56,動物像に関する報告 3枚目
「まぁ、あの後マーヤちゃんの病気がどうなったか分からないですけどね。
前貰った手紙にはいい方向に向かってる、って書いてありましたけど、今はどうだか・・・」
「マーヤちゃんの病気なら完全に治ったよ」
「え、本当?
それなら良かったけど、ミルちゃん、マーヤちゃんと知り合いだったの?」
「うん!お友達!!」
ストレスの原因である魔女達から離れられたからか、それともチボリ国の生活が肌に合ったのか。
この1年の間にマーヤちゃんの花なり病は完治したみたいだ。
そんな元気になったマーヤちゃんは、『裏眼』のスキルとかのコントロールの為に、トムさんの友人に弟子入りしたらしい。
で、そのトムさんの友人さんがミルちゃんの魔法のお師匠さんの兄弟子で、2人が同い年で同性の同じローズ国人と言う事で一時的に一緒にチボリ国で勉強していたそうだ。
「知らない国での生活で2人がストレスを溜め過ぎない様に」
って事で合わせたらしいけど、大人達が考えている以上にマーヤちゃんとミルちゃんは仲良くなれたみたいだ。
家族がゾンビにされたから他に頼れる人が居ないのに、お師匠さんの都合で右も左も分からないチボリ国で生活しないといけない。
そんなミルちゃんにとってもマーヤちゃんは身分の事を抜かせば安心できる相手だし、今まで病気で閉じ籠っていたマーヤちゃんも初めて話すの同年代の同国の女の子だ。
直ぐ仲良くなれたのも当然と言えば当然か。
「あのね。
マーヤちゃんのお父さんもあたし達の事、手伝ってくれてるの!」
「トムさんも?・・・・・・そっか・・・」
異母兄と姪がこんな事件起こしたんだ。
身内としてトムさんも責任を感じてるんだろう。
それか、マーヤちゃんとマーヤちゃんのお母さんの復讐。
どんな理由と思いでトムさんが『レジスタンス』を支援してるか分からないけど、トムさんが辛い思いをしてるのは確かだろう。
せめて、マーヤちゃんと守護霊なマーヤちゃんのお母さんと友人さんと、少しでも幸せだと思える時間を過ごしてるといいんだけど・・・・・・
「っと。大分本題からそれましたね。えーと・・・」
「そう言う訳だから、あの小鳥の像はカラドリスの女性がモデルなんだよ。
で、次がこの像。
キビ君達の世界のネコの像」
何処まで言ったか思い出そうとしている俺に変わってそうまとめたマシロが、真ん中の像と見つめ合っている猫の像を指さした。
クエイさんの家の様な雰囲気のある小瓶や草の束のオブジェに囲まれた、アイスピックの先の様な針を咥えた猫。
色が完全に剥げてしまっていて、元々体や目が何色だったか全く分からない。
でも、可愛さの中に混じった真ん中の像を真っ直ぐ見つめる鋭い視線とか、座ってるのに今にも獲物に襲い掛かろうとしてるって感じる雰囲気とか。
何となく全体的にルグに似た雰囲気を感じる。
「多分、この像のモデルはルグの祖先。
いえ、ルグの母方の祖先であるスティンガー・ブラウンの祖先がモデルなんだと思います」
「スティンガー・ブラウン?」
「サルーの町の『キビの泉』って知ってますか?
あの聖女キビの像の足元に居る人です」
「あぁ!!
聖女キビの仲間のケット・シー!
あのケット・シーってそんな名前だったんだ」
俺とルグとマシロを抜かせば、この中で他にサルーの町の『キビの泉』の事を詳しく知ってたのは、アルさんだけだった。
他かは知らないか、名前だけは聞いた事がるってレベル。
「言われてみると確かにこの像、デザインもポーズも『キビの泉』のケット・シーの像にそっくりだな」
「そうなのかい?
サルー自体に行った事ないから分からないけど・・・
でも、ケット・シーがモデルなのは確かみたいだね。
ドワーフの像と同じ位、モデルになった種族らしさが出てる」
「あぁ。
確かにこのケット・シーの像とドワーフの像はパッと見でどの種族がモデルか分かるな。
なんでこの2つ種族だけこんなにハッキリしてるんだ?
何か特別な理由が・・・・・・」
「多分、俺達の世界の生き物と非常に近い姿をしてるからじゃないでしょうか?
ドワーフは見た事が無いので分かりませんが、ケット・シーは完全に俺達の世界の猫が二足歩行した様な姿をしているんですよ」
体の1部だけとか、雰囲気と言うかイメージ?
そう言うのからそれっぽい動物を選んだ他の像と違って、猫と兎の像は四足歩行で喋らない事を抜かせば、ほぼこの世界の魔族と同じ姿をしている。
だから、他の像と比べパッと見でどの種族がモデルか分かるんだ。
「だから、店長さんが考える様な特別な理由はないと思います」
「そっか・・・・・・」
「・・・位置的に、猫の像のモデルの人は『キビ君』のモデルの人にとって特別な人だった可能性がありますが」
「そうか!!」
キメ顔で言ってる所申し訳ないけど、アルさんの考える様な特別な理由は特にない。
それは像の見た目だけじゃなく、ジェイクさん達が戻ってくるまで調べ尽くした上での判断だ。
その事を伝えると、アルさんは見るからにシュンとした表情を浮かべてしまった。
ウッ・・・
そ、そんなに落ち込まなくても・・・
そんな表情されると罪悪感が・・・・・・
だからつい、俺はそう付け加えてしまっていた。
「って、キビ君?兄ちゃん?」
「いいえ。
『キビ』と言っても俺の事じゃなくて、こっちの方。
『教えて!キビ君』に出てくるキャラクターです」
目線の高さ的にも完全に視線が混じり合う様に、猫の像と見つめ合う真ん中の像。
後ろからは分からなかったけど、この真ん中の像は沢山の蓮の花を背負った『キビ君』だった。
色が剥げてる事と蓮の花を背負ってる事を抜かせば、服装を含めスマホの中の『キビ君』が巨大化して像になってる感じだ。
いや、正面から見た蓮の花の中心には丸い球の様な物が置かれてるから、もしかしたらこの蓮の花はスマホ内の『キビ君』の周りに浮かんでる青い球を表してるのかもしれない。
それで、像の『キビ君』が背負ってる蓮は全部で10本。
って事は、あの青い球の仲間は後9個あるって事だよな?
今更だけど、花なり病になってから増えたこの球、本当に何なんだ?
俺のスマホを盗んだって言う黒い人影との関係は?
って事を考えてる所でジェイクさん達が戻って来たんだよな。
「確かにぃ・・・・・・同じ、だな」
「これって、コオン君の『図鑑』に当たるものだよな?
前から気になってたんだけど、何でサトウ君だけコオン君達と違って『図鑑』じゃないんだ?」
「それは俺達も気になって、さっきまで話し合っていました。
でも、いい答えが見つからなくって・・・
この『キビ君』の像だけ周りの像と違って魔法道具らしいので、ジェイクさんに見て貰ってからもう1度考えよう、とこれも一旦保留にしたんです」
マシロと同じ疑問を口にするピコンさんにそう軽く説明する。
ルグ達の話によると、紺之助兄さんもナトも高橋も。
似てるどころか、俺以外の全員が『図鑑』のアプリを持っているらしい。
なのに、俺だけ『教えて!キビ君』。
これも俺がサンプルとして呼ばれたからなのか、それとも他の理由があるのか。
色々話し合ってみたけど、
「これだ!!」
って答えは出なくて、ジェイクさんに『キビ君』の像を調べて貰ってからにしようと保留にしたんだ。
「そういう事なら、任せて」
「あ。それと、ジェイクさん。
もう1つ調べて貰いたい物が・・・
この台座のこれなんですけど・・・・・・」
「どれどれ・・・・・・これは・・・
サトウ君やコン君が持ってるスマホかな?」
『キビ君』の像の手前に置かれた石の台座。
その上には長方形の6つの窪みが有って、1つの窪みの下に並んだ5つの窪みにはそれぞれ色の違うスマホが置かれていた。
ただし、画面がバッキバキに壊された状態で。
「確かに俺達が持ってるスマホに似ていますが、何となく違和感が有って・・・・・・
あ、勿論壊されてるからじゃないですよ?」
「ん~・・・それなら・・・・・・
少しサトウ君達のスマホも見せてくれないかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「ボクが触ったら消えちゃうから、2人共そのまま持っていてね。
後は・・・そうだね・・・」
差し出した俺と紺之助兄さんのスマホと、台座のスマホ。
それと『キビ君』の像の近くに、それぞれ画面を浮かべたジェイクさん。
画面には一体何が書かれているんだろうか?
流れる文字が速すぎて解読できない俺達には良く分からないけど、ジェイクさんには何かが分かったのだろう。
交互に画面を見比べ、ジェイクさんは何度も頷いた。
「うん・・・うん・・・なるほど・・・・・・」
「ジェイク、何が分かったんだ!?
分かったんなら、早くレシピを取り出してくれよ!」
「そう焦らずにもう少し待っててね、アル君。
あとちょっとで解読し終わるから・・・・・・
なるほど、なるほど。そういう事か。
今の状態だと・・・うん。
やっぱり、解毒剤のレシピを手に入れるにはサトウ君の協力が必要不可欠だね」
「俺の、ですか?」
「うん。えーと、どこから説明しようか?」
『キビ君』の像の解析画面を睨んでいるって思う位見つめてた顔を心底困ってる顔に変えて、ジェイクさんは自分の眉間を軽く揉みながらそう言った。
解析は無事終わったみたいだけど、レシピを手に入れるのに俺の協力が必要ってどういう事だ?
いや、この場合俺自身じゃなくて、何故か俺のスマホにだけ入ってる『教えて!キビ君』が必要なんだろう。
「えっと、『教えて!キビ君』を起動しておけばいいでしょうか?」
「うん。説明する前に察してくれて助かるよ。
どうも、レシピを見るには『教えて!キビ君』が必要みたいでね?
今直ぐ使えるのがサトウ君のスマホだけなんだ」
「今直ぐって事は、もしかしてその壊されてるスマホにも?」
「うん。
『教えて!キビ君』が入ってるし、この5つのスマホはサトウ君達異世界人じゃなくても、この世界の誰でも使えるんだ」
台に乗っていた壊されたスマホは、正確に言えばスマホじゃないらしい。
この世界の素材でスマホっぽく作られた、レシピを見るための『教えて!キビ君』専用端末兼、この世界の人達だけでも『キビ君』像を動かせる様に念の為に用意されたリモコン。
それが壊されたスマホの正体だ。
だから俺達のスマホの様に電話やメール、ラインやネットが使える機能は最初から壊れたスマホには存在しないらしい。
「俺達でも使える・・・・・・
って言われても、ここまで壊されてたら俺達が使うのは一生無理か」
「あ、そこは大丈夫。
今すぐ使えないってだけで、時間を掛ければ間違いなく直せるよ」
「本当か、ジェイク!!?」
「うん。壊されてるのは表面だけ。
再現がほぼ不可能な中身は全くの無傷なんだ。
ジャックター国の技術なら間違いなく直せる。
それに、素材と性能の良い修理用の魔法道具が有れば数日掛かるけどボクとマシロでも直せると思うし、アルゴさん達の協力があればもっと早く終わるはずだよ」
酷い壊され方してるのは見た目だけで重要な中身は無傷。
その言葉にアルさん達は純粋に喜んでいるけど、俺は何か引っかかりを覚えて皆みたいに素直に喜べなかった。
『ジャックター国の技術なら間違いなく直せる』
つまりアンジュ大陸人なら、絶対に誰でも使えるこの壊れたスマホを直して使う事が出来るんだよな?
・・・・・・この像があるローズ国の人間じゃなくて、敵対してるアンジュ大陸国人なら。
アンジュ大陸語が使われた追加された壁の仕掛け、そしてこの壊されたスマホ。
「・・・・・・まるで、アンジュ大陸国の人だけが『キビ君』の像を使える様にしてるみたい」
「サトウ君、正解!!
このスマホを壊した人物と、壁を追加した人物は恐らく同一だ。
その目的は恐らく、サトウ君の言う通りボク達アンジュ大陸国人だけがレシピを見れる様にする為なんだ」
ふと零れた呟きを聞き取ったジェイクさんが、嬉しそうに正解だと言ってくれる。
なるほど。
情報を独占する為か。
もしこの壁が作られたのが仕掛けの文字が使われだした1000年前なら、勇者ダイス達が魔族達と大きな戦争を起こしている頃のはず。
ルグやコロナさんの様に情報収集の為にこの国に潜入したアンジュ大陸国人が偶然此処を見つけて、妨害工作として壁を作ったりスマホを壊した可能性も0じゃない。
敵対するローズ国人を含めた人間の国に情報が渡らない様にして、自分達アンジュ大陸国人だけは『キビ君』像の中のレシピを手に入れる。
いや、もしかしたら1000年前のローズ国でもゾンビ毒が作られていて、『キビ君』像の中のレシピを守る為にこんな事をした可能性も?




