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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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28,迷子 前編


 異世界に召喚されて早1週間。

昨日、一昨日と予定通り調味料を作った。

作ったのは味噌に醤油、調味料用のアルコール度数13%位の日本酒、酢、ケチャップ、マヨネーズ、ソース、バター、毎回引くのが大変な洋風と和風の出し汁だ。


食料庫にあった牛乳みたいなミルクラクダのミルクは舐めてみた所、生クリームだった。

この世界では泡立てて菓子に使ったり、ポタージュの上に掛けたりせず、そのまま飲んでいたらしい。

そのせいで美味しくないと言われていた。

いやそもそも、生クリームってそのまま飲むもんなの?


後、バターもこの世界に在る。

死んだミルクラクダの瘤を切ると、瘤の中に柔らかいバターが溜まっているらしい。

そのバターをこれまたそのままスプーンですくって食べる。

だから、バターってそのまま食べるもんなの!?


と言う事で、砂糖を大目に泡立てたたっぷりの生クリームとホットケーキ、『ミドリの手』で出した苺で作ったなんちゃってショートケーキ。

それと、ミルクラクダの生クリームを降り続けて作ったバターを使った『ジャガバタ』をルグに食べさせたら、すっごい衝撃を受けた様な顔をして固まっていた。

その後無言で作った奴全部食べたんだから、不味くは無かったて事でいいんだよな?


洋風の出し汁は叔母さんに教えて貰った方法を参考に、食料庫にあった謎の肉つき骨。


『ミドリの手』で出した玉葱、人参、ニンニク、セロリ、クローブ。


其れとローリエ、タイム、パセリの茎、白粒コショウをポロ葱の緑の所で包んだブーケガルニ。


朝食を作って出たキャベツや大根の葉っぱ、ブロッコリーの硬い芯等の野菜のクズ。


それ等を『アイスボール』を溶かした水と一緒に『クリエイト』で出した業務用位の大きな鍋に入れて大量に煮込み、出来上がった物を鍋ごと食料庫に保管している。


『ミドリの手』で出した昆布と、ルグに解体して貰って食べたら味がカツオに似ていたから『プチヴァイラス』で鰹節モドキに加工した髭魚で作った和風出し汁も同じ様に巨大鍋ごと保管中。

鰹節が熟成させる工程の途中で発酵させる為か、『プチヴァイラス』で作れたのは嬉しい誤算だった。

本物の鰹を使ってないからか、全部魔法で作ったからか、普段買っている鰹節よりも風味が劣ったのはしかたない。


それ以外にも、調味料作りで幾つか分かった事がある。

先ず、魔法の操作。

俺は『ファイヤーボール』での火の調節や望んだ通りに『アイスボール』で凍らせれる事を珍しいと思っていた。

しかし、この世界では魔法でも技でも出来て当然の事だったんだ。

火の魔法1つでマッチサイズの火から家1件燃やせる炎まで自在に出せ、温度まで調節するのなんて朝飯前。

寧ろ俺は魔法の操作技術がこの世界の同年代よりも大分遅れている。

基礎魔法だけなら俺位の年になれば、話に夢中になりながらも炎や水で虎や龍を作り出してジャグリングする位呼吸する様に出来る。

それに比べ俺は幼稚園児レベル。

ルグには、


「この世界に呼ばれたばかりだから仕方ないよ」


と慰められたけど、今までで1番ショックを受けた。

直ぐにでも技術を上げたい所だけど、こればかりは練習あるのみ。

15年間毎日魔法を使っていたこの世界の同年代の奴と、たった1週間前魔法を使える様になった俺じゃ練習量が全然違う。

時間を掛けて上げて行くしかないんだ。


次に『ミドリの手』と『プチヴァイラス』。

この2つで野菜や発酵食品を作る時は一手間掛ける程に質も味も良くなる事が分かった。

例えば『ミドリの手』でトマトを出す時、そのまま実を出すより地面に種を植えて、『アタッチマジック』で『ミドリの手』を付属させ急成長させる効果を持たせた水をあげて育てた方が美味しくなる。

味噌や醤油を作る時も、大豆や麹用の米を出して塩と混ぜて『プチヴァイラス』を掛けるより、大豆を24時間水に漬けて茹でて潰してから他の素材と混ぜた方が格段に美味しい。


「大発見だ!!」


とルグに大興奮して言ったら、


「え、それ当たり前の事だぞ?」


と冷静に突っ込まれた。

大発見じゃないけど、更に美味いもんが食べれる様になったんだ。

良しとしよう。

そんなこの世界では当たり前だけど、俺にとっては新たな発見の連続だった。





  *****





 この2日間の内にこの世界で生活する準備は大分整った。

今日は遅れた報告もかねて1人、ギルドに向かっている。

ルグは通信鏡と言うビデオチャットの様な魔法道具で上司に定期の連絡していて朝食後から部屋に篭っているし、スズメは番鳥だから屋敷から離れない。


昨日も飯の買い出しで来た大通りは相変わらず賑わっていた。

けど、雑貨屋工房は営業時間になっても戸が閉じている。

まだ営業再開出来ないらしい。


「・・・・・・・・・何だ、アレ?」


ギルドの入り口の脇に何故か大きな布の塊が落ちていた。

近くで見るとそれは布の塊ではなく、質は良いけどブカブカの、フード付きコートを着た中学生、最悪小学生でもいけそうな女の子だ。

父親の物なんだろう。

サイズが合わず普通の女の子が着なさそうな渋いコートを着た女の子は、蹲って入り口から顔の半分だけ出して中を覗いていた。


肩より少し長い位の黒色交じりの茶髪に、4色林檎の様に光の加減で七色に輝く不思議な瞳。

人の事言えないけど、見た目はお世辞に物凄く奇麗やとても可愛いとは言えない。

この世界では珍しく俺が居た世界のクラスに4,5人は居そうな平凡な顔立ちをしていた。

でもそれが何となく親近感が湧くと言ったら流石に失礼か。


ギルドの利用者や職員は鬱陶しそうに一瞬女の子を見るだけで、サクサク出入りしている。

このまま他の人達と同じ様に無視も出来ないし、もしかして具合が悪のかもしれない。

そう思って、俺は女の子に声を掛けた。

念の為言っとくけど、俺にそういう趣味や性癖は無いからな。


「あの、大丈夫ですか?」


ほら、異世界物に良くエルフとか出てくるだろ?

物語のエルフの様に見た目は俺より年下でも実際は俺より年上かも知れない。

だから、一応敬語で話しかけた。

俺に声を掛けられ驚いた女の子は、


「ふひゃいッ!!!」


と変な声を上げて俺の方に振り返り、勢い余って入り口近くの壁に頭をぶつけてしまった。


「す、すみません!大丈夫ですか!?」

「だ、だいじょうひゅです・・・・・・」

「すみません。

脅かすつもりは無かったんですが・・・・・・」

「い、いえ・・・・・・

お、おきににゃさらず・・・・・・」


知らない奴に声を掛けられて慌ててるのか、それても怯えているのか。

どもったり噛んだりしながらも答えてくれた女の子。

俺は『ヒール』を掛けつつ女の子を立たせ、蹲っていた理由を尋ねた。


「入り口の近くで蹲って居たので、もしかして具合でも悪いのかと思い声を掛けたんですが・・・」

「い、いいえ・・・・・・

な、なんとも無いです・・・・・・

はい・・・・・・・・・」

「なら良かった。あ、えーと。

お節介かも知れませんが何方か待っている様でしたら、中で待っていた方が良いのではないでしょうか?」


ギルドの中を指差しながら聞くと、女の子は首を横に振った。

これは誰も待っていないって事なのか、外で待っているよう言われたのか、どっちなんだ?


「えーと・・・・・・・・・

俺、中に用があるのでついでに誰か、用のある方を呼んできましょうか?」

「あ・・・・・・・・・う・・・・・・

い、いえ・・・・・・

や・・・・・・あの・・・その・・・・・・」

「一旦深呼吸して、落ち着きましょう?

それで、何を言いたいか頭の中で考えてみてはどうでしょうか?」


アワアワとしている女の子にアドバイスをして、返答を待つ。

女の子は俺が言った通り、大きく手を広げ深呼吸し何か考え始めた。


「あの・・・・・・・

私、1番奥のカウンターに用があって・・・・・

でも、その・・・・・・・」


女の子が指差したのはボスが居る冒険者用のカウンター。

あぁ、そういう事か。


「俺も始めてあそこに行った時は怖かったんですよね。

俺もあのカウンターに用があるので、良かったら一緒に行きます?」

「い、良いんですか?あの、お、お願いします!」


初めて1人で冒険者カウンターに行くのはやっぱ怖いよな。

俺が誘うと花が咲いたみたいにパッと笑う女の子。

でもやっぱり怖い事には変わりなくって、怯えた様に俺の後ろに隠れる女の子を連れ俺は冒険者カウンターに向かった。


「こんにちは、職員さん。

連絡遅れてしまい、すみません」

「お、無事だったか!

てっきりついに死人が出たかと思ってヒヤヒヤしていたんだ」

「いえ、あのまま住もうと思いまして家の大掃除していました」

「ブァッハハハハハハッ!!

逃げるどころか掃除するとはッ!!

やっぱお前さん、度胸があるな!!」


俺がそう言うとボスは腹を抱える程笑い出した。

そして俺の後ろに隠れる様に居る女の子を見ると、


「で、今日は彼女連れか?」


と茶化してきた。

俺は、


「先にどうぞ」


と言う意味を込めて1歩後ろに下がりながら女の子を前に出した。


「いいえ。

此処に用があるそうなので一緒に来ただけですよ」

「そうなのか?それで譲ちゃんはどんな用で?」

「あの・・・・・・・・・

此方で冒険者さんに紹介しているお家を教えて欲しいんです」


女の子はチラッと俺を見ると、小さな声でボスに尋ねた。

俺に会った時よりはスラスラ言葉が出てるけど、コートの裾を握った手が震えている。


「ケ・・・いえ。

ネコとロックバードが住む家なんですが・・・」


今この子、ケット・シーって言おうとした?

もしかしてルグの知り合いなのか?

そう思っていると、少し困った顔のボスと目が合った。


「悪りぃけど、その家は譲ちゃんの後ろに居る坊主に貸しちまったんだ。

他の貸家なら幾つか紹介出来るが如何する?」

「・・・・・・いえ、それなら、いいです。

ありがとうございました」


女の子は驚いた様にバッと俺を見ると、この世の終わりの様な顔で落ち込んだ。

やっぱルグの知り合いか?

それで、俺か俺より前に居た奴がルグ達を追い出したと思っているのかもしれない。

俺も用事をサッサと終わらせてこの子をルグに会わせないとな。


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