71,珊瑚の図書館 11冊目
途中夕飯を食べにアジトに戻ったりしつつ、『蘇生薬』のレシピ探しの続きをしたり、『ミドリの手』の研究をしたり。
かれこれ数時間は経った。
夜もかなり深けて、後1時間以内には『ゲート』が使える様になるだろう。
そんな中、俺と紺之助兄さんは、『ミドリの手』で出せる塩の木の研究をしていた。
「塩の木の苗、葉っぱ、枝、皮、花、実、種。
後、塩自体は出せたね。
ただ、高級な塩と他の薬は今は作れないと」
「加工品は俺達の世界の物と、この世界の一般家庭でも作れる物なら作り出せて、少しでも専門知識が必要なら無理。
そういう事かな?」
塩の木を使った塩は、白く半透明な塩の木の葉っぱが真っ白になるまで天日干しして、それを細かい粉になるまで引くと出来るらしい。
だから風味は大分イマイチだけど、やろうと思えば極々普通の家でも塩の木から塩を一応作る事が出来るんだ。
でも、少し背伸びしないといけない良い所のお店で売ってる様な高級な塩は、風味を良くする為の難しいワン工程をはさんでる様で、今の俺達じゃ作れなかった。
それは『蘇生薬』以外の薬も同じで、今の所作り出せた薬はヘビイチゴの焼酎漬けの様な簡単な漢方薬?
民間薬の方が正しのかな?
そう言うちゃんとした専門知識が無くても家で作れるレベルの、癒しの実を使った傷薬だけだった。
まぁ、依頼のお礼に貰ったモリーノ村特製傷薬には大分劣るけど。
後、石鹸の方も一応作れた。
それもモリーノ村特製に比べて以下略である。
「弟さーん!!」
「これも印刷して下さい!」
「あ、はーい!ちょっと待ってね」
俺と紺之助兄さん、監視役のルグとマシロとピックとペール以外の皆は、『蘇生薬』関係の本や塩の木の論文に書かれていた本を探しに行っている。
唯一ぶら下がった蝙蝠の像の部屋にあった『巡々史』を含め、論文に書かれていた本は比較的簡単に見つけられた。
でも『蘇生薬』に関する本はかなり少ない様で、この膨大な部屋から見つけ出すのに難航している様だ。
ミルちゃんとステアちゃんが持ってきてくれた石板で漸く5冊目。
今日中に『蘇生薬』のレシピを見つけるのは難しいかもしれない。
「それで、『蘇生薬』の素材は分かったんですか?」
「そこは何とかね。
一応メインの植物とキノコは確定したよ」
『ミドリの手』の研究をしつつ、持って来て貰った本と『教えて!キビ君』と『図鑑』を駆使して、どうにか使われてる素材を見つけ出せた。
メイン素材は全部で8つ。
ルグとマシロの知識と照らし合わせた所、今はローズ国、チボリ国、マリブサーフ列島国、ヒヅル国に2つずつある事が分かった。
まず、俺達が今いるローズ国。
あるのは、論文に書かれていた薔薇草と海月茸。
「海月茸が、ピコンさんのご両親の形見の箱に入っていた、あの手紙に書いてあった隠し扉の先の素材みたいだね」
「そうなんですか?じゃあ、薔薇草の方は?」
「サトウが既に、前来た時に見つけてるぜ」
首を傾げるステアちゃんにルグが笑顔で答える。
この世界に来た1日目に偶然見つけた、ジュエルワームの繭がくっ付いていた薔薇草。
アレがシラズイショウ色の薔薇草だったらしい。
本当に唯の偶然だったのか、それともゾンビ毒に気づいていた目に映らない誰かか、それか何かの力に導かれたのか。
まさかのまさか、初っ端の初っ端から『蘇生薬』の素材に出会っていたとは・・・・・・
やっぱりゾンビ毒をどうにかしたい何かに導かれていたのかもな。
「それでチボリ国にあるのが塩の木」
と言っても今いる場所から1番近い塩の木農園が、チボリ国にあるってだけなんだけどな。
塩の木は地形の関係から1番多いスクリュード国の他に、チボリ国とマリブサーフ列島国の一部の島、ヒヅル国でも栽培されてるらしい。
元々スクリュード国原産の植物で、色々あった結果他3国に広がった感じ。
「で、もう1つの素材がチボリ国原産のダグブランって植物に生える、『アリーラの涙』って呼ばれる状態の未熟な実。
もしくはその実を使った薬だな」
「先生に聞いたら、実の方が素材の可能性として高いって」
そうルグの説明を補足する紺之助兄さん。
ダグブランはデーツに似たチボリ国で人気の木の実を生やす、スッゴク背が高い植物らしい。
チボリ国全体としてはそこまで有名じゃないけど、北西辺りから西全域ではドライフルーツにして日常的に食べてるそうだ。
で、『蘇生薬』の素材として書かれてたのは、『アリーラの涙』と呼ばれるもの。
かなり昔から今でも使われてる解毒薬の一種の名前でもあると同時に、その薬の主材料であるダグブランの未熟な実の名前でもあるそうだ。
クエイさんに確認したら、元々生の未熟な実のみを煎じた物を『アリーラの涙』と言う名前の解毒薬として使っていたらしい。
でも、時代が進んだ今は、更に効果が出る様に乾燥させた未熟な実と色んな薬草とかを一緒に煮込んで使ってるそうだ。
本と、『教えて!キビ君』の情報と、ルグとマシロの知識を組み合わせても、実自体か薬か。
どっちが素材か全く分からなかったけど、
「時代から考えたら、生の熟してない実が材料だった可能性が高いな」
とクエイさんが言っていたから、暫定実の方が素材。
レシピを見つけたらまた変わると思うけど。
だけど、そう考えると少し素材集めが難しくなるかもしれない。
クエイさんによると、市場には基本生の未熟な果実は出回ってないそうだ。
基本売られてるのは、保管も薬にするにも楽なドライフルーツの状態の物のみ。
チボリ国の老舗の薬の素材の専門店ならワンチャン置いてるだろうし、時期によっては直接ダグブラン農園から買う事も出来るだろう。
まぁ、俺か紺之助兄さんがダグブランの実を食べたら、『ミドリの手』で作り出せる様になるだろうけどな。
俺も紺之助兄さんもまだ1度もダグブランの実を食べてないし、木にも触ってないし、『アリーラの涙』も使ってないから本当に作り出せるかどうか分からないけど。
ダグブラン自体『教えて!キビ君』や『図鑑』でどう言うものか調べられるんだけど、作り出して確認するのは現状無理。
「それで、マリブサーフ列島国にあるのがラルーガンって植物の実と、フェニックスって生き物に生える苔。
ヒヅル国にあるのが黒茶葉と、特別な彼岸菊酒だね」
ヒヅル国の名産品の黒茶葉は兎も角。
猫の像の部屋で調べてない以上、他3つの情報はかなり少ない。
まず、ラルーガン。
この植物自体はケルピーって言う水生動物の餌として使われてる、世界的にもそこまで珍しくない植物だと言う事が分かった。
でも、問題なのは肝心の実の方。
大雑把に括られた仲間の別種なのか、今あるラルーガンは実をつけないらしい。
別種の可能性もあるけど、世間一般では知られてないだけでタケノコの花の様に、何年とか何十年に1度しか実が生らないとかかもしれない。
と言う事で、猫の像の部屋で調べた後、主要産地のマリブサーフ列島国のラルーガン農家に確認とると言う事で、この話は一旦置いておく。
で、次。
彼岸菊のお酒。
これはヒヅル国の『ミワタリ』って村のみが作っている、一切市場に出されないお祝い用のお酒らしい。
「ミワタリ村って、確か・・・
ネイちゃんの話に有った、『土のオーブ』がある森に1番近い村だよね?」
「コロナさんが?」
「うん!
ネイちゃん、お城を調べるカモフラージュに『夜空の実』についても調べてて、そこでその村の事も出てきたはず・・・・・・
確か『土のオーブ』の影響で、森だけじゃなくその村の中にも変わった植物が沢山生えてるって」
「じゃあ、彼岸菊酒については何か言ってなかった?」
「多分、『土のオーブ』を探しに来た8代目様がその村で頂いたって言う、お花で作るお酒だと思います」
ナト達と一緒に行動していた時に、コロナさんが調べていた事の中にミワタリ村や彼岸菊のお酒の事もあったみたいだ。
それっぽい報告を聞いた、とミルちゃんとステアちゃんが教えてくれた。
元々『土のオーブ』がある森周辺の村では、とっても偉大な医者の指示で1万年近く前から彼岸菊のお酒を造っていたらしい。
その森や直ぐ近くの森にしか生えない、変わった彼岸菊と呼ばれる花を綺麗な水に何か月も漬け込んで作るお酒。
一般的なその作り方以外にミワタリ村には、8代目勇者が飲んだと言う朝露に濡れた咲いたばかりの彼岸菊のみを使い、特殊な魔法を使える巫女が長い祈りを捧げる事で出来る。
かなり特別な彼岸菊酒があるらしい。
多分、その特殊な作り方の彼岸菊のお酒が『蘇生薬』の素材何だろうな。
「問題はフェニックスの苔なんだよなぁ。
これについての情報が1番少ない」
「分かったのは、そのフェニックスって言う生き物が、マリブサーフ列島国の火山のどれかに住んでいるって事だけだもんなぁ。
動物なのか魔物なのか、それすらも分からない。
その上、肝心の苔に関しては情報0」
「うーん・・・・・・
他の部屋に置いてある本を調べたらもう少し分かるかな?」
「『教えて!キビ君』でもそれしか載ってなかったんだぜ?
可能性は0じゃないけど、期待はかなり出来ないな」
改めて言われて、思わず何度目かのため息が出る。
本当に情報が少ないんだ、フェニックスとフェニックスに生える苔については。
そもそも情報源が『教えて!キビ君』の『蘇生薬』のページに書かれてた事だけなんだ。
蘇生薬・・・
隷従の首輪専用の解毒薬。
作り上げるには相当な技術と経験が必要。
グリーンス国の建国者の1人と言われている薬師リーンが作った。
素材は、
『散りゆくシラズイショウの薔薇の欠片』、
『腕を広げた月はみのキノコ』、
『新日に浮かぶ塩の木の葉』、
『アリーラの涙』、
『海鳴りのラルーガンの果実』、
『舞い散る前のフェニックスの苔』、
『滴る黒い茶葉の蜜』、
『神聖な彼岸菊の甘露酒』
この情報を元に色々調べまくって、素材となる植物やキノコは判明したんだよ。
『散りゆくシラズイショウの薔薇の欠片』が透明な薔薇草の花弁で、『腕を広げた月はみのキノコ』は海月茸の傘の部分。
『新日に浮かぶ塩の木の葉』は、塩を溜めこむ前の新芽の部分。
試しに『ミドリの手』で出してみたけど、塩の木の新芽は完全に透明で、光に翳してキラキラ光らせないと在るかどうかも分からない位だった。
普通に生えた塩の木の新芽は、魔法で調整しない限り基本朝方芽を出すらしくて、だから『新日』。
日の出の光に照らされないと在るかどうか分からないそうだ。
『アリーラの涙』、『海鳴りのラルーガンの果実』、『神聖な彼岸菊の甘露酒』はさっき説明した通り、ダグブランの未熟な実とラルーガンの実と彼岸菊のお酒の事。
それで、『滴る黒い茶葉の蜜』は黒茶葉の花の蜜の事らしい。
上手く黒茶葉が育つと蜂蜜や糖蜜に精製しなくても花から蜜がポタポタ溢れてくるそうだ。
「この『舞い散る前のフェニックスの苔』ってのがそうなんだけど。
この文と、ファニックスの説明以外情報が無いんだ」
「苔自体、『図鑑』にも『教えて!キビ君』にも載ってないもんね」
「『鑑定記録』のスキルを持っている人がこの苔に触ったり、それ関係の本を読んでたら、苔自体の情報もここに乗ると思うんだ。
でもそれが無いなら・・・」
「リーンって人以外誰も知らないって事ですか」
「うん。あ、いや。
『鑑定記録』を持ってない人の中には知ってる人が居たかもしれないけどね。
『鑑定記録』を持っていた誰もが知らなかったなら、此処にそれ関連の本がある確率は低いと思う」
全知全能って言われるのも納得の収容量を誇っているけど、結局ウォルノワ・レコードは『鑑定記録』のスキルを持ってる人が見聞き体験した情報しか納められないんだ。
どうやっても、『鑑定記録』を持ってない人達がヒッソリ守ってる物の情報は知る事は出来ない。
今回はその弱点で難航してるんだ。
フェニックスの情報はあるんだから、他の情報と組み合わせて推理する事は出来るだろうけど、一体どれだけの時間が掛かるんだろうか。
想像しただけでやる気がそがれ、更に疲れてるく。




