75,紅白幽霊と罠 後編
「にににに兄さん!!!
行っちゃダメ!!戻って!!兄さんッ!!!」
恐怖で息が上がり限界を超えて気絶しそうになりながらも、どうにか踏ん張って辺りを見直しつつそう叫ぶ。
紺之助兄さんを追いかけるにはまず、アルさん達が掛かってる罠を解除しないと。
紺之助兄さんが罠の向こうに居て、この先の廊下にも部屋があるなら。
恐らくこちら側の何処かにも、罠のオンオフを切り替えるスイッチの様な物があるはず。
そう思ってよくよく辺りを見回すと、罠手前の左の壁の低めの1部だけ、他の壁の模様の形と少し違う所があった。
「この壁・・・これがスイッチ?」
正方形の模様が並ぶなか、一か所だけあった長方形の部分。
騙し絵を使って分かりずらく見せてるけど、その部分とその真上の壁だけ少しだけ浮き出ていた。
長方形の部分はタイル全部が、真上の正方形のタイルはキーボードの様に均等に凸凹としている。
長方形の方は力を籠めると少し動くけど、正方形の方は全く動かない。
「・・・・・・ぅん」
「グゥ・・・・・・ダメだ。これ以上は・・・」
「どけッ!!サトウ、マシロ!!!」
「ッ!」
長方形の部分を押したり上下左右にスライドさせたりするけど、カタカタと少ししか動かなくて、ダメ元で引っ張ったらアッサリ抜けた。
壁が抜けた先には正方形の長い穴が開いていて、抜いた長方形が縦に入りそうだ。
思った通り抜いた長方形は途中までスッと入ったけど、錆びているのか俺の力が弱いのか。
ダンダン動かなくなっていった。
取っ手の仕掛けの時の様に全身を使って押したり、マシロと二人掛かりで押しても最後まで入らない。
「もう、俺達じゃダメなのか?」
と諦めかけた時。
俺とマシロの名前を呼びながら、ヒーローが現れた。
スピードを上げたペールに置いてかれて少し迷っていたのか。
「どけッ!!」
と言う指示に従い、壁から2人で離れてから声の方を向けば。
かなり早いけど人間として可笑しくないスピードで走って来たルグが、その勢いと反対側の壁を使って俺達が押し込もうとしていた長方形に向かって飛び蹴りを放とうとしている姿が目に入って来た。
「はぁ・・・はぁ・・・
ッ、はぁああああ・・・・・・これでいいのか?」
「う、うん。ありがとう、エド君。
すごい勢いだったね。
壁、壊れちゃったよ?」
「迷って走りまくったからな!勢い殺せなかった」
「いや、このタイルが外れたのはエドのせいじゃない。
元々そう言う仕掛けだったみたいだよ。ほら」
勢いがついたルグの蹴りは物凄い力を持っていた様で、轟音と共に壁が揺れ天井から埃が舞い落ちる。
余りの威力に仕掛けが壊れてないか心配になったけど、多分大丈夫。
長方形が最後まで押し込まれると同時に凸凹していた真上の正方形のタイルがバラバラと落ちてきたけど、元々長方形を押し込むと外れる仕掛けだったみたいだ。
「何か模様が書いてあるね?」
「この模様が次の仕掛けか?」
「うん。多分、これが最後。
えーと、ここ等辺が分かりやすいかな?
ほら、並べると『マキア』の魔法陣の一部になる」
「あ、本当だ」
その証拠に出っ張った部分を中心に規則正しい小さな正方形に分かれているし、出っ張りの反対側の真っ平らな面には模様も描かれている。
そして、元々正方形のタイルが合った場所には、小さなタイルと同じ数の穴。
ルグとマシロに見せる様に模様の面を向けて少し並べて分かった事は、これが『マキア』の魔法陣のパズルだって事。
『マキア』の魔法陣を完成させる様に小さなタイルをはめ込んで、魔法陣をなぞれば罠が解除されるはずだ。
「えっ!えぇ!!?なに!?本当、何?
ちょっ、まっ!
ドンドン先行かないで、何があったか教えて下さいよ!!」
「兄さん!!兄さんッ!!
待って!!お願い、待ってッ!!!
行かないで、兄さん!!!!」
「え?貴弥?」
ルグが放った蹴りの轟音は流石に無視出来なかったんだろう。
今まで大人しく幽霊達に引っ張られてるだけだった紺之助兄さんが、抵抗しながら騒ぎ出していた。
その紺之助兄さんに向かてパズルを解きつつ、何度も兄さんと叫ぶ。
すると、今まで俺達に気づかなかったのが嘘の様に、漸く紺之助兄さんが立ち止まって振り返ってくれた。
「やっと来たの?今の揺れと凄い音は何?
そもそも、今まで何やって・・・
と言うか、今、何処にいるの?」
「後ろ後ろ!!俺達は後ろ!!」
「後ろ?どこ等辺?かなり遠い?」
母さんのお腹の中で、大助兄さんに目の良さを全部あげてしまったのか。
俺が生まれる前から紺之助兄さんは、眼鏡が無いと近くにある物でもぼやけて見えない位目が悪かったし、軽い色弱も持ってる。
だから多分、今の紺之助兄さんには隣の幽霊達の姿が正しく見えていないんだ。
いや、正常に見えなくても流石に声で知らない人ってのは気づくよな?
紺之助兄さん、聴力は問題なかったはずだし。
もしかして幽霊達が何かして、紺之助兄さんには俺達の誰かの声に聞こえているのか?
その考えはどうやら正解だったみたいだ。
「えーと、貴弥?
声が聞こえるからそこまで遠くないと思うけど、僕の姿見えてる?
さっき転んだ拍子に眼鏡壊れて、今よく見えてないんだ。
他の人達先行っちゃって、先生とザラさんに引っ張って貰ってるんだけど、申し訳ないから変わって貰える?」
「違うッ!!!
兎に角、その人達から離れて!!
適当でいいから後ろに向かって走ってッ!!!!」
「え?どう言う・・・・・・」
「兄さんの手、引いてるのクエイさんとザラさんじゃない!!!
クエイさん達と一緒に、兄さんと一緒に先に行った人達は兄さんの後ろで罠に掛かって動けなくなってる!
俺達はその罠をどうにかしようとしてるのッ!!
後、眼鏡も壊れてない!!!」
「う、そ・・・・・じゃ、じゃぁ、この人達、誰?」
「罠のせいでそっち行けない!!逃げてッ!!!」
「ッ!!」
ナトに無理矢理聞かされた怖い話でよく出てきたのと同じ様に、完成度の高い知り合いの声真似をしていたのか。
幽霊達はクエイさんとザラさんのフリをしていた様で、紺之助兄さんは何疑いもなく腕を引かれていた様だ。
その事を焦りまくりつつもどうにか伝え、紺之助兄さんに逃げる様叫ぶ。
紺之助兄さんも漸く今起きている事態を把握できた様で、体をひねる様に暴れだした。
でも幽霊達の力が強い様で、紺之助兄さんが正体に気づいた事も相まって、今までの比じゃない速さでドンドン奥に向かって引っ張られていく。
「痛い!!放してッ!!!い、や・・・放せ!!!」
「兄さんッ!!!
あぁ、もうっ!!仕掛けが多すぎるッ!!!」
「その気持ち、スッッッゴク分かるぞ、サトウ!!
仕掛け好きもいい加減にしろよ!!
って思うような!?」
「そうだな!!
はい、完成!!!後任せた、マシロ!!」
「分かった!任せて!!」
紺之助兄さんの悲鳴が轟いて思わず叫んでも、パズルを解く頭と手は止めない。
罠を解かなければ、アルさん達だけじゃなく紺之助兄さんを助ける事も出来ないんだ。
本気で助けたいなら、口だけじゃなく頭を回して手を動かせ。
それが分かってるから、感情のまま叫んでも、仕掛けを解く事はやめない。
そのお陰か、自己最短記録でパズルが解けた。
後はこの3人の中で1番魔法が得意なマシロに『マキア』の魔法陣を動かして貰うだけ。
それと同時に、『教えて!キビ君』を起動。
なぜか何時もより、電源ボタンを押してから『教えて!キビ君』の画面に切り替わるまでの、真っ暗な画面が長かった気がする。
それに、真っ暗な画面の間、何か・・・・・・
そう、黒いてるてる坊主見たいな変な物が映っていた気がする。
焦って反射した自分の顔、見間違えたのかな?
そう思いつつ必要な物をパッパと作り出し、マシロが魔法陣をなぞり終えた所で、俺とルグは紺之助兄さんに向かって走りだした。




