63,珊瑚の図書館 3冊目
「ミルちゃんの言う通り、この曲が此処と関係ある可能性は高いですね。
羊の像と関係あると思われるルディさんの一族が代々この曲を受け継いでいますし、フレーズの中にこの動物像の事っぽい物が有りましたし」
「え?有った?
さっき推理したジャンルっぽいのは有ったと思うけど・・・」
「有ったよ。サビの所で。
『ネコには花の知恵を』とか『コトリには癒しの知恵を』とか」
「・・・あぁ!!
知恵の前の名前っぽい所、此処の動物さん達の事だったんだね!!」
なんでマシロだけじゃなく、歌と動物像が関係あるって言ったミルちゃんまでそんな事言うの!?
そこまで分かっていて言ったんでしょ!!?
と思っていたら、どうも『ネコ』や『コトリ』って言う動物のフレーズは、よく分からない暫定誰かの名前。
って認識だったらしい。
ミルちゃんが動物像と関係があるんじゃないかと思ったのも、マシロと同じ。
歌詞の中に推理したジャンルに近い言葉が出てくるから、って理由だった。
「あのね?
この歌の意味、先生達でも分からない所が多いの。
最初と最後に何度もガンバレ!って繰り返してるのと、お花の事や痛いのを治す方法なんかの色んな事を教えてあげるって歌ってる事しか分からないの」
「え?
何度も繰り返す所のフレーズに、頑張れって意味の歌詞は一切出て来なかったはずだよ?
『待ってる』とか『助けて』ってのは出て来たけど・・・」
「え?なんで?
『貴女』って『ガンバレ』って意味でしょ?」
「そうなの?
その単語、僕達には女の人を指し示す言葉に翻訳されたよ。
貴弥は?」
「兄さんと同じく」
「えー。なんで?」
「うーん。なんでだろう?」
同じ様にコテンと首を傾げつつ何故か俺の方を見てくる紺之助兄さんとミルちゃん。
これは、意見を求められてるって思って良いのかな?
でも、確かに何で『頑張れ』って単語が『貴女』って単語に翻訳されたんだ?
全く掠りもしないだろう?
・・・いや、待てよ。
もしかしたら・・・・・・
「あの、1つ確認しますが、今の歌ってどこの国の言葉で歌われていましたか?」
「歌われていた国?」
「はい。
もし、俺達の翻訳された歌詞の方が合っているとしたら、外国の言葉で歌われているから空耳的にミルちゃん達が勘違いしてる可能もあるかなって」
「それはないな。
今の歌、所々可笑しかったけど基本ローズ国語だったし」
「そっか・・・・・・」
「・・・いや。兄ちゃんの考えは合ってると思うぞ」
考えた結果、そう答えた俺にルグがバッサリ違うと言ってくる。
その言葉を聞いて少し落ち込みつつ他の可能性を考え様としていたら、アルさんが俺の考えが合っているって言ってくれた。
「今の歌、ローズ国語はローズ国語でもちょっと古いアーサー弁で歌われてんだよ」
「アーサー・ベン?何方ですか?」
「ブフォッ!
ちょ、どんな翻訳のされ方したんだよ、コンの兄ちゃん!!
どこをどうやったらそんな翻訳・・・
面白過ぎだろう・・・・・・」
何か考え込んでいたのか、それともアルさんから少し離れた位置に居て上手く聞き取れなかったのか。
確かに紺之助兄さんは少しとぼけた事を言ったよ?
でも、何がどうツボったらそうなるのか。
盛大に噴出したと思ったら、アルさんは腹を抱える程ゲラゲラ笑いだした。
その上、俺と紺之助兄さんと爆笑するアルさん以外の全員が酷いオヤジギャグを聞いた時の様な、何とも言えない表情をしてるし。
苦笑いを浮かべてるジェイクさんと、考え込みすぎて話を聞いてないクエイさんは別けど。
こんな反応返されるって、逆にどうアルさん達には聞こえたんだ?
「あれで爆笑出来るって、アルの感性可笑しくないか?」
「エド達がどう翻訳されたか全く分からないから、否定も肯定もできないな。
そもそも今の兄さんの言葉、爆笑する要素もそんなチベスナ顔する様な要素も一切ないからな?」
「そうなのか?
オイラ達には寒過ぎる酷いギャグに聞こえたけど?」
「なんで!?ここに来て翻訳可笑しくなった!!?」
「大丈夫、大丈夫。
可笑しくなってない、可笑しくなってない」
苦笑を浮かべたままジェイクさんは『言語通訳・翻訳』のスキルが正常だと言う。
それならなおさら、本当にどうしてそんな変な翻訳のされかたするんだよ!!
これじゃあ、お洒落大好きな紺之助兄さんが突然似合わないオヤジギャグ言って、盛大に滑ったみたいじゃないか!
現に、ルグの言葉聞いて紺之助兄さん、かなり落ち込んじゃったんだぞ!!?
誰にどう責任取って貰えばいいんだ!!!
コラル・リーフか!?
コラル・リーフに言えばいいのか!!?
「あー、笑った笑った。喉も頭も腹もいてぇ・・・」
「呼吸困難寸前の大爆笑でしたもんね」
「こんなに笑ったのは久々だわ」
「そうですか。それはなによりです。
なので、店長さん。
そろそろ、そのアーサー弁って何か教えていただけませんか?
文脈的に多分どっかの方言だと思うんですけど・・・」
「あぁ、そうだった、そうだった。
笑い過ぎて忘れてた」
漸く笑いが止まってヒィヒィ言いながら体勢を整えだしたアルさん。
傍目も触れず爆笑してたからって、ほんの数分前の事忘れないでください。
そもそもちゃんと酸素、頭に行ってますか?
笑い過ぎによる呼吸困難で、脳に酸素がちゃんと行かず記憶喪失何って、シャレになりませんからね?
寧ろ今すぐ病院に行く。
いや、クエイさんに見て貰わないと!
「アーサー弁は、人の名前じゃないぞ?
兄ちゃんの思ってる通り、アーサーベル周辺の町や村で使われてる方言の事だ」
「え?
この国って方言が有ったんですか?
あ、いや。
こんなに広いんだから、方言があるのは当然か」
「何だ?
兄ちゃん達には全部同じ様に聞こえてたのか?
クエイもザラもエドもアルゴも、結構訛ってるんだぞ?」
「エ・・・本当ですか?」
エドも!?
と叫びそうになって慌ててどうにか誤魔化した。
特に標準語と方言で話し方が違うってハッキリ分かる様な翻訳のされ方してないのに、ここで『エドも』何って言ったら、勘の良い人に違和感を持たれてしまう。
そう声に完全に出る前に気づいて、誤魔化したけど・・・
大丈夫だよな?
いや、それよりもルグ、凄すぎないか?
誰も『エド』の訛りに違和感を感じてないって事は、留学してきた何処か遠くの国の人が、流暢な関西弁話して乗りツッコミまで完全にマスターしてる様な物だろう?
その上、ルグは俺達の様な自動翻訳スキル持ってない訳だから、自力で覚えたって訳で・・・・・・
流石にマルチリンガル過ぎないか!?
そう思ってチラッとルグの方を見たら、俺にだけ分かる様にドヤ顔された。
ルグ、お前が凄い事はよく分かったから、ドヤ顔はやめろ。
誰かが少しでも移動したら、バレルから今すぐにやめるんだ!
「本当だよ。
特にザラ君の訛りはかなりきついから、時々何言ってるか分からなくなるんだよね。
アンジュ大陸語ともローズ国語とも違う、未知の国の言葉を聞いてる気分になるよ」
「そうかー?
これでも普段は出来るだけ標準語喋る様にしてんだぞ?」
「残念ながら、かなり普段から訛ってるよ」
未知の言語に聞こえるって、相当な訛り具合だな。
きっとたまにテレビに出てる、インタビューに答えてくれたけど何を言ってるか全く分からない、田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんレベルには訛ってるんだろう。
俺には男っぽい口調にしか聞こえないけど。
いや、その男っぽい口調がザラさんの地元の方言を翻訳した結果なのか?
そう思ったのは俺だけじゃなくて、オヤジギャグショックから復活した紺之助兄さんがザラさんに確認する様に呟いた。
「なるほど。
そう言う理由だったんですね。
ザラさんの言葉が男っぽい口調に聞こえるのは。
後、クエイさんが医者らしくない口の悪さなのも」
「えー。
俺様、そんなに男っぽく話してる様に聞こえてたのか?
俺様達からしたら、普通に女らしい口調なんだけどなぁ。
それと、忘れてるかもしれないけど、クエイが医者らしくないのも口が悪いのも素だからな」
「・・・え?」
「翻訳の関係で割増悪く聞こえてるかもしれないけど、素だからな」
大事な事だから2回言ったんですね。
分かります。
ほんの少し前ザラさんは『性格と口は悪いけど、医者としての腕は確か』ってハッキリ、クエイさんの事をそう評価したんだ。
だから方言とか関係なく、素でクエイさんの口が悪いのは間違いない訳で・・・・・・
あぁ、そう言えば、初めてザラさんと合った時、ザラさん、クエイさんの事『本当に医者かどうか怪しい』って言ってたよな。
アレはクエイさんの正体を知らない事に加え、宿場町にクエイさんやクエイさんのお婆さんの診療所が無く、なのに毎日不自然な位森と宿場町を行き来していたから。
だと思ったけど、素の口の悪さもそう思われた原因だったのかもしれない。
あの時の周りの様子的にもやっぱクエイさんは、誰がどう見ても素で医者らしくないんだな。
名医って言って良い腕があるのは確かだけど。
・・・・・・何と言うか、うん。
命の恩人でもある訳だから、嘘でも良いからクエイさんの口の悪さは方言のせいだって思いたかったな。
「と、まぁ。
兄ちゃん達には分からないかもしれないけど、この国にも沢山の方言がある訳だ。
で、あの歌は今じゃ殆どの奴が話さなくなったアーサーベルの古い方言で歌われてるんだよ」
「使われなくなった、古い方言?」
「うーん?
僕達の世界で言えば、江戸言葉みたいな物かな?
時代劇でよく出てくるべらんめえ口調みたいなの」
古い方言って言われピンと来なかった俺に、紺之助兄さんがそう教えてくれた。
なるほど、時代劇とかで出てくる言葉か。
「つまり、ローズ国の標準語の『頑張れ』って言葉の音と、古いアーサー弁の『貴女』って言葉の音が似ているか一緒で、勘違いされていたって事ですか。
俺達の地元の方言で言えば、『怖い』と硬いって意味の『こわい』みたいな感じで」
「そうそう。そういう事。
兄ちゃん達の世界の方言は良く分かんなかったけど、そういう事なんだよ」
と言っても、アルさんもアーサー弁の全部が分かる訳じゃ無いみたいだ。
俺達の世界と同じ、若者の方言離れって言えばいいのかな?
親世代やお爺ちゃんお婆ちゃん世代が良く使う聞きなれた方言は分かるけど、偶にしか聞かない方言は分からない。
多分、今ここでアーサー弁を100%分かってるのは、実際にその古めのアーサー弁を使ってる鍛冶師の爺さんただ1人だけ。
その鍛冶師の爺さんにアルさんの通信鏡を使って聞いたら、俺達が見た字幕の歌詞の方が正解だと言われた。
「『8つのウォルノワ』ってガンバレって歌じゃなかったんだね。ビックリ!!」
「まぁ、方言の違うウイミィの奴等じゃこの歌の本当の意味には気づかんわなぁ。
そう勘違いしても仕方ないだろう」
「でも、この歌がガンバレって歌だって考えたのは、とっても偉い先生だって院長先生言ってたよ?
偉い先生なら、古い方言も分かるんじゃないの?」
「アハハハ!!
偉い先生なら尚更分からんわな!!
いいか、ミル。
偉い先生なんぞ言われる奴等は、こぞって貴族や王族ばかりなんだ。
この歌は『少し古いアーサー弁の中でも、ワシ等身分の低い商人や職人の間のみで使われていた』言葉で歌われとるんだ。
貴族共が野蛮と嫌った、町人言葉でな」
だから、『8つのウォルノワ』を翻訳した貴族か王族の研究者じゃ絶対気づかない。
と、少し軽蔑を込めた様な声音で鍛冶師の爺さんはそう言った。
つまり俺達の世界で言えば、べらんめい調みたいな言葉で歌われた歌って事だよな?
嫌っていたって事を差し引いても、方言の中でも1部の人達の中で発達した言葉で歌われた歌なら、正しく翻訳するのは難しそうだ。
「つまり、『8つのウォルノワ』はアーサーベルの商人や職人が作った歌って事ですか?」
「多分ね。
ローズ国の言葉はここ数1000年、大きく変わってなかったはずだよ。
だから、アーサーベルに住んでいた人が、ピコン君の故郷の魔法道具の塔と一緒に『8つのウォルノワ』を作曲したんじゃないかな?
聞く限りだと『8つのウォルノワ』はその塔の為に作られた曲みたいだしね」
「なるほど。
なら、サマースノー村からミルちゃんの所の修道院に伝わったて事でしょうか?」
「伝わったと言うか、修道院が集めたんだろうね。
今はどうだか分からないけど、元々シャルル修道院は全国の勇者を称える曲や美術品を集めて保存する事にも力を入れていたはずだから」
なるほど。
確かに『8つのウォルノワ』の歌詞の中には『勇者』って単語が入っていた。
だから、正しい意味は分からなくても一応集めて、修道院で暮らす子供達に教える事で伝えていたって事なんだろう。
それに、作曲した人がアーサーベルで暮らしていた。
それもアルさんや鍛冶師の爺さんの様な人なら、この部屋を見て作曲した可能性もある。
塔が作られた2000年前ならまだ壁の仕掛けは追加されてない訳だし、勿論『レジスタンス』のアジトも大量の鍛冶師の爺さんのお父さんの仕掛けも存在しない。
それを考えたら塔が作られた当時は、この部屋との行き来もかなり楽だったはずだし、スマホも壊されてないからレシピだって見れたはずだ。
ここまで考えると、『8つのウォルノワ』がこの部屋と関係ある可能性が更に高くなってきたな。
 




