリウス」

『え?』


俺とは違った見え方をしてると予想がついていた紺之助兄さんだけじゃなく、隣のルグも追いついたマシロとジェイクさんも俺が幽霊達の容姿を伝えた途端驚きの声を上げた。

あぁ、なるほど。

可笑しかったのは俺の方か。


「えーと。

貴弥だけ違うものが見えてるって事でいいんだよね?」

「いや。俺は兄ちゃんと同じだな。

赤い化け物に見える」

「え・・・」


あ、良かった。

幽霊達の姿があの恐ろしい姿に見えていたのは、俺だけじゃ無いみたいだ。

俺と同じ物が見えると言ったアルさんの他に、ピコンさん、ザラさん、ステアちゃん、ミルちゃんも同じ。


「あ。えっと、ちょっと待って!

少し話し合いさせて!!

君達が焦ってるのは良く分かったよ?

でも急に何処かに連れてかれるのは僕達も困るんだ。

だから、もう少しだけ待って貰えるかな?

・・・ありがとう」


フラリと紺之助兄さんのすぐ近くに現れた幽霊達。

そのまま、また紺之助兄さんを連れて行こうとしたけど、紺之助兄さんの説得に応じてくれた様で、2人共大人しく紺之助兄さんの近くで待っていてくれている。

見た目の異常さに反して、意外とまだ話が通じる位理性が残っているんだろうか?

紺之助兄さんしか幽霊達の言葉が分からないから、どの位言葉が通じるか分からないけど。


「えっと。

因みに僕には、白い着物の綺麗な女の子と鶴みたいな白い鳥に見えるよ」

「オイラ達も多分、コンと同じ物が見えてるな。

白い鳥って言うか、クエイと同じ・・・

カラドリウス、の男だけど」

「後は、影が無いから幽霊だってのは分かるよ」

「影?あ、本当だ。無いね」

「影が見えないのは俺達も同じだな」


紺之助兄さんに同意する様に、魔法道具の影響で途切れ途切れルグがそう言って、マシロが補足する様に幽霊達に影がない事を言った。

紺之助兄さんは気づいてなかったけど、アルさんの言う通り赤い姿に見える組も幽霊の影は見えない。

そこだけは唯一の共通点だ。


「・・・・・・確認の為に聞きますが、クエイさんとペールとピックも兄さんと同じ物が見えてますよね?」

「あぁ、そうだな」

「そうなの?ピック、ペール?」

「ガウ」

「ガァウ!」


予想通り、未だに眼鏡を持ったままの紺之助兄さんと同じ物が見えているのは、反応したルグ、マシロ、ジェイクさんの3人以外に、クエイさんとピックとペール。

毒耐性が強くて『状態保持S』に似たスキルを持っていない4人と2匹が、今の紺之助兄さんと同じ物が見えているんだ。

ランクは分からないけど俺と同じ『状態保持』のスキルを持っている紺之助兄さんが、スキルを持ってない組と同じ物が見えるのは多分、眼鏡をかけてないせいだと思う


「兄さん、眼鏡かけて幽霊さん達見て貰える?」

「え?あ、うん、分かった。ちょっと待って・・・」


何故かクエイさんをチラチラ見ながらカラドリウス幽霊と何か話し込んでいた紺之助兄さんに、そう言って眼鏡を掛けて貰う。

俺の予想通りなら、眼鏡を掛ければ紺之助兄さんにも俺達スキル持ち組と同じ物が見える様になるはず。


「ッ!こ、これて・・・」

「俺達が言った姿に見えるでしょ?」

「え、あ、うん。

なんで・・・こんな・・・

赤い・・・ドロドロした・・・・・・

ッ!!

・・・・・・そう・・・これが今の・・・」


俺の確認の言葉に答えた後、紺之助兄さんは幽霊達の質問に答えてる様だった。

恐らく、『これが今の』の後に続く言葉は、


『貴方達の遺体の状態』


だろう。

ルグが教えてくれた事だけど。

紺之助兄さんはマーヤちゃんと同じ、『裏眼』のスキルを持っているそうだ。

ただし紺之助兄さんは常時幽霊が見えてるマーヤちゃんと違って、眼鏡を外してる時にしか幽霊が見えないらしい。

恐らく、眼鏡のレンズが邪魔してる。

もしくは、『状態保持』のスキルと『裏眼』のスキルは互いに相性が悪くて、そのどっちも問題なく使える様に、眼鏡をしてる時は『状態保持』のスキルが、眼鏡を外してる時は『裏眼』のスキルが優先さる様になってるのかもしれない。

そして多分、幽霊を『エマージ』の魔法で実体化させると、『裏眼』のスキルの影響で『魂』そのもの姿で実体化するんだろう。


だけど、俺達スキル持ち組は『状態保持』のスキルの影響で『魂』じゃなくて『幽霊』の。

死んだ時の姿や死体の今の状態の姿で見えてしまう。


例えが酷いと思うけど分かりやすく言うなら、ルグ達には幽霊達が全裸の姿に見えて、俺達には服を着た状態に見えるって事かな?

つまり、5分割されたりドロドロにされたり。

明らかに事故や病気じゃ起きないだろう物凄く酷い殺され方したけど、魂が人の形を残した綺麗な状態で居るって事は、幽霊達はまだ悪霊になっていないって事だよな?

怨霊とか悪霊って意味では紺之助兄さんの言う通り、そこまで警戒しなくてもいいのかもしれない。

確実に敵じゃないって分かった訳じゃ無いから、まだ警戒を解く訳にはいかないけど。


「おい!さっきから何なんだ?

俺の方チラチラ見て。

言いたい事あるならハッキリ言いやがれ!!」

「あ・・・それは・・・

・・・・・・・・・先生、覚悟、決めてください。

先生のご家族の事かもしれないので」

「・・・・・・・・・・・・はぁ?」


悩みに悩んだ末本気で幽霊達と向き合う様に眼鏡を外し、覚悟を決めた様な顔で紺之助兄さんが言った言葉。

それに、チラ見され続けてイライラしていたクエイさんも思わずポカンとしてしまう。

クエイさんの家族の話?

一体紺之助兄さんは幽霊さんから何を聞いたんだろう。


「まず、先生の本名は、クエイシード・ベイリーズ、で合ってますよね?」

「・・・・・・何で知ってる?

俺は教えた覚えないぞ?」

「合ってるんですね。

そしてお父さんの名前は、ルシアン。

ルシアン・ベイリーズ。

お母さんの名前はアイリッシュ・ベイリーズで旧姓はクリーム。

お婆さんの名前は、ジェリコ・ベイリーズ」

「何でお前がそこまでしッ!!ま、さか・・・」

「はい。

さき程、こちらのルシアンさんから。

先生のお父さんから聞きました」


最初無視した『教えてない』って言う言葉に答える様に。

そして、途中で気づいて真っ青な顔で唖然とするクエイさんに正解だと言う様に、紺之助兄さんはカラドリウスの幽霊を手で指し示しながらそう言った。


「本当に、親父、なのか・・・?」

「・・・・・・」

「ッ!!

やっぱり・・・やっぱり、死んでたんだな・・・

分かってたけど・・・でも・・・なんで・・・」

「クエイッ!!大丈夫か?」


俺には分からないけど、多分カラドリウスの幽霊、クエイさんのお父さんは頷いたんだろう。

綺麗な人の姿に見えるクエイさんにはそれが良く分かった。

だから、目の前に居る幽霊が間違いなく自分の父親だと分かって、相当ショックを受けたんだろう。

フラフラと倒れそうになった体を、咄嗟にザラさんが支えた。

でも、ザラさんの質問に答える余裕どころか、支えられた事に気づく余裕も無い様で、ザラさんに支えられたまま俯いてブツブツ、


「なんで?どうして?」


と呟き続けている。

クエイさん一家に何があったかは全く分からない。

けど、今のクエイさんのお父さん達の姿を見るに、相当酷い最後を迎えたのは間違いないだろう。

これ以上、クエイさんがショックを受ける様な事、聞かせていいのか心配になったけど、クエイさんは強かった。

真実を知りたい一心で更に酷くなった顔を大粒の涙で濡らしながらも、どうにか持ち直して父親に質問をぶつける。


「あの時・・・あの時、何があった!!?

お袋はどうした!!?

隣に居る奴、お袋じゃないだろう!!?

何が合って、何をされて。

どうしてそんな状態で此処に居るんだよ!!!?」

「えっと・・・俺達、席外した方が・・・・・・」

「そうだな」

「待って。

ルシアンさんとヤエさんが助けて欲しいって言った理由にも関わるから、貴弥達も此処に居て?」

「あ、えっと・・・・・・分かった」


女幽霊の方はまだ少し信用出来ないけど、クエイさんのお父さんの方は信用出来そうだ。

クエイさんのお父さんなら、確かに絶対魔女達の味方じゃないだろう。


まぁ、正気を保っていて、何にも縛られてないならって条件が付くけど。


ナト達みたいに魔法を使われて操られていたり、この世界に居るかどうか分からないけど陰陽師やネクロマンサーに無理矢理使役されてる可能性もあるんだ。

俺達の目に映る姿も相まって少し不安だけど、紺之助兄さんやクエイさんの言動的に多分大丈夫だろう。

クエイさんのお父さんはクエイさんの事をちゃんと息子として認識出来ていて、それを細かく紺之助兄さんに伝えている様だった。

ならそれが出来る位には理性が残っていて、現状を理解出来る位正気なはずだし、紺之助兄さんの説得に応じて待っていてくれているなら、何かを強制されている訳じゃ無いと思う。


ずっと笑っている様に見える女幽霊の方が気がかりだけど、クエイさんのお父さんと一緒に行動してるなら敵である可能性は低いか。

そこまで考えて紺之助兄さんとクエイさんだけを残しても安全だろうと思って、


「これ以上家族の深い話を俺達部外者が聞いたらマズいよな?」


とルグと相談していたら、紺之助兄さんからストップがかかった。

クエイさんの質問が、助けて欲しい理由?

一緒にあの世に行って欲しいじゃなくて、自分達の遺体を見つけてちゃんと家族の元で埋葬して欲しいとか?


「2人が僕達に研究日誌の石板を見つける代わりに、助けを求めた理由。

それは、今も利用され続けてる自分達の遺体を開放して欲しいからなんだ」

「え?遺体の開放?それって、どう言う・・・」

「・・・・・・英勇教に伝わる、霊薬って呼ばれてる薬があるのは知ってる?

その薬は、僕達と同じ異世界人と、沢山のカラドリウス達を溶かして混ぜ合わせて作られた。

『人』を材料に作られた薬なんだ」

「ッ!!」


あぁ。

あの時血の様だって思ったのも、飲みたくないって思ったのも。

その勘は全部正しかったんだな。


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