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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
299/498

69,珊瑚の図書館 9冊目


「ふむ・・・・・・ねぇ、アル君。

そのタスクニフジ研究所に協力を仰ぐ事って出来ないかな?

そんなに凄い研究所なら、解毒剤の量産とかの助けになると思うんだけど?」

「無理だろうな。

実力は確かなんだが、協調性は皆無なんだよ。

タスクニフジ研究所の奴等は。

そこだけが唯一の欠点ていうか、そう言う性格の奴等が集まってるから此処までの成果が出るって言うのか・・・・・・

どれだけ魅力的な誘いを受けてもキール氷河から出ようとしないし、人間だけじゃなく魔族とも深く関ろうとしない。

ネイ達王族が言っても突っぱねられるのがオチだろう」


ジェクさんの疑問に、アルさんじゃなくクエイさんがそう答える。

確かにタスクニフジ研究所の人達は凄い実力を持ってるげど、その分人付き合いが嫌いで、ミステリアスな変わり者集団でもあるらしい。

有名になってから、色んな国の色んな研究所から誘いや協力要請が来た。

でも、タスクニフジ研究所の研究者は研究成果や論文を売る以外、その全部をバッサリと断っているらしい。


どんなに金を積まれようと、


どんなに脅されようと、


どんなに縋られようと。


一切首を縦に振らない。

自分達の研究以外、世間を揺るがす事件すら興味を示さず、どこ吹く風。

だからクエイさんの言う通り、俺達の頼みも断れるのはほぼ間違いないだろう。


「後でダメ元でネイ達に連絡してみるけど、とりあえず今はこの本の方だ。

それで、ピコン。

解毒剤について、何処に書いてあったんだ?」

「此処。最後のページ等辺」

「えーと・・・・・・此処かな?」

「そう!そこ!!

そこに書かれてる『蘇生薬』ってのが解毒剤だと思うんだよ」


ピコンさんが見つけた『蘇生薬』。

それについて書かれている事はかなり短かった。


そもそもこの論文は、この世界の塩の原材料のマングローブみたいな植物、塩の木について研究した事が書かれてるんだ。

ゾンビ毒の解毒剤の『蘇生薬』について研究している訳じゃ無い。


『多くの歴代勇者達がその時代広めようとした、海水を使った塩の製造方法。

異世界人から伝授された知識を生かしたいからと言って、今ある塩の木を伐採してまでその方法を実行すると言うのは、愚かの極みである』


と言う1文から始まった、2、300年前の論文。

タスクニフジ研究所マニアのクエイさんによると、かなり初期の論文らしい。


その論文によると、この世界の海水は俺達の世界の海水よりも人体の害になる成分が多く含まれているそうだ。

で、毎度の事ながら塩分濃度とか、そもそも海水に含まれる『塩』の成分とか性質とかも、当然かなり違う訳で。

俺達の世界と同じ様に海水を煮詰めたりして塩の結晶を作ろうとすると、『塩』が出来る前にティースプーン一杯舐めただけでも殆どの生き物が即死してしまう。

『海塩』と命名された猛毒の結晶が出来上がってしまうそうだ。


『だか、この海塩。

一欠けらだけでも海洋生の魔族や魔物にとっては回復薬と同等の効果をもたらす事が出来る。

また調合しだいでは、塩の木の皮を煮詰めて作る、既存の回復薬よりも遥かに高性能で低リスク。

風味も良い、どの種族でも使える回復薬を作る事が出来る。

以下数種類そのレシピを掲載する』


と、海塩の作り方と共に味や香りの違う回復薬のレシピが2、30種類位。

初心者でもかなり分かりやすい料理本並みに、細かい分量や調合時間、見た目の変化が丁寧に書かれていた。


植物である塩の木に対する研究論文なのに、医療や薬、生物に関する本が置いてある小鳥の像の小部屋にこの論文が置いてあったのも、多分このレシピが理由だろう。

それで、後々ゆっくりそのレシピを読んだクエイさんは、


「今ある回復薬のレシピより、こっちの方が断然素材の入手も調合も楽じゃねぇか」


と、真っ先に愚痴っていたし、ルグも激しく同意していた。

それだけ今広まってる回復薬の調合方法は難しいって事だよな。


落ち着いてからクエイさんに確認したら、実際に今主流になってる回復薬は塩の木の皮と、使える様になるまで時間のかかる数種類の複雑な薬草や、見つけたり狩るのが凄く大変な素材を使って作られている事が分かった。

でも、タスクニフジ研究所が編み出したレシピは低コストで楽に素材を入手出来るし、既存品の様な中毒性や依存性もかなり低い。


作りやすくて、


高性能で、


安全性もかなり良くて、


味も良い。


今の回復薬市場の殆どを牛耳っている大商人一族と、素材入手や製造で稼いでる人達に恨まれる事を除けば、まさに『クリエイト』で出した食べ物と同じ位理想的な回復薬のレシピだったらしい。


まぁ、そう言う職業事情とか考えたら、簡単にこのタスクニフジ研究所産回復薬を市場に出せないんだろうけど。

ルグとクエイさん含めた少人数の人達が作って、個人的に使うなら多分問題ないんじゃないかな?

そもそも使いたい人は何言われても個人的に使うだろうし。

特に今ある回復薬に対して、『アレを飲み込む何って無理無理』って言ってたルグは間違いなく使うと思う。


『以上の事から海塩目的に海水を煮詰めるなら兎も角、『塩』を目的に海水を煮詰めるのは間違っていると言える。

また、現在の回復薬の利用量(図20、21参照)から考えて、塩の木を伐採してまで海塩製造場を作る必要はかなり薄い』


と言う様な事を最後に、前半4分の1を使って海塩や海水に関する研究結果が書かれていた。

で、残り半分以上。


『なら、その海水からどうやって安全に『塩』を取り出すか。

その方法を我々は既に知っている。

そう、塩の木である』


と言う文から始まった後半戦。

本題である塩の木の有用性について。


何万年と姿を変えずに存在する塩の木は、大昔から変わらず、海塩の元の海水内の猛毒成分を主な栄養素にしているらしい。

この論文を最初から最後までしっかり読むと、その猛毒成分って唯の猛毒じゃなくて、生き物や植物が生きていくのに必要な。

でも取り過ぎると一気に中毒性が現れる、水や酸素の様な物の様な気がする。


こう、水中毒とか、食塩中毒とか。

そういう感じ。


で、その成分を超濃厚な結晶にしちゃうと、ティースプーン一杯と言う少ない量でも必要摂取量を軽くオーバーしてしまうと。


『以上の結果から、塩の木属の植物の根には自身の成長に必要な水分と海塩の元となる成分と、不必要な塩分を分ける機能がある事が分かった。

分けた塩分をその後塩の木属の植物がどう処理するか。


排出用に進化した根から海に吐き出すもの、


樹液に変え定期的に吐き出すもの、


葉や枝にある塩類線から蒸散させるもの。


古代には色々な種があった事が分かったが、その中で現存するのはほぼ1種類。

我々がよく知る葉に塩分を溜め、一定量溜まったら落葉させる種類のみである』


化石とか調べた結果、大昔は色んな種類の塩の木の仲間が存在してたらしんだけど、今は葉っぱがこの世界の塩の原材料になる1種類しか存在してないらしい。

何でその一種類だけかって言うと、大昔から人と深く関って来たから。

塩の木の仲間は色々あったけど、人間、魔族問わず多くの種類の人類が生きていくのに必要としてる『塩』の成分の理想的な配分と、現存の塩の木の葉っぱの『塩』が1番近かったらしい。


他の種類は多すぎたり、少なすぎたりで体を壊した。


科学的って言うか、この世界だと魔法学的って言うのが正しいのかな?

兎に角そう言うちゃんとした根拠は分かってなかったけど、それを大昔の人達も何となく分かっていたんだ。


「このタイプの塩の木は自分達に必要だ」


って。

だから葉っぱに塩を溜めるタイプの塩の木を大切に守って、何万年も経った現在も、殆ど変わらない姿で塩の木は存在してるんだ。


『だからこの世界に全く合わない勇者達が伝えた塩田を作るより、塩の木農園を作る方が遥かに有用で賢い。


『勇者が言ったから』


何って脳死な事やってないで、しっかり学者らしく頭働かせろ』


と、何100ページもの研究結果を簡単に纏めると、そういう事が書かれていた。

多分論文自体やそこに書かれてる薬のレシピが凄いってだけじゃなく、崇め奉られてる勇者の考えでも間違ってるなら間違ってるってハッキリ言うその姿勢。

そう言う所もクエイさんがタスクニフジ研究所を気に入ってる理由なんだろうな。

で、肝心の俺達が探してる『蘇生薬』についてだけど。


『何より塩の木を蔑ろにする事は、この世で際も崇め奉られてる勇者、レーヤの遺言を蔑ろにする事に等しい事である。

歴史の波に消え、果たされなくなったレーヤの遺言。

その1つ、


『いつの時代にか復活するだろう『隷従の首輪』に対抗する為、未来永劫『蘇生薬』とその素材を保存し続ける事』、


と言うものがあるが、塩の木を蔑ろにする行為はその遺言に反するものである。


彼の時代、『始まりの魔王』の名で知られる、現在のキール氷河に存在していた大国。

ブランシス王国の国王、ディオ・ヴァンズ・ブランシスは『霧雨染める毒紫』とも伝わる猛毒。

『隷従の首輪』を持って各国の王の意思を消し去り、魔法を使い、自分が望む日々を繰り返すだけの生人形に仕立て上げた。


その猛毒を癒す薬、『蘇生薬』をレーヤに依頼され作り上げたのが、『ゴミ捨て場の塔』と呼ばれていた場所。

現在のジャックター国の首都、ジャックターに住んでいたエルフの薬師、リーンである。

夫のグリーズの協力の元、リーンが各地を回り見つけた材料の殆どと、レシピは今の時代失われているが、


シャンギ・ロゴン著『巡々史』、


スーズ・スプモーニ著『ゲーチャナ・ドラッグ』、


カネマン著『薬教典』によると。


塩の木と、シラスイショウ色の薔薇草、海月茸が素材なのは間違いない』


と言う、論文全体からしたらかなり短い文でしか書かれていなかった。


うん。

短いのに色々気になる情報が盛り沢山だな。


色々気になるけど1番気になったのは『蘇生薬』の製作者。

リーンって確か『弱虫ジャックターと不思議な仲間達』に出てきた、ルグの故郷の建国者の1人だよな?

と言うか、旦那さん含めルグのお父さんの方の遠い遠い祖先。


ならルグの家にその『蘇生薬』のレシピは伝わってないのか?


そう思ってチラリとルグの方を見ると、心底驚いている様だった。

1万年も前だし、多分このレシピも戦争のせいで消えてしまったんだろうな。


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